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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第57話

アンリによる魔物講座は夕飯どきまで続いた。

戦い方や弱点、解体時に気をつける方法だけでなく、どういった場所に生息しているのかなど多岐に渡る。

中にはコルト達と行動している時に遭遇したことがない魔物のことまで知っていたので、誰に教えてもらったのか聞くと母親から教えてもらったり、食料確保時にルーカスと狩りに行った時についでに色々聞いていたらしい。

ルーカスの知識はどういうところに住んでてこんな能力があるというのは参考になったが、倒し方が本人の能力ありきで全く参考にならなかったらしい。

曰く、全部丸焼きの一言だったようだ。

その状況に持っていくのすら魔族の肉体ありきな有様である。

普通の共族は空を飛べない、上空から狙いを定めて急降下などどだい無理な話である。

そんなわけで、討伐員の親を持ち本人もそこそこ魔物討伐の経験があり、強くもなければ弱くもないというアンリの知識と経験は割と参考になった。

居残っているキャンプ地防衛組は付近を警戒しながらも、熱心に話を聞いてメモを取っていた。


「あっ、これ美味いな」

「だろ。こっちじゃ食うこと以外に楽しみなんてないだろうから、調味料やソースをしこたま持ってきた。秘伝のレシピで昼から煮込んだ特製シチューだ!他班には内緒だぜ?」

「お前だけ余計な荷物があると思ったら、そんなの詰めてたのか」

「かー!ズルいわ魔力持ち!俺らなんて持ってきた塩漬け肉だぞ!」

「しょうがないだろ、この辺魔物しかいないし。代わりに野菜類は全部そっちに回しただろ、それとも少量でも試してみるか?」


その言葉にゴクッと無魔の軍人が生唾を飲み込んだが、さすがに班長がこんなところで実験すんなと止めに入った。


「君達もいっぱい食べてるか?」

「はい、頂いてます」


シチューに固いパンを浸しているが久々の料理らしい食事に生き返るようである。

クルト達も飢えた餓鬼のように無心で貪っていた。


「でもなんで急にこれ作ったんだ?昨日は普通に焼いただけだったよな」

「簡単に言えば余裕があるからよ。魔物の掃討が予定よりも早く終わったから、開拓組はともかくキャンプ待機組はアンちゃんの講義を聞けるくらいには余裕があるの」


だが全員が同じ事をしても仕方がないので、お礼も兼ねて少し豪華な食事を作る事にしたわけだ。

煮込みであればそこまで手間も掛からない。


「ところで明日の事なんだけど、あなた達にお願いがあるのよ。向こうに戻るついでに解体した魔物を運んでほしいの。一応こちらからも2人出すわ」

「どのくらいの量あるんだ?」

「小型ばっかだけど5,6体くらいかな?虫っぽいのが多いからそんなに重くはないし、荷車もあるから見た目ほど大変じゃないと思う」

「そのくらいならなんとかなると思う」

「ごめんねー。こっちでも犬を使えれば良いんだけど、馬すら貴重って聞いてるから」

「そういや私の村はまだ馬使ってるけど、ルブランは魔物使ってるもんな。西ってもう馬いないのかな?」


ハウリルから何か聞いてるか?とアンリが首をかしげたが、生憎コルトも聞いていない。

ラディーはそっかーと少し残念そうだ。

それから少しだけラグゼルにいる在来の動物について話をしていると、ラディーの見張りの交代の時間になった。


「多分朝は見送れないからこれでまたしばらくお別れかな。アンちゃんもコルトくんも気を付けてね」

「あぁ!」

「ありがとうございます、そちらも気を付けて」


手を振り去っていくラディーの背中を見送ると、アンリが私達も寝るかと振り向いた。






翌日早朝に起きると、2人は2班の人と魔物を運搬しながら最初の拠点まで戻った。

