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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第48話

その日の夜は2部屋借りたうちの1部屋に集まって、その日の状況整理を行っていた。

主に情報収集をしていたのはルーカスだ。

ハウリルは教会の者に顔が割れているし、コルトはいつ暴走するか分からない。アンリではそれを止めきれない。

そして得た情報は、どうやら現在船は別の場所から出航しているらしい。

ついでにその場所も見つけてきた。


「まっ、俺にとっちゃこの程度は楽勝よ。ちょっと探知範囲を広げりゃぁ不自然な魔力の集合なんてすぐ見つけられる」


ルーカスは実に得意げだ。

魔族なら呼吸並みに誰でも出来るらしい事でそんなに得意げになられても反応に困ってしまう。


「船は今南のほうから出てる、船渡しだけじゃなく漁もしなきゃなんねぇから、奴らに取っちゃ船を出さねぇって選択肢はねぇ。だから輸送に多少の手間ぁ掛けてでも船は出す、毎日だ」

「なるほど。なんとか交渉出来れば向こうに渡れそうですね」


明日にでも行ってみましょうという流れになり、コルトの頭に過ぎったのは昼間の子供だ。

本当に何も出来ないのだろうか、せめて子供だけでも安全なところに……そう、ラグゼルなら!


「コルト。何考えてるのか大体分かるけど、私は無理だと思うぞ」


まさかのアンリからの否定だった。

何故と顔を上げると。


「ココがさ、私にも残って欲しいって言ったんだよ。そしたらあいつらがな、それを選択するなら私もココも殺さないといけないってさ。あいつら恨みもあるみたいだし、言いたいことは理解出来る。それに私らは所詮向こうじゃ余所者だし、生まれ住んだところがやっぱり良いんだよ。あんな何もない村だけどさ」


郷愁、まだ帰れるかもしれないと希望があるほど募るものだ。


「えぇっと、そのだから、あいつら多分連れてっても受け入れないと思う」


己の故郷の非情さに絶句する。

ならばアンリの村はどうだろうか、小さな村だったけどせめて子供数人だけはどうだろうか、とそんな希望を口にすると。

アンリは渋い顔をした。


「絶対無理だ、余所者は受け入れない。それに子供だったとしても村にそんな食料の余裕なんてないよ」

「随分と確信的ですね」


ハウリルの問いかけにさらに渋い顔をするアンリ。

しばらくしかめっ面を晒していたが、やがてため息を吐くと会話を続けた。


「母さんが余所から来た人だったんだ。西の大陸で討伐員をやってたけどなんかよく分かんないけどこっちに来て、村で討伐員やってた父さんと意気投合してそのまま居着いたんだよ」


両親が討伐員だった事はなんとなく聞いたような覚えがあるが、母親のほうが余所から来たというのは初耳だ。

アンリはさらに続ける母親について語る。

曰く、討伐員としてそれなりの腕を持って村に貢献はしていたけど、余所者である母親は村人達からはあまりよく思われていなかったらしい。

村人なら誰も出来る林業についてはさっぱりだし、畑仕事も全然出来ない。

出来るのは魔物を倒すことだけ。

それも北部にあるためあまり魔物がいるわけではないので、必然的にしばらく家を開けて泊まり込みで魔物狩りをすることになる。

つまり村人達の目から見て、アンリの母親は役に立っていなかったのだ。

同じ討伐員である父親のほうが俺よりも強くて優秀だ、と庇っていたのでギリギリ村には残れてが、アンリが生まれてからも状況は然程変わらなかった。

そのアンリのほうも半分は余所者の血が入っているという理由で最初はあまりよく思われていなかったらしい。

その最たる例が婚約者の存在だ。

村の男と強制的に結婚させる事で帰属させようと考えたようだ。


「でもアイツすっげぇ嫌なヤツでさ。一日中べったりで『母さんのせいでお前は嫌われているが、俺だけは分かってるからな』とか『俺だけが大事にしてやる』とかすっげぇ気持ち悪かったんだよ。砦のときも母さんが教会の人に良いように言われるのが気に食わなかったみたいで、弱いくせに無理やりついていったし」


