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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第54話

「ルイって意外と世話焼きだよな」


みんなのところに戻る道中、警戒している空気を分かりやすく出しながらもオーティスがクルト達とルーカスを交互に見ながらそう呟いた。

それを聞いてあからさまに何言ってんだ?という顔をしているが、クルト達がオーティスを警戒して周りに集まっている状況を見ると、そう思ってもおかしくない。

それにここまで来る道中も気付いたらどこかに行ってしまうクルト達を、他の大人が騒ぐ前になんだかんだで首根っこを掴んだ状態で連れ戻している。

そんな事もあってか他の共族の大人よりもよっぽど懐かれていた。

子供がそうなると大人の警戒も解かれるようで、ルブラン達と出会った街に再びついたときにはすっかり周りと打ち解けていた。

微妙に解せなかった。

それから数分、みんなの姿が遠目に見え声を掛けようと手を上げると、向こうもこちらに気付いたようだ。


「みなさん、会えました!こちら軍人のオーティスさっ」


コルトがそう言いかけたときだ、オーティスが再び銃を構えると同時に周囲の木々の間から同じような格好をした人たちが、こちらも銃を構えながら現れた。


「なっ、何してるんですか!?」


周囲から突然人が湧いたように現れたことにも驚いたが、誰も戦闘行動をとっていないのに銃を構えたことにも驚いた。

銃がなんなのか分からないアンリやクーゼル達も、気配もなく突然現れた彼らと尋常じゃない様子のコルトに武器に手をかけた。


「ちょっと待ってください!民間人に銃を向けるのは禁止されているはずです!」

「我々の民間人の定義に彼らは含まれない」

「なっ!?」


思ってもみない返答が帰ってきた。


「我々壁内ラグゼルはお前達壁の外の人間を敵と定義している。だが、事前にそこの魔人から追われており、我々の手を借りたい旨を聞いた。我々も好き好んで争いたいわけではない。そのため、この話の場での停戦協定の締結を行いたい」

「この場での争いを一切禁止する。それをあなたたちも遵守する、ということでいいですか?」


ハウリルが短くまとめると、オーティスもそうだと頷いた。


「わたしたちは彼らとは協力関係にありますから、返答はクーゼルさんとルブランさんのご両人が行うべきでしょう」


クーゼルとルブランがお互いに顔を見合わせた。


「わしは西の大陸でアーク商会の商会長ルブランだ。円滑な取引が出来る事を願う!」

「俺も西の大陸で活動していた元上級討伐員だ。仲間のためにこの場では武器を取らない事を誓おう」

「俺は壁外臨時調査部隊の隊長オーティスだ。理解と協力に感謝する」


そう宣言したオーティスが銃を下ろすと、同時に周囲にいた軍人達も銃を下ろすとロックをして背中にあるホルスターに収めた。


「この場は目立つ。もう少し先の森の中に開けた場所があるからそこまで移動いいだろうか?」

「分かった、俺たちも出来れば目立ちたくない」


全員の合意の元、森の中の目的地に移動するとすでに何人か待機して簡易的な天幕が張られていた。

というより、ここが彼らの一時的な拠点のようだ。

色々な物資が置かれているその場をクルト達は興味津々で見渡しているが、さすがに軍人達が目を光らせているので大人しくしている。

そして拠点の中央にある折りたたみ式の簡易テーブルに全員が案内された。

軍からも何人か立ち会っている。


「さて、じゃあ先ずはそちらの事情と要求を聞こうか」


すると待ってましたと言わんばかりにクルト達がテーブルに身を乗り出し、オレたちの村を作るんだ!と先ほどと同じ事をいいだした。

それをすかさずルーカスが物事には順番があると首根っこを掴んで引き戻している。

可哀想だが今は少し我慢してもらうしかない。

明らかに不満そうにしていたが、それを見た軍の人がコルト達にお茶を出すついでにクルト達には飴も渡している。

初めてみたそれに不思議な顔をしていたが、噛まずに舐めるんだと言われ口に含んだそれに、すぐに喜色を浮かべた。これでしばらくは大人しいだろう。

代わりにクーゼルが口を開いた。


「俺が話そう。先ず俺たちの事情だが、教会が人狩りを始めた、強制労働させるためのな。俺は仲間の討伐員と共に誘拐されそうな人達を助けてこっちの大陸まで逃げてきた。要求は安全な住処と飯」

