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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第58話

「間違いなく魔石は魅力的な商品でしょうな。しかし、やはり出処が気になってしまう。ご覧の通り従業員とその家族を抱えている。こんなに便利なものだ、教会に見つかれば何をされるか分かったもんじゃない」

『そういうと思ってね、護衛を2人つけよう』


まさかの予想外の申し出にルブラン含めたアーク商会は固まり、クーゼルも眉を顰めている。

しかしリンデルトは空気が変わったことなど全く気付いていないかのように、なおも続ける。


『最近西大陸の治安が悪化しているそうじゃないか、なら腕の立つ護衛がほしいんじゃないかと思ってね。でも腕がたって口の固い者となると探すのは大変だよね。それならこちらで用意しようってわけさ』


言ってることは分かる。

確かに今後を考えると護衛は欲しい、そうじゃなくても道中魔物に襲われる可能性があるのだ。

だがそれはつまり、常にラグゼルの監視下におかれるという事でもある。


『別に君達の他の取り引きを邪魔しようなんて思ってないよ。その場に連れていく必要はない、外で待たせておけばいい』

「………そちらから言い出したのだ。高い金は出せんぞ」

『承知の上だ、彼らは我がラグゼルの任務として給金はこちらが全額出す。ただ、君達は彼らの食事と寝床だけお願いしたいな』


そして問題なく読み書き計算ができ、素性もはっきりしている上に、問題行動を起こす心配も限りなく低い。

無料で使える護衛としては破格だろう。


『やたら出処を気にするけど、それも彼らにこっそり売らせれば問題ないさ。それにそちらに出回っていないのであれば、量も値段もそちらが好きに決められる。偶然魔物の素材から見つけただの言って極端に数を絞れば問題ないと思うよ。あとは魔力さえ流さなければただの宝石としても使えるからね』


もちろんその売上は全額アーク商会に支払われる、ネコババなんてせこい真似もしないしさせない。

それくらいの倫理観はある者を当然選ぶ、ある意味で国の未来が掛かっているのだ。


『君達は何も気にする必要はない。そもそも近い将来今の教会は崩壊するだろうしね、そんなに長い期間の話じゃないさ』


それを聞いてルブランはチラッとハウリルのほうを見た。

見られたほうは相変わらずニコニコとしている。

ハウリルの所属する派閥とは一応これから協力関係を結ぶ予定である。

そして彼ら、というよりハウリルの目的を考えると成功すれば今の教会体制が崩壊する可能性はかなり高い。

そしてそれが実現する可能性を考えると。

──なんとなくだけど、多分この人達はやる気がする……。

それが良いのか悪いのかは分からない。

でも少なくとも今の状況を悪くするような事ではないだろう。

ルブランはまた唸った。

ここまで来ると最早選択肢はないだろう。

元よりここに来てしまった以上、最初から逃げ場などないのだ。

どんなに不利な条件でも飲むしかない、これでも大分譲歩されてはいるのだ。


「魔石どのくらい頂けるのでしょうな?」

『各属性25個ずつ計100個、大きさは見せたものと同じくらいだよ』


魔石計100個に寝食だけ気にすれば良い破格の護衛2人。

販路など諸々のリスクを天秤にかければこの辺りが妥協点だろう。

ルブランは商会員を見渡した。

皆一様に頷いている。


「分かりました。その内容で契約しましょう」

『助かるよ。護衛は今こちらで最終調整中だ。魔石とともに到着するまで1週間程待って欲しい』


ということは、必然的にコルト達も1週間待つという事になる。

しょうがないかなと思ったその時だった。

天幕内に顔面を蒼白にさせた通信が駆け込んできた。

まだリンデルトとは繋がった状態のため、オーティスが殿下の御前だと咎めると、リンデルト自身が気にするなと先を促した。


「現在アウレポトラ方面担当の5班が現地民と共に植物型の魔物の群れと交戦中です!現地民に怪我人が多数いる模様、後退しながら戦っていますが多勢につき状況不利!至急応援が欲しいとの事です!」

