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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第11章
230/273

第230話

「やらかしたーー!!!!」


再度の休憩を言い渡したコルトは、部屋に戻るなり頭を抱えてしゃがみ込んだ。


一通り説明したあと、セントラルが明らかに返答に困り始めているのを見かねた機械人形が休憩を提案してきたのだ。

というより、コルトがいない状態になったほうが良いと判断したようだ。

実際モニターを見ているルーカスが、悪くない流れだと言っている。


「お前の中身がかなりポンコツな事が伝わり始めた」

「それのどこが良いんだよ!!」

「神が頼りねぇなら、嫌でも南部の話に耳を傾けなきゃいけねぇだろ」

「ぐぅ、複雑だ」


お互いに歩み寄ってくれるのは嬉しいが、己の失敗がきっかけというのが複雑な気分だ。

コルトはため息をつくとどっと疲れを自覚してしまい、そのまま床に寝そべった。


「ハウリルさんにあんなに情報格差について言われたのに、帰ってきたらまた怒られちゃうよ」


メソメソしながらそう嘆くと、ルーカスはそれも気にすんなと言い始めた。


「どっかでお前が生まれた時点で付き合いの長さで格差は出る。どういう原理でお前が動いてて、どの辺りまで踏み込んでも問題無ぇかってのだって、十分重要な情報だろ。見ろよラグゼルの奴らを。絶対にお前に殺される事は無ぇって確信してるから、露骨に反抗的じゃねぇか」

「従順よりはいいよ…」

「それだ。セントラルの奴らはお前が忠誠を求めてると思ってる。だが、そうでもない事に気付き始めた。それは狂信者も同じみてぇだな」


ルーカスが親指で指しているモニターの向こうでは、セントラルの教主達が機械人形を交えて南部の面々にコルトについて今までどんな様子だったのかを聞いている。

それをリャンガ達も腕を組みながら聞いているし、狂信者達もチラチラと様子を伺っている。


「コルトを下がらせたのは正解だな、お前の目があると話し難いだろ、悪口みてぇなもんだからな。まっ、今後の必要な情報は渡してあるし、アイツらも馬鹿じゃねぇならお前がいなくても話は進む」


ルーカスは面白そうにモニターを見ながらそう語り、アンリが悪口言われるのは面白くないと反論している。

それで少しだけ心が軽くなるのを感じながら、コルトはモニターを注視した。


──確かに、僕がいなくても話が進むならそれに越したことはないんだよね。


自分がどう悪く言われようと、それで物事が良い方向に進むならそれでいい。

だがそれはそれとして気まずい。

これからあの自分の悪口大会が行われている空間に戻ると考えると、胃がキュッとなる。

コルトは後ろに倒れ込むと、戻りたくないと弱音を吐きながらお菓子の乗った皿に手を伸ばした。


「そんな事言ってる場合じゃないのは分かってるけどさ、自分の悪口言い合った場に戻るのって、凄く勇気がいることだと思うんだよ」

「えぇでも言われっぱなしはムカつくじゃん。私も村で母さんが外の人間だから色々言われてすっごくムカついたけど、母さんに何もするなって止められてんだよ。やっぱ一回くらい殴っとけば良かった」