「人が少ないようだが?」

「お前達の助けを乞うのに説得がいる。人数も多いが、みんなここまでこれるだけの体力が無い、だから俺だけ先に交渉役として来た」


ふーん、とよく分からない返事をするオーティス。

ついでルブランに促した。


「わしはなんというか……巻き込まれて………。こっちで予想に反して物が売れん買ったから、そっちで代わりに買い取ってくれると聞いてな」

「なんだ、ルイかそっちの司教さんにでも利用されたか?まーいいや、それで俺達に売ろうって荷は何だ?」

「魔物の素材だ!こっちでは目撃が無い品種のものばっかのはずだがちょっと前に大規模な討伐戦があったらしくて珍しいだけじゃ売れんかった」


それを聞いてこちらを見てきたが、見ないで欲しい。

見に覚えしかないのだ。


「わたしからも補足ですが、どうやら現在の教会の状況がかなりよろしくないようなのです。恐らくこれから西はかなり荒れます。その前にこちら側に教会に対抗出来る組織や、内側からの自浄を進めたいのです。彼らはそのための足がかりです」

「そんなに悪いのか?」

「食料庫が燃えたそうです」


そうなんですよね?とハウリルがリキュリールをみると、予想外にも大人しくしているリキュリールがそうなんだよー!1000年続くやばい牧場が壊滅さ!とケラケラと笑っている。

相変わらず何がおかしいのか良くわからない。


「あそこにはあそこにしかないものがたくさんあったからね。立て直すにはいるかも分からない北に行って、また1から捕獲して作るしかないのさ」

「在来種でも飼育してたのか?」

「うーん、まーそうだねー?」


相変わらず牧場の話になると歯切れが悪い。


「大体大雑把にはそちらの事情は分かった。分かったが……」

「隊長、これはどう考えても我々の手には余ります。王宮の判断を待つべきです」

「そんな事は百も承知だよ」


ふーむと考え始めたオーティスに、ルブランが不安げに買い取ってくれるのか?と呟いている。


「なー、おっちゃん」


完全に思考の外になっていた子供の一言にオーティスが衝撃の顔をした。


「オレたちまだ喋ってないぞ!」

「おっ、おぅ悪かった。話してごらん?」

「オレたちはな、自分の村を作るんだぞ!手伝ってくれたら、ちょっと住ませてやってもいいぞ!」


ドヤ顔で腕を組んでいるクルトに合わせて、他の4人も並んで腕を組み始めた。

パッと見は微笑ましい。

だがオーティスは片膝をついて視線を合わせるとさらに問いかけた。


「自分たちの村か、生まれたところはどうした?」

「知らない!」


視線で他の大人に問うと、ハウリルがわたしがと前に出た。


「捨て子だそうです。クーゼルさん達の避難民の中に混ざっていたのでここまで来れたようですが、子供故に色々あったらしく自分達の居場所が欲しいようです。実はお恥ずかしくも、このまま避難民の中にいたほうが安全だとやめさせようと条件をつけたらその条件を熟してしまったのです。そもそも今回はそれが始まりです」

「……なるほどな。それで、俺達が外に出るんじゃないかと踏んだあんたは、隠れ蓑にする代わりに住む場所の確保を手伝わせようってわけだ」


にっこりと微笑んで肯定する。

確かに安全な屋根のある拠点が出来るのであればそれに越したことはない。

と大体のこちらの事情と要求を伝え終わると、オーティスは頭を掻きながら少し待って欲しいと言った。結論をこの場で自分たちでは出せない、上の人間に通さないと何も出来ない、と。

