小話
”一方その頃のアンリとルーカス
下ネタ有り、本編の流れには関係無い雑談、読み飛ばし可”
「ハウリル、大分調子悪そう……。やっぱ見に行っちゃダメか?」
会議室の裏部屋でモニターを食い入るように見ながらアンリが不安そうに常駐している機械人形に聞いた。
すると機械人形は別室で先に救護措置を取って安静状態になってから見舞いに行きましょうと提案を返してきた。
先ずはゆっくり休む方が先だと、アンリ達が今行けばそれどころではなくなると。
そう言われてアンリは小さな声で分かったと答えると、再びモニターを注視した。
モニターでは赤い女が赤竜から降りてきたところを映している。
「あっ、こいつらがルーカスの両親だろ!おっさんは色が同じだし、おばさんのほうは顔そっくりだし、ルーカスって母ちゃん似なんだな。……女の時にドンドン乳がデカくなったのも親がデカいからか」
横で寝っ転がりながら肘をついているルーカスとモニターを交互に見ながら、アンリはそんな感想を漏らした。
ルーカスはそれを適当に受け流し、アンリも気にせず引き続き好き放題な感想を漏らした。
「つーかどっちも尻尾あるじゃん!ネフィリスは鳥だからともかく、ラヴァーニャとバスカロンも尻尾あるから、尻尾無いのルーカスだけじゃん!」
そう言いながらアンリは身を乗り出して、反対側のルーカスの尻を確認しようとすると、ルーカスはねぇよと言いながら体を反転させて半尻を出した。
コルトがいたら絶叫しながら怒り狂う光景だ。
機械人形もおやめくださいを連呼しながら近寄ってくる。
「表に出る形質がどうなるかは親子でも関係無ぇんだよ。俺は尾が無ぇ代わりに鱗が多く出た」
「へぇ、尻尾欲しいとか思わなかったか?」
「今は思わねぇな。転変したときに尾が生えたが寝る時邪魔だし、こっちの服を着るなら無い方が良い」
「確かに、ラヴァーニャしょっちゅうケツ気にしてたもんな。アレで周りに気付かれてないと思ってるのは笑うけど、コルトくらいじゃね、気付いてないの。そういや一回リンシアに顔面から尻尾に突っ込まれて悲鳴あげてたよな、あれはウケた」
「はっはっは、無魔は気配読み辛ぇからな、ガキなら特に警戒が緩む。俺もアイツも向こうじゃほぼ全裸だが、それだとこっちでの活動に支障が出る。仕方無ぇから服を着るが、尾を通すのに穴開けなきゃいけねぇし、ラグゼルでもなきゃ鏡なんてねぇしな」
「だからお前見るのも見られんのも気にしないのか。でも服は着ろよ」
「見るのはお前らに合わせて配慮してやってんだろ。服は鱗や体毛が代わりになるから、着る必要がねぇ」
「いやいやそれ以外にも色々あるだろ」
「共族から離れた見た目になるほど強いってのが俺等魔族だし、隠してるほうが色々探られる。あと単純に個体差がデカすぎて作るのが面倒くせぇだろ」
「あぁ……」
アンリは今までにあった魔人のそれぞれの体格を思い出して納得した。
とにかく全体的にデカくて尻尾があるバスカロンに、上半身が筋肉質で全身が鱗に覆われたルーカスと、逆に下半身が筋肉質で尻尾があるラヴァーニャ。
そして全体的に細身でところどころに飾り羽のあるネフィリス。
着回すのは無理がある。
「確かに……、あと魔族って性転換するもんな。1人で2人分じゃん!」
「一応気軽に性転換できる奴する奴は極少数なんだが……。まぁ、あとは単純に作る技術がねぇ。糸が作れねぇんだよ、糸のためだけにアラクネの巣に乗り込むのはその辺の奴には割に合わねぇんだわ」
「でも草とか魔物の毛とか糸の材料って結構あるじゃん」
「大した必要性のねぇ服を作るための布を作るための糸を作るための……って、めんどくせぇだろ。工程が多すぎる割に見返りが少ねぇ」
「じゃあ革……も魔族には面倒くさいか」
「皮はキショい」
生き物の皮を革に変える工程が面倒くさいし、他の生物の肉を覆っていた皮を身にまとう事に嫌悪感があるようだ。
今まで気にした事がなく、それで生計を立てていた事もあったので新しい視点だった。
「とりあえず服が作れないのは分かったけど、……じゃあお前の両親が一応服っぽいのを着てるのは」
「こっち来てから用意したんだろ。だから1日開けた」
「全裸で来たらコルトが間違いなく大激怒するもんな」
「布一枚で回避できんなら安いもんだぜ」
怒ったコルトはめんどくさいのである。
2人してうんうんと頷いていた。
だがここで、ふと、アンリが余計なことに気がついた。
「ってことはアレか、ハウリルってチンコ丸出しの集団のとこに行ってたのか!」
「イロモノ集団みたいに言うな、一応魔王城内は布が小さいだけで服着る文化あるからな。理由は分かんねぇけど」
「なんだ、服着ないって言うから、みんなぶらぶらさせてんのかと思った」
アンリがケラケラと笑った。
「それも個体差あるぞ。普段は収納されてる奴とかいるからな」
「なにそれ!?」
「魚類系とかの中には穴が全部一緒の奴がいてな、その中に生殖器も一緒に入ってる」
どういう状態だとアンリは興味津々になった。
だが、同時に再び機械人形がおやめくださいと警告を発し始める。
【それ以上はおやめください、センシティブ警告です】
「せんし…てぃぶ?なにそれ」
【慎重さが求められる話題です。以前のロンドストでも生殖関連の話題は人を選ぶものとして、公共の場での発言は遠慮されていました。特に子供にする場合は教育と認めらる場合以外では虐待が適用されます】
「別に問題ないじゃん。ここロンドストじゃないし、私は子供じゃないし」
【共神の倫理観はロンドストの基準に近く、残念ながら貴女の年齢は子供に該当します。基準は肉体の成長が止まる二十歳前後で、貴女はこの基準で子供に該当します。そのためこのまま続ければ共神にあとで知られた時に、怒りを鎮める作業が発生します】
アンリとルーカスが同時に発狂したコルトを宥める場面を思い浮かべた。
「……まぁ、ここはコルトのテリトリーだからな、アイツの基準に従っとくのが無難か」
「こんなに頑張って色々やったのに、まだ子供扱いなのかよ!」
「やった事より肉体の成長依存ならしょうがねぇだろ。アンリはまだ未成熟のガキだ」
「あぁもう!!」
未だに子供扱いされてアンリは悔しいようだ。
だが冷静になったルーカスが真面目なツッコミを入れた。
「つぅか、何でお前はそんなにちんこの話に食いついてんだよ。教会区はそういうの隠してただろ」
アンリは一瞬真顔になり、それから開き直った顔をした。
「そりゃ町中でチンコ丸出してる奴とか頭おかしいからな。でもさ、チンコの話面白いじゃん」
「否定しづれぇな」
いつぞやの酒の席で下ネタで羽目を外しすぎた事を思い出しながら、ルーカスは同意を返した。
そして警告したにも関わらず、まだ話を続けようとする2人を観測した機械人形は、静かにお菓子を取り上げ共神に言いつけるぞと最終手段に出る。
会議室では共神と魔王が一触即発の緊迫した空気を作っている中、控室では共神にもっとも近しい共族と魔王の子がお気楽な下ネタで無機物に怒られているのだった。