「気持ちは分かるけど、暴力はダメだよ」

「けどさぁ」

「暴力で解決していいのは、その後も暴力で支配できる奴だけだぞ。力の差があんまねぇお前ら共族には向かねぇだろ」

「うわぁ、さすが魔族。いやな説得力」

「設計者に言え」

「やだよ、アレと会話したくない」


その瞬間、お菓子を皿ごと奪われた。

あぁーーーっと手を伸ばすが、寝っ転がった体勢では全く届かず、無情にも全てルーカスの腹の中に流し込まれていく。

そして空になった皿を見せられて、コルトは伸ばした手をその場に落とした。

言い返す気すら湧かない。

そんなコルトをルーカスは指についた砂糖を舐めながら見下ろしてくる。


「そんなに戻るのが嫌なら戻らなきゃいいだろ。あいつらだけで回んのが理想だと思ってんのはお前だろ」

「そうだけどさぁ、休憩って言ったっきり戻らないのはどうかと思う」

「変なところで真面目だな、別にいいじゃねぇか。いなきゃいないで都合がいいのは向こうなんだからよ」

「ルーカスに正論言われると反抗したくなるんだよね」

「……分かった、今からあの中に放り込んでやる」

「ああああ、待って!嫌だ、戻りたくない!」


襟首を掴まれそうになったところをコルトは自分史上最高の動きで回避すると、急いでアンリの後ろに回り込んだ。

だが、そのアンリにも今のはコルトが悪いと言われてしまう。


「無意味にルーカスに反発するのやめろよな。コルトのそういうところは面倒くさい」

「うぅ、ごめん…。でもこれはそういう生態というか、そういう条件付けされたプログラムというか……」

「コルト」


アンリに低い声で名前を呼ばれ、慌ててコルトは居住まいを正した。


「はいっ、すいません!戻りません!」

「よしっ!」


その宣言と共に部屋に常駐している機械人形が、正式に向こうにも通達すると確認を入れてきたので、肯定を返す。

そしてコルトは再び倒れこんだ。

今度はたっぷりの綿が入った大きなクッションの上にだ。


「はぁ、明日はどうしよう」


ぼやくように呟くと、耳のいい魔族が言葉を返してきた。


「何とかまとまれそうだし、何とかなんじゃねぇの」


他人事のように言っているが、明日は何が来るのか分かっているのだろうか。

そう思っていると、アンリもツッコミを入れた。


「そういうルーカスはどうすんの?明日もここに籠もってるのか?」

「そのつもりだ」

「親2人とも来んだろ?あっ、まさか会いたくないとか?」


アンリがニヤニヤしながら聞くと、ルーカスは無表情から少しだけ目を細めてそうだなと言った。

それを見てアンリが面白そうに肘でつついている。


「へぇ、ルーカスも親に会いたくないとかあるんだ」

「そりゃあるっつぅか、どういう顔すりゃいいのか分かんねぇんだよ、向こうは俺を騙してたんだぜ?」

「あぁ確かに、ちょっと気まずい…かも?でも、ルーカスは悪くないのに気まずいのも変じゃないか?」


アンリは腕を組んで首をかしげた。

ルーカスは眉間に皺を寄せて、口を引き結びながら唸った。


「気まずいっつぅか、怒りを我慢できるか分かんねぇんだよ。理解できるぜ?諸共消し去られるなら、そりゃ手段は選んでらんねぇよ。けどよ、それはそれとしてやっぱムカつくだろ」

「生まれる前から利用されてたんだもんなぁ」

「それはもうなんかこの際どうでもいい、隠されてたことのほうが気に食わねぇ」

「……そうなの?でもたしかに隠されるほうが嫌かも……」

「なんかモヤモヤすんだよな。それでまぁアンリじゃねぇが、一発殴らせろってのはある。多分それである程度スッキリするとは思うんだが、さすがにここで殴るわけにもいかねぇだろ。あとはまぁあれだ……、俺は魔王奪取を狙ってるからな」


そう言ってルーカスはお菓子の皿に手を伸ばした。

だが皿は空になっており、伸ばした手は空気を切る。

ルーカスは空になった皿を見て少しだけ落胆した顔をすると、それに気付いた機械人形が補充の連絡を入れ、程なくして大量のお菓子が運び込まれてきた。

そして再びお菓子を貪り始めるルーカス。

無限の供給なせいか遠慮がない、どれだけ食べるつもりなのか。


「だからまぁ俺は引きこもってたほうがいいだろ。それと、共族にもちょっと肩入れし過ぎちまってるし」

「それってダメなのか?」

「どっちつかずだからな。魔王になろうってのに、魔族をジュウゼロで選べないのはダメだろ」

「それ言ったら現時点でダメじゃん」

「それはまぁそうなんだが……、コルトを覚醒させて魔神にぶつける段取りはしたからチャラになんねぇか?」

「僕に聞かないでよ」


それは魔族に聞くことでコルトや共族に聞くことではないとコルトは一蹴した。

正直アンリの身の安全を保証できるだけの地位についてさえいてくれれば、ルーカスの魔族内での地位はどうでもいい。

とりあえず今は明日の会議でルーカスが表に出るつもりは無いことを確認しただけで十分だ。

コルトは再びモニターを注視した。


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