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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第50話

子供たちとついでに着ていた服も綺麗に洗い終え部屋で乾かしていると、丁度いいタイミングでリキュリールが戻ってきた。

元が元なのでさすがにお世辞にも清潔とは言えないが先程よりは大分マシな状態だ。

そして早速と言わんばかりに核心的な質問をしてきた。


「ハウリルくん、壁の悪魔と接触成功したんじゃない?ついでにいうと、そっちの3人は壁の住人だったりしないかい?」


ほぼ正解を言い当てられて体が反応してしまった。

それをリキュリールは目ざとく見つけると、やっぱりね!と嬉しそうに笑う。

何故?とコルトが聞くと、悪魔研究をして破門されたと聞けば普通であればその時点で敵意を顕にするそうだ。

さらにハウリルに隠す気が無かった。

以上のことから悪魔に敵意、または偏見が無い人物達という事が予想でき、こちらの状況を考えれば壁の住人ではないかとの予想がついたわけだ。


「なるほど、その辺りは気をつけないといけませんね。一応言っておきますと、壁の住人はコルトさんだけです。アンリさんはこちらの村出身ですし、そっちのルーカスは………」


言葉に詰まったハウリル。

バカ正直に魔族です、とはさすがに悪魔に偏見が無い人物といえど言えないだろう。

困っているとリキュリールのほうは誰にだって探られたくないことはあると笑いながら流してくれた。

そしてコルトにグイグイきた。


「ヒャハァ、素晴らしいな!まさか壁の中の住人とこんなに早く会えるとは思わなかった!ということは君らは悪魔の能力、旧世界の神から賜った能力について知っているね!?まだ彼らは生き残っているかね!?」

「すいません、近いです、近いですってば!」


鼻が付くんじゃないかというくらいに近づかれて、両手でリキュリールの肩を押して抵抗する。


「共鳴力の事であれば普通に社会の一員として生活しておりますよ。どうやら2年前にカストルネ枢機卿の襲撃で大勢が亡くなったそうですが」

「何という無能な働き者だ!最早我々が助かる方法など悪魔に頼るしかないよいうのに!」


嘆かわしいと大げさに悲しむリキュリール。

すると子供が口を挟んできた。

一番体が大きく年齢も上らしい少年のクルトだ。

コルトとは名前が似ているので、先程の水浴びで大分打ち解けた。


「なーなー、さっきから言ってるアクマってなんだ?悪いやつなのか?」

「違いますよ。大昔、考え方の違いから教会と別れた人たちです。古い神からもらった力をそのまま残しているので、教会では悪魔と呼んでのけ者にしているんですよ」

「へー」

「教会から追われてるって意味じゃ私らと一緒だよ」

「じゃあいいやつなのか!」


悪い人たちではないですねとハウリルは濁した。


「彼らは確かにこちらを侵略するつもりは毛頭無さそうですが、わたしたちに力を貸してくれるかと言えば違いますね。取引出来るものがなければ応じてくれないでしょう」


ハウリルは初めての来訪者だったため全ての情報が売れた、取引が成立した。

つまりこれから取引をするならハウリル以上の何かを出さなければいけないのだが、枢機卿を兄に持ち、各地を回っているハウリル以上の何かというと情報はかなり難しい。

到底子供が払えるようなものではない。


「そもそもまた東まで行くとなると大変な重労働ですよ。わたしたちは運良く商会の馬車に乗せてもらえましたが、また東の壁付近まで行く馬車がそう簡単に見つかるとは思えません」

「あるくもん!」

「無理です」

「がんばるもん!」


いじわる!と子供の大合唱が始まった。

だが現実問題としてそれらを解決しない限りはどうにもならない。


「1つだけ方法があるぞ」


とここで一番やる気をみせていなかったルーカスが膝に頬杖をつきながら口を開いた。


「ルブランのおっさんに運ばせればいい」

「やはりその話になりますよね」

「そりゃそうだろ。他にどうする、こいつら置いてくか?俺はいいぜ、さっさと海を渡りたいからな。本来の目的考えりゃそれが正解だろ」


冷たい突き放すような物言いにクルトたちは不安な顔になった、中には泣き出す子もいる。


「誰かね、それは」

「アーク商会の方です。途中から馬車に乗せていただいたんです」

「奴らにも悪い話じゃないぞ、売れ残ってる魔物の素材はあいつらも欲しいはずだからな」

「でもそれは彼らの利であってこの子たちではありません」

「対価の出どころをこいつらにする。こいつらが作りたい村ってのを隠れ蓑にすんだよ」


ついでにラグゼルがこちらで活動する際の拠点代わりにもする、大人がリキュリールのみでは不安でもあるので丁度いいだろう。と面倒くさそうに話すルーカスは、話を持ってく責任はお前らが取れと提案するだけしてそれ以上は何かをする気がないようだ。

