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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第2章
43/273

第43話

翌日昼頃、コルトたちは再び王宮に戻ってきた。

だが戻ってすぐにコルト、アンリ、ルーカスの3人は会議に出てほしいと言われ、笑顔で手を振るココに見送られ王宮の政務エリアに連れてこられていた。

文官に案内された部屋に入ると、今まで入った中で一番広い部屋だった。

とても大きな円卓が部屋の中央に置いてあり、扉から一番の奥の位置にジルベール、次いでその両側をリンデルトとイリーゼが固め、さらにそこから見知らぬ髭の男とアシュバートなどが並び、扉の近いところの席にはなんとハウリルが座っている。

その隣には丁度3人分の席が空いていた。

部屋の壁際には近衛騎士が物々しい雰囲気で立ち並んでいる。


「おいおい、すでに全員揃い踏みかよ」

「年上の大事な客人を待たせては悪かろうという余の気遣いよ」

「おいおい、俺はまだ俺たち基準じゃ若輩もいいとこだぜ?だが、気遣い、には感謝するよ」


それを聞いたジルベールは満足そうに頷くと、コルト達に着席を促した。

ルーカスがいつも通りの足取りでハウリルから離れた席に座り、そしてお前らもさっさと座れと言わんばかりに手招きをしている。

その行動に納得がいかないがこの雰囲気では何も言い出せず、コルトとアンリも倣って大人しく席についた。

それを確認したジルベールが早速を口を開いた。


「そこの4人の装備の目処が立ったそうでな。最終確認をするために急遽集まってもらった」


そこでジルベールが目配せをすると、文官が書類を手に立ち上がった。


「現在コルト、ルイ、ハウリル、アンネリッタのそれぞれの武器と防具の最終調整に入っておりますが、ここからは西方大陸北方部への侵入方法によって細部の調整方法が変わるとのことです」


西の大陸の北側は、コルトたちの先祖が逃亡する前に済んでいた土地だ。

北と南の間にはこのラグゼルを取り囲む山脈よりも高い山々が連なっており、当時のコルトたちの先祖は北からの海流に流される形でこの東大陸に渡ってきたと聞いている。

もしかして、その山を登るのだろうか…。勘弁してほしい。


「ですが、この侵入方法にいくつか問題がありまして……」


文官がチラッとハウリルを見た、そして見られたハウリルは立ち上がると。


「その説明はわたしから。現在その北方山脈の麓はそのほとんどを教会が管理しており、また山そのものを禁足地として立ち入りを禁止しております。そして見張りの代わりに若手の修行場を設けることで実質的な24時間の管理を行っているのです。山登り以前に見つからずに侵入することは出来なくはないですがかなり難しいと思います。また海上経路ですが、残念ながら海流に逆らって北上できるような大型の船を用意出来ません。西と東を行き来する船も、北上する経路も教会が掌握しております」


つまり、地上ルートも海上ルートもどちらもダメという話だ。

どうしろというのだ。


「と、普通は打つ手なしなんだけれども、こちらには向こうが想定してない存在がいる。魔人のルイだ」


リンデルトの言葉にその場の視線がルーカスに集まった。

そういえば空を飛べた、つまりルーカスに運んでもらおうって話だろう。

本人もそうなるよなぁという顔だ、だが。


「わりぃが無理だ。山越えできる高さを飛べねぇわけじゃねぇんだが、問題は一度に運べる人数だ。いいか、高度が上がるほど人体にかかる負担も当然上がる。それを俺は魔法で緩和してるんだが、問題は自分の倍の大きさにそれを広げんのが出来ねぇ。だから一度に運べるのは1人だ」


それの何が問題なのだろうか。1人づつでも運べるなら問題ないように思える。


「回数かければバレやすくなるし、そもそも最初は必ず未開の地で1人になる。それにどういう順番にするにしたって、必ずどっちかはガキだけが残る。なるべく短時間で済ませるなら往復地点は短い距離のほうがいいし、そうすると教会に敷地にも近くなる。あぶねぇだろ」


悔しいが割と真っ当な意見のように聞こえた。

だが空もダメとなるといよいよ全く打つ手がない。


「ふぅむ、ならば貴公の魔力を動力に国の北の海岸から船で移動するのはダメか?東大陸の北部は山脈が連なっている。それが壁になって教会にバレる事もあるまい」

「陛下、それについては恐れながら海流が全く分からないため、航海士をつけたとしても成功率はかなり低いかと……。北からの海流がその山脈にぶつかって渦を巻いているのではなどの予測もあるのです」

「むぅ…。ダメか」


尽く案が潰されて議場には重い空気が立ち込み始めたのだが、空を否定した人物の明るい声が響いた。


「まぁそう重くなるな、空についてだが俺がダメってだけで策がねぇわけじゃねぇ」


再びルーカスに注目が集まった。


「こっちに魔物を輸送してる奴らがいるだろ?」

「大型の鳥とか空飛ぶトカゲってやつか!」

「トカゲじゃねぇ、竜またはドラゴンだ!次間違えたら殴るぞ」


突然の暴力宣言にアシュバートの隣に座る髭の男が、口に笑みを浮かべながらも腰の剣の鯉口をわずかに切った。

それに咳払いで返すルーカス。


「竜なら4人くらいどうってことなく運べる。高度も問題ねぇ」

「ですが、教会でも鳥のほうはともかく、竜のほうはめったに報告がありません。前回の目撃事例も20年も前のはずです。どうやって捕まえるのですか?」

「最悪俺が一度向こうに戻って捕まえてくる」

「ルーカスが戻ってくる保証がどこにあるんだよ」


今度はイリーゼが指で机を叩き始めた。

明らかにコルトの今の発言への警告だ。

コルトは小さくなって素直に謝った。


「その竜というのはこちらでいう犬のように、共族を背中に乗せて運んでくれるような存在なのかい?結構犬によっては嫌がるのもいるんだよね」

「いやっ、魔物の中でも最上位の存在だから普通は魔人ですら無理なんだが、そこは大丈夫だ。俺は向こうじゃ竜人って言われる人種でな、竜とは意思疎通が取れる。あとは主従関係を結べば命令でお前らも乗せられるようになる」


