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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第49話

助け舟を出したのは意外にもアンリだった。

アンリは子供たちの前に立つとある提案をした。


「お前ら村を作りたいんだろ?なら村を代表する一人前として、それを保証する大人を連れてこい」

「なんだよそれー!」

「これは商売の話だぞ。お前ら自分達の村を作るんだろ?なら村には商人が来るはずだよな、これはその第一歩だぞ」


アンリの言っている事はいまいちよく分かってなさそうだが、村と第一歩という単語だけで子供たちはとりあえずアンリの話を聞く体勢になった。


「いいか、これは私達とお前達の取引だ。大事な取引ってのはな、信頼出来る関係ない奴に立ち会ってもらう事がある。不正がなくちゃんと約束しましたってのは確認してもらうためだな」


ふんふんと子供達は真剣に聞いている。


「お前達に連れてきて欲しいのは、その約束を確認してもらうための大人だ。それも口が硬い奴じゃないとダメだ。商売ってのは喋っちゃダメな多いからな、ちゃんと誰にも喋らないって秘密を守れるやつがいい」

「そいつを連れてきたら一緒に村を作ってくれるのか!?」

「おぉう、いいぞ。ただし待つのは明日のお昼までだ、それまでに連れてこれなかったら諦めろよ」


期限を聞いてえーー!と不満を漏らしているが、大事な取引は期限も短いと適当な事を言って誤魔化している。

さらに時間が無いから早く探しにいけ、とついでに追い出しにも掛かった。

子供たちもリーダーっぽい子がさっさと探しに行こうぜ!と声をかけるとあっさりと乗せられ、ドタバタと足音を立てながら去っていくのだった。

部屋に残された4人は扉を閉めると一斉にため息を吐いた。


「おいっ、あんな約束して大丈夫か?」

「多分大丈夫だろ。集団で爪弾きにされてるなら、そう簡単に見つからないと思う。お願いしようと近づいただけで嫌がられると思うし」

「残酷なお話ですが、付き合っていられませんしね。それに子供だけになるよりは、嫌がられてもこうして集団にいるほうがまだ安全だったりします」


ハウリルの言う通り、あの子達にはとても酷い話になってしまうが、徐々に東大陸でも北上してきている魔物がいる外よりは、どんなに爪弾きにされようと集団に寄り添っているほうがいざというときに生き残る可能性が高い。

