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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第11章
232/273

第232話

2体の巨竜がゆっくりと目の前に降り立った。

何度か見たことのある黒竜と、初めて見る赤竜。


数十体の機械人形を背に、コルトはそれらを出迎えた。

その隣でフラウネールが機械人形に羽交い締めにされている。


最初にその背から降りてきたのは、ラヴァーニャとその肩を借りたハウリルだ。

降り立つと同時に膝から崩れ落ちるようにハウリルがへたり込むと、フラウネールが身を捩って脱出し、駆け寄るとハウリルを助け起こした。


「ハウリル!」

「あぁ、兄さん。おひさしぶりです」

「何を言ってるんだ、心配してたんだぞ。姿を見せなくても、ここのどこかにいると思っていたのに」

「わたしが、そう望んだので」

「どうして」

「必要だと…思ったから……です」


そのまま力尽きて眠ってしまったハウリル。

フラウネールは眠ってしまったハウリルを抱きしめ、コルトを睨みつけた。


「何故弟1人にこんな無茶な真似を」

「僕のテリトリーに不純物を招きたいなら、そのくらいの覚悟はして欲しい」


そう言ってコルトは機械人形にハウリルを回収して休ませるように指示を出した。

フラウネールはハウリルの引き渡しを最初は拒否したが、滾々と引き渡すようにその必要性などを説明されて、結局は大人しく引き渡し、ハウリルは担架で運ばれていった。


コルトはそれを静かに見送った。


「それでもさすがにここまでは想定外なんだけど」


ラヴァーニャに視線を移してそういうと、不遜な魔人は鼻を鳴らした。

そしてラヴァーニャが答える代わりに、赤竜から何かが降ってくる。


重量のある着地音をさせて降ってきたそれは、毎日のように見ている色と同じ色をしている。

だが造形はかなり異なった。


まずあいつと違って鱗に覆われた長くて太い尾を持っている。

そしてそれ以外の人体部分の体表を覆う甲殻鱗は、布地から見えているだけでも半分程しかない。

向こうは頭部以外のほとんどを覆われているので、背後の尾にさえ気付かなければこちらのほうがまだ人に近いだろう。


──あぁ、こいつが。


今も部屋で寝そべりながら暴食をしているだろうあいつの父親。

すなわち、当代魔王。

全身の色味は生き写しだが、顔はあまり似ていない。

こちらのほうが雰囲気だけは柔らかい。


そう思っていると、今度はその少し後ろに2体目が降りてきた。

こちらも尾を持っているが、魔王のものと比べて半分程の長さしかない。

だが鱗の量はこちらのほうが多く、そして全身が赤みを帯びている。

その顔は一目で母親だと分かるくらいそっくりだった。


続いてどうみても獅子が混ざった眼光鋭い老爺に、バスカロンとネフィリスが続いて降りてきた。


そして全員が揃うと、一斉にコルトの前に片膝をついた。


──キモチワル。


顔を歪めながらそれを見下ろしていると、魔王が口を開く。


「お初にお目にかかります。私は当代の魔王を承っております、ライゼルトと申します。貴殿の御高名は我が母より常々」


控室で寝転びながら暴食している奴の親とは思えない丁寧な言葉遣いと態度だった。

だが、正直言葉遣いは乱暴でも、裏表が無くそのまま好悪を示すあいつのほうがいい。

目の前の生物っぽい”ナニカ”は、丁寧な態度と言葉なだけでその目に浮かぶのは侮蔑だ。


「心にも無い事を行動で示せるその胆力の事は褒めてやるよ。でも僕はお前達の事はどうでもいい。あの壊れた管理者のせいで酷い目にあった。よくあれを母と呼べるね、虫唾が走る」


そう冷たく言い放つと、それを聞いた魔王は無言で立ち上がった。

ルーカスも目線はかなり高いが、それよりももう少しだけ高いだろうか。


「我らを生み出し長年の責務と愛故に壊れたあの方を母と呼び慕う事のどこがおかしいのか。貴方の被造物の中にも貴方を慕うものはおりますでしょう、その者にも同じ事をおっしゃるのですか?」

