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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第2章
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第37話

火炎旋風によりセルフでルーカスとハウリルが閉じ込められた頃、アンリはシュリアの力任せな連続攻撃を避け続けていた。

最初に受けた振り下ろし攻撃は鎧と剣の重さを利用したとんでもない衝撃だった。

肉体を強化していなければ一撃でやられていた。

──何が技術がないだ、クソッタレ!大振りで避けるのには苦労しないけど、獲物に体重を乗せるのには慣れてやがる。

ラディーを中心とした4番隊の面々に毎日いいように投げ飛ばされていなければとっくに戦闘不能になっていた。

さらに斧と受け流すように何度か打ち合っていたが、そう何度も付き合っていられるものではない。

ルーカスは技術ならアンリのほうがマシだと言った、だからなるべく抑えろと言われた時に、あわよくば倒してやろうと思ったのだが。

──クソッ!舐めてた。私のほうがマシ!?そりゃただ単純に振り回してるやつよりはマシだろうけどさ!

なかなかすきが出来ない。先程の木々をなぎ倒す音が響いても注意が逸れたのは一瞬で、アンリが攻撃を入れるにはあまりにも短すぎる間だった。

寧ろアンリのほうがすきを晒したくらいだ。


「おらっ、どうした!避けるばっかじゃ続かねぇぞ!」

「うるさい!」


言われなくても分かってる。

でも反撃のすきが無い。

自分がシュリアを止められなければ負けてしまう。

それに……。

──こいつに勝たなきゃココに会えない!

4番隊の面々はココは王宮にいて、この女とコウタイシヒとかいう女の下にいるらしい。

コウタイシヒが軍の基地に来ることはないので、会いたければ先ずはこの女に認められろと言っていた。

そしててっとり早いのは力を示すこと。だがシュリアも軍以外の仕事があるため、あまり基地にはいない。

せっかく巡ってきたチャンスだ、これを逃すわけにはいかない。

アンリは手元で水球を作ると少量ずつ勢いよくとばし、側の木を切り倒した。

以前ハウリルが水属性の戦い方の1つとして水圧で敵を斬り飛ばす方法があると言っていた。教えてもらった時はもっと早く知っていれば、村での仕事が楽になってたんじゃないかと思ったが、今となってはしょうがない。

そして倒れた木をシュリアが回避したのを見ると、アンリはさらに木を適当に切断していく。

それを何本も繰り返した。

魔法が効かないのは本体だけだ、生えている木には関係ない。

シュリアは次々に倒れてくる木に後退していく。


「どうだ!これでまともに剣なんか振れねぇだろ!」


倒木の上に立ちアンリはシュリアに向かって大声で言い放った。

倒木だらけでは重い鎧を着ているシュリアより身軽なアンリのほうが有利だ。


「これでも喰らいやがれ!」


適当な丸太を手頃なサイズに切り、放り投げると斧頭でそれを打ち込んだ。

こんなので倒せるとは微塵も思っていない、鬱陶しいと思わせるのが目的だ。

それで対処するために乗り込んでくればいい。

アンリは口角をあげ次々に打ち込んでいく。


「クソガキが!舐めんな!!」


だがシュリアは怒号をあげると、手元の倒木を両手で持ち上げた。

そしてそれを振り回しアンリに向かって投げる。


「ウソだろ!?」


横向きにアンリに向かって真っ直ぐ飛んできた倒木をしゃがんで避ける。

次の行動に移るために顔を上げると、シュリアが次の倒木を投げるところだった。

まさかの方法で逆に上手いこと利用されてしまい腹が立つ。

アンリはめちゃくちゃに叫びだしたくなった。






「これは酷い」


そのつぶやきは誰のものなのか。

演習場のモニタールームでは第1部隊と第4部隊の面々が頭を抱えながら、試合を監視していた。

容赦なく伐採され、燃やされ、投げられる木々を見ながら、みな先日の第3演習場の事を思い出す。

あの時は大量の氷を砕くのに第3部隊が総出だったそうだが、今回は大量の木を運んだり掘り起こしたりとこちらはこちらで大変そうである。

唯一の救いは2部隊合同な事だろうか。


「外の人は容赦がないですねー。まさかアンちゃんもこんな事するとはー」

「場内の惨状は諦めるとして、これはどちらが勝つか分からないですね」

「炎の竜巻がルイ側に不利に働いているからね。今はまだなんとかなってるが、そろそろ出ないと司教がマズい。普通の人間にはあの中で耐久するのは無理だろう。対してこっちは鎧の守りがあるから平地とさして変わらない、1人でも突破出来れば勝てる」

「そもそもあの竜巻って司教さんが出したものですよね、解除出来ないんですかねー?」

「魔術がどういう理論で発動すんのかはまだ研究中だが、何をしないところをみると恐らく司教の制御からは外れてんだろ。ありゃもう自然現象と変わらん、勝手に消えるの待つか、さらに強い魔法で打ち消すかどっちかだな」