到着したころにはやっぱり昼を過ぎていたし、コルトはほとほと疲れ果てて到着するなり座り込んでしまった。

それをアンリが呆れながらも引っ張り上げてくれて、邪魔にならないところに座っていると、ハウリルがニコニコしながら食べ物を持ってきてくれた。

栄養価だけを考えた携帯食料を水と一緒に流し込んでいると、通信兵の人がきて30分ほどでまたリンデルトとの謁見があるとだけ告げると慌ただしく去っていった。


「対価を何にするか決まったんですか?」

「いえっ、結局結論が出なかったようです」

「そんな難しく考えないで金くれればいいのにな」

「ダメだよアンリ」

「ダメって言うけど、ダメな理由が分かんないだよ」

「……えーと、何だったかな。なんかこう信用がどうとかこうとか……」

「ごめん、それじゃ分かんない……」

「……だよね………ごめん」


コルトは何とか上手く説明したかったが、如何せん授業を真面目に聞いていなかったので出来ない。

そして、そんな過去の愚かな自分に恨み言を吐いていると、準備が出来たと呼び出された。

コルト達は別にいなくてもいいような気がするが、アーク商会とはまだしばらく行動を共にする予定なので知っておいたほうが良いと同席を促された。

天幕の中に入るとすでにルブランらアーク商会の面々とクーゼルがすでに並んで立っていた。

心做しかいつもよりも身なりが良いような気がする。

と思っていると、視線に気付いたのかルブランがニコニコしながら口を開いた。


「いやはや一昨日は突然の事で汚い身なりのままだったが、これから貴人にお会いするのだ。出来る限り良い格好をせねば失礼になってしまう!」


そしてルブランはリンデルトの召し物の仕立てがいかに素晴らしいかを語り始めようとしたのだが、オーティスが後にしてくれと口を挟んだのでルブランは少し名残惜しいながらも姿勢を正して口を閉じた。

そして、通信兵が時間ですと言うと、通信機に手をあて再びリンデルトが浮かび上がった。


『あーっ、あーっ、音声届いてるかな?』

「感度良好、問題ありません」

『それは良かった。それじゃあ早速だけど、そちらの要求が結局決まらなかったって聞いてるけど、それでいいかな?』


リンデルトが問いかけると、ルブランが少々大げさに大変申し訳無いと謝った。

自分たちの考える中ではどうしても良いものが思い浮かばなかったと。


『なるほどね、それは仕方ない。お互いにお互いを知らなすぎるからね。それじゃこちらから用意出来るものを提示しようかな。イリーゼ!』


画面外に呼びかけると、手に台座を持ってイリーゼが静かに現れた。

いつにも増して威圧的な雰囲気を漂わせているが、手に持っている台座をリンデルトの前に音もなく優雅に置くと、手を前に交差させてそのすぐ後ろに後ろに控えた。

リンデルトは台座から宝石のようなものを1つつまみ上げた。


『こちらから提供出来るものはこれだ』


光を受けてキラキラと碧緑に輝くそれは、宝石によく似ているが特殊な装置に魔力を流し込むことで結晶化したものなので全くの別物である。

足りない魔力を補填したりすることに使われるが、最近は色々な道具にはめ込んで使う、謂わば電池のような役目を果たしていた。

だがそんな事を知らないルブランはただの宝石だと思っているらしい。

宝石として見るならかなりの大粒なので良い値段がつくだろう、ほほぉと感嘆の声を上げている。

その期待を折る声を上げたのは当然リンデルトだ。


『期待しているところに悪いけど、これは宝石じゃない。魔石と言って魔力を結晶化したものだ。臣民達の長年の素晴らしい研究成果だよ』


それを聞いてルーカスがそんな事出来んのか?と疑問を口にした。

魔族内でそんなものが見つかったという話を聞いたことがないからだ。


『元々魔力には各種属性に沿って具現化、または物質化する性質があることは分かったからね。あとは高濃度で高圧縮しながら共鳴力の具現化で補助する事で結晶化出来るんだよ』