死んだと聞いたときは両親の事で頭がいっぱいだった。

村人たちに無理やり色々聞かれて、残念だし可哀想という気持ちも無くもないが、それ以上にそんな奴と結婚せずに済んで良かったという気持ちのほうがかなり大きく曖昧な返事になってしまった。

我ながら性格が悪いなと思いつつ、己の不幸が1つ消えたことが何よりも嬉しかった。

そう語るアンリに男3人はなんて返せば良いのかさっぱり分からなかった。


「まぁなんだ……。今はそんなもん関係ねぇし、ガキが変な感傷に浸るにゃまだはえぇだろ」

「長く生きてるお前が大分気楽そうだしな。ココに聞いたぞ、実は200歳超えてるって」


200歳を超えているという発言に思わずルーカスの顔をマジマジと見てしまった。

どうみても共族の20代半ばくらいにしか見えない。

200年と言えば今の共族は誰も生まれていないどころか、曾祖母祖まで遡ってもまだ生まれてないだろう。

それだけの長い年月を生きている癖に、これか。


「……何年生きても心が若い方は共族にもいますし」

「うるせぇ!俺の事はどうでもいいだろ!つまりアンリが言いてぇのは、余所から来た知らねぇ奴は簡単には受け入れられねぇって話だ!それでいいな!?」


無理やりまとめたルーカスに同意するようにアンリとハウリルは頷いた。

コルトは未だに納得が出来なかったが、アンリの実経験から言われてしまうと反論がしづらい。

諦めたくはない。でもどうにも出来ない。

それから明日の確認をし、アンリが隣の部屋に戻るというところになってルーカスが待ったを掛けた。

まだ何かあるというのだろうか、正直さっさと寝たい、疲れてしまった。


「アンリが部屋に来た時点で防音の障壁を張ったから声が漏れてることはねぇが、それからしばらく後からずっと部屋の外で誰かが聞き耳たててやがるんだよ」

「なんでそれを先に言わないんですが!」

「どうせ聞こえねぇんだから、先にこっち片付けてからのほうが面倒がねぇだろ?」


効率を考えればそうかもしれないが、男3人に女1人が長時間同じ部屋に入って物音1つしないのは、その……なんというか、結構怪しんじゃないだろうか……。

思わずジト目で見てしまうし、ハウリルのほうは杖を手に取っている。

そしてさっさと扉を開けるようにルーカスの背中を杖でバシバシと叩き始めた。

ルーカスのほうは分かった分かったと言って扉に近づくと、何の警戒も躊躇なく開ける。

すると、わーー!という声と共に、何かがなだれ込んできた。

なんと複数の子供たちだ、そしてその中には昼間の魚を盗んだ子供もいる。


「いってーー!いきなりあけんじゃねーよ!」

「人の部屋に聞き耳立ててる躾のわりぃガキに言われたくねぇよ」

「へへーん!オレらはとーちゃんもかーちゃんもいねぇからそんなことしらねーもんなー!」


一番大きな男の子が腰に手を当ててドヤ顔をしているが、すかさずルーカスがその頭に俺が教えてやる、とチョップを落としてる。

そして何故か双方が痛がった。

子供がゴロンゴロンと頭を押さえて床を転がり、ルーカスがチョップした手をさすっている。

するとその間に昼間の子供が立ち上がってお礼を言ってきた。


「にいちゃんがくれた魚でぼくたちはじめてあったかいごはんが食えたんだ!」

「あげた覚えはねぇよ。俺はゴミをその場に置いてきただけだ」

「そういう言い方するなよ、ゴミはないだろ!」


相変わらず口が悪すぎる。

子供相手にすら容赦がない。


「まあまあコルトさん。確かにもっと他に言い方はあると思いますが、この場合は建前が必要ですので落ち着いて下さい」


そういってコルトを静止させるとハウリルは子供たちに向き直った。


「それで、あなたたちは一体どうしてここに?」

