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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第12章
259/273

第258話

いざ相手を飲み込んでやろうと思った瞬間に突然消え失せた竜巻の代わりに、先ほどまで地面にあったはずのものが、眼前に壁のように立ちふさがって浮かんでいた。

さすがにあの質量はこの竜巻では受け止められない。

否、できるできないの話なら”できる”が、あれを受け止められるところまで竜巻の出力を上げたら大地が大変な事になってしまう。

さすがにいくら魔族嫌いのコルトでも、今後を考えればできない。

なので一度竜巻を解除したのだが、そのせいで機内の全員の視界に目の前のアレが入ってしまった。

そして当たり前の反応が返ってくる。

パニックだ。

大地が浮かぶというこの世界ではあり得ない光景に機内は種族問わずパニックになっていた。


「シャルアリンゼさまああああああああああ!!!!!!???????」

「なにあれなにあれなにあれ!?ちょっと、コルト!何がどうなって、つーか、どうすんの!?ねぇ、これどうなってんの!?」

【計算完了、当機ではあれを破壊する火力が足りません】

【共神、直ちに回避行動を推奨します】


持ち上げられた大地を目の前にして半狂乱のうさぎ魔人に、感化されるように一緒にパニックになるアンリ。

そしていつも通り抑揚は無いが明らかに発声スピードが早く、機体コントロールを何とかコルトから奪えないかと操作桿を動かしまくる機械人形。

だがコルトはそんな彼らを感じながらも、意識を無機物に移しているせいか冷静だった。

その冷静な思考でどうするかを考える。


──回避?それはできない。避ければあの質量が速度をもって海に落下する。防波堤になるはずの瀑布はないから、それだけは絶対阻止しないと。なら……。


【回避はしない。この機体であれを受けて破壊する】


無情な判断を宣言した。


「何言ってんの!?あれ、あの大きさ見た!?」

【何をするつもりですか?】


中の疑問をよそにコルトは冷静にことを進めていく。

その間についに目の前のアレが動き出した。


【空間認識、機体材質変換、座標固定。】


加速しながら迫ってくる巨大質量。

機内は阿鼻叫喚。

それを聞きながらコルトは再び全弾発射する。


【壊せると思うなよ!】


その瞬間、巨大な爆炎と共に機体に大地が激突した。

容赦ないスピードでぶつかってきた巨大な質量。

小さな航空機など普通なら木っ端微塵だっただろう。

だが神によって作られたその機体は傷一つつかないどころか、その場からも全く動かない。

その姿は行く手を阻む岩のよう。

代わりにぶつかった大地のほうはというと、全力で壁に投げつけた豆腐のように弾け飛んだ。

だがいかに弾け飛んだといっても、元の大きさが大きさだ。

小さくなっても10メートルはあろうかという岩石の塊が大地に降り注いだ。

ある1つは地面に衝突した勢いで巨大なクレーターを作り、別の1つは湖に落ちて巨大な水しぶきを上げて水面を半分以下にまで減らしている。

そしてある1つはこの魔族領で威容を放つ巨大な城、魔王城にぶつかって尖塔を根本からへし折った。

ゆっくりと音を立てて残った魔王城の上に落ちていく尖塔。

崩壊する魔王城を見て、すでに半べそだったうさぎが大声で泣き出した。


「あぁぁぁもういやだあああ。なんで、なんでこんなことに」


外にまで響くんじゃないかという大声。

コルトも一度状況を整理するために肉体に戻り、うるさいと文句を言うために視界を開いた。


「お前!何やってんだ、アンリから離れろ!!」


目に飛び込んできたのは、魔力の少なさ故か、身体の一部がちょっと毛深いうさぎの耳が生えた共族とあまり変わらない全裸の中年男性がアンリに泣きながら抱きついている姿だ。

アンリも鬱陶しそうにしてはいるものの、半ばしょうがないといった感じでそのままにしている。

だが絵面はどこから見ても公序良俗に反している。

コルトは容赦無くうさぎを殴った。


「うぐぇ」

「アンリ!なんでされるがままになってるんだよ」

「いやなんか、ちょっと可哀想になってきて…」

「いい年した大人が子供に抱きつくのは異常だからね!?」


そういってアンリに説教をしていると、殴られて地面に転がったままのうさぎが抗議の声を上げた。


「うっ、うぅっ、グスッ…だって可哀想じゃないか。ただでさえ子供なのに、共族ってその外見でも10年ちょっとしか生きてないんでしょ!?それなのに…グスッ……せめて見ないようにって思ったんだよ。うわああああああ、シャルアリンゼ様。なんで、なんでこんなことを」