「どういう事だ、アウレポトラは魔物討伐の最前線って聞いてるぞ?何でそんな状況になってる?」

「逃げてきたものは非戦闘員がほとんどらしく詳しい状況が分からないそうですが、王が出たとか何とか」


それを聞いて今までずっと沈黙を守り壁際で置物のようになっていたルーカスが血相を変えて天幕から出ていこうとする。


『待つんだルイ。仮に王…亜人だったかな?がいるなら入念に準備をしたほうがいいんじゃないか?』

「そんな時間はねぇ!もうすでに街中に出てんなら一刻も早くぶっ殺さねぇと取り返しがつかねぇ事になるぞ」

『亜人は君達魔人でも手を焼く存在なんだろ?何の情報もないまま突っ込むのは下策だろ』

「それはお前らが亜人を知らねぇからそう思うんだ」


それだけ言うと天幕から出たルーカスはあっという間に飛び立ってしまった。

リンデルトが困ったねと口にし、オーティスがどうするかと問いかけると、雰囲気がガラッと変わったクーゼルがリンデルトの前に出た。


「悪いが口出させてもらうぞ。あの魔族が慌てた通り、王はやべぇ。ほっとくとここの拠点も、下手すりゃお前らが籠もってる壁もぶっ壊されるぞ」


それを聞いてラグゼル側の空気が変わった。


「しかも今回はどうやら植物型らしい。あいつらは王の中でも一際ヤバい」

『具体的には?』

「足が遅いんだが何でも溶かす液体を吐き散らすんだよ。おまけに触手も何本も出してくるから近づきたくても近づけねぇらしい」

「伝聞の知識のようだが交戦記録があるのか?」

「ある。100年以上前だが一回だけ植物型の王が湧いたらしくてな、倒すまでに夥しい犠牲が出たらしい」

「ケルゴート渓谷の戦いですね」


ハウリルの言葉にそれだとクーゼルが頷いた。


「教会の記録で見たことがあります。王と配下の大群が街3つを飲み込み、最終的に渓谷まで誘導して遠隔大魔術陣で燃やしながら生き埋めにしたとか」

「その話には足りない部分がある。誘導するのに当時の討伐員が多数犠牲になった。さらに誘導してからもそこで足止めする役も必要だからな、自分たちが死ぬことを前提に魔術が発動するまで戦ったんだ」

「そう簡単に事が運ぶとは思っていませんでしたが、やっぱりそうだったんですね」

「おいおい、仲間諸共生き埋めかよ」

「そうでもしなきゃ勝てないんだよ、王ってのは」


だから教会主導で定期的に王が発生しないように生息数を調査するのだ。


「そんなことよりだ。雑魚の魔物でも王に統率された奴らだ。さっさと増援を送ったほうがいい。あと植物型に水属性はやめろ、火か雷どっちかを使え、出来れば火で遠距離から攻撃出来るといい」

「ありがとう、参考になる。うちで火属性で狙撃が出来そうな奴って今何人だ?」

「正確性を求めるならゼロ、若干外れても良いなら3人います。無魔と連携するなら必ず当ててみせますよ」

「無魔の方を前線に出すのはお勧めしませんよ、どういう戦い方をするのかは存じませんが、遠距離から魔法で殺すか近距離で即殺するかしかありませんので」


魔力持ちでも多勢相手ではしんどいうえに、基本的にその場合は魔法や魔術で広範囲を一気に制圧する場合が多い。いても出る幕が無いのだ。

そしてそれ以前の問題として移動手段の問題がある。

魔力で持ちであれば肉体強化である程度素早い移動が可能だが、無魔であれば己の純粋な肉体に頼るしか無い。

一刻を争う事態ではそれを待つわけにもいかないので足手纏にしかならない現実があった。


「つっても、魔力持ちでもそこまで行くのにどっちみち時間掛かるだろ。ルイの速度なら多分数時間でつくが、鎧の無い俺らじゃ2日は掛かるぞ。結局どこかで休憩を取るから、せいぜい1日の違いが出るか否かだろ。………あれ?これルイやばくね?」


