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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第62話

亜人はのっそりと付近の建物を平らに均しながら土煙の中から現れた。

土煙が晴れてくると、ギョロギョロとした目が付近を見渡し、そして壁の上のルーカスを見つけると歯茎をむき出しにして口角を上げた。


──……中途半端でキメェ顔だ。


険しい顔で見下ろすルーカスを亜人はニタニタと笑い、そして腕を後方に持っていき反動をつけると、再びルーカスに向かって触手が伸ばされた。

それを後方に飛び退いて避けると、そのまま再び街の外の更地となったクレーターに移動する。障害物が存在せず隠れるのには不向きだが、どうせ隠れたところでまた広範囲で無差別に攻撃されるだけだ。

気にすることはないだろう。

そして丁度クレーターの中心部にまで移動すると、亜人もひとっ飛びに壁を飛び越えてクレーターの中に飛び越えてきた。


──植物型は足が遅ぇんじゃなかったのかよ。クソッ、過去の記録も当てになんねぇんじゃどうしようもねぇぞ!


そして再び亜人との至近距離での格闘戦になった。

何故か分からないが先程よりも明らかに亜人の動きのキレが増している。

形態もより人間に近くなり、手足の攻撃に重みが乗ってきた。

ルーカスはなんとかそれを経験の差でさばいていくが、やはり体力に限界が近い。

表皮の甲殻が無ければダメージももっと増えていただろう。

唯一の救いは溶解液を亜人が再び使う気配が無いことだ。

またあれを使われれば今度こそ終わる。


──嬲ってるつもりか?


相手が本気で無いならやりようはいくらでもある。

流石に伊達に200年生きている訳ではない。

周りも武闘派ばかりだったので、単純な格闘戦であればいくら体力に差があろうといくらでも相手での隙を見つけられる。

ルーカスはわざと追い詰められ体勢を崩したフリをして相手の攻撃を誘うと、カウンターで亜人の心臓目掛けて手を突き刺した。


「ガアアアアア!!!???」


完全に舐めてかかり油断していた亜人は突然の反撃と痛みで悲鳴を上げた。

ルーカスはそのまま亜人の心臓を抜き取ると、握り潰して地面に投げ捨てる。

さらに追撃で目を潰そうとするが、さすがにそこまで甘くはなく再び無数の触手が延びてきたので後方に飛び退いて距離を開けた。


「ア゛ア゛ァ゛!!……ワレ…ハ………スグレ……マケ……!!!」

「わっかんねぇよ、喋んならもっと要領よく喋れ」

「ダマ…レ…ダマ…レ……ダマレ………ワレ……デキソコ……マケ…ナイ!!!!」


大声で叫ぶ亜人。

魔力も乗った耳を劈くような声に思わずルーカスは耳を塞いだ。


──内臓を無理やり混ぜられてる感覚だ!


完全に動きを止まったルーカスを見て亜人はまたニヤッと笑った。

それを見てルーカスも瞬時にヤバいと察知し回避のために行動に移った。

だが一歩間に合わず亜人の背中から生えた触手に手足を縛られてしまった。


──諦めてたまるか!