「えっとなー。村つくんだろー!俺たちも一緒にやるー!」

「言ってねぇよ!?」


すかさずルーカスが突っ込んだ。

確かに提案はしたが、コルト達が作るとは一言も言ってない。

だが子供には関係がないらしい。

なんで作らないんだ、作れ作れとルーカスの足にしがみつき始めた。


「なんでだよー!にいちゃん超つよいじゃんか!作れよー!」

「にいちゃん凄いんだぜ!俺たち今まであとつけてバレたことなのに、にいちゃんはあっという間にみうしなったんだぜ!」

「だからここに戻ってくるのまってたんだー!」


獲物に逃げられても拠点があるなら戻ってくるだろうと、子供ながらに頭を働かせて張り込みをしていたらしい。

追跡されたり部屋の外で聞かれているのは分かるくせに、どうして拠点に戻ってくる肝心なところでダメなのか。

ちょっと責めるような目でみると、見てみると反論された。


「あのなぁ、魔力感知なんて四六時中やってるわけねぇだろ。常に多数がちょろちょろしてる町中はうるせぇんだよ」


曰く、五感情報にプラスで強弱の選り分けが出来ない情報が流れてくるため、必要ないときは出来るだけやりたくないらしい。

しかも範囲もある程度の拡縮が効くとはいえ、どんなに範囲を絞っても最低の感知範囲が半径200メートル前後はあり、このような町中だと疲れるそうだ。

ならアンリたちの買い物ときはなんだったんだと聞くと、どうやら定期的にレーダーを開いていただけで常時監視はしていなかった。

呆れてしまった。


「まぁまぁ、こうなっては仕方がありません。責めるのは後にしましょう。あなたたちには申し訳ありませんが、わたしたちは海の向こうに渡りたいのでこちらでの村は先程の教会のものや討伐員のかたにお願いいただけませんか?」

「やだ!あいつらなんもしてくれねぇもん!」

「なんもはねぇだろ、一応お前ぇらもこっちに渡ってこれてんだからよ」


子供たちはそれに対してぶーぶー言い始めた。


「だって、くいもんくれねぇもん!」

「それは流石に無いでしょう。ロバスさんはその辺りはきちんと管理してくださるかたのはずですよ?」

「だって、飯くれても他の大人が奪ってくんだから、くれねぇのと一緒だろ!」


ハウリルは頭を抱えた。

どうやら子供から食べ物を奪う不届きな大人がいるらしい。

弱者同士集まって助け合うのかと思えば、その中でもさらに弱いものから奪っていくとは、なかなか世知辛いものである。

本来ならそれを率いるものが監視し咎めなければいけないのだろうが、大所帯に故に目が行き届かないのだろう。

なので、子供たちはさらに他の大人や子供から奪ったり、今日のように盗んだりして今まで食いつないできたらしい。

当然子供故に見つかることも多く、それまでの所業から庇ってくれるものがいないため集団の中でも爪弾きになっていたようだ。

ギリギリ集団から追い出されたり、殺されたりしなかっただけマシだろう。


「だからな、おれたちは村を作るんだ!誰にも奪われない自分たちの村だぞ!」

「意味分かんねぇし、俺らもその大人なんだが?」

「でもにいちゃんあの偉そうなやつやっつけたし、俺たちに魚くれたじゃん!」


どうやらあの一件もしっかりどこからか見ていたらしい。

どんな理由であろうが子供にとっては目の前で自分たちをいじめるやつを一瞬で倒した存在というのはヒーローなのだろう。


「なーなー、一緒に村つくってくれよー!」


変わらずルーカスにまとわりつく子供たち。

引き剥がそうとしているが、加減を知らない複数の子供相手に苦労をしている。

コルトはどうしようとハウリルを見ると、そのハウリルも額に手を当てて悩んでいた。


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