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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第51話

ルブランたちは町の入り口から少し離れたところに天幕を張って一応の露天を開きながら野営をしていた。

この辺りはまだ町の討伐員の管轄になるため、魔物の心配はそこまでないようだが、お客は一人もいない。


「おーい、おっさん!すっげぇ儲かるうまい話があんだが、聞かねぇか?」


そんな彼らに詐欺の常套句のような事を言いながら話しかけるルーカス。

一瞬胡乱な目を向けたルブラン達たが、それがコルト達だと分かると腰を上げて出迎えてくれた。


「なんだいきなり藪から棒に。しかも儲け話だぁ?どうせ裏があんだろ」

「あるに決まってんだろ」


ここでハウリルがルーカスを押しのけてルブランの前に立った。


「すいません、ここからはわたしがお話しましょう。ですがその前に、お話を聞いた時点で後戻りはできません。なので、お引き受けしていただけない場合はこの話自体を無かったことにして下さい」

「……どんくらいやべぇ話でどんくらい儲けられる?」

「儲けがどのくらいになるか分かりません。ですが成功すれば間違いなく普通に商売するよりも儲けられます。失敗した場合についてですが、おそらく従業員の皆さんを含めて皆殺しの可能性が高いでしょう」

「話になんねぇな。そんな話、受けられるわけないだろ」


そう簡単に従業員の命まで掛けられないと、ルブランは話を聞く気が全くない。


「そんなもんより、枢機卿に紹介してくれるって話は忘れてねぇよな。そっちの話があんなら、うちはそんなハイリスクな話を受ける理由がねーな」

「そうなりますよね」


仕方ないと諦めた表情のハウリルは、リキュリールと子供たちのほうに向き直り諦めて下さい。と声を掛けようとした時だった。

子供たちの後ろ10数メートル先に複数の人影が出現し、同時にルーカスが剣に手をかけ子供達の前に立った。

現れたのは昨日会ったロバスと元上級討伐員に他にも仲間と思われる司教と討伐員達、合わせて4人。

みな、武器を構えこちらを睨んでいる。

アンリも斧に手を掛けた。


「おやっ、みなさん。そんな物騒な出で立ちでどうされました?」

「………やはり貴様は裏切り者だったか」

「なんの事でしょう」

「しらばっくれるな!そっちの女は悪魔研究のリキュリールだろう!そいつと共にいるという事は貴様も悪魔に傾倒している証拠だ!」

「貴様ら兄弟はハンスヴァー枢機卿と敵対していたな。はっ、これは運がいい!貴様らをハンスヴァー枢機卿に売れば、我らも恩赦がもらえるに違いない!」

「ガキも殺せ!どうも手癖が悪いと思えば、元々リキュリールの使いだったんだ。悪魔に染まったガキなど今のうちに処分しろ!」

「後ろの商人共はどうする」

「私が昨日奴らと共に町に入ってくるのを見た!」

「まさかアーク商会がすでに取り込まれていたとはな」

「まっ、待て!わしらは何も知らんぞ!」


司教たちはこちらの話など全く聞かず、勝手に話を進め勝手に怒り勝手に結論を出している。

明らかに不穏な状況に恐怖した子供達は泣き出すものが出てしまい、クルトが年少のものを抱きしめてどうなってんだよ!とルーカスに詰め寄っている。

商人達も慌てふためいてコルト達にどういう事だと文句を言ってきた。

コルトは状況がよく分からなかった。

ただ突然現れた彼らにいきなりよく分からない理由で因縁をつけられたことしか分からない。

ただ一人リキュリールはお気楽そうに、これだから駄犬はダメなんだ、とぼやいている。

ルーカスもまだ剣に手をかけてはいないが、めんどくせぇと呟き、そして周囲に魔力が満ち始めた。コルトは慌ててその腕を掴んで止めさせる。


「待ってよ!まだこっちの話を聞いてもらってないじゃないか!」

「あれで話を聞く状況か?無理だろ」


その言葉と共にまさかのアンリが横に向かって斧を薙ぎ払った、と同時に何かが飛び出し見事に斧が受け止める。

鋭い金属音が響いた。


「ちっ、何故気付いた!」

「教えるか!」


飛び出してきた女性討伐員を力で薙ぎ払い、地を蹴ると猛攻を仕掛ける。

剣と手斧でアンリのほうがリーチが短いがほぼほぼ密着するような状態で、さらに左手にいつの間にか柄になる棒を握り、討伐員を圧倒している。

分が悪いとみたのか、討伐員は一度アンリから距離を取った。


「悪魔共め!」


するとハウリルが前に出て口を開いた。


「わたしたちをここで捕縛、または殺害したところであなたたちに恩赦が与えられる事はありませんよ。寧ろ余計なことをしたとして始末される可能性もあります」


目の前で起きている事の一切に動じず、淡々と語るハウリルに司教たちはさらに興奮しだす。


「助かりたいから言うのがそれか?状況すら読めないとはな!」

「兄が教皇になるのは決定事項です。それを止めさせるような事態は向こうには都合が悪いんですよ」

「言ってる意味が分からん!貴様はまるでフラウネールが教皇になるのを阻止したいようではないか!」