それがどんなに心で納得出来なかろうが、道徳や倫理感が無いと言われようが、コルトたちにはあの子達が村を作って自立するまで付き合っていられるほどの時間も余裕もない。


「はぁ……まさかの騒ぎでしたが、一先ず今日はこれで解散いたしましょう。明日からまた色々と船を出してもらう件について考えなければいけませんので」


船の件についてはルブラン達とも連携を取ったほうがいい。

それに3人も賛成すると、アンリは隣の部屋に移っていった。

唯一の女であるアンリは一応個別の部屋を取っているが、宿代節約のため男3人は同室だ。

ベッドは2つのため、1人はそれ意外で寝ることになる。

今、ここに熾烈な争奪戦が開催されようとしていた。






翌日、朝食を食べ終えた4人は再び男部屋に集まり、今日の予定について確認を行っていた。

するとドタドタという複数の足音が4人の耳に入ってくる。

まさかと一斉に顔を上げて見合わせると、嫌な予感というものは当たるもので、勢いよく扉が開かれると、昨晩の子供たちが連れてきた!と元気よく飛び込んできたのだった。


「ウソつけ、昨日の晩で今だぞ!?半日も経ってねぇじゃねぇか!」


すかさずルーカスが突っ込むと、ウソじゃない!と口を揃えた子供たちは廊下を示した。

すると、そこには壁にもたれるように座り込んで何かをブツブツ呟いている人物がいた。

確かに体の大きさはまごうこと無く大人だが、服は汚れところどころ破けており、髪は伸び放題で汚らしい、おまけにちょっと臭う。

どうみてもまともと言えるような風体ではなかった。

だが条件である口が硬くて秘密を守れるというのは別な意味で守れそうではある。

アンリは口が引きつっていた。


「おやおや、これは困りましたね」


さすがのハウリルもこれには困り顔だった。


「ガキども、こりゃねぇだろ。普通大人って言ったら真っ当に社会に属してるような奴の事を言うんだよ。大体どっから連れてきたんだよこんな薄着たねぇやつ」

「こらこらルーカス、仮にも本人の前でなんてことを言うんですか」

「いやだってよ、どうみたってヤベェやつだろ。下手すりゃこいつが原因であぶねぇ事態になるぞ」

「そう言われると反論が出来ないのは確かなんですが」


とはいえ、子供たちは約束を守っている。


「なにがわるいんだよ、ちゃんと連れてきただろー!」

「言いたくはないですが、先ず見た目が信用出来ないんですよ。どういう人物なんですか?この状況でも反応がないですし」

「こいつなー、気付いたらオレたちにまじってたんだよ。あいつらは気持ち悪がってたけど、こいつ今までオレたちになんかしたことないぞ」

「それは周りの目があるからじゃないでしょうか……」

「……うっ、その……ごめん。私が甘かった」


アンリが謝るが、さすがにこれは想定外である。


「ハウリルさん、どうしましょう。さすがにこれでウソでしたっていうのは……」

「そうですね。一応条件は満たしていますし…」


うーん、悩み始めるが妙案が思い浮かばない。

ここはもう一回ラグゼルに戻って泣きついたほうがいいのではないかと思い始めた時だった。


「ハウリルくん、ハウリルくんじゃないか!ヒャハァ、懐かしいなぁ、何年ぶりだろう。フラウネールくんは元気かい?」


突然興奮しだしたその薄汚い人物は、ハウリルの名前を呼びながらそれまでの印象とは打って変わって素早い動きでハウリルに接近した。

声からどうやら女性だろうか。


「あなた、まさかリキュリールさんですか?あっちょっ、あまり近づかないで下さい。正直ちょっと臭いです!」


乙女に臭いとは失礼なとの本人の弁に、臭い乙女とか勘弁しろよ…とルーカスが漏らしている。

とりあえず女性で確定のようだ。


「さっきから聞いていれば随分と失礼じゃないかハウリルくん!君の兄の親友だぞ!」

「考え直して欲しいですね」


ズケズケとしたハウリルの物言いからするとそこそこ親しい人物みたいだが、一体何者なのだろうか。

それについて問いかけると、そうですね、とハウリルが気を取り直した。


「彼女はリキュリール。兄の学友で数年前に教会から破門されて行方不明になっていました」


なんてコメントしていいか分からなかった。

一体なにをやらかして破門されたのだろうか、ハウリルの知り合いなので悪い人物ではないような気はしているが、正直ちょっとあまり近づきたくない、生理的な理由で。


「大声で言えませんがその」

「悪魔研究だよ!」


せっかくのハウリルの気遣いは本人により台無しになった、隣でハウリルが頭を抱えている。

視界の隅ではルーカスが子供たちに扉を閉めるようにひっそりと指図していた。


「知ってるかい!?この東大陸の最東端の地域に住む邪神を崇める者たちの事を!」


大げさな身振りで説明するが、知っているも何もコルトはそこから来た。

だが1人悦に入っているリキュリールはそんなコルトの反応など視界にも入っていないようで、独演を続けている。


「私は彼らについて研究をしていたのさ!悪魔については教会ではご法度なんだがね、でも人は隠されるほど知りたくなるものだろ?そして私は秀才だ!教会が隠しておきたい事実を見事に探り当てた!そして破門されて異端審問官も派遣されてしまったのだよ。ヒャハハハハハハ!!!」


その時自分を匿って外に逃がしてくれたのがハウリルの兄のフラウネールだったそうだ。

以前から2人は教会の隠しごとや壁の悪魔について探っており、その過程で出会い意気投合したのだという。

ハウリルも弟という事で親交があったようだ。

だがフラウネールのほうは枢機卿にならざるを得ない状況になってしまい、それっきりあまり会えなくなってしまっていた。


「君がここにいるということはフラウネールくんはまだ悪魔について調べているのかな?」

「ちょっと声が大きいです!お答え出来るわけ無いでしょ!」


いくらこの場では平気と言えど外には追われているとは教会の教義が染み付いた者しかいないし、ハウリルの立場的にそれに答えられるわけがないだろう。

答えられないと言っている時点で答えているようなものではないかとも思う、というのはグッと飲み込んだ。

リキュリールのほうもそれで満足したようだ。


「それでなぜあなたはこの子たちに連れられて来たんです」

「あぁそれね!村を作るからついてこいと言われてね、この子たちも連中から外されているから関わってこないだろうし丁度いいと思ったんだよ!それでハウリルくんに会えるんだからフラウネールくんの言う通り世界は捨てたものじゃないよ!」


ヒャハハハハハハと笑うリキュリールはいたく上機嫌だ。

申し訳ないが逆にこちらのテンションは下がってしまった。

子供達もリキュリールの変貌に驚いてルーカスの後ろに隠れて覗いているが、その目はどうみても好奇心に輝いている。


「それで、村はどこに作るんだい!?お勧めは壁付近だよ!!!」


グイグイと迫るリキュリールをルーカスがつまむように持ち上げて一度引き離す、そしてその指をズボンで拭いていた。

気持ちは分かるが、そういうのは本人の前でやるのはどうかと思う。

あとついでに指の筋力がおかしくないだろうか。


「おい、まだ俺たちは作るとは決めてねぇよ」

「大人が子供の約束を反故にするのかい?これは困った、どうやらタマが大分小さいらしい!」


言われてルーカスの目が死んだ。

もうここまで来ると諦めるほかないような気がしてきた。

アンリのほうを見ると両手を上げている、ついでハウリルも諦めたように手を上げた、ルーカスもそれを見て分かったよ!とベッドの上に倒れ込んだ。

歓声を上げたのは子供たちだ。

一斉のルーカスの上に飛び乗っている、カエルが潰れたような声が聞こえたがきっと気のせいだろう。


「きっとハウリルくんなら引き受けてくれると信じていたよ!ところで質問いいかな?」

「先に身奇麗にしてきていただけますか?そろそろ我慢の限界です」


そんなに臭うか?とリキュリールは自分の体をふんふんと嗅いでいるが、自分の臭いというのは気づかないものだ。

でも確かに前回の水浴びはまだ教会にいた頃だと納得すると、ちょっとその辺で体を流してくると出ていってしまった。


「はぁ……とても疲れました」

「私も」


どっと疲れてしまい、思わずその場に座り込んだ。

子供たちのほうはルーカスの上でどんな村にするか相談をしている。


「お前ら降りろ!アンリ!こいつらも洗ってやれ」

「えっ!?私が!?」

「お前しか水出せねぇだろ!」


げぇっと嫌そうな顔をするがこうなってしまった責任を感じているのか、渋々ながらも荷物をあさりタオルなどを用意している。

コルトはというと色々こもった空気を換気すべく窓を開ける。

入ってきた新鮮な空気に大きく深呼吸をすると陽を見上げた。

まだ昼には大分掛かりそうだ。

今日も大変な一日になりそうだなと思うと、コルトは子供たちの捕獲をするべく行動するのだった。


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