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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第12章
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第246話

コルト達は無人の魔王城の中を掛けながら、魔神ないし魔王を探していた。

最初に一度来たことのあるハウリルの記憶を頼りにまずは玉座の間に行ったのだが、中には誰もいなかった。

隠し通路なども探してみたが、どこをひっくり返してもそんなものはない。

そうなったらもう手当たり次第に探すしか無い。

手分けするにも何があるか分からないこんな場所で別々に探すわけにも行かず、ラグゼルの王宮にも劣らない広さの魔王城内で、コルト達はかなり手間取っていた。


「ダメだ、壁にも床にも何も無い」

「こちらもダメです、何もありません」

「くっそぉ、コルトはどうだ?」

「おかしな空間は今のところ見つからない。あとやっぱり僕の能力がかなり制限されてる」


機能自体には問題無いが、有効範囲がかなり制限されていた。

具体的にはコルトを中心に半径2メートル以内だ。

その外に干渉しようとすると弾かれてしまった。

ついでに通信機も2メートル以内でないと繋がらなかった。


──恐らくこの魔王城は世界から切り離されてる。地上のルールが適用されてないダンジョンってところかな、だから僕のことも好きに邪魔できるってことか。腹立つな。


このまま無為に探し続けても埒が明かない。

そう思っていると、ハウリルのほうも同意見らしく一度ルーカスと合流しようと提案してきた。

コルトとアンリは同意を示し、3人で戻ろうとすると噂をすればなんとやら。

目的の人物が部屋の扉から顔を出した。


「お前ら、状況は」

「玉座には誰もいなくてっていうか、お前大丈夫かよ!」


袖と腹部の服がズタズタで血塗れな事から、間違いなく一度は切断されている。

転変で変わった部分もそのままだ。


「多少消耗したが、まぁ誤差の範囲だ。あと一応まだ正気だ、何かに強い衝動があるって事もねぇ」

「気を付けろよ」

「分かってる、それでこれからどうする気だったんだ?」

「このまま無闇に探し続けても仕方がないので、魔王城に精通しているあなたと合流しようとしていたところでした」

「僕の能力が極端に制限されてて地道に探すしか無かったんだよ、魔王がいそうな場所とか心当たりないの?」


ルーカスはしばらく考えたあと、もっと奥に魔王が使用している私室があると言ってきた。

歴代魔王のみが入ることを許された部屋で、ルーカスも中に入った事は無いらしい。

母親や他の魔族が入ったところはもちろん見たことがなく、ルーカスも決して近付くなと言われていた。


「なんでそんなあからさまに重要そうな部屋の存在を先に言わないんだよ!」

「俺の部屋から離れてるから忘れてたんだよ。あの辺りは100年以上近寄ってねぇ」

「……なら仕方ないな!」


100年という数字が出てきて、アンリはあっさり引いた。

でもそんな怪しい部屋があるというなら行く価値はありそうだ。

4人は真っ直ぐにその部屋に向かった。

そしてついた扉は他の扉よりも頑丈で重そうな金属の扉だった。

試しにアンリが押してみたがびくともしない。


「おっも!?なにこれ」

「どいてろ、俺がやる」


そういってルーカスは両手をつくとグッと力を込める。

するとアンリがいくらやってもうんともすんとも言わなかった扉がゆっくりと動き出した。

そしてルーカスでも通れるくらいまで開くと、そこから先はひとりでに開いていく。

中は真っ暗だ。

コルト達はルーカスを先頭にして部屋の中に足を踏み入れた。


──この部屋、空間が拡張されてる。当たりだ。


予想した間取りからは考えられないほど部屋の中が広い。

そして全員が部屋の真ん中までくると、突然背後で重い音が鳴り、外からの明かりも閉ざされ真っ暗になった。

すかさずルーカスが火球をいくつか生成し光源を作ると同時に、入口から順々に壁に掛かった松明に火が灯され、最後に部屋の一番奥の松明が照らされると椅子に座る魔王が現れた。

