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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第2章
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第36話

「おいおい、始める前からなんだこの空気は。まぁどうせ姐さんとクソガキだろ」


そういって入ってきたのは見慣れた赤髪に腰に剣を佩いた共族体、いわゆる偽装体状態のルーカスだった。


「どうせこの後模擬戦だろ?今自制出来ねぇなら帰んな、邪魔だ」


アンリとシュリアの間に立ち、手でしっしっと追い払う動作をされシュリアは大人しく引き下がった。

その後にアンリも下がれ下がれと同じように手で払われ、ハウリルの隣に移動する。

コルトはその場が収まりホッと息を吐いた。

ところで模擬戦というのはなんだろうか。


「なんだ聞いてねぇのか?俺ら4人と、こいつらでチーム対抗戦やんだよ」

「なんで!?」


バッと一緒に同行していた開発員を見ると、昨日説明しましたよ?と言われる。

それで必死に記憶を探ってみると、確かに昨日基地を離れているルーカスも呼び戻して模擬戦をやる的な事を言っていた気がするが、ルーカスの名が出た時点で興味が失せたのと、まさか自分も模擬戦をやるとは思わなかったため完全に頭の隅に追いやっていた。

これは完全にコルトの失態である。

ぐおおおと頭を抱えていると1番隊の隊長が肩に手を置いた。


「君がほとんど戦えないのは知ってる。だから君を後方で抱えながらどれだけ戦えるかを見るんだ」

「うっ……すいません…」

「気にするな。負担が大きいのに色々な理由で君の代わりがいないのは、こちらの不手際だからね」


って総長なら多分言う、と目尻と口角を少しだけ上げた顔で言われた。

アンリとハウリルとの信頼関係の構築や、実際に外を経験したというのはかなり大きい。さらに必ずこちらの人間を1人は同行させたい、その者の安全を条件として装備を提供する、だがその装備が特殊なため整備する人手も欲しい、だがあまり大人数にはしたくない。などなど……。

そんなわけで現状ではそれら全て1人で条件を満たしているコルトがもっとも適任という事だ。たまたま将来研究開発志望だったため装備の整備を簡単に覚えられる下地があったのが良い方向にいった。

ならせめて足を引っ張らないように頑張ろうと思う。


「ルールの説明だが、4対4で行い勝敗条件は制限時間1時間以内にコルトくんを守れるか否かだ。壁外での作戦を想定してルイには偽装体での戦闘と魔力制限をつけさせてもらう、こちらは協議の結果全員鎧装備とすることにした」


鎧装備という事は対人戦闘として本気という事だ。

少人数で多勢の敵を鏖殺する事を目的に開発製造された、現在のラグゼルでの防衛の要である。

いくらなんでも戦力過剰ではないだろうか。


「いえっ、妥当です。西大陸の魔物やそれに対抗する上級討伐員はわたしよりも魔力の多いものがザラに居ます。さらに異端審問官は対人が主戦場です、生半可な実力ではあっという間に消されます」

「そいつらにバレたんならもう俺の正体とか関係ねぇだろ、さっさと本気出してぶっ殺せばいい」

「それはそうなのですが、出来れば白を切りたいではありませんか」


その前に前提がおかしくないだろうか。

なぜ討伐員などの人と戦う話になっているんだ。


「なぜって、現時点ではまだ教会とラグゼルは敵対関係ですよ。わたしの行動は教会にとっては裏切りもいいとこです、バレれば確実に追われます」


そうなった場合についての行動は現在ラグゼルとハウリルにルーカスを交えて協議中である。

コルトにとっては人と戦うという事のほうがショックだった。

だが周りでその事を気にしている人はいないらしく、みんな平然としている。

言われてみればハウリルは教会の一派の1人でしかなく、しかも本人曰く弱小らしい。

考えるまでもなく、仲良くというのは早計すぎる。

そうやってコルトが立ち尽くしている間に、アンリは今回使う武器を決め、ハウリルにも一時的に杖が返却された。

そして演習場の奥にみんな移動し始めたので、コルトもトボトボとあとをついてく。

奥に続く扉をくぐると建物の中とは思えない森が広がっていた、それもかなり広い。

軍の人が言うには奥まで大体400mはあるそうだ、外からでも大きな建物だと思ったが予想以上に大きかった。

上を見上げると一応屋内なので屋根があるがほぼ全面が天窓でそこから日光が降り注いでいる。

そのため上のほうは明るいのだが、木々が陽を遮っているため地面付近は薄暗い。

今回は視界の悪い状態を想定して戦闘中は電灯をつけないらしい、電灯がついた場合は審判側で戦闘終了、または継続は困難との判断ですぐに終了してほしいとのことだった。

シュリアを含めた相手4人が反対側の配置につく間に10分間のブリーフィングタイムが与えられた。


「話し合いって何話すんだよ。俺が2人、アンリが姐さん、司教が残りでいいだろ?」

「全くあなたは……、いいわけないでしょ。そこに持っていくまでの事は考えるべきです」

「待って僕は!?」


ナチュラルにルーカスはコルトを戦力に含めないし、ハウリルもそれに対して否定をしていない。

抗議の声を上げるが、3人に異口同音に”無理だろ”と言われてしまった。

そりゃ正面からは無理だと思うが、もう少しこうなんというか……手心が欲しい………。


「安心してください、遊ばせておくつもりはありません。あなたには陣地の構築をしてもらいます」


それからハウリルは初動をどうするかについてざっくりと説明し始めた。

まず開始と同時にコルトはこの辺り一帯に魔術で罠を張り陣地を構築、他の3人はルーカスの索敵を使いながらそれぞれの相手を応戦。

ある程度戦ったら陣地まで退却して籠城だ。


「幸い相手は鎧を着込みわたしたちよりも重いです、なのでオーガ戦がそのまま使えます。こちらの勝利条件は時間までコルトくんを守れればいいので、無理に相手を撃破する必要はありません」