ルーカスも負けじと触手を燃やそうとした、その時だった。

風を切るような音がしたかと思うと、亜人の頭部に剣が突き刺さった。

装飾は特にないがキッチリとした作りで、己も持ったことがあるそれはラグゼルの軍人に支給されている剣だ。

さらに多数の銃弾が亜人に撃ち込まれる。

ルーカスはそれを見て瞬時に亜人の触手を切断すると距離を取り、剣と銃弾が飛んできたほうを見た。


「ルイ!!!」


見慣れた鎧姿はラグゼルの軍人だろう、己を呼ぶ声からして恐らく中身はオーティスだ。

同時にここまで接近しても魔力で判断出来ないほどに自分が弱っている事にも少し絶望した。

オーティスはそんなルーカスに気付かず、銃を亜人に向けながら壁になるように立った。


「まだ生きてるな!?」

「……なんとかな…」

「よしっ、なら一度ここは引くぞ!」

「……ダメだ」

「はぁ!?お前自分の状態分かってるのか!?」

「…分かってる。分かってるがダメだ、あれはここで仕留めねぇとマズイ」


そう言って立ち上がろうとしたが、膝が震えて再び地についてしまった。


──やべぇ、マジで限界だ。


「ほらみろ、後続も来てる。一度ここは引いて」


その時だった。

亜人の強い魔力を感知したルーカスは咄嗟にオーティスを体当たりで突き飛ばす。

直後に2人がいた場所から巨大な植物の根が生えてきた。


「危ない!」


オーティスが咄嗟に腕を出すと、金属音が響き何かが弾かれた。

弾かれたそれは放物線を描きながらすぐそばに突き刺さる。

先程オーティスが投げた剣だ。

そしてそれをオーティスが掴むのと、再びルーカスがオーティスを抱えるようにして突き飛ばすのは同時だった。

今度は連続して地面から根が生えてくる。

2人は慌てて駆け出すと、途中でオーティスがルーカスを抱え上げた。

どうやら亜人は2人を逃がすつもりがないらしい。

2人を囲うように根が生えてきて、完全に檻のようになった。


「ルイ!これ燃やせねぇか!?」

「……もう魔力がほとんどねぇ」

「ウッソだろ!?」


周りの風景が見えなくなるほど生えてきた根の壁。

そして上からは圧殺せんと言わんばかりに、延びた根が今度は内側に向かって槍のように降り注いできた。


「あぁもうしょうがねぇ!」


オーティスは手に持った剣を操作すると、表面の金属部分のパーツが外れ、内側の青白く薄く発光する刀身が現れる。

それを根の壁に突き刺した。

すると、剣が強く輝き出す。

そして、上の根が2人を押し潰す瞬間、オーティスはルーカスを守るように抱き込み、剣が爆発した。

鎧のバーニアで無理やり爆風を押し返し爆発で開いた穴から外に吹き飛ぶように飛び出した。


「おい、ルイ大丈夫か!?」

「……ゲホッ、ゴホッ……あぁなんとか……」

「そうか。………亜人、王って言われるだけあってヤバいな。頭に剣ぶっ刺したのに弱ってる気がしないぞ」

「………そうでもねぇよ…」


ルーカスは亜人が確実に弱っている事を感知していた。

触手よりも何倍も頑丈な根の檻と槍、普通なら間違いなくあれで死んでいた。

だが中にいたのは全身を金属の機械鎧を身にまとった人間だった。

あの根の檻は間違いなく亜人の必殺だったのだろう。確実に殺せるはずの強力な技だが、同時にリスクも大きかったようだ。

触手とは違い、根は植物にとって重要な器官だ。

それを多数増殖させるのはそれ相応に体力を消耗するはずである、そして直前の心臓と頭部の損壊。

平然と立っているように見えて先程よりも魔力が激減している。

平時のルーカスであれば、一瞬で倒せるような状態だ。


「なら今は撤退だ、どうみてもお前も限界だろ」

「何度も言わせるな、ダメだ、俺が間に合わねぇ。今ここで絶対に仕留めねぇと学習して何しやがるか分かんねぇぞ」

「何も数日間を開けるわけじゃない、後ろから総長の部隊も来てるはずだ。それを待ってからでもいいだろ!?」

「うるせぇ!俺が、魔人としての俺がアレを生かすなって言ってんだ、俺が殺さねぇと気がすまねぇんだよ!」


言葉にしたことではっきりした。

そうだ。

亜人を認められない、認めないためにも魔族として魔人として生まれたものとして、どうしても殺さなければならない。

目の前にしてしまった以上、これだけは絶対にやり遂げなければならない。

震える体に鞭打って全身に魔力を張り巡らし、体の内側に眠る竜種の力を呼び覚まさせ、ルーカスは普段の魔人としての体をさらに変形させた。


「ハアアアアアアア!!!」


頭部の角は太く長く伸び、手足はさらに攻撃的に発達する。

強制的にヒトの体を異種に変形させるのは肉体にかなりの負担が掛かる。

さらに数時間前に性転換もしたあとだ。

だがお構いなしに体を改造する。

背中からは翼も生え、臀部からは尾も生えた。

あくまでヒトの枠組みに収まっていた力を、体を竜に近づける事で無理やり限界を取っ払った。

そして地を蹴った。

限界を超えた力で地割れを起こしながら地を踏み鳴らし、亜人に全力で殴りかかった。

亜人は足から根を生やしていたためその場からすぐには動けず、両腕で受け止めるも踏ん張り切れずにそのまままともに殴打され、その顔面をひしゃげさせる。

ルーカスはすかさずその体を握り潰さん勢いで掴みかかり、さらに連続で殴り掛かった。

だが亜人もやられてばかりではない。再び触手を生やしてルーカスを己の体の一部ごと引き剥がし投げ飛ばした。

受け身も取れずそのまま地面に叩きつけられるルーカス。

顔だけ上げると、オーティスが銃撃で亜人を牽制している。

再び根を生やす余裕はないらしい、触手も銃弾から本体を守るので精一杯のようだ。


──ここで確実に殺す!


その時、視界の隅で何かが光った。

何かを見逃したのかと反射的にそちらを見ると、溶解液で全て解けてなくなったと思っていたものが落ちていた。

ラグゼルからルーカス用に支給された剣だ。

やたら頑丈で先程オーティスが起爆したものと同じものだろう。

ルーカスは体を引きずりその剣を掴んだ。

そしてそれを走りながら体の陰に隠し、残り僅かな魔力を全て剣に注ぎ込む。


「死ねぇ!」


オーティスの銃撃の停止が間に合わず、一部がルーカスの体を貫通するのも構わず剣とは反対の手で再び殴りかかり、亜人が受け止めたところで間髪入れず亜人の脇腹から突き上げるように剣をねじ込んだ。

そして。

剣はその内側から爆ぜた。

炎が燃え上がり、雷が迸り、風が切り刻む。

内側からの破壊。

亜人は悲鳴を上げる暇もなく、その上半身が弾け飛んだ。


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