ハウリルは考え込んだ。


「先を考えるのであれば、ラグゼルとこちらに商取引があったほうがいいのは確実です。こちらからの使者もそのほうがやり取りしやすいでしょうし、良いかもしれませんね」


ずっと一緒にいて守れるわけではない。

フラウネールに相談するにも弱小派閥ゆえに人員がいないのは目に見えている。


「ところでなんで壁に頼ること前提で話進めてるんだ?ここの近場で作るのはダメなのか?長距離の移動も無いから楽だろ?」


アンリが当然の疑問を挟んできた。

リキュリールが混ざったことで東のラグゼル近郊に作るというほうに話が流れてしまったが、村を作るだけならこの付近でも問題ないはずだ。


「家をどうやって作るかが問題です。子供だけでは無理でしょう?近場であればわたしたちが手を貸すこともできますが、家の作り方なんてわたしは知りませんよ」


コルトも家の作り方は知らない。

住居などの建築は基本的に貴族か王族の管轄で、専門の職についている人達がやることだ。

研究開発を希望と言っても、それは道具などのほうで建築系とは専門が全く違う。

アンリは村が林業主体で家屋も木造だった。

なら家を作るのも村全体でやっていたのではないかと聞くと、アンリが生まれてから新規で家を建てることがなかったらしい。

むしろ余っている状態だった。

なのでアンリ自身は知らないし、経験したことがない。つまりコルトたちと知識の上でも差がない状態だ。


「ヒャハハ、仮に作れたとしてもこの付近はやめといたほうがいいよー!なんせ子供5人に私だ!あっという間に乗っ取られるさ!」


子供から食料を奪うような大人である。

もし家があることがバレたら襲って乗っ取るくらいの事をする可能性は十分考えられた。

なら味方になりそうな大人を探そうにも、それこそ揉め事の火種にしかならないだろう。

絶対に僻みややっかみが生まれる。

やるなら全員で、だがあの人数をまとめるならロバスたちの協力は不可欠どころか、向こうに主体的にやってもらわなくては困る。

だがそうすると、今度は未だに教会の教義には従っているっぽいロバスたちでは、リキュリールの存在がどうにも困ってしまう。


「そもそもですが、リキュリールさんは教会の備蓄が無くなった理由をご存知ですか?これからも避難民の方が増えるようでは、いすれこちらも大変な事になりますよ」

「知ってるよ。ハンスヴァー枢機卿が管理してる教会の秘匿牧場が火事で全焼しちゃったんだよ」


ハウリルが今まで以上に眉間に皺を寄せた。

どうしたのか聞くと、秘匿牧場の実態がかなりよろしくないらしい。

どういう事なのかとさらに突っ込んで聞いてみるが、聞かないで欲しいと言われたので大人しく引き下がった。


「襲われたのですか?」

「いやいや、普通に事故だろうね。逆に1000年も運用してて今まで何事もなかったのが驚きだよー」


1000年。

1000年というとラグゼルも無く一番荒れていた時代の話だ、そんな昔から存在していた牧場が火事で全焼して無くなってしまうとは、なんとも寂しい話である。


「なるほど、それで教会も焦り始めたんでしょうね」

「それでやる事が素人集めての遺跡発掘なんだから、笑っちゃうわー、ヒャハハハハハ!」


笑い事ではないとハウリルは深い溜息を吐いた。


「はぁ…、戻る前に頭の痛い話ですが、いつまでもこうしてここにいるわけにはいきません。ルブランさんと交渉していけるようであれば壁までまた戻ります、ダメであれば諦めて下さい」


それで良いかと確認するようにハウリルは部屋を見渡した。

コルトはもちろんそれで問題ないし、アンリとルーカスもしょうがないといった感じだ。

子供たちは不満そうだがリキュリールがダメだったらお姉さんと一緒に東大陸を冒険しようぜ!というと途端に顔が輝いた。

それはそれで大丈夫なのだろうかと聞くと、伊達に数年間異端審問官から逃げ回りながら西大陸を歩き回っていたわけではないらしい。

元教会関係者として魔術だって使えるし、そのへんの草が食べられるものかは一通り己の体で試したそうだ。

よく今まで生きていたものだと感動してしまった。

だがとりあえずの方針は決まった。

先ずはルブランのところに行かなければ何も始まらない。

コルト達は子供達に手を引かれながら宿を出た。


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