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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第2章
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第41話

むかしむかし、あるところに人形師の男がいました。

街でも腕利きのその男は街中のあらゆる人形をつくり直していました。

男は作りたがりませんでしたが、人間を精巧に模した人形は特に素晴らしい出来でした。


あるとき、それを聞きつけたある国の王様から死んだ自分の娘にそっくりな人形を作って欲しいと依頼がきました。


男は問いました。


──作った人形をどうするのですか?


王様はそれには答えませんでした。

黙って作れというのです。


男は断りました。


しかし王様は男を捕らえ城の地下に閉じ込めると、無理やり人形を作らせました。

家族の元に戻りたい男は仕方なく一生懸命に作り上げました。

おかげで人形は生前の美しかった娘と同様に、それはそれは美しかったそうです。

男はこれで帰れると思いました。


しかし王様は男をそのまま地下から出すことはありませんでした。

男は何度も何度も嘆願しました。

自分を家族の元に返してくれ、妻と子どもたちに会いたい。

しかしその願いが聞き入れられることはなく、年月だけが過ぎていきました。


男がすっかり地下での生活に慣れきってしまった頃、王様が傍らに美しい娘を伴って男の元にやってきました。


──壊れた、直せ。


王様はそれだけ言うと娘を置いて出ていきました。

男はわけが分かりません。

すると近づいてきた娘が人形の腕と肩から先が無い自分の体を差し出してきました。

娘は男が作った人形だったのです。


──馬鹿な。人形が動くはずがない!


すると、人形の娘は悲しい顔をしました。

それを見た男は黙って腕を受け取ると、娘に座るように言いました。

男は念の為、娘の他の部位も確認するとあちこちに硬いものが当たったような痕が見つかります。

娘は人形です。

男が直すまで治ることはありません。


──お父様は私に”カティラはそんな事をしない”と怒るのです。


娘がポツリポツリと零しました。


──私が出来損ないだからお父様を悲しませてしまう。


それを聞いた男は怒りました。


──君は出来損ないではない。私が作った君が出来損ないの訳がない!


それから娘はどこか壊れる度に男を訪ねました。

男のほうもずっと1人で地下にいたため、人形とはいえ話し相手が出来た事に悪い気はしませんでした。

男は色々な事を娘に話しました。


──いつか家族の元に帰りたいんだ。


男はあるときそう呟きました。

娘はそれを黙って聞いていました。


終わりは唐突にやってきました。

慌てた様子の娘がやってきて男を地下から出しました。


──逃げて下さい!