「私はそろそろ試合の強制終了を考えても良いんじゃないかって思ってるんだけど、屋内であんなに燃えたらあっという間に酸素が尽きるよ」


システィーナが1番隊隊長ランドルに提案すると、ランドルはむぅと言って腕を組んだ。

確かにこのままでは生命の危険を伴うが、自滅に近いような形でやられるような連中にこの国の子供を預けるような事もしたくない。

出来ればこの危機を自力で脱して欲しい。

そしてシュリアのほうも水色の子供が予想以上に粘っている。

このまま耐え続ければシュリアの魔力が尽きる可能性は大いにある、そうすればただの人と変わらないため鎧がただの重しに変わる。

それに子供のほうも王宮で保護されている子供の知り合いと聞いているので、恐らく保護者であるシュリアとは決着を付けたいだろう。

しかし、全員の安全確保という面ではやはり止めるのが正しいだろう。


「医療班を入り口に待機させろ、それと換気扇を全力で回せ。あと10分で外に出られないようなら監督担当を突入させろ、現場にもそう伝えっ…」


そう言いかけた時だった。

視界の隅のモニターに炎の渦を目の前に雷球を構える人物が目に入る。

不自然に止まったランドルの視線を追うようにシスティーナ達もモニターを見た。






ほんの少し前。

ひたすら罠を設置していたコルトは、バキバキという音の後に僅かに室温が上がるのを感じていた。

みんなを信じて待っていたいが、堪えきれず立ち上がり音のしたほうに顔を向けると。


「何あれ!?」


ハウリル達が向かった木々の向こうに炎の壁のようなものが出来上がっていた。

あんな事が出来る兵器が開発されているなんて聞いたことないし、ハウリルとルーカスの魔法であぁなったとしてもいくらなんでも危険すぎる。

コルトはその場を放り出すと炎に向かって走り出した。


「なんでこれで止めないんだよ!」


炎の渦の周囲はかなりの高温になっていた。

中の様子は見えないが、金属の打ち合う音が炎の爆ぜる音に混じってかすかに聞こえる事から、中で戦っていることは確かなようだ。

だが金属音しか聞こえないのが不安だった。

炎に囲まれた狭い中で2対3でいつまでも戦えるとは思えない、ルーカスはともかくハウリルは生身だ。

金属音しか聞こえないということはハウリルが戦えるような状況ではない可能性がある。

コルトは後先考えず手を前に掲げありったけの魔力で巨大な雷球を作った。

──金属音が聞こえない、なるべく奥を狙う!

そして視界を覆うほどの雷球が勢いよく発射され、轟音をあげながら炎の壁に向かって飛んでいき、そして、着弾と同時に大爆発が起きた。

凄まじい爆風と衝撃波が起きたが、爆発と同時に炎壁から何かが飛び出し真っ直ぐにコルトを掴むと、衝撃波が届く前に凄まじいスピードでその場から後退する。

そして壁際まで下がったところで顔を上げると、険しい顔をしたルーカスが風の障壁を張っており、割れた天窓の細かいガラスの破片が雹のように降り注ぐのを見上げていた。

辺りも土煙で状況が全く分からない。

ゲホゲホという咳き込む声に横を見るとハウリルが苦しそうにして呼吸を整えている。


「だっ、大丈夫ですか!?」

「ゲホッ……はい、お気遣いなく……少し痩せ我慢し過ぎました」

「おいっ、ダメならダメってさっさと言え。俺はお前らがどこまで耐えられるのか分かんねぇんだよ」

「だからそういう言い方!」

「悪いのはわたしですコルトさん、戦闘続行の判断をしたのはわたしです。あぁなった時点で脱出を考えるべきでした。それよりもアンリさんです!ルーカス!アンリさんは、アンリさんは大丈夫でしょうか!?」

「…安心しろ、反応は変わってねぇよ」


それを聞いて落ち着いたのか壁を背にずるずると座るハウリルは悔しそうだ。

そして土煙がある程度晴れるとすっかり様変わりした演習場が現れた。

木々はなぎ倒され、天窓は完全に割れて風が吹き込み、電灯も割れ時々ビリビリと火花が散っている。

そして同時に鎧を着た軍人たちが大慌てで入ってきた。

ルーカスは障壁を解除するとこっちだと声を上げ、それに気付いた医療班の人たちが担架を持って急いでやってくる。

そしてハウリルの状態を手早く確認し運んでいった。

それを安堵の表情で見送るとコルトもアンリを探すべく走り出す。


「こりゃ模擬戦は中止だな」


控えていた大勢の軍人達が慌ただしく辺りの確認作業を始めたのをみて、誰に言うでもなく呟くと、ルーカスも加勢すべく歩き出した。


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