そのための時間の欲しいとのことで、今日はこちらで寝床を提供すると言ったところで、通信兵の1人が何か装置を持って失礼しますと割り込んできた。

王宮と繋がったらしい。

すぐに準備するとの事で少し軍人達が慌ただしくなった。

白い幕が張られ周囲にも防音のために布が張られる。

さらに上にも布が被せられあっという間に簡易視聴覚室の出来上がりだ。

そして軍人達が並んで敬礼すると、少し雰囲気が変わったためコルト達の間にも緊張した空気が流れた。

そして通信兵がイスに座って装置に触れると、光が漏れて表面の布地に人影が写った。

徐々に鮮明になっていくそれは、ラグゼルの皇太子リンデルトだ。


『やぁ、久しぶりと言いたいけど、もうちょっと間が欲しかったかな。僕は壁の中の者、ラグゼルのNo.2、壁外についての対応を任されている者だ』

「しゃべった!」


装置から漏れる音声に合わせて目の前の人物が喋ると、子供達が驚いて歓声をあげた。

リキュリールなど興奮のあまり奇天烈な動きをしながら通信兵に近づいたので、軍人達が複数人で威嚇しながら止めに入ったほどだ。

だがそれ以外の大人のほうはそれどころではなかった。

自分たちが何を見せられているのか理解出来ないのだ。

コルトも驚いている。

仕組みとしては恐らく通信兵の共鳴者が受信したものを、装置を通して出力しているだけなのは分かるのだが、長年五感情報の共鳴力を他者にも認識出来る形で出力出来た記録がないのだ。

ないはずなのだが、実際に目の前で出来ている。

記録映像の可能性もあるが、こちらのリアクションに反応しているところを見ると、恐らくリアルタイムだ。

どういう事だろうか。


『うんうん、素晴らしい反応だ。コルトくんのほうは技術については流してほしいなー。さて、時間も惜しいから早速話を始めようか』


早々に語られた内容は、先ず教会についてはこれからどういうスタンスで行くのか?という疑問だった。

これはラグゼル側からしたら最重要事項だ。

せっかく手を組んだのに、教会に全て情報が流れてましたではお話にならない。

その場合はこちらの損失を最小限にするためにも、当然消えてもらわないといけない。

だがこれはすでに話がついている。

現在の教会に追われる身として、体制が変わらない限りは教会とは対立関係となり、壁とは同盟という形を取りたい。

クーゼルとしてはフラウネール枢機卿の出方次第では、その派閥に所属して教会を内部から変えたいそうだ。

ハウリルとしても派閥の交渉場所として彼らの作る村を使いたいので異論はない。

アーク商会もここまでがっつり関わった上に、商品取引が始まればもう後戻りは出来ない。


『なるほどね。問題は大勢いるらしい避難民のほうだけど、彼らの同意はまだ取ってないんだよね?』

「仲間が残って説得してる。人数が多いから少しずつ、同意が得られて問題なさそうな者から連れてくるつもりだ。だが多分大丈夫だと思う、……今更戻ったところでさらに過酷な強制労働が口封じで殺されるだけだからな」

『その辺の事情はもっと詳しく知りたいけど、先ずはこちらに協力的であれば最低限の生活は保証するよ』


それからアーク商会の荷の話になった。

ここは本業とばかりに一部積み荷を広げたルブランが得意げに説明をしている。

ルーカスが特にケチをつけなかったのでモノに問題はないだろう。

引き取れるなら全て引き取る事であっさり話がついた。

そしてやはり対価が問題となった。

ここでもハウリルが偽装通貨の提案をしたがリンデルトも軍人達も渋い顔をしている。


『僕達は別に君達の社会を壊したくはないんだよね。荒れてこっちに矛先が向くのは嫌なんだよ』

「別に金なんていくらあっても困らないだろ?」

『あっ、そういう認識?実際今はまだ影響はほとんど無いとは思うけどね』


だがこれから先の未来でどうなるか分からないので、なるべく悪影響が出るものには手を出したくはないらしい。

そして肝心のその悪影響についてはリンデルトは説明する気が無い。

そこまでの親切にするつもりはないようだ。

次に対価として出たのは金属、主に鉄だ。

ラグゼル側としてはもっと性能の良く様々な特性に特化した金属がいくらでもあるので、鉄ならいくらでもという感じだったが、こちらはアーク商会が渋った。

出処不明な金属をこちらで捌くリスクが高すぎるのだ。


『困ったね。しょうがない、3日程時間をくれるかな?その間にこちらも何か考えておこう、オーティスも対価については相談に乗ってあげてね。こちらに何があるのか知らないだろうし、君ならその辺の良し悪しの判断がつくだろ?』


それに対して無言で胸に手を肯定の意を示した。

すると同時に映像にノイズが走った、時間切れらしい。

なのでその間に開拓する村の策定を進めるように指示を出すと、終えると同時に映像がプツッと切れてしまった。


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