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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第12章
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第259話

掴んでいるのが誰かなんて、顔を向けなくても分かる。

ただでさえタッパがあるのに、転変してさらにデカくなっている。

肩を掴まれるほどの距離まで近寄られれば嫌でも姿が視界に入った。


「何だよ」


離せという意思を込めて睨むように顔を向けると、見知った顔が怒りを込めた表情で見下ろしていた。

しかも片目が竜眼の状態だ。


「そんなめんどくせぇことしなくても、俺が連れてってやる」

「自分の状態で分かってる?途中で落ちるだろ」

「誰が落ちるかよ。こんなの見せられて、一発も魔神殴らねぇで終わらせてたまるかってんだ」

「そんな状態でできるとは思えないね」

「出来る出来ないの話はしてねぇ、やるかやらねぇかだ」

「馬鹿だろ。曲がりなりにも相手は管理者、神だぞ。お前なんて一瞬で消せる」


土俵が違うのだ。

この世界の被造物が勝てる相手ではない。

議論している時間すら勿体ないと思っていると、コルトは胸ぐらを掴まれ、魔族が大量に死んでんだよ!と怒鳴られた。


「お前らの戦いに巻き込まれて大量に死んでんだ。それを黙って見てろってか!?本当はお前の事もぶん殴りてぇ。どうせお前は俺等が何人死んでようとどうでもいいんだろ。でもそれは出来ねぇんだ、分かんだろ?」


コルトでなければ魔神に勝てない。

どんなに魔神を倒したいと願っても、被造物に過ぎない魔族ではどんな手を使おうと勝てない。

どんなに怒りを滾らせようと、何を犠牲にしようとそれだけは叶わない。

魔族の事などその辺の石よりもどうでもいいと思っている存在に請わなければ自分たちの生存が望めない。


腸が煮えくり返る思いだろう。

牙を剥き出し目を血走らせて、呼吸も荒い。

今にもコルトに噛みつきそうな勢いだ。


とはいえ、本人の自我が魔族なので忘れているようだが、今のルーカスはどちらの所有かと言われたらコルトのせいでどちらとも言えない。

両者の同意が無ければ消せない存在だ、つまりやりようによっては上記の願いは叶う。

だが、それはつまり”神殺し”ができるということ。

正直今後の計画的にアレの肉体を殺されてしまうのは困るし、そもそも神殺しなどどこの世界でも碌なものではない。

コルトは思わずため息をついてしまった。

当然のように首が少し締まる。


「お前っ!」

「勘違いするなよ。僕はお前にうっかり”神殺し”をされたら困るんだ」


大体の世界で神殺しをした者は英雄となるが、英雄というのは生きていると大変面倒くさい生き物なのだ。

どうしたってその功績に多様な人間の思惑が絡んでくる。

そしてそれは時に望まぬ争いを生む。


「お前が下手に利用されるとは思わないけど、アンリの後見を任せた以上、余計な揉め事は増やしたくないんだ。お前一人だけに功績を積みたくない」

「ならここで黙ってみてろってか!?お前には見えねぇかもしれねぇけどな、落ちた岩に潰されて、魔力が少ねぇから完全に再生しきれねぇ奴も大勢いるんだぞ。次また同じ事が起きてみろ。そいつらはもうどこにも逃げられねぇから、そのまま死ぬしかねぇ。そんなの認められるかよ」

「そうさせないためにもっと接近しようって話してたんだけど!?」

「お前がちんたらしてる間に2撃目がきたらどうすんだよ!」


ならここで揉めてる時間も勿体ない。

そう言い返そうとしたら、半泣きのうさぎが割って入ってきた。


「魔王の子の一人が駄目なら、他にもいればいいんだよね!?」

「なんだてめぇ」

「ヒッ!?いやっ、だから、そのっ、戦うのが一人が駄目ならもっと応援呼んで来ようかなって。そのっ、弟なら来るよ!多分、絶対!」


アンリがどっちだよと小さくツッコミを入れた。


「確かに今は魔神に逆らった行動してるみたいだけど、本当に魔神に命懸けで直接攻撃できるの?」

「大丈夫!魔族を変えたいってずっと思ってるし、本当はとても優しい子だから、魔族のためならできる子だよ」

「あいつが?ホントかよ」


絶対に大丈夫だと、うさぎは全力で首を縦に振った。

やる気だけはあるようだ。

するとアンリがそもそもラヴァのところまで一人で行けるのか?と疑問を口にすると、30分くらいなら大丈夫だとか、一人で飛んでたらラヴァのほうが見つけてくれるはずとうさぎは答えた。

