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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第2章
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第28話

アンリとハウリルは先ずは宿舎の確認からと2人の隊長と見張り2人に連れられて南にある居住区画に連れられていた。

軍の基地の主要施設の区画とを明確に分ける仕切りはないが、何となくこの辺りまで来ると非番の軍人なのか私服のものが多くなってきている。


「ここからさらに東に行くと民間人の暮らすエリアとを分ける壁と門があるが、当然お前達の出入りは許可されていない。破った場合は身の保証はないので心に刻んでおくように」

「承知しております」


アンリも頷いて同意を示した。

それを確認すると宿舎だという建物に続いて案内された。

凹型をした建物で向かって左が男性寮、右が女性寮となっており1階は共有エリアとなっている。

現在は主に1番隊と4番隊の独身隊員達や既婚の単身者が入っていた。

中央部分の入り口から入ると、先ず建物内の見取り図が横にあった。

だが共有エリア分しかないようだ。


「迷ったらここを見るかその辺の隊員に聞くといい。お前達が入ることが通達されるから誰かしら答えるだろう」

「あっ、あの!」

「どうした」

「えぇっと…そのっ……文字が……読め…ない」


最後は消え入りそうな声でなんとか絞り出した。


「すいません、教会の都合です。政策の一環で一般人には文字を教えていません」

「むっ。そうか困ったな」

「そういえばココも読めないって話があったね。分かった、王宮に相談しておこう」


コルトはここでは子供でも文字を読めるように教育しているため、読み書きが出来ないのは幼い子供だけだと言っていた。

そして魔族のルーカスもどうやら読み書きは普通に出来るらしく、何も知らないのはアンリだけだと知ってとてもショックだったのだ。

周りが当たり前に出来ることが自分には出来ないというのがとても精神的に苦痛だった。

だから言い出すのがとても辛かったが、自分は前に進むのだと決めたのだ。


「あっ、ありがとう」

「まだ何も決まってないぞ」


その後食堂やレクリエーションルームに案内され、それからハウリルと分かれると4番隊の女性隊長に連れられてアンリは女性寮の2階に来ていた。

ちなみに隊長は名をシスティーナという。本人曰く見た目と名前のギャップが激しいのが売りだ。


「ここが風呂場だ。出来れば毎日体を流すくらいはしてほしいが、まぁ最低3日に一度入るなら文句は言わん」

「ふっふろ?」

「なんだ風呂も無いのか、体を洗う場所だ。使い方も分からんだろうから今夜入るぞ」


それから次にトイレにも案内された。各階の同じ場所に共用で設置されていて、水洗式だ。アンリはめまいがした。

3階以上は各人の個室が並んでいる。

どうしても女性のほうが人数が少ないため、今の所は各自個室が使えるらしい。

男性のほうは下っ端から容赦なく相部屋にされるそうだ。


「文句は出なかったのか?」

「出たさ。当然男のみの寮もある」


アンリには言えないが装備の性能向上と国全体で高魔力保持者が減少傾向のため、なんとか人材確保で魔力の女性軍人の希望者が増えないかと苦肉の策として個室完備を一時期押し出していた。

