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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第60話

声が聞こえる。


『どの……死…だ』

『ゴ………ルの…下2………1つ。……は比………軽………んだ』

『………』

『今………癇癪………か。知って…………が…ル……ルは亜人対策に……面目だ……な』

『……滅多………を言う…』

『す……い、軽率……た』


あぁ…この声は父と母だ。

先程から城内が異様な雰囲気で騒がしく、不安になって両親に会いに来たのだ。

だがその両親も深刻な顔で何かを話し合っている。

部屋に入っていいかどうか迷っていると、静かに扉が開かれて優しい笑みを浮かべた母が出てきた。


『どうした、ルイカルド』

『……えと、その……』


不安で寂しいから会いに来たとは言い出せずまごまごしていると、母が優しく抱き上げてくれた。

そしてそのまま部屋に入れられると、窓から外を見下ろしていた父が振り向いた。


『どうした可愛い俺の子。言ってごらん?』


近づいてきた父がそっと頭を撫でた。

それに安心して城の中のみんなが突然怖い雰囲気になったと言うと、父は苦笑してそれはすまなかったと父は何も悪くないのに謝った。


『大丈夫だ、みんなすぐ元通りになる』

『本当ですか?』

『本当だとも』


それに安心すると、情景が変わった。

今度は魔王城の玄関だ。

そしてそこでやっとこれが古い記憶の夢だという事に気が付いた。

まだ幼く城の外を知らなかった頃。

自分はこれをこっそりと隠れて柱の影からみていた。見るな来るなと言われたのを破って。

魔王城の正面玄関の広間がいつになく人に溢れ騒がしいことに好奇心が抑えられなかった。

父の背中が見える。


『今回討伐されたのがこちらです、陛下』


バラバラの死体が父の前に広げられた。

だがルイカルドの角度からではよく見えない、だからバレないようにそっとそっと移動した。

そしてその異形の死体が視界に入った時、同時に今まで見たことがないほど憤怒と憎悪を滲ませた父の顔が目に入った。

それは他の魔人達も同じだった。

明らかに抑えきれない感情を死体に向けている。

そして父が腕を振り上げた。






目を見開いてガバッと飛び起きると、背中を嫌な汗が伝った。

同時に直前まで見ていた夢を思い出す。

生まれて初めて父である魔王に恐怖した瞬間だった。


「チッ…なんで今さら……痛って!」


意識が覚醒すると同時に全身の痛みも自覚する。

自分の体を見下ろすと、ところどころ途中ではあるが、粗方の修復は完了していた。

溶解液をもろ頭から被り当然服も溶かされ全裸の状態なので確認がしやすい。

さらに周囲の状況を確認すると、どうやらどこぞの太い木の又に収まっているようだ。

空を見上げると、西の空はまだ星が瞬いているが東は少し明るくなってきている。

どうやらふっ飛ばされてからかなりの時間寝ていたらしい。


──大分寝てたなクソッ。やべぇ、早く戻んねぇと。


まだ微妙に軋む体だが立ち上がり飛び立つ。


──服ねぇと邪魔だな。


主に股間のブツの話である。


──変更の魔力消費と邪魔、どっちを取るか………邪魔だな。集中出来ねぇとめんどくせぇし。


諸事情であまり女体は取りたくないのだが、今回は些細な問題である。

己の肉体を飛びながら作り変え、さらに周囲の様子を探る。

幸いにもそれほど遠くには飛ばされなかったようで、忌々しい巨大な魔力はすぐに見つかった。

だがもう朝日が昇り始めている、あまり時間は掛けられない。

見つからないように高高度から様子を伺うと、飛ばされる直前に頭部や腕の修復のためか、頭を隠し眠ったようにうずくまってその場に鎮座していた。


──目覚めの一発だ、ぶっ殺してやる。


そう思い両手を掲げると巨大な火球を生成し始める。

昨晩のような点からの爆発ではなく、面による圧殺である。


──雑魚ごと燃え死ね!


直径50メートルはあろうそれをルーカスは投げ落とした。

前回が隕石の落下なら、今回はさながら太陽の落下である。

当然燃え滾りながら近づく熱に亜人が気付かないはずがなく、近づくそれに目を覚ました亜人は、己に落ちてくるそれを見上げて叫び声を上げた。

そして大量の魔物を生み出し抵抗するが、着弾した側から燃え尽きていく。

雑魚ごときが止められるものではないと悟ると、今度は己の再生途中の両腕を犠牲にしてそれを受け止めた。

大量の魔力が亜人の両腕から放たれジリジリと焼かれながらも、徐々に大火球を消耗させていく。

だがふとその視線を横に向けると、上空にいたはずの魔族がいた。

そして、


「追加だ」


その言葉と共にいくつも放たれたかまいたち。

それが亜人の体を切り刻む。

だが、


──クソッ、威力が足りねぇ!やっぱり変えたのはマズかったか!?