何とも頼りないことこの上ない。


「まあ邪魔してきたら私が撃ち落としてやるからさ、さっさと行こうぜ」


自分のついていくのが当然のように言うアンリに、コルトは反射で首をそちらに向けた。

胸ぐらを掴まれたままだったので、危うく変に首を捻りそうになるところだった。


「アンリ達はここで待っててって言ったよね!?」

「まだ近づけそうじゃん」

「ギリギリを攻めるチキンレースするつもりないからね!?」

「よく分かんないけど、ルーカスが落ちないようにすればいいんだろ?」

「そうじゃなくて」


反論しようとして諦めた。

言って聞くならアンリはここまでついてきていない。

コルトは頭を抱えて唸った後、ルーカスの腕を振りほどいてうさぎを見た。


「邪魔したらこの辺り全部吹き飛ばすからな!」

「ひぃ!」

「さっさと行け!」

「はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


しつこくルーカスに抱きついていたうさぎに出口を指差すと、バタバタと大袈裟な身振りで慌てて走って出ていった。

それを見送っていると、予告なく首根っこを掴まれる。

続いてアンリとハウリルも席につくと、機械人形がもう少しだけなら接近できるのでと機体を動かし始めた。


『コルト、俺を上に出せ』

「はぁ、やっぱお前に乗っていくのか」

『まだ言うか!』


いい加減にしつこいぞとマジギレ顔で言われ、流石にコルトも諦めた。


「分かったよ。アンリ、ハウリルさん。後ろはお願いします」

「任せろ!」

「お任せ下さい」


嬉しそうにガッツポーズをしたアンリと、若干まだつらそうなハウリルに後を任せると、コルトはルーカスに触れ、機体上部に転移する。


「うわぁ……」


外に出て改めて目の前の惨状を見て、さすがに思わず声が漏れてしまった。

来た当初は緑が広がっていたはずの大陸。

決して小さな島ではない、大陸と言うに相応しい広さを持った場所が、今はいくつもの巨大なクレーターに覆われ、付近には大地が砕けて出来た岩石の槍がいくつも突き刺さっていた。

粗末だと馬鹿にした、彼らにとってはそれでも立派な雨を凌ぐ屋根であったろう小屋などは、肉眼で確認すらできなかった。

衝突の衝撃波で軒並み吹き飛んでしまったのだろう。

人の所業ではできない光景が広がっていた。


「仮にも自分とこの人が住んでる土地だろうに」


コルトはため息をついて眼下から視線を逸らすと、魔神がいる方向を見据える。

大まかな方向だけを確認するつもりだったが、暗雲が集まり渦を巻き始めているところがあるので、どこにいるのか一目瞭然だ。

同時にさっさと蹴りをつけないと、最悪の悪天候の中戦う事になる事を嫌でも脳に刻んできた。


「思ったよりも時間が無い、行くぞ。……ルーカス?」


返答が無いことを不思議に思って振り返ると、突如耳鳴りが襲ってきた。

耳障りな音に慌てて耳を塞ぎつつ原因は何だと辺りを探ると、上を向いて咆哮するルーカスが目に入った。


「おまっ、何やってるんだ!?」


やめろと言っても全く言うことを聞かず、ようやく満足したのか、咆哮を終えたのはそれから数十秒後だった。

早速文句を言うと、ルーカスはチラッとこちらを一瞬見ると、そのまま四つん這いになって背中に乗れと無言で言ってくる。

ここまで骨格と見た目が変わっていると、人間が混じった竜のような見た目でちょっと気持ち悪い。

腹も立つが時間も無いので適当な剥き出しの鱗を掴んで乱雑に乗ると、すぐに飛び上がって暗雲立ち込める場所に向かってまっすぐに飛んでいく。

そしてすぐに突然話しかけられた。


『……昔、命を掛ける時は叫べと教えられた』


それが先程の文句の返答だと理解するのに少し時間がかかった。


「誰だよ、そんな変な事言ったの」

『竜だ。西に住む竜達が教えてくれた』

「アホくさ。動物の習性を律儀にやるなよ、人間だろ」


思ったよりも馬鹿みたいな理由だったので、投げ槍に返すとルーカスは特段気を悪くする事もなく、代わりに何が面白かったのか、クックッと喉を鳴らした。


『魔神にはお前ごと突っ込む、それでいいな?』

「いいよ。こっちも突っ込んですぐにプレートを構築するから、さっさと退けよ」

『あぁ』


同意が返ってくると同時にルーカスは大きく一度羽ばたき、スピードを上げる。

コルトは落ちないようにしっかりと鱗を掴みながら、どんどん近づく魔神を睨みつけた。


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