だが結果はさんざんだった、個室だろうが命の危険のある軍人より転勤で住む場所が頻繁に変わっても身近な警邏隊のほうをやはり希望するものが多い。

そんなわけでいくつかは改修して完全男性のみになったものの、棟の中で混合には出来ないので女性隊員は今の所全員個室という状態である。


「それでここがあんたの部屋。こっちが私の部屋で反対側はシェレスカ」


シェレスカと言われずっとアンリをシスティーナと挟むように立っていた見張りの女が頷いた。


「専属であんたの見張りにつくから、程々に仲良くしな」

「遅くなったがシェレスカだ。節度ある態度を期待する」


握手のために差し出された手をアンリも握り返した。


「さて、次は中の説明だな」


部屋に入りシスティーナが壁のスイッチで明かりをつける。

それだけでもアンリにはわけわからないのに、靴はここで脱げと言われてさらに戸惑った。


「ここのスイッチでの明かりは電気を食うからあまり使うな、部屋の中の魔力灯をなるべく使え」

「えっ、あっ……わっ分かった」


電気が何か分からないがさっさとシスティーナが奥に入ってしまったので、とりあえず疑問を飲み込んで後に続く。

部屋を見渡すと相部屋前提のためかそこそこの広さがあり、机と椅子が1セット、シングルベッドが1台に、ドレッサーとチェストが1台ずつ設置されていた。

魔力灯は机とドレッサーにそれぞれ1つずつ置いてあった。


「ドレッサーとチェストは中は空だからあとでシェレスカと物資を受け取りに行け。他に必要なものがあればそのときに申告しろ。こちらでも必要だと判断すればなるべく用意する」


それからシスティーナが魔力灯に嵌められた石に手を触れた。

部屋全体を満遍なく照らせるほどではないが、部屋の反対側にいても手元を見るには十分な明るさだった。


「魔力を込めることで使用できる。つけたり消したりは脇のスイッチを押せ。魔力残量が減ると暗くなってくるから、適当なところで再度魔力を込めろ。説明は以上だ、何か質問はあるか?」

「いやっ、大丈夫……です……」

「よしっ。なら1時間ほどここで待機していろ、シェレスカがまた迎えに来る」


システィーナが机上の時計を指差すが、残念ながらアンリは時計も読めない。

日の出と共に起きて日が沈めば帰って寝るそんな生活だった。

アンリの反応にそれも察してくれたらしい。


「全く、教会は何をやってるんだ。どこまで文明を落とすつもりだ、限度があるだろう」

「隊長それはあとにしましょう。今日は私がいるので問題ありません」

「それもそうだな」


するとここで遠くからシスティーナを呼ぶ声が聞こえてきた。

かなり焦っているらしく、廊下を走る音も聞こえてくる。

システィーナが外に出ると通信兵が息を切らしながら走ってきた。


「あぁシスティーナ隊長!リオス副隊長からすぐに第3演習場に来てほしいそうです!」

「何があった」


チラチラとアンリに視線を寄越すので、システィーナがあとは任せるとシェレスカに言い残すと通信兵と共に走り去っていった。

その場に残されたアンリにシェレスカが部屋の中に入れというのでおとなしく戻るとと、壁のスイッチの明かりを消されてしまった。

さっそく魔力灯を使えということだろう。


「鍵はかけるな。お前はまだ信用されてない」

「分かった」

「では隣の部屋にいるから時間になったら呼ぶ、それまでは部屋で休んでいるといい」


そう言って扉が閉められアンリは部屋で1人になった。

とりあえずフラフラとドレッサーの上の魔力灯にも魔力を込めて明かりをつける。

2つもつけるとかなりの明るさとなったので、結局ドレッサーの魔力灯を消した。

ベッドに座りやっと落ち着けたとそのまま倒れ込んだ。

あまりにも非日常過ぎて何もかもが追いつかない。

でもココが生きている。

少なくとも赤髪の女の態度はココを知っているような態度だと思う。

だが会いたいという願いは謝りたいと解釈されて自己満足と一蹴されてしまった。

否定したかったが、自分でもじゃあ会ってどうするのかと聞かれたら先ずは謝るだろうと思うと反論が出来なかった。

どうしたらいいのだろうか。

たまたまコルトとルーカスがいたからココが生きて、たまたまハウリルの都合が良かったから村から連れ出されて、たまたまその後の流れでここにいる。

正直先程の会議の内容も半分も理解出来なかった。

アンリの意思など全く介在しない状態で全てが決まっていった。

このままではココに会う前にまた壁から出ることになってしまう。


「私はどうしたらいいんだ」


言語化出来ないモヤモヤがアンリの心に燻っていた。


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