どう考えても1人で数日戦わせる計算になる。

亜人というのがどのくらい強いのかは知らないが、普段の態度とあの焦り方からとても余裕がある相手とは思えない。

犬を連れてくれば良かったとこれほど思ったことはないだろう。

移動手段は置いておくとして、とりあえず武装の準備だけでもするかという話に入ろうとしたときだった。


「隊長、実は鎧が10人分あるので先行隊を出せます」


一斉に視線がそちらに向いた。オーティスの調査部隊においての副官的立場の者である。


「こちらに来る時に総長から鎧を10人分こっそり輸送させられたんですよ。普段は隠してますが、こちらの正体がバレるような事態なら関係ないから生き残る事を優先にって言われまして」

「えっ、それ俺聞いてないんだけど?」

「隊長はその時すでに外に向けて出発していましたので……、後続隊の自分が受け取ったんです。合流後もあるって分かったら変な余裕を生んで逆に危なくなる可能性があるから伏せておけと、どうせ俺は立場上隊長から離れる事もほとんどないですし」

「……殿下!総長からの信用が無いっぽいです!」

『あはははは、本当に無いなら調査隊の隊長になんて選ばないから大丈夫大丈夫!とりあえず、10人分あるならやりようはあると信じてるよ。こちらでもすでにダーティンに増援を送るように使いを出してる。とりあえずそちらは生き残る事だけを考えて欲しい、君達はラグゼルの軍だからね。それじゃあ通信もギリギリだからあとは任せたよ』


そしてリンデルトが手を振っている状態でプッツリと通信が切れてしまった。

と同時にルブランが尻もちをついた。

腰が抜けてしまったらしい。

手を差し出して助け起こすが、ガタガタと震えていて上手く立てないようだ。

どうしたらいい、助かるのかとうわ言のように呟いている。

コルトは大丈夫です、ここの人達は強い人たちだからと言ってみるが、不安と恐怖が全く払拭されないようで震えがこちらまで伝わってくるだけだった。

コルトが必死になだめている間にも、オーティス達はどんどん作成を組み立てていた。


「本作戦は生き残る事とルイの回収だ。戦線を維持できないなら戦場放棄で撤退していい、とにかく本隊合流まで生き残れ。先行部隊は狙撃3名は護衛各2人をつけて9人だ。後続は魔力持ちで組む、5班の撤退援護後街に入って状況を見ながら雑魚掃討を行う。無魔は2班帰還後の再出撃の準備、後帰還した5班の救護にあたれ」

「先行部隊にはわたしも一緒に行きましょう。移動に関しては魔術も組み合わせれば、生身で一番早いはずです。道案内も出来ますし、進路の障害もまとめて吹き飛ばせます。代わりに後続の案内役はアンリさんにお願いしたいと思います」

「分かった、助かる。鎧はいつ頃持ってこれる?」

「30分ほどお待ちを、その間に6人の選出と狙撃用の弾丸の準備を進めます」

「鎧あと1人はどうするか」

「それは隊長が着てください。一番強いのは隊長なんですから、他に選択肢ないですよ」

「ならここはお前に任せたぞ」


そして、さすがというべきか特に何かが滞ることも全くなく、先行隊はそれからたったの40分で出発してしまった。

後続部隊もそれに続くべく大急ぎで準備が進められていた。

アンリとクーゼルにも特例で装備が貸し出され、お互いにアウレポトラについてや植物型の魔物についてどうすればいいのか情報共有をしている。

アンリは水属性で魔法の相性が悪い事に歯噛みしていたが、どうしようもない事を今は悔やむなとクーゼルに叱責されてからは気を持ち直したようだった。

肝心のコルトだが、当然のように無魔達と拠点の留守を預かる事になった。

2班が戻ってきた時にこんな状況でクルト達の知らない人間ばかりになってしまっては不安だろうし、何より戦力として全くあてにならない。

なので臨時救護班のような役割として残ることになった。

そして先行部隊から遅れること1時間、緊迫した雰囲気の後続隊をコルトは少し不安な気持ちになりながら送り出したのだった。


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