ただでさえ昨晩散々消耗したのだ。

それからいくら一晩寝たとはいえ、欠損やらの修復込みである。

そして先程の大火球、攻撃に回す魔力はあまり残っていなかった。

だが、その時だ。

ルーカスのいる反対側の亜人の体が突然派手に燃え上がった。

それも続けざまに連続でである。

巨大な亜人は悲鳴をあげ体勢を崩し、大火球に飲まれ始める。

何事かと思い反対側を見るとアウレポトラの巨大な壁、まだ崩れていないところに人影があった。






ルーカスが目を覚ます少し前。

ハウリル含めた先行部隊の10人は森の中を凄い速さで駆け抜けていた。

鎧の性能は凄まじく、彼らの3倍近く魔力があるはずのハウリルでも追いつけず結局背負ってもらっている状態である。

だがルーカスはどうやらそれよりもさらに早いスピードで飛んでいったようだ。

途中で会った5班がルーカスに助けられた位置を考えると、とっくにあの魔人は戦っているはずである。

だが、ハウリルはアウレポトラまでもうすぐだと言うのに戦闘音が聞こえない事が気がかりだった。

それどころか王の兵隊である雑魚の姿さえ見えない。

疑問に思っているのはラグゼルの先行部隊も同じだった。


「妙に静か過ぎる、ルイがもう倒したのか?」

「なら帰ってきてもいいだろ」

「現場で消耗してぶっ倒れてるかもしれない」

「ならさっさと回収しねぇと」


彼らの口調は軽いが声は重い。

そして進めば進むほど戦闘痕が多くなり、かつ凄惨になっていく。

落ちている死体も魔物ばかりなのが嫌な想像を掻き立てる。

全員敢えてそれを見ないようにしながら進み続け、ハウリルはさらに西の星の位置からそろそろつく事を予測し、そろそろというところで先行部隊に停止を求めた。


「なるべくここからは慎重に行きたいです、いくらなんでも静かすぎます。討伐されたとしても配下の魔物まで全てやられたとは思えません、必ず残党がいるはずです。それなのに一匹も遭遇しないとは明らかに異常です」


ルーカスは王に対しては異常なまでに焦っていたが、普段遭遇する一般的な魔物に対しては狩り以外積極的に排除しようとはしない。

律儀だが割とめんどくさがりな性格を考えると、王を討伐したあとの雑魚狩りまでやるとは到底思えない。

彼らもそも考えは同じらしく頷きあうと停止した。


「どうする、一度上から確認してみるか?」

「それが良いだろうな、付近に魔物の気配も無いし空も明るくなってきた。視認もしやすいだろう」

「じゃあ俺行ってきます」


と1人が宣言すると、踏み台をやるともう1人が少し離れ、助走をつけた確認役を空高くに打ち上げた。

重量がかなりありそうな金属鎧を身にまとっているのに、普通に生身の人間を打ち上げるのとなんら変わらぬ動作、いやっそれ以上のパワーにハウリルは内心驚いた。

──なるほど、速度だけでなく力もこれでは、ただ魔力があるだけでは勝てるはずもないですね。

内心教会が本音ではあまりやる気が無かったとは言え、全く成果が上げられなかった事について分析をする。

そして空高く打ち上げられた確認役は程なくして重い音を上げて着地した。


「どうだった」

「……なんか、森?山?とにかくデカイ緑の何かが遠くにありました」

「もっと要領を得た例えはないのか?」

「よく分からないんですよ!あんなの見たこと無いし、どう例えればいいか分からないです!」


でっかい緑!としか言わずイマイチ分からない。

なのでハウリルが見てくると名乗った。

恐らく王か魔物関連だとは思うが、少なくともこの場の誰よりもそれらの知識はあるだろう。

という事で、次はハウリルが打ち上げられたのだが、それを見てハウリルは絶句した。

まさに巨大な緑だった。

風魔術で滞空時間をあげてそれをじっくりと観察すると、ようやく全貌が見えてくる。

巨大な人型の何かだ。

それが巨大なクレーターの中心で蹲るような格好で寝ており、その周りを無数の魔物が固めていた。

考えたくもないが、あれが巨大化した王であるなら絶望的である。

そしてルーカスの姿が見えない。

やられたとは考えたくなかった。

現状ルーカス単体の戦闘力は文字通り次元が違う。

見たことはないが1人で地形を変えられるだけの戦闘力は魔族であるなら間違いなく持っているはずだ。

それが戦力として換算出来ないのであれば、このメンバーだけであれを討伐出来るとは到底考えられない。足止めすら無理だ。

為す術もなく蹂躙されるだけだろう。

地上に戻り眉間に皺を寄せたハウリルを見て、先行部隊の面々も何かを察したらしい。

緊張した空気が流れた。


「そして巨大な緑の山ですが、生き物のようです。恐らく王ではないかと思うのですが、申し訳ありませんがわたしも王の巨大化について話を聞いたことがないため、戦闘は避けるべきかと」

「ルイは見えたか?」

「いえっ。ですが巨大な窪みの中心に王がいるので、彼が戦闘を行ったのは間違いないかと思います」

「……困ったな、どうする?」

「遠目から状況の確認だけでも出来ないか?せめてルイの安否だけでも確認したい」


元々任務目的の1つがルーカスの身柄確保である。


「他の魔物の様子は分かるか?」

「大型の王の周りに集まっているようです。あなたたちの速度であれば、ある程度接近しても逃げられると思いますので、偵察は可能かと思います」

「分かった。ならここからは慎重に近づこう」


ここからは徒歩で進むことになった。

近づくほどに木々がなぎ倒されて視界が開けていく、そして完全に開ける前に木の影からこっそり巨大な亜人を観察した。

呼吸をしているのか背中が上下に動いている。

狙撃担当がさらに詳細に確認しようとスコープを覗いてみると、ところどころ体を修復しているのが伺えた。

さらに周囲を確認してみるが、魔物以外の生物の気配が無い。

先行部隊に嫌な空気が流れ始めた、あまり考えたくない予想だ。

当然口にもしたくない。

だから誰かが喋りだすのを待っていた。

その時だ。

突然空が暗くなり、同時に辺りの気温が上昇し始めた。

同時に魔物もざわつき始める。

そして、


「なんだありゃ!?」


誰がこぼした言葉だったが、ほぼ全員同時に上を見て絶句した。

巨大な太陽が真っ直ぐ巨大な亜人に向かって落ちてきたのだ。


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