「………そうですよ」


それは振り絞るような声だった。


「そうですよ、そうです。教皇の最期を知って、なって欲しいなんて願う人間は」


──消えたほうがいい


恐ろしく冷たい声だった。

表情の抜け落ちたその顔は完全に知らない人だ。


「あーー、ハウリルくん。やっぱり知ってたんだ」


お気楽な声をあげたのはリキュリールだ。

泣き出している子供の頭を撫でながら、何で知っちゃったかなーと漏らしている。

そして、リキュリールは子供の耳を塞ぐように距離を取った。

ハウリルはなおも淡々と続ける。


「いくら歴代屈指の魔力の質と量と言えど、教会の末端から生まれた子供を短期間のうちに全会一致で教皇に内定させるなんてオカシイ話だと思ったんです。それで歴代の教皇について調べたんです」


調べるためには何でもやった。

不法侵入は当然、器物損壊や脅し、挙句の果てには歴代の墓も荒らした。

そして発覚した事実は悍ましすぎるものだった。

兄にも辞退するように言ったが聞き入れてもらえなかった。

その時すでにハウリルの存在が人質になっていたからだ。


「教皇が最長でも50手前で死ぬ理由をご存知ですか?世間的には神に仕える激務のためと言われていますが、正確には加齢による健康状態の低下で内蔵状態が悪化し可食部が減ることを嫌ってその前に殺してるんですよ」


この人は真顔で何を言ってるんだろうか。

それではまるで屠殺される家畜のような話ではないか。


「大昔の魔族の肉体が、現代でも魔力増幅に役立つほどの状態で維持出来るわけないでしょう。過去にどんな栄華を誇った古代の彼らにも、さすがにそれは無理だったようです。そして代わりに目と付けられたのが歴代の教皇ですよ。その代で一番魔力の多いものがなるのが決まりでしたから」

「貴様は……貴様は何を言っている?」


その場の誰もがハウリルの言っている事を理解出来なかった。

いやっ、出来ないのではなく理解したくなかった。

理性が理解することを拒んでいた。

一番最初に立ち直ったのはルーカスだ。


「なるほど。そりゃお前にとっちゃ教会なんてどうでもいいわな」

「………ですが、兄は教会自体をなくすことには否定的なんですよね。曲がりなりにも秩序を担っているので、突然無くなると人々が困るそうです。知りませんよそんなこと、兄の優しさにつけ込んで利用してる連中などみんな死ねばいい」


憎悪を含ませ吐き捨てた言い方は、まるでこの世を恨んでいるかのようだった。

よく考えればハウリルの事をあまり知らない事に気が付いた。

生い立ちなどを全く知らない。

いつも張り付いたように決まった笑顔を浮かべていて、今日みたいな顔は初めてみた。


「そんなもの…そんなもの貴様の作り話だ!信じるわけないだろ!」

「いいんじゃないですか?別にわたしは困りませんので」


性格悪いなお前、とルーカスが呟いた。


「まっ待て、待ってくれ!わしらはどうなる!わしらは関係ないぞ!」

「ならそもそもどうして西が本拠地の貴様らがこちらにいる!」

「ひぃ!西がきな臭いからこっちに販路を求めただけだ!」

「どうだが。悪魔を客にでもしようと思ったんじゃないか?」


完全に何かがおかしくなっている場に、ルーカスはダメだなこりゃと呟いた。

司教と討伐員達は完全に興奮状態で話が出来る状態ではない。

コルトはどうすればこの場が収まるか必死に考えた。

だがそんな事を考える間もなく動くものがいる、ルーカスだ。

それは一瞬の出来事だった。

目の前からなんの兆候も無く一瞬で消え失せたかと思うと、不意打ちしてきた1人と合わせて5人が背後からの衝撃でまとめて地に伏していた。

誰もルーカスの動きを視認出来ず、なにが起きたのか分からなかった。

そしてついでとばかりに空中に突然大量の水が発生したかと思うと、それが全て滝のように彼らの上に降り注いだ。

あまりにも現実離れした状況にびしょ濡れになった彼らは呆然としている。


「頭冷えたか?」


ロバスの髪を掴み頭を持ち上げルーカスが問いかけると、マジマジとその顔を見た後に恐怖に歪んだ。


「なっ…はっ……きっ、さま、まさか、魔族!?」


それを聞いて思いっきり口角を上げたルーカスは、徐々に肌の色が青く代わり、頭から角が生え始めた。

それを見てロバス達だけでなく、アーク商会も恐怖に腰を抜かし尻もちをついた。

コルトはそれを見て止めようと走り出すが、ルーカスは予想に反してロバスから手を離すとそのまま踵を返す。


「おらっ、適当に黙らせたからあとはお前ら何とかしろ」

「何とかってあなた、何も考えてなかったんですか?」

「あぁ?何で俺がお前ぇらの問題を解決してやんなきゃいけねぇんだよ」


場を冷やしたことに感謝しろ、と言うとルーカスはあとは興味なさげにズモゥに寄りかかった。

側にいたアーク商会員が小さく悲鳴を上げたが、視線すら寄越さず甲殻で覆われた手の爪を見ている。

先程とは別のおかしな空気が流れ始めた。


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