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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第11章
227/273

第227話

自分たちの創造神がさらに下位の人工物によって悲鳴をあげさせられていたとは露知らず。

各地の代表達は円卓に2名ずつ座り、その背後を護衛が固めながらお互いを無言で牽制しあっていた。


比較的余裕のある態度なのは南部の魔力持ち達だろう。

お互いにいがみ合っていたとはいえ、北部よりは早い段階で停戦状態に移行し、終戦への手続きが進められている上に、お互いにある程度意思疎通が取れている状態だ。


昨日もこちらに到着した段階で4国会談が自主的に開かれている。

南部は4国と言っても、この場では1つと考えてもいいくらいだろう。


それもあって北部の無魔達は余計にピリピリしていた。


山脈で分けられた土地は北部のほうが圧倒的に広く、残っている技術も多いにも関わらず、お互いの仲は最悪だ。

昨日も険悪な状態で機械人形の見張りが増員された程である。

またお互いのパワーバランスに差がありすぎるのも問題だろう。

圧倒的な力を持ったセントラルは固定の拠点すらないモグラが自分たちと同じ扱いな事が気に食わないし、神の意志を曲解していた狂信者達が同じ扱いなのも気に食わない。

モグラはモグラで今まで自分たちを虐げていた連中が同じ空間にいる事が我慢ならないし、セントラルがずっと昔から技術独占をしていた事も気に食わない。

狂信者達も言わずもがな……。


このままでは南部に取られてしまうのでは。

そうは思っていても、今更他と仲良くも出来ない。

そういうジレンマがあった。


コルトはそんな彼らの心中を察してため息をつく。


──荒れそうだ。


そしておもむろに立ち上がった。


「行くのか?」

「うん、全員揃ったからね。はぁ、気が重いよ」

「ごめんな、何も出来なくて」

「そんな事ないよ。会場の手配はアンリがいなくちゃできなかった」

「……その…ヤバそうだったらすぐ呼べよ!ルーカスと一緒に止めに行ってやるから」


そう言って少し離れたところで寝っ転がりながら菓子を貪っているルーカスを見た。

のっけから不真面目な態度で行かねぇぞと手を振っている。

さすがにアンリもしかめっ面になった。


「何でだよ」

「ハウリルがいないのがバレる。俺とお前がいて、ハウリルが出てこないほうがおかしいだろ。あいつらならいない理由を考察して、親父達が来るかもって思い当たってもおかしくねぇ」

「そっ、そっか……分かった」


しかめっ面からふくれっ面に変わったアンリに、コルトは少し可笑しくなってクスクスと笑ってしまう。

アンリはそれが面白くないらしく、膨れた頬がさらに膨れた。


「大丈夫、気持ちだけ受け取っておくよアンリ。これは僕にとっても試練なんだ」

「……分かった、気を付けてな」


不安そうな顔に変わったアンリにニッコリ笑いかけると、コルトは部屋を出た。

会議室に向かう道中で、ここ数日で一気に増えた機械人形がコルトの前後を固め始める。

まるで城内を移動する王族のようだ。

そして大扉の前に着くと、人間の近衛兵のように恭しく扉を開け放った。


──心もないのに人間の真似事とか、何の合理性があるっていうんだ、意味が分からない。


白けた目でそれを見ながらコルトは場内に足を踏み入れた。


扉が開けられた瞬間から一身に集まる視線。

立ち上がって頭を下げる者と、立つことすらしない者。

その心の内に興味は無いが、どうせ考えることなど共通している。


曰く、自分達の利になるか。


──ここからだ。明日魔族が来る前に、何とかして共族を1つにまとめないと。


コルトは拳を固く握りしめ、ただ1つ空いていた席の前に立つと、いつも通りに普通に座った。

大業な動作を取るでもなく、ただ普通にいつも通りに。


そして目の前を見据え、一言口にした。


「座りなよ、椅子を用意したんだからさ」


命令ではなく推奨。

でも受け取る側はどう思うか。

分かりきったそれをコルトは無視して、全員が着席するのを待った。

そして始まる無言の応酬。

誰が最初に口を開くのか。

コルトは先手を打った。


「初めに、色々言いたい事はでるだろうけど、僕は誰かを断罪するつもりはない」


すると場がどよめいた。

一番反応が強いのはモグラの面々だ。

リャンガが机に拳を叩きつけ、セントラルと狂信者達を指さしながら吠えた。


「ふざけるな!あんたは俺達がどういう目にあっていたのか、直に見ただろ!それなのに罰は無しだと!?俺たちが受けた屈辱も、そのために死んでいった仲間達も、どうでもいいって言うのか!」


コルトは目を伏せる事なくしっかりと叫ぶリャンガを見た。

怒り自体は正当なものだ。

彼らは生き残るために多くの代償を払ってきた、それは十分に理解している。

でもコルトはここでしっかりと自分の立場を示しておかないといけない。


「僕は世界を始めるモノ、支配していたのは完全に越権行為だった。罪と罰は人の主観で決められるもので、僕が干渉するべきことじゃない」

「無責任だろ!世界を作ったのはお前で、支配していたのもお前で、そのせいでこうなったのに、その責任から逃れるのか!?」


怒りに満ちた視線。

負の感情の電波で、一部も同調し始める。

コルトはそんな周囲にも怯まずに全体を見て、ゆっくりと息を吐いた。


「元を正せばスタートの時点で僕のやり方が間違ってた。その責任から逃れるつもりはない」

「ならっ!」

「だからこそ僕は僕の主観で罪と罰を決めて断罪するつもりはない」


はっきりとした口調で、この場の1人1人に目を見ながら断言した。

そして立ち上がってテーブルに両手をつく。

すると流石に怯んだのか、リャンガは唇を噛みながらも後ずさる。

もうこのまま空気を支配して一気に喋