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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第11章
236/273

第235話

半年のやるべき事が決まると、早速一部は帰りたいような素振りを見せ始めている。

それもそうだろう。


かなり大規模な事業になるので、手を付けるなら早ければ早いほうが良い。

だがコルトはそれに待ったをかけると、魔王を見た。


「そっちの要求を飲んでやるんだから、お前らもこっちを手伝え」


すると、魔王は共神的にはさっさと我々に帰ってほしいのでは?と言ってきた。

それはそうだが、仕事もせずに報酬だけ受け取って帰るのは絶対に許さない。


「報酬は働きに対して支払われるんだよ!働かないならお前ら全員生体電池にするぞ!」


そう脅すと、補足するように機械人形が電池とはと説明を入れている。

彼らは電池については技術の概念がないので理解できなかったのが、いつぞやの竜人のような生贄だと解釈したようだ。

かなりの不快感を示している。


この面子なら南部なら街1つにつき一人でも十分な発電機になる。

北部も合わせると一人足りないが、もぐらは固有の拠点をまだ持っていないので、事が済んだら適当なのを捕まえてくればいい。


親しい魔族がいるラグゼルとヘンリンが非人道的過ぎる等の声を上げているが、コルトは無視した。

魔族の扱いなど知ったこっちゃない。

ふんっと鼻で笑うと、獅子頭がニタニタとした笑みを浮かべてきた。


「ウチも大概だが、こっちの神もおっかねぇな。それがいつか自分とこに向かねぇように気ぃつけろよ」


外に向けた力はいつか内にも向くぞと減らず口を叩いている。

全く持って余計なお世話である。


【それで、お手伝いいただけますか?】


コルトがなんて言い返そうか考えていると、先に機械人形が魔王に圧をかけた。

各地のサポートに回す機体配備計画をさっさと立てたいらしい。


「断れる状況ではないだろう」

【では貴方達も補強計画に組み込みます】


すると何体かの機械人形が会議室から出ていった。

情報送信のラグはほとんど無いはずなので物理的な人手確保だろうか。

コルトはそれを視線だけで見送っていると、機械人形がコルトを呼んだ。

何かをやらせるつもりなのかと思っていると、発音されたのは、簡単に言うと”ここから出ていけ”だ。

この後は共神がいる理由は特に無いので、さっさと部屋に戻れと堂々と言ってきた。


「なんか事あるごとに僕を追い出そうとしてない!?」

【現場の会議に現場を知らない上役がいると進行が遅くなると、よくロンドスト開発事業部が嘆いていました】


現場知りませんよね?と言われて、コルトは何も言い返せなかった。

それはそれとして機械人形のこの言い分が、コルトはとてもムカついた。


「生身の人間関係のあるあるを機械が持ち出してくるの、腹立つぅ」

【記録係やサポートとして弊ネットワークも同席しています。当事者ではなくとも、現場にはいました。ところでこの時間は無駄です】

「はいはい、分かったよ、もう!」


とにかくコルトに早く出て行って欲しいらしい。

機械のくせに本当にムカつく存在だが、今消すと不利益しか無い。

コルトは忌々しい思いをしながら退出するべく立ち上がった。


「決定事項の報告書はお前がまとめて後で出せよ!!」

【ご希望なら読み上げも行います】

「いらないよ!」


機械のくせにどうしてここまで余計な一言が多いのか。

コルトはプンプン怒りながら会議室から出ていった。






「ただいま!」


控室に戻ってそういうとアンリが駆け寄ってきた。

そして胸ぐらを掴まれる。


「うっうわぁ、なっ何、どうしたの!?」


何か大変な事が起きたのかと聞こうとすると、アンリがキッと睨んできた。


「コルト。ルーカスにも変な事しないよな!?そのっ、デンチ?とかいうの!」

「えっえっ!?しないよ!?」


あれは半分以上が働かせるための方便みたいなものだ、と一応弁明してみたが、アンリは本当か?と訝しげにコルトを見ている。

信用が無い。


「本当だって!本当にルーカスには何もしないよ、いなくなられたらアンリの後ろ盾がなくなっちゃう!」

「アンリのためってのが説得力強ぇな」


当の本人であるルーカスは、モニターの前で胡座を掻き、膝で顎肘をついてこちらをみている。

アンリはその姿を見て余計に憤慨している。


「逆にルーカスはなんでそんな余裕そうなんだよ!お前の父ちゃんや母ちゃんがなんか教会の偽の神みたいにされるかもしれないんだぞ!それをコルトがするってのもやだし、ルーカスの両親がそうなるってのも私はい、や、だ!」