再び大泣きする中年の男。

コルトはそのまま船外に転移させてやろうかと汚物を見る目で見下ろしていると、背後から物音がした。

振り返ると姿は先程のままげっそりとした顔をしていたルーカスが壁にもたれかかり、その後ろからまだ若干顔色が悪いハウリルがこちらを見ていた。


『うるせぇよ…、誰だピーピー泣いてんのは』

「ルーカス、ハウリル!お前ら大丈夫なのか!?」

『お前らに口の中にしこたま食い物詰め込まれたし、多少休んだからな』

「わたしはまだ吐き気がありますが、何やら寝ている場合ではないようなので」


そういうハウリルはまだつらそうだ。

ただでさえ初めての飛行機なのに、かなり揺らされていたようなので仕方がないだろう。

それで言うと同じ条件のはずのアンリはピンピンしているが、元々魔法よりも魔力による肉体強化の近接型なので三半規管が強いのかもしれない。

それはともかく、状況的にこれ以上は寝ていられないと判断したのか、二人共身を乗り出してきた。


『んで、何が起きた』


ルーカスが気怠げに首を動かすと、いつの間にか起き上がったうさぎが一足飛びにルーカスに抱きついた。


「魔王の子!生きてた!!うわあああああ、外だよお、魔王城が、魔王城があああああ」

『うるせぇ、ひっつくな。誰だお前、ラヴァの兄貴か』


泣きながら抱きついているうさぎを片手で押し返しながら、ルーカスは大きくなった体を重そうに引きずって外が見える位置に移動した。

そして眼下に広がる光景を見てしばらく。


『………ひっでぇな』


一言それだけを呟いた。


「大地を魔神が持ち上げて投げてきたんだよ。避けて背後の海にでも落下したら、星自体は壊れなくても北を巻き込んで大変な事になるからね。ここで砕かせてもらったよ」

『………』


ルーカスは答えない。

引き続き無言で荒廃した大地を見下ろしている。

何も言う気がないならと、コルトは勝手に話を進めることにした。


「さすがに同じことを何度もしてくるとは思わないけど、同じ規模で別のことをこれ以上やられるのはたまったもんじゃない。だからもっと小規模な戦闘になるように事を運びたい」

【ワープ後の全弾開放の前に相談して欲しかったと苦情を言っておきます】

【具体的にはどうするつもりですか?】

「もっと近づいて戦闘領域を小さくしないと駄目だと思う。今の距離だとどうしても大規模になっちゃうから」

【この機体では近づきすぎても小回りが効かなくなります】

「分かってる。だから僕一人で行こうと思う」

「無理だろ!?」


間髪入れずにアンリが否定してきた。

だがコルトだって自分がどれだけ鈍臭いのかなんて身にしみているし、それゆえにかなりの無茶を言っていることくらいは分かってる。

それでもやらなければこの戦いは一生終わらないし、そもそもコルトは一日で終わらせるつもりでここにきた。

これ以上面倒事を長引かせるつもりはない。


「皆で近づくよりは確実だよ。僕一人だけなら、いくらでもやりようはある」

「でもさっき近づいて思いっきり蹴られてたじゃん!」

「不意打ちだったからだよ、今度は大丈夫」

【接近方法はなんですか?】

「足場に乗って行こうかなって。飛ぶ方法もあるけど、肉体操作下手くそだからさ」


最近頻繁に領域に戻っているせいか、ますます体の使い方が下手くそになっている気がしないでもない。

そんな状態で飛行しようものなら確実に墜落する。

というより、肉体がポンコツ過ぎて機体の速さを認識できず防御壁をはれないのが一番の問題だ。

自分ひとりの生身なら認識できるスピードで移動できるという訳である。

説明すると機械人形は納得したようで、近づくまでの援護に回ってくれるようだ。

ちなみに近づいてからのことは後で考える。

魔神の行動がさっぱり読めないので、今考えても仕方がない。

その都度対応で頑張る。

近くに共族がいないなら、遠慮する必要だってない。

コルトは気合を入れて、早速行動に移った。

だが、それを邪魔するものが一人。

機体上部に転移しようと上を見た瞬間、肩を掴まれた。


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