表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第11章
239/273

第238話

「やっぱさ、魔物を倒した数が良いと思うんだよ。討伐員やってたから分かりやすいし」


資源を与えるための条件を何にするか。


これについて考える事になり、真っ先にアンリが上記を提示した。

魔物の討伐による報酬は、教会もやっていた事なので確かに南部の多くの魔力持ちには馴染みがあり分かりやすい。

現在の階級制度などもそのまま流用できるだろう。

確かに良い案に思えるが、問題点も多々ある。

それについてはコルトよりも先にハウリルが提示してきた。


「現在の制度をそのまま流用できるのは良い点だと思いますが、そうなると魔族による魔物の独占になり、共族の立場が弱くなると思います」

「えっ、なんで?魔物ってルーカス見て怖がるけど、別に従ったりはしてないじゃん」

「そうではなく、魔人は魔物を感知できるのでその能力で共族領の魔物を根こそぎ排除したあとは、魔族領で独占できるという話です。こちらの魔物は魔族が運んでくる存在なので、供給が途絶えればこちらの魔物はいなくなりますよ」

「おぉ、なるほど、たしかに……。ならこっちでそれ用に魔物を育てるのは?」

「今の今までズモウ以外の魔物の家畜化が成功した例はありませんよ」

「魔族にやってもらうのは?」


飼育係に魔族をこの場の魔族代表ルーカスにアンリが聞くと、即答で無理と答えが返ってきた。


「強い魔物程知能高くなって反抗的で言葉喋る奴もいんのに、家畜化なんて無理だろ」


それを聞いてコルトは即座に家畜化を却下した。


「知能が高い生物を殺すためだけに育てるのって精神にあんま良くないよ」

「そういうものなのか?」

「今は情勢的に大丈夫かもしれないけど、平和になると必ず揉めると思う」

「ふむ、恒久性は無さそうですね」

「そもそも魔狼みたいな雑魚の死体積み上げて、それが資源受け取りの報酬になんのか?」


魔族を働かせる事を前提としているのに、共族が飼育可能な魔物程度の討伐ではダメだろう。

有用な資源の入手法が簡単なのはそれはそれでどうなのか。

ぶっちゃけた話、強い魔物の討伐で魔族の数が減ってくれると嬉しいなと少し考えているコルトである。

そんな不埒な事を考えていると、ハウリルが1つ確認があると言ってきた。

何かと問うと、これに魔神を巻き込めないかとの事だ。


「神から報酬を得るための方法を考えているのです。なら魔神に討伐対象の魔物を用意していただき、そこに報酬を紐づければいいのでは?」


この魔物を倒せばこれが得られる、というのは分かりやすい指針にもなる。

すると、ひっそりと傍で見守っていた機械人形が口を挟んできた。


【それを”戦争”の代わりするのはどうでしょうか?】

「……なるほど」

「いっそ魔物の設定自体もコルトさんが口出せば、さらに評価としても盤石になるのでは?」

「魔人を殺すためにコルトが何出してくるか不安しかねぇんだが」

「そこは魔神が……。コルトさん、お手柔らかにお願いします」


魔神が手心を加えるかもと言おうとして、考え直したハウリルだった。

それより、コルトが魔人殺害を狙った魔物の生成をしてくる事をこの場の全員が疑っていない事に、若干不満が湧いたコルトだったが、つい先程まで数減らないかなと考えていたので何も言えなかった。

でも、神側が討伐対象を用意してそれに報酬を付随させるのは決定で良いような気がする。

魔族の戦闘評価も一緒に行えるなら一石二鳥だ。

これなら魔神も拒否する可能性は低い。


「それなら後は場所をどうするかですね」

「折衷案で神の居城の中立地帯しかねぇだろ」

「人が無闇に立ち寄れないように、移動式にするつもりなんだけど」

「なんでそんな面倒くせぇ事を…」

「そうすると、また専用の場所を作っていただくしかないように思いますが…。どちらの土地に作っても、文句がでますでしょう?」

【弊ネットワークはそれはそれで問題が出ると予測します】

「例えば?」

【専用のフィールドであろうと、必ず拠点は必要になります。そして拠点ができれば自ずと人が集まります】


討伐要員を対象にした商売をしにくる者がやってくる、そしてその者たちが寝食する場所も必要になり、やがてそれは街になる。


【強い魔物の被害を非戦闘員に及ばないようにする環境を用意できますか?】

「出来るけど、うーん……」


周囲から見える状態にすれば、それを興行にしようとする輩が出てくる。

つまり闘技場化する。

あまりそういうモノをコルトから積極的に打ち出したくはない。

殺しを見世物にしたくないからだ。


「閉鎖環境で外からも中の様子が見えないのは絶対条件。そのくらいはこっちが用意してもいいかな」


資源を報酬とした魔物を討伐するための閉鎖された人工島。

なかなか良いような気がしてきた。

が、ここで機械人形がさらに問題を指摘してきた。


【広さについてですが、今までの魔人の戦闘記録からかなり大規模な物が必要になります。土地面積は確保できますか?それと場所が一箇所だけでは、一部の者の独占になります】

「ぐああああ、そうだ。そうだね、うん。そうだね!」


島となれば入れる人数も限られ、結局は一部の者の独占になる。

必要な資源がそこからしか手に入らないとなれば、後は言う必要は無いだろう。

そして広い土地。

魔神がどんな魔物を用意するかは分からないが、亜人の例を考えると街1つ分は欲しいかもしれない。


「各地に点在させるしか…。でも街1つ分の土地、大地が足りないよ!?」

「えっ、ここまで考えてやっぱ無し!?」

「魔物を倒すというアンリさんの大元は良いように感じたのですが、神の力でなんとかなりません?」

「簡単に言いますね」


ぶっちゃけ無くはない。

土地が無いなら作れば良い。

空間が無いなら広げれば良い。

魔物討伐専用の異空間。


すでに精神だけ別の空間に飛ばすことはやっていたのだ。

肉体も一緒に別の場所に飛ばしても今更だろう。


「できそうな雰囲気ですね」

「出来ますよ、専用の異空間を作ればいいので。でも、うーん」


どこまで管理者として力を行使してもいいのか。

少し悩んでいると、アンリがちょっといいかと聞いてきた。


「なぁ、それって私も参加できるよな?なんか、魔族専用みたいな感じになってない?」

「……だって危ないよ?」

「それは分かってるけど…、安い報酬なら簡単な魔物だろ?それなら私でもできると思うし、というか私はそれしかできないし…」

「そんな事ないよ、これから人手はどんどん必要になるし、危ないことは全部魔族にやらせればいい」


そう言うと脳天に衝撃が走った。


「いった!?何すんだよ!」

「手が滑った」


固く握り込まれた拳を掲げながら、真顔でそんな事を言うルーカス。

どう見ても手が滑ったなんて嘘だ。

抗議しようとするが、その前にルーカスがアンリを呼んだので開きかけた口の中の空気が行場を失ってしまった。


「アンリ、そんな曖昧な理由じゃこいつには伝わらねぇぞ。やりたいか、やりたくないか。お前がどうしたいか。それを言わねぇと、こいつは一生押し付けてくるだけだ」


ルーカスのその言葉でアンリの目に力が籠もり、そしてガッシリとコルトの両肩を両手で押さえつけてきた。

そしてしっかり視線を合わせられる。


「魔族が持ち帰ってくるのをただ待ってるだけなんて嫌だ。私は共鳴力が無いからリンシアみたいに何かを作ったりできないし、魔族と比べたら魔力だって超少ない。でも、私は魔族領に住むんだろ、お前がそう言ったんだし、私もそれが良いって思った。だから、魔族がやる事を私もやらないとダメだと思う。そうしないと、私はいつまでたってもどこに行っても余所者のままだ」


居場所が欲しい。

ただそれだけ。

だが、とても大事な事。


コルトは自然と眉間に皺が寄ってしまった。

自分を受け入れてくれる場所があるかないかで、様々な事が変わってしまう上に、それを無条件で得られるなんて事は極稀で、どう考えてもアンリの場合は無条件はあり得ない。

だからこそアンリは魔族と同じ、とは言えなくても近いことをしたいと思っているのだろう。


でもコルトもそれが分かっているからと言って”はい分かりました”と簡単に首を縦に振ることはできない。

コルトが監修するつもりでも、魔神が作る魔物がどんなものになるかは分からない。

安全も何も保証できないのだ。


そうやってしばらくアンリと無言の応酬が続いていると、ハウリルが共族が参加しないのはあり得ないと口を挟んできた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