「まて罠は姐さんが踏んだら無効化されるぞ」


ハウリルが珍しく苦々しい顔をしている。

魔力の吸収による無効化は完全に体質によるものなので、長年魔力持ちと共鳴力持ちで交雑してきたからこそ生まれた存在だ。外に同じ体質のものがいる可能性はかなり低い。

ならなぜシュリアが今回選ばれたのだろうか。


「そんなもん今はどうでもいいだろ。いいか、アイツラに勝つには連携させないのが絶対条件だ。こいつに陣地を活用すんなら、俺と司教が引き込んで速攻で倒す。アンリはその間になるべく姐さんに粘れよ、お前がやられるとどうにもなんねぇ」

「任せろ。あいつには勝たなきゃいけない理由もある」

「おしっ、そうこなくちゃな。いいか、姐さんはぶっちゃけド素人だ。度胸と体に物を言わせてゴリ押ししてるだけで技術なんてほとんどねぇただのパワーバカだ。お前のほうがまだマシだ」


先程の見た髪色からも体内の保有魔力も今はそこまで多くない。残存魔力が尽きればアンリにも十分に勝機はある。

それまでアンリは耐え続ければいい。

とはいえ、そう簡単な話ではない。


「コルト、お前はなるべく早く陣地を構築しろ。俺らが耐えられねぇと思ったら、どんな状態でも入るからな」

「出来ればわたしたちもなるべく時間を稼ぎたいですね」

「いっそ囲えちまえばいいんだけどな」

「それならやりようはありますよ」


3人は一箇所にまとめるという方向で話はついた。

そして戦闘開始のアナウンスが入ると、ルーカスの探知を頼りにハウリルと共に走り出し、アンリは不自然に感覚が空いているという方向に向けて飛び出していった。

残ったコルトはオーガ戦の時のように周囲に罠を設置し始める。

以前とは違い魔術の研究用に文字を刻むための器具を持ち歩いているため、以前よりも遥かに早く、魔力も効率よく通して刻むことが出来る。

なるべく時間を稼いでくれるようだが、それでも急がなくてはいけない。

コルトは地面だけでなく木にも魔術を刻み始めた。






一方感知出来る3人に接敵すべく走り出したルーカスとハウリルはものの30秒で相手と激突していた。

人数が少ないので予想通り1人抜けようとしたが、鞘をぶん投げて動きを止めるとその一瞬で急速接近し反対側に蹴り飛ばした。

方向を誤ってハウリルのほうにぶっ飛ばしてしまったが、ハウリルと鎧がお互い反対方向に避け、その一瞬の間にハウリルから爆風が吹き荒れると鎧の2人がまとめてもう1人の鎧に向かってまとめて吹きとんだ。

制限されたこの体で鎧と戦うのは初めてだが、思ったよりはいけそうだ。


「わたしにぶつかったらどうするんです」

「悪い悪い、慣れねぇ体で見誤った。でもいいじゃねぇか、結果的にここまでは予定通りだろ」


相手の鎧も先ずはこちらをなんとかするべきと考えたのか、3人まとまってこちらの様子を伺っている。


「順調だな、ここからどうする」

「剣を受けてみて分かりましたが、予想よりもかなり重いですね。接近戦は私には分が悪いです」

「別にお前は後衛からぶちかましてりゃいいだろ」

「おやっ、良いんですか?巻き込みますよ」

「はっ、俺は魔人だぞ。お前が気にすることじゃねぇ」


姿や出力制限をしたところで、感知能力や耐久力まで落ちるわけではない。

共族の魔法など所詮たかがしれているし、発動の瞬間さえ分かればどうにでもなる。


「分かりました。では遠慮なくいきましょう」


そう言ってハウリルが杖に魔力を通すと辺りに5人を囲うように竜巻が複数発生する。

それは周囲の木々を飲み込みなぎ倒していくと周回し始めた。

それを見て鎧の1人が竜巻に向かって火球を撃ち込むが、竜巻に触れた瞬間飲み込まれた木々に引火して風の渦は炎の渦となる。

慌てた他の鎧が今度は水球を撃ち込むが、炎の勢いは強く瞬時に蒸発してしまった。

その間にも火の粉が近くの竜巻にも飛び火し、またたく間に全ての竜巻が火炎旋風となる。

奇しくも炎で囲まれてより強固な足止めが出来た形だ。

だが同時に2人も逃げられない。やりようはあるが、3人を目の前にしては少々骨が折れるだろう。

ルーカスがどうすんだよこれ、とハウリルを見ると、竜巻を出した本人も若干引いているのか、いつもの胡散臭い笑顔を浮かべつつも冷や汗をかいている。


「………これなら十分に時間が稼げそうですね、燃えないように気を付けてください」


大丈夫かよとルーカスは少し思ったが、ここで揉めるのも面倒なのでハウリルの続行というので判断に従う。

鎧の3人も火球も撃った1人が他の2人から責められているような雰囲気だ。

終わったあとの演習所がどうなってるのか予想もしたくないが、この程度ならルーカス1人で消火出来るし、本当にヤバかったら恐らくすぐに止めが入るだろう。

自分のせいではないと気を取り直すと、ルーカスは剣を構えた。


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