魔人は様々な生物の特徴がその身に現れ、かつその特徴と同じ生物との会話が可能である。

さらに竜人はその数が少なく、大体片方が別の人種という場合が多いのだが、ルーカスは珍しく両親共に竜人という純血種と言われる存在だ。

竜とのコミュニケーションだけは唯一両親よりも優れている自信があった。

元に向こうでは友人のような存在の竜がいたのだ。

こちらに渡る際に連れていけないので置いてきてしまったが、今どうしているだろうか…。

いつまでも東にいないで自分の住処に戻っただろうか。


「竜を使えば一回で済むどころかある程度の物資も一緒に運べる」

「試す価値はありそうですね」

「ただその竜の生息地が西のほうでな、こっちの南側にはほとんどいねぇ。だから捕まえるために一度かなり西までいく必要がある。今はあんまり向こうに長く居たくねぇしな」


だが打つ手なしと思われた当初よりはかなり現実的な話だ、というよりそれしかない。


「ふむ、では竜の捕獲及びそれによる空からの侵入という事で良いかな?」


異論ありません、とその場のラグゼル関係者が同意した。

コルトたち4人も特に何もない。


「では対空用の調整という事で話を進めさせていただきます。ルイ殿、参考に高高度でのお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「おうっ、いいぜ」


それを合図にジルベールが解散を促し退室すると、その他の者もバラバラと退室していった。

ルーカスも文官に続いて出ていくのを見送ると、イリーゼが近寄ってくる。


「コルト、わたくしは言いましたわよね?」


先程の事だろう。


「すいません」

「気を付けてくださいまし!」


もっと厳しく糾弾されるかと身構えたが、それ以上は何も無かった。

それよりもイリーゼはハウリルのほうに視線を寄越した。


「これはイリーゼさま、わたくしは教会にて司教の位をいただいております、ハウリルと申します。敵であるはずのわたくしめにも寛大なご対応をいただき誠に感謝を申し上げます」


胸に手を当てて深く腰を折るハウリルに対して、イリーゼは高圧的な姿勢は崩さないが手を差し出し握手を求めた。

それに対してハウリルはよく見ていないと分からない程度に少し目が大きくなったが、淀みない動作でその手を握った。

だが握ったのはほんの一瞬で、それもしっかり握るというより包むと言ったほうが正しいような感じだった。

教会には握手というのは無いのだろうか。


「殊勝な態度はよろしいですが、感謝する相手が違いましてよ。貴方はわたくしの管轄外ですわ、ダーティンに頭を下げなさい」

「おっとこれは失礼を。不肖こちらについては未だあまり多くを把握していないもので」

「教える気もありませんのでよくてよ。それより、出立の日がほぼほぼ決まりますので、貴方達が王宮に足を踏み入れられるのも恐らく今回が最後ですわ。先程は急な呼びたてをしてしまい、ココとの別れが満足に出来なかったのではなくて?これから2人を連れて挨拶に行こうかと思っているのですが、貴方もご一緒にいかがかしら?」


コルトとアンリは同時にえっ!?という顔をしてイリーゼを見た。

まさか急にこれで最後と言われとは思わなかった、全く覚悟も何も出来ていない。

せっかく再会出来たのになんでまた引き離すのか。

そもそもアンリもこちらに残ればいいではないか、巻き込まれただけなのだ。

だがそれについてはアンリから直々に否定されてしまった。


「コルト、悪いんだけど私はルーカスとハウリルについていくって決めたんだ。私達はこっちじゃ余所者だからさ、戦って自分たちの居場所は自分たちで勝ち取らなきゃいけないんだ」

「でも外は危ないんだよ!」

「そんなのは分かってる!でもここで戦わなくちゃ私もココも一生村に帰れないんだよ!」


それ以上言葉を続けようにも、アンリの目は決意の炎に満ちていて、コルトはそれに気圧された。

──ダメだ、これは僕じゃ止められない。

ハウリルなら、アンリに負い目があるハウリルなら止めてくれるんじゃと振り向くが、穏やかな笑みが視界に入って絶望した。

なんでみんなそんな当たり前に戦う事を選ぶんだ。

危ないのに、危ないのに!死んだらそれまでなのに!


「話が逸れましたわね、それで貴方はどうしますの?」

「お気遣いはとても嬉しいのですが、わたしは遠慮して起きましょう。そもそもわたし自身は大してココさんとは交流がないのです。砦の死者の弔いなどの名目で村を離れていることが多かったので」

「あらそうですの、分かりましたわ」


よく知らない人間に来られても困りますものね、と何やらイリーゼは1人納得顔だ。

そしてコルトとアンリの2人に早速ココに挨拶に行くように促してきた。

歩きながら少し振り返ってハウリルをみると、様子を伺っていた近衛騎士が近づいてきて出口まで案内すると前後を固めている。

コルトはため息をつくと前を歩くアンリの後ろ姿を追いかけた。


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