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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第46話

道中はのんびりと進んでいた。

街道とは言え平らな道ではないため、商品の事を考えると早くは走れないだろう。

しかも4台も連なっている。

ハウリルは御者台で行商人ルブランの隣に座り、その後ろでコルトとアンリは揺られていた。


「ならわたしたちをただで乗せる理由が見当たりませんが」

「お前さんらが昨日換金してた魔物の素材が傷も少なくて良質だった、腕がいい証拠だ」

「これは買い叩かれましたね」

「かっかっか!もう乗ってるから契約は成立してるぞ」


腕が良い討伐員をほとんどただ同然で雇えたという事でルブランは上機嫌なようだ。

コルトたちのほうは損は無いとは言えちょっぴりムッとする。


「では代わりに答えてほしいのですが、あなたたちアーク商会が東大陸にいる理由と商品が売れてない理由を教えていただけますか?」

「お前さん嫌なこと聞くね」

「西に戻るのは久しぶりになのです、なので最近の情勢について知りたいのですよ」


さらに追撃でルンデンダックまでついてくるなら知り合いの枢機卿に話を通しても良いなんて言い出している。

それを聞いたルブランがギョッとしている。

さらにハウリルがコソコソと行商人に何かを語りかけると、ルブランは納得したようだ。


「かっかっか!これは大当たりを引いた!」

「では教えていただけますね?」

「おぉよ。わしらは教会から魔物の素材を買い取って各地で売る商売してるんだがな、最近西の魔物が急激に増えてて飽和状態でな、てならこっちで売ろうって思ったのよ」


しかし完全に当てが外れてしまったらしい。


「まさか1ヶ月前くらいに南で大規模なオーガの討伐があるとは思わねぇよ。そのせいで素材は十分とかでどこいっても売れやしねぇ」


思わずコルトとアンリは顔を見合わせてしまった。

思い当たる節しかない。

ルブランは商売は失敗。赤字も赤字、大赤字で間違いなく帰ったらどやされるとぼやいた。


「災難でしたね、その話はわたしも聞きました、大変な戦いだったとか」

「そうだろうな、なんせ東を全部まかなえるくらいだ。だがそれよりやばい話がある」

「なんです?」

「噂では王が出たらしい」

「まさか!王が出ればこんなところでのんびりなんて出来ませんよ」

「死体が街の入口に放置されてたらしい。だが誰がやったのか誰も名乗らねえし、それもすぐに教会が回収したらしくてな、南じゃその話でもちきりだ」

「興味深いですね」


白々しく会話を続けるハウリルに気づかないルブランは、さらに話を続ける。


「その少し前からここらじゃ見ない討伐員がいたらしいんだがな、直前に消えちまったらしい。だからそいつが殺したんじゃないかって話がある」


なんと正解である。

今思い出してもあの胎児の状態の魔物は生理的嫌悪が湧き上がる気持ち悪い見た目をしていた。

あんな気持ち悪い生物がこの地で生まれたというだけで身の毛がよだつほどだ。


「なるほどあなたたちについては納得出来ました。ですが、わたしは出来れば西の情勢について知りたいのです」


するとルブランが唸りだした。

ハウリルが教会に何かあったのか、言いづらいのかと聞くと、肯定が返ってくる。


「ご安心を。たしかにわたしたちは教会側の人間ですが、弱小派閥に所属しているので話なんて聞いてもらえませんよ」


それを聞いて何かを察したようだ。


「もしや商会してくれる枢機卿っていうのはフラウネール枢機卿か?」

「何か問題が?」

「問題……問題はねぇ。だが確かにそれなら大丈夫か」


ルブランは1人で納得したようだ。


「最近良くない噂ばっかりだ。教会の備蓄が無くなっただの、人を集めて何やら強制労働してるだのな。異端審問官が各地で目撃された話もある」


どうにもきな臭い話が多いので警戒して一応こちらにも販路を広げたいというのもあったようだ。


「その噂に信憑性はあるのですか?」

「噂はあくまで噂よ。でもな、各地で人が消えてるのは事実なのよ。なんせ客が実際に消えてんだからな」


噂を信じる要因は一応存在しているようだ。

顧客が消えたとなれば荒唐無稽から話は変わってくる。


「お前さん何か知らないか?枢機卿に近い人間なら何かしら情報入ってくるだろ?」

「申し訳ありませんがわたしもしばらく中央を離れておりましたので、最近のことは……」

「すまねぇ、そうだよな。だからわしに情勢聞いたんだもんな」


ルブランは少し残念そうだった。






その日の夜、野営陣ではアンリとルーカスがどこかで狩ってきた魔物をみんなで囲んで食べ終わると、4人はルブラン達から少し離れた場所で円陣を組んでいた。


「というのがルブランさんから聞いた西の情勢ですね」

「ふぅん、お前はどう思うんだ?」

「なんとも言えません。どうやらわたしが西を離れてから起きたことのようなので」

「魔物がこっそり攫って食べたとかはないのか?」

「それはねぇだろ、食った痕跡が絶対残るからバレねぇわけがねぇ。丸呑みできるような大型の魔物も目撃情報が全くねぇのは違和感あるしな」


それもそうかとアンリは納得したようだ。

犯人が魔物であればどんなに良かったか。

実害が出ている事を良かったと思うのもあれだが、魔物であれば原因の魔物を殺せば済む話だ。

だがそうでないのであれば人間の犯行という話になる。