「僕達は管理者だ、情は必要ない」

「なるほど。聞きしに勝る、職務への忠実さだ」


それを聞いたコルトは、その部分の床を消失させるのをギリギリの理性で止めた。

魔神を母と呼びながら、”存在理由”を”職務”と矮小化するその程度の理解が腹立たしい。

一体どの口が物を言っているのだろうか。

やっぱり会議中はその辺にでも立たせておいても良いんじゃないかという気になる。

コルトは血がにじむ程に拳を握りながら踵を返した。


「時間が勿体ない早速始める」


共族達に一度席を立って離れるように指示を出すと、コルトはそれまで使っていた円卓を消した。

代わりに片側7人がけの長卓を生成し、共族側の後ろに人数分の椅子を生成した。

さらに共族側には所属を明記したプレートを置いて、強制的に席を指定する。

最初に転移してきた時と同じ並びなので文句は無いだろう。

そして各々がそれぞれ席につくと、数体の機械人形が茶菓子の乗ったワゴンを引いて部屋に入ってきた。

そして全員の前に並べていく。

当然魔族の各人の前にも置かれていくのだが、コルトはそれが気に食わず、手近な機械人形を睨んだ。


【何か問題がありますか?】


機械のくせに言外に、ありませんよね?と言いたげな態度。

とりあえず睨むだけにしておく。

そして配り終えた機械人形達が一礼して去っていくと、魔族達は早速手をつけ始めた。


「さすが共神の宮、たかが軽食でも風味だけでなく見た目まで豊かだ。我が母も我々も食をあまり必要とせぬせいか、食は疎かになりがちでね。聞くところによると、こちらでは食べ方までこだわると聞いている」


それを聞いた瞬間、再びコルトは理性を試された。

文句が濁流のように口から出そうになるのを押し留め、何とかギリギリ当たりライン手前と思われる言葉を吐いた。


「……食は生物の基本だとアレに伝えろ」


顔面を痙攣させながらそれを言い終えると、魔王は伝えましょうと1つ頷いた。

コルトは魔族がこの会議に乗る気になった理由を問いただす。


「わざわざお前が乗り込んで来たんだ。何を要求するつもりだ」

「要求も何も、勝手に話を進めたのはそちらであろう。我らは段取りのためにわざわざ来てやったのだ。我ら魔族と汝ら共族による我が母と貴殿の共同監視。その手前の種族戦争は我が元に参ったあの共族の発案を我が母と貴殿が承認したものであろう」


こちらに責任を押し付けるような言い方だが、コルトにも反論がある。


「戯言を抜かすな。元々アレが壊れて自力解決できないから、無関係のこっちを巻き込んだのが始まりだろ。あんな行き当たりばったりの計画しかできない奴が偉そうに物を抜かすな。お前達の尻をこっちが拭ってやってるんだ、わきまえろ」

「問答無用の技術の抹消を行った貴殿なら、我らの取れる手段が限られていることくらい、検討がつくと思いましたがな」


──ああ言えばこう言いやがって、この生き人形め!


痛いところを突かれてコルトは内心で悪態をついた。

だが内心にとどめていると思っているのはコルトだけで、その顔は負の感情を凝縮して歪んでいた。

明らかに良くない状態だ。


この状況を打破する者はいないか、一部の共族達が探りを入れ始めようとすると、声を上げるものが出た。


「お互いにその辺りにしてもらえないか。ここで喧嘩別れでもすれば、今までの全て、1000年以上の時が全て水泡に帰す。それはお互いに良くないだろう。バスカロンもなんで静観しているんだ、ヘンリンでの200年はそんなに軽かったのか?」


魔族との長年の付き合いが長いコルネウスがそう苦言を呈すと、あ゛ーとバスカロンが頭を掻いた。


「あー、軽くはないけどな」

「矛先が向くのが嫌なだけだろ。ライ、坊に会いたいなら素直にそう言えばいいだろ」

「………」


魔王がコルトから視線を外すと、赤い女も目を伏せた。


「はぁ!?そんな理由で僕のこと煽ってたの!?」


そんな理由で嫌な思いをしていたのかと思うと、今すぐ控室に戻ってあの堕落した魔族を蹴り飛ばしたくなる。


「あいつは会いたくないって言ってるよ、諦めろ。信頼を裏切ったのはそっちだ」

「……そうか、そうだな。あぁ、失礼した」

「ホント失礼だよ、お前」


そう言い捨てるとコルトはグラスを掴んで一気に水を飲み干した。


「あぁもうくだらない。僕もう退席していい!?」


これ以上は付き合っていられないと言うが、機械人形が無情にもダメですと押し留めてきた。


【最低でも戦争中の魔神との接触をどうやるのかは決めていただかないと、作戦の人員配置に支障がでます】

「機械人形コピーしてゴリ押せばいいだろ」

【何をどうゴリ押すつもりかは分かりませんが、いずれにせよ南部以南では弊ネットワークの回線は届きません。ローカルでは処理速度が下がり、機体連結での並行処理で同じ速度を出すには874機が最低必要です。現実的ではありません。基幹部の移設も戦場になることが予想される南部に】

「あぁ分かったよ!残ればいいんでしょ、残ればさぁ!」


コルトはため息をついて背もたれに寄りかかった。


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