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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第2章
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第26話

自分が幼稚な行動をしているのは分かっている。

世代交代の周期が短い共族にとって、2000年以上前のことなの想像もつかないような過去の出来事であることは予想がつく。

だから現世代に八つ当たりするのが違うのは分かっているし、後ろめたいから隠したくなるのも理解は出来る。

でもそれでも自分にとってはそう遠くない世代が捕らえられ、あまつさえ食われていたと聞かされて怒るなと言われるほうが無理だ。

だがその原因も魔族が理由の分からない襲撃から始まったことが原因でもある、自業自得と言われればそうだろうとも思うが、理屈では分かっていてもどうしても心情がついていかなかった。

だが一番の理由は、王宮や軍の敷地を割と自由に歩き回れる程度には信用されていたと思っていたのに、怒るからという理由で隠されていたことだ。

自分の力が共族にとってどれだけの驚異であることは分かっている。

姐さんがいるとはいえ、所詮ただの1人でしかない。

だからなるべく刺激しないように友好的であるために、力を出すことは極限まで控えた。

そのせいでイライラすることもあったが、それだってなんとか抑えてきた。

それなのに、根本では信用されていなかったのかと思うとやるせなかった。

所詮は別の種族でしかないのか。

頭を冷やすために鉄塔の上に登ってみたはいいものの、結果は余計に考え事をして余計に落ち込むだけだった。

そのとき、ガンッという音がして鉄塔が軽く揺れると、鎧を着たオーティスが鉄塔に登ってきた。


「わざわざ武装までしてご苦労だな」

「いやいや、俺らはこんなところに生身で登ってこれないから。それに武器は持ってきてないよ!?」

「……じゃあ何しに来やがった」

「いやっまぁほらっ、一応な?」


一応部外者なので、形だけでもちゃんとついてますよというポーズをみせておかないと後で問題になる。

こんなときでもないとこんなところに登れないわとオーティスが隣に座った。

そのままお互い無言のまま時間が流れていった。

眼下では平時と変わらず軍人達が動き回っている。


「……俺はなるべくお前らと暴力沙汰にならにように心掛けてたつもりだったんだけどな」


ポツリと呟くとオーティスがそっち!?と驚いた顔をした。


「てっきり神の正体のほうにキレてるんだと思ってたんだが」

「そっちもキレてるに決まってんだろ!?けど俺だってガキじゃねぇ、お前らにそれをいうのは筋違いだろ」

「まー2000年も前のこと言われても困るわな」

「……魔族が攻め込まなきゃこんなことにもなってねぇしな」

「はっはっは、ホントになぁ!」


こっちは真剣に落ち込んでんのに、オーティスに気楽に笑い飛ばされた。


「総長が隠してたのは別にお前のこと信用してないからじゃないと思うぞ。あれで一応王位継承権まで持ってる貴族だし、結構俺らとも一線引いてんだよ。でもお前は身分とか関係無いし、同じ捕まってた者同士だろ。割と真面目にお前とは初めての対等な友達とか思ってたと思うぞ」

「……それお前の予想だろ」

「いやいや、俺は同世代だから子供のときから総長見てんだよ。そんときから学校でも寮でもダーティン家の嫡子として振る舞ってたからな。だからお前と喋ってるときは結構気楽そうだったぞ。そんなもんだから、お前が確実に怒るって分かってることは言えなかったんだろ」

「………」

「とりあえずあれだよ、お前らちょっと殴り合ってこいって。ぶっちゃけなんでいい歳した野郎のご機嫌取りを俺がやんなきゃいけないんだよって思うしな。いやっ、お前は女にもなれるけどさ。いい大人なのは違いないしな!」


種族の過去とか神とかそんなもんは知ったこっちゃねぇ、俺らは俺らだし気分が晴れないなら何も考えずに殴り合ってスッキリしようぜ、とオーティスはまた笑う。

めんどくさくなったんだなと思うが、オーティスを見ているとルーカスもめんどくさくなってきた。

かなり脳筋だが気分が晴れないときは無心で体を動かしていたほうがいい。

暴力沙汰にならないようにとか思ってたが、向こうから提案してきたんだ、ノーカンだろ。

ルーカスがやる気をみせると、オーティスは第3演習場で待ってろと言ってアシュバートを呼びに飛び降りた。そして着地と同時に高機動形態に移行してあっとう間にどこかに行ってしまった。






ルーカスが第3演習場の入り口で待っていると、程なくしてフル装備のアシュバートがやってきた。

全身を金属鎧で包み、背中には大剣を背負っている。

魔力を動力源としているその鎧は共族の肉体では不可能なことを可能にするこの国の技術の粋を集めたもので、防御の底上げ、機動力の底上げ、味方との連携、と外からの脅威に対して少人数でも対処出来るようにする防衛の要でもある。

大剣のほうも素材から製造方法までかなり特殊な工程を踏んでおり、この国でしか作れないものだ。当然技量も高くないと扱えないもので、ほとんどの者は接近戦では片手で使うことが前提の剣や斧、または軽い槍や補助的に銃を使用している。

どんな階級であろうと鎧がほぼ同じためほとんど見た目の区別がつかないが、大剣を使うというだけで声を聞かなくてもある程度中身を絞ることが出来る程度には使い手が少ない。


「隠していてすまなかった」


第一声で謝罪を述べ頭を下げるアシュバートにルーカスは必要ないと答えた。

問答をすれば終わりが見えなくなる。


「……そうか。オーティスに一度殴り合ってこいと言われたんだが……お前はそれで気が済むのか?」

「知らねぇ。だが少しはすっきりすんだろ」

「ふむ…。そういえば、お前とまともにやりあったことはなかったな」

「お前ちょっと働きすぎなんだよ」

「……考えておこう」


口だけだなコイツと思いながら、演習場の扉を開けるアシュバートについていくとすぐに巨大な金属の壁に囲まれた開けた空間に出た。

壁以外には何もないコロシアムだ。


【あーあーあー、マイクテストマイクテスト。総長、戦場設定どうしますか?】


耳障りな機械音とともにオーティスの声が場内に響いた。


「私用による私闘だ。壁の強度設定以外はなくていい」

【了解】


その言葉のあと、轟音とともに周囲を囲っていた壁がさらに高くせり上がる。


「第3演習場はもっとも新しく建設されたんだが、その最大の特徴は壁が純オリハルコンで出来ていてな、強度が一番高く魔法もほぼほぼ通さない。つまりオレたちが程々に暴れても問題ない」

「はっ!加工が出来てる時点で強度もクソもねぇな。魔族の火力舐めんなよ」

「これを加工してると思ってる時点で間違いだ。共鳴力の怖いところは最初から完成品を生成出来るところだぞ」


加工を不可にすることで汎用性は著しく低下するが、最初から完成品を出せるのであれば関係ない。

ただし


「捨てるのめんどくさそうだな」

「………言うな」


若干気が遠くなってそうな返答を返しながらも、コロシアム中央に移動し大剣を構えた。

ルーカスも一定の距離を保ちながら上着を脱ぐと上裸になると同時に、甲殻が浮き上がりみるみるうちに発達していく。

牙も発達し手も鉤爪のように鋭くなり瞳孔も細くなると、完全に人形の人外が完成した。

ルーカスの戦闘形態だ。


「ひっさびさだがやっぱテンション上がるわ!楽しくやろうぜ!」

「見掛け倒しじゃないといいがな」

「ほざけ」


しばしにらみ合い、そして2人は同時に地を蹴った。


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