コルト達は同時に身構えて警戒するが、魔王はコルト達を見据えたまま動かない。

どういうつもりなのかは分からないが、少なくとも魔神の力に溢れたここに招かれたのだ。

いきなり攻撃されることはないだろうと思い、コルトは前に出た。


「魔神はどこだ」


コルトが問うと、魔王はゆっくりと立ち上がった。

そして座っていた椅子をぞんざいに隅に投げると、背後の壁が揺らぎ扉が現れた。


「我が母、シャルアリンゼ様はこの先におられる」

「招くつもりなら最初から迎えに来いよ」

「我が母を傷つけようとする敵を、何故迎えに行かねばならぬのか。しかもその様子では議会の者たちは足止めにも対して役に立たなかったらしい」

「何言ってんのこいつ」


決めたはずの話と魔王が全然違う話をしたため、アンリが不満そうに呟いた。


「親父、なんで一人だけ残された。お袋が心配してたぞ」


その不満を引き継ぐようにルーカスが一歩前に出る。

魔王はルーカスを一瞥すると、再びコルトに目を向けた。


「共神とその眷属は扉の先を行くがよい。我が母が待っておられる」

「おいっ、親父!聞いてんのかよ!」


無視されて吠えるように怒鳴るルーカス、だが言い終わると同時に一陣の風と共にコルトの横から気配が消えた。

そして背後から響く激突音。

振り返らなくても何が起きたのかは明白だ。


「凡百の魔族達は気付かぬが、魔王とは贄ではない、番人だ。魔神、我が母、シャルアリンゼ様を守るための番人である。例え我が子であろうと傷付けようとするものを通すわけには行かぬ」


気迫の籠もった顔で魔王は断言すると、真っ直ぐコルト達の正面に立った。

それを見てハウリルがどうするかコルトに伺ってくる。

すると、背後のルーカスが先に行けと口を挟んできた。


「それじゃまたお前を置いてく事になるだろ」

「はっ!魔王にも退場願わねぇといけなかったんだ。丁度いい、ここで蹴りつけてやるよ」


口元についた血を手で拭いながら、ルーカスは再びコルト達の元に戻ってくる。


「行け。これは俺の戦いだ、俺がやらなきゃいけねぇ」


真っ直ぐに魔王を見据えて言い切るルーカスに、アンリは息を飲み、そして分かったと小さく零した。


「行こう」


コルトが促すと2人は頷き、3人は魔王の横を駆け抜けると、背後の扉に手をかけた。

そして中に3人が完全に入ると、自動的に扉が閉まっていく。


「ルーカス」


コルトは”名前”を呼んだ。


「お前は僕の”ただ一人”の他人だよ」


返答は無く、顔も見えず、そして扉は完全に閉まった。






完全に閉ざされた扉は、そのまま壁に溶け込むように消え失せた。

ルーカスはそれを見届けると、含むように笑った。


「何が他人だよ」


これだけ時間を共にして、散々こき使われてやったのに、友でも仲間でもなく”他人”である。

だが不思議と嫌悪感は無い。

神と呼ばれる存在に”ただ一人”と認められたなら、それは至上の何かだ。

ルーカスは深く息を吸い込んで吐き出すと、己の宣言を実行すべく、気合いを入れた。

相対する実父、魔王もそんなルーカスを見て魔力を迸らせている。


「ルイ、お前を共族領の東でロストしたと聞いて、私はほっとした」

「そうかよ、そりゃ残念だったな」

「残念だったよ。これで我が子を使わずに済むと思ったからな」

「………」


どういう意味の言葉なのか聞きたくもない。

代わりに床が抜ける勢いで踏み込むと、そのまま魔王に殴りかかった。

だが届くと思った拳が届かない。

部屋が何故か急速に拡大して、魔王との距離が開いていく。


「何だ!?」


そればかりか壁、天井も完全に消え失せ、晴天の下に晒された。

ついで床も消え失せ、透明な板のようなものが残り落ちることはないが、下が丸見えだ。

部屋の高度も変わっていたらしく、魔王城がかなり下に見える。

そしてかすかに正面の階段下で魔族が争っているのが見えた。

だがそこでルーカスは飛んでくる何かに気付き、寸前でそれを頭を下げて回避する。


「よそ見をしていると思ったが避けたか、見ない間に随分と成長したようだ」

「気配読めねぇ奴らの中にいたからな、魔力ガンガンの奴の攻撃が分からねぇわけねぇだろ」

「ふむ。その腰の武器含め、随分と共族にかぶれたようだ」

「親父達がそうなるように俺を育てたんだろうがよ!」


ルーカスは吠えると再び踏み込んで一気に距離を詰めると、周囲にいくつも火球を生み出し、殴りかかると同時に全弾打ち込んだ。

当然そんな程度で仕留められるとは思っていないし、向こうも当然のように拳を受け止めながら火球を同じ火球で迎撃している。

それを見てルーカスは一度距離を取った。


──魔力量はほぼ同じ、さてどうするか。


どうすると考えながらも、迷うこと無くルーカスはさらに転変を進行させた。


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