エピローグ
よく晴れた日だった。
すでに神による気象コントロールは行われていないと聞いているが、それでもこの日だけは裏でされているのではと思ってしまうほどによく晴れた日だ。
昨日までは手つかずの浜辺だったそこに、今朝方突如として港が現れた。
時間前に到着していた者たちは、本当にここで合っているのかと不安になっていたところに急に出現した港。
なるほど、これが神の力かと、心の底から分からされた。
集まった面々は5地域の権力者達と、その者たちが保有する武力の一部。
6ではないかと思うが、地下に住んでいたもの達は結局散り散りになってしまったらしい。
中にはしがらみからの解放を求めて、魔族領に行ったものもいると聞く。
確かに、一部魔族が人種問わず人材を集めていると聞いているが、それでも魔力渦巻く中に飛び込んでいくとは、無魔の癖に豪胆だと感心したものだ、いやっ、命知らずか。
それはそれとして、今日ここに集められたのは神との最後の別れのためである。
これから神は地上に口出しをしないことを保証するために、監視付きで地上のどこかに追放されるらしい。
参列するように辞令が下ったときはあまり興味が無かったが、多様な地域の人間が綺麗に並んでいる様は今後見る事はできないだろうと思うと、悪くない気がしてきた。
そんな事を思っていると、各地域代表の口上が終わったらしい。
代表達が、神の監視のために同乗する者たち1人1人に別れの挨拶を交わしていた。
そして自分のところのお偉いさんが敬礼をしたので、自分達も合わせて敬礼をすると、別れる者たちが背後にマシーンズを連れたある1人の少年、青年か?と思われる人物に近づいていった。
あれが自分達共族の神らしい。
見た目はどこにでもいそうな普通の無魔だ、特筆して述べることなどないそんな風貌だ。
街ですれ違っても気付かないだろう。
そんな普通の、ごく普通の青年だ。
その青年は1つ頷くと、皆を連れて大型船に向かって歩き出した。
そして全員が乗り込むと、船がボオオオと低い音を出して動き出した。
ゆっくりと、ゆっくりと巨大な波を立てて岸辺から離れていく。
そして自分達に完全に背を向け、ある程度沖合にまで出たと思ったら、突然蜃気楼のように揺れたかと思うと、船がそのまま溶けるように消え失せた。
それまで船の動きに合わせて発生していた波も、それに合わせて泡のように消え失せて、残されたのは何も無かったのかのように静かな海面だ。
同時に、自分達がいる場所も元の浜辺に戻ってしまった。
まるで最初から無かったかのようだ。
夢でもみていたのではないか、そう思ってしまう。
どこからか聞こえてくる鼻をすする音だけが、自分達が今経験したことが嘘ではない事を訴えている。
空を見上げた。
どこまでも続く蒼穹。
不安になるほどの広さだが、みんな一緒だと思うと、悪くなかった。
統合歴元年
この日、神は地上の統治を辞め、人による世界の運営が始まった。
これにて完結です。
112万文字、長いお付き合いありがとうございました!