口にすれば容易いが、実際はそう簡単に出来る事ではない。

今でこそ実用化されて日常でも使えるようになっているが、そこに行きつくまでにたくさんのものを払ってきた。

ルーカスがふぅんと納得したのかしてないのか、良くわからない返事を返している。


「殿下さんさ、それがあんたらにとって凄いものってのは分かったが、それが俺らにどう役に立つんだ?」

『当然の疑問だね。オーティス』


御意と答えたオーティスは腰の剣を取ると、刃の根元にはめ込まれている魔石を外しクーゼルに投げてよこした。

それを受け取ったクーゼルは訝しげにそれを眺めているが、やがて何かに気付いたらしい。


「これ、魔術か!?」

『御名答。魔術について聞いてからこちらでも研究を開始してね、一番最初に試してみたのがそれだよ。刻んだものは全て発動するから細かい使い回しは無理だけど、一定の機能を継続使用するだけなら格段に楽になった』


その一例が武器への付属だ。

通常武器に魔力属性を帯びさせ続けるには継続して魔力を流し続ける必要がある。

ラグゼルでは以前から魔石による補助で少ない魔力でも継続出来るようにしていたが、魔術を組み込むことで同じ魔力量でも飛躍的に継続時間が伸びたのだ。

現在はまだ試験段階だが、すでに高い効果が出ているためそう遠くないうちに実用化されるだろう。

だがここで1つ疑問がある。


「魔力の塊ということは使えばなくなるものだろう。使うほど小さくなるんじゃないか?その場合刻んだ魔術はどうなる。いつ使えなくなるか分からないものを戦闘中には使えないぞ」


その疑問に答えたのはリンデルトではなく、後ろに立っていたイリーゼだった。


『問題ありませんわ。一度刻まれた魔術は魔石がなくなるその時まで効果を発揮いたします。いくつもの魔石で試しましたから間違いありませんわ。なんならお手の元のそれを砕いてみるといいですわ。オーティス、やりなさい』


いきなりの命令にオーティスはギョッとしたが、さすがと言うべきがすぐに取り繕うとクーゼルに手を差し出した。

ルブランが勿体なくないかね!?と嘆いているが、誠実な取引のために必要なこととイリーゼが一蹴してしまった。

そしてオーティスは一度魔術の効果を確認したほうがいいだろうと、ルブランとクーゼルを外に連れ出すと、地面に剣を突き立て離れた位置に雷撃が発生したことを確認させる。

そして魔石を柄で砕き、その欠片で再び魔術を発動させると先程と全く同じ雷撃が発生したのである。


「さすがに小さくなりすぎると威力が落ちてくるが、今の所例外なく刻まれた魔術はなくなるまで発動する。ちなみに刻まれた魔術式を理解する必要はない、魔力を通せば誰でも使える」

「なんだと!?」


クーゼルが驚きの声を上げた。

通常魔術は使うものがそれが何を意味するものなのかを理解する必要がある。

魔力を通すだけでは意味がないのだ。

だが魔石に刻まれた魔術はそれを踏み倒す、その辺の子供ですら魔力を通すことさえ出来れば使えるのだ。

それは一般人が即席の歩兵になることを意味するのだが、それを敢えて指摘する者はこの場にはいない。


『効果時間については納得してくれたかな?残念ながら今刻んでる魔術は彼ら用だから、戦闘に使うものしかないけど、当然それ以外の使い道はたくさんある。もちろん、ただの魔力補助として使ってもいいしね。僕としては悪くないものだと思うけど、アーク商会としてはどうだろうか?』


言外にもちろん断らないよね?という雰囲気を出しているが、アーク商会とて西ではそれなりに大きな商会として名を馳せているのだ。

ルブランは部下やラグゼルの軍人達の視線を一身に浴びながら、うーんと唸り声を上げると、静かに口を開くのだった。



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