男はやっと外に出られる事に喜びましたが、それも束の間でした。

城が襲われていたのです。

男は恐怖に震えます。

そんな男の手を娘は掴むと走り出しました。

そして城から脱出すると娘は言いました。


──家族の元に帰りましょう。


男は頷きました。

それから懸命に2人は歩き続けました。

雨の中、風の中。

2人は休むこと無く歩き続けました。

ですが次第に男は弱っていきます。

そしてついに、男の住んでいた街までもう少しというところで男は死んでしまいました。


娘は男を背負うと1人で歩き続けます。

もう手も足もボロボロです。

かつての美しさは見る影もありません。


そうやって娘は街に辿り着きました。

街の人達は死体を背負った怪しい人影に最初は大騒ぎをしました。

しかし背負われたその死体が人形師であることに気がつくと、みんな大慌てで人形師の家族を呼びに行きました。


人形師の家族は泣きながら死を悲しみました。

娘はそれを黙ってみています。


ふと男の妻が娘を見ました。

妻はひと目でそれが自分の夫が作った人形であることに気が付きます。


──おかえりなさい……。






劇を見終わった6人はそのまま少し歩いたところにあるカフェのテラス席にいた。

元々予約してあった場所で5階から娯楽地区を眺めながら、先程見た劇の感想を言い合っているのだが。


「よく分からなかった」

「人形が勝手に動くのはちょっと気持ち悪いよね?」


アンリとココの感想はそれだった。

なんか確かに演じてる人はすごく綺麗だったし、舞台上も色々とキラキラしていたのは面白かったが、話の内容が意味分からなかった。

また観たいかと言われたら、正直今は微妙だ。


「人形って要するに道具だろ?なんでそれが勝手に動くんだよ」

「その理由とか話の細かいところは劇の時間の都合上、省かれちゃってるからねー。元々原作の小説があるの」

「初見にはちょっと厳しかったかもしれないですね、音楽鑑賞のほうが良かったかもしれません」

「……いや、そうじゃなくて、どうやったって道具は自分で動かないだろ?」


上手く伝わらない事にモヤモヤとしていると、ルーカスが口を挟んだ。


「要するにお前らは現実と虚構の区別が曖昧なんだな。作り話を読むのに慣れてねぇ」

「それは暴論だし、話が飛躍してると思うけど」


コルト的にはココの言いたい事が分からないでもない。

”そういうふう”に作っていないものが”そういう”動きをしたら、作った側としてはちょっと気持ち悪いなと思う。


「そうかぁ?だってあの話の世界は人形が動いても不思議じゃない世界なんだろ?」

「じゃあルーカスはどう思ったのさ」

「俺か?やり遂げたあの人形は偉いと思うぜ。それにおかえりって言われた瞬間に、あの人形は本当の親を得たんだ」

「意味分かんないし、人形に親とかないだろ」


アンリが即座にツッコミを入れた。


「でも自分の作ったものを本当の子供のように可愛がる人達って実際にいるんだよねー」

「実際の人間の子供だって”生む”という事だけを見れば同じとも言えますしね」


そうか?とアンリとココは首を捻った。

特にココは実際に子供がいるせいか、余計に人形と自分の子供が同じという風には考えられないようだ。

だがコルトはそっちのほうはなんとなく分かった。

自分の作ったものは等しくみんな自分の子供だ、出来れば大切に守っていきたい。


「まぁ難しい話はやめて飯でも食おうぜ」


そう言ってルーカスはメニューを開き、俺はこれと1番大きなパフェを指差した。

遠慮を知ってほしい。

アンリとココは覚えたての数字を頑張って見ながらメニューを睨んでいる。

するとローリーがイリーゼからたくさん予算をもらったので遠慮しないで欲しいというと、2人は目を輝かせてメニューを見始めた。

カフェを出てからは女性陣4人のウィンドウショッピングの始まりだった。

劇場区から離れたショッピング街には多種多少な店が並んでいる。

その全てが見たことがないもので溢れ物珍しいさに目を丸くするアンリとココに付き合って、気になった店には片っ端から入っていく。

最初のうちはコルトもルーカスも店の中に入ってそれに付き合っていたのだが、夕方ごろになるとさすがに疲れたり飽きたりしたので、不本意ながら現在は2人並んで少し離れたベンチで荷物番兼で座って待っているところである。


「なんであいつらあんなに元気なんだ……」

「……前に女性の買い物は長いって友達が言ってた」

「…そうかよ……まぁまた外出たらこんな事出来ねぇからいいけどよ………」


いつになくぐったりしているルーカス、完全に背もたれに体を預けている。


「……向こうでもこんなところがあったら賑わうんかなぁ」


喧騒の中のボソッとした呟きだったが、コルトの耳にはしっかり届いていた。


「そりゃ同じ共族なんだからそうなんじゃない」

「そっちじゃねぇよ、南の話だ。あの2人が喜んでんだから、共族が喜ぶのは分かんだろ」


魔族の事だったようだ、そんなものは知らないし興味が無い。


「……時々思うんだよ。もしこっちと向こうの行き来が楽になって平和的に交流が出来るようになったら、向こうでもこういう街が出来たらいいよなってさ」


何を言ってるんだ、侵略者の分際でおこがましい。

平和的交流なんて無理に決まっている。

魔族に何をされ、一体どのくらいの期間苦しんでると思ってるんだ。


「…害のねぇ夢くらい語ったっていいだろ」


コルトの剣呑な気配を察したのか、ルーカスは体を起こすと手をひらひらとさせた。


「………あぁでもやっぱいいよなぁここの奴らは、楽しそうだ。……いいよなぁ」


嫉妬ではなく羨望の眼差しで行き交う人々を眺めるルーカス。

なんとなく意外な一面をみたような気がした。

それっきり黙ってしまったので、コルトも同じように周りの人を眺める。

3年前のあの時を考えると、またみんな笑顔で歩いていることにとても安心する。

あの時は本当にどうしようかと思っていた。

でもたったの3年でまたみんなここまで立ち上がれたのだ。

魔族の問題を解決出来れば、壁の外、教会側の人たちともきっとまた前みたいにみんなで仲良く暮らしてもらえる。

──頑張らなくちゃ、絶対に任務を成功させなきゃ!

1人で静かに決意を新たにしていると、店から手を振りながら出てくるアンリ達の姿が目に入った。

4人の手にはたくさんの買い物袋が下がっている。

隣でルーカスがあってもいいが長時間付き合わされんのは勘弁だな、とげっそりとしたため息を吐いたのが耳に入ってきた。


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