「今考えてもしょうがねぇな。先ずは向こうに渡らなきゃなんにもなんねぇ」

「そうですね。証拠も無いのに色々推論しても思い込みを生むだけです」


それからルブランのアーク商会の話になったが、ルーカス曰く魔物の素材という話にウソはないようだ。

特殊な魔物や希少な魔物の素材はないが、魔物を引き寄せるようなヤバいものの取り扱いもないらしい。

いつの間に全ての荷馬車の中身を調べたのだろうか、簡単に見せてくれるとは思えないし謎である。

だが真っ当な商人であるというであれば、買い叩かれたことは置いといてこのまま同行しても問題ないだろう。

ではこれで解散という事になり、ハウリルは引き続き同行することをルブランに伝えにいった。


「コルト、先に言っておくがな。向こうについて何かあっても助けるとか余計なこと考えんなよ」

「何でだよ」

「お前がいちいち問題に首突っ込むと進むもんも進まねぇんだよ。お前1人で仕事すんなら勝手にすればいいけどよ、俺らも共同で仕事してんだ。お前一人の勝手な行動で振り回されるこっちの身にもなれよ」


優先順位を考えろ、と言うだけいうと用は済んだと言わんばかりにさっさとルーカスはどこかに言ってしまった。

──なんなんだよ、いきなり


「コルト。あのさ、お前なんであいつの事そんなに嫌ってんだ?そりゃあ種族が違うし口とか態度がデカくてムカつくのは分かるけどさ、でもあいつのほうから嫌がらせしてきたことはないじゃん?それにイリーゼ様にも怒られただろ?」

「………そもそも僕たち共族がこんな事になってるのは元々あいつらが攻めてきたのが始まりじゃないか。それなのに素知らぬ顔しててさ」

「そりゃあいつ自身は当事者じゃないからだろ。コルトは教会のせいで壁の向こうに住まなくちゃいけなくなったってハウリルや私を攻めないじゃないか。なにが違うんだ?」

「……それは………」


そうだ。

アンリが言っていることは多分正しい。

ここまで来ると最早意味のない意地の領域だ。


「でも魔族は今も攻めてきてるじゃないか」

「私らだって2年前そっちに攻めたじゃないか」

「!!」


それを聞いてコルトはどうしたらいいか分からなくなった。

アンリが言いたいことは分かる。

──でも違う、違うんだ。

表面だけを考えればアンリの指摘通り、どちらも同じだ。

だが根本的な部分で決定的に違うことは感覚的に分かる。

でもそれを言語化出来ない。

──違う、同じじゃない。僕は間違ってない。でも説明したらいいんだ。

頭を抱えてブツブツ言い始めたコルトに、アンリは心配になって肩に手を置き大丈夫か?と声を掛ける。

それにはっとなって顔を上げると。


「とにかくさ、コルトはもうちょっとルーカスに優しくしてやりなよ。傍から見てて不安になるんだよ」


普通ならとっくに怒ってると思うぞ、とアンリはルーカスのほうに顔を向けた。

つられてコルトもそちらに顔を向けると、商人が手にした魔物の素材を指差して何かを喋っている。

商人のほうもそれを聞いて納得顔で頷いていた。

その姿は共族と何も変わらない。

当たり前のように馴染んでいる。


「……ごめん………」

「私に謝られてもな。だからってあいつに謝っても余計な事言いそうなんだし」


それでまた怒りたくなるだろう?とアンリはやれやれ顔だ。


「私らこれから多分長く一緒にいるじゃん?だからさ、あんまりギスギスしてるのちょっと嫌なんだよ。すぐに何とかしろとは言わないけどさ、即反論する前にちょっと一呼吸置こうぜ」

「うん…分かった」


アンリに冷静に問いかけられて少し頭の整理がついた。

冷静に要素だけ取り出してみれば、確かにコルトの反応は少し過剰だ。

感情だけが先走って理由が無いのだ。

──僕は、ちゃんと考えなきゃ。

この感情について気にしたことが無かった。

ただそれが正しいものとしてそのまま出していただけだ。

でもそれじゃダメだ。

ただの子供の癇癪になってしまう。

『目的を共にするのであれば自己の感情はある程度抑えて下さいませ』

──そうだ、ちゃんと言われたじゃないか。

アンリの言う通り、これから長く寝食を共にするのは明白だ。

それをコルトの癇癪で軋轢を生むわけにはいかない。

コルトはやっと自分の問題として受け止めた。

とはいえ、昨日の今日で改めるなんてことは到底無理なわけで、挙動不審を晒していたのだが、ルーカスのほうは変わらず殿の馬車に乗っており、食事以外では合わないため怪しまれることは無かった。

そんな感じで十数日、明日にはエータスにはつくだろうという夜。

ちょっと見回りといって出ていったルーカスが、微妙な顔をしながら戻ってきた。

どうしたのかと聞くとエータスの規模をハウリルに聞いている。


「その倍以上いるぞ」

「……どういう事でしょう」

「俺が知るか。一応どいつもこっちの奴らよりは魔力が多い」

「つまり西から渡ってきた方たちだと?」


西がきな臭いことについてはルブランから先日聞いている。

人が消える事に恐怖してこちらに渡ってきたのだろうか。


「暗ぇし視認出来るところまでは近づいてねぇけど、短期間で人数が倍になるとか碌な事が起きねぇよ」

「どうする?ルブランに言っておく?」

「いえっ、やめましょう。どうやって知ったのかについて説明出来ません」


とにかくエータスで何かが起きているらしいことは分かったので、町に入るときに注意しておくことを決めるとその日を終わらせた。


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