嫌を強調するように言ってアンリは腕を組んだ。

怒っているよポーズだ。

コルトはしないよと引き続き弁明しながらも、ちょっと困ってしまう。

すると、ルーカスが何故かコルトの味方をしてきた。


「アンリ、あんま心配すんな。コルトは口ではギャアギャア喚き散らすが、意外と行動は…まぁ理性的だ」

「その間は何!?」

「何回か理性飛ばしただろお前。それはともかく、実際何かを消そうと思ったら、意外とこいつは躊躇するんじゃねぇかって俺は思ってる」


意外な言葉だった。

コルトの魔族嫌いは、当の魔族が共神本人と当たりをつけられるくらいの筋金入り。

言動がそれなのでいざとなれば躊躇しないと思ってもおかしくないが、ルーカスは真逆のようだ。


「”それ”が実行された時に共族が負の感情を抱くのは本意じゃねぇだろ。多分、これは結構デカいんじゃねぇか?さっきのアンリのためって話にも繋がるけどよ」

「はっ?共族が悲しもう嘆こうが、害になるなら消すけど」

「害になるならお前が反応する前に共族自身が行動すると思うが…。今は関係ねぇ、共族にも利がある存在ならお前は割と理性が働くんじゃねぇかってな」

「はぁ…何を根拠に言ってんだよ」

「俺の直感に決まってんだろ。俺もラヴァもまだ死んでねぇ」


そう言ってルーカスははっはっはと笑い始めた。

それが根拠になると本気で思っているならバカバカしい。

だがルーカス自身は本気のようだ。


「お前が親父達を強引にこっちに残らせて手伝わせたのは良いと思うぜ。親父達は共族を知らねぇし、共族も魔族を知らねぇからな。それでお互いに適度な距離で共存できる可能性ができれば良いと思ってる、これからは絶対に必要になるはずだからな」


お互いの種族はお互いの存在を認知してしまった。

これはもう元には戻せない。

拒絶は存在せず、共存か滅びか、どちらかしか道は無い。


「祈っとこうぜ、誰も殺さなくて済むようにってな」

「戦闘用として作られてるくせによく言うよ」

「生まれた種族は変えられなくても、戦場を選ぶ権利を取られた覚えはねぇよ。ここに俺の戦場は無い」


そうキッパリとルーカスは断言した。

両膝を両手でパンッと強く叩いてあまりにも清々しくそう宣言するので、コルトはなんだか面白くなった。


「望む戦場も、相応しい戦場も作ってやるつもりは無いから、一生燻ってろ」


そう言い返すと、ルーカスは大笑いし始めた。

アンリもそれを見て毒気を抜かれたようだ。

腕組みをやめてモニターを見た。


「お前らが良いならそれで良いけどさ。じゃあ、みんなでこれ見るか?」


親指で会議室が写っているモニターを指さしている。

画面の向こうでは機械人形が進行役を努めながら、各地域の情報をまとめどこにどの魔族を派遣するかを話し合っている。


正直コルトはどうでも良くなっていた。


どうせ会議には干渉できないし、あとで機械人形が報告書を持ってくる。


「別にもう良いかな、魔力もここじゃ使えないし。それより、そろそろハウリルさんがどうなった様子を見に行かない?」

「行く!行くけど、もう行っても良いのか!?さっき断られたから言い出しにくかったんだよ」


さっきがいつなのかは分からないが、今はどうかと機械人形に確認をすると、まだ色々と検査中なので部屋の中には入れない。

なので、見たいならコルトが新規で外から見れる場所を作れとのことだ。

そのくらいなら片手間だ、大した事じゃない。


ついでになんでそんなにいろいろと検査をしているのか聞くと、魔族領という未知の地域からの帰還なので、各内臓状況から表皮についた微生物の確認など、あらゆる項目を調べているようだ。

ちなみにハウリルは相当疲労が溜まっていたようで、麻酔の準備はしているが今のところ起きる気配がなく、されるがまま。

つまり、寝ている間に体のあちこちを本人の預かり知らぬところで調べられている事になる。

そう言うと、ルーカスの体が一瞬ビクついた。

何かトラウマでも思い出したのだろう。


「コルト!」


アンリがすぐに部屋を作ってくれと言ってきた。

もちろんOKだ。


早速3人はハウリルを見舞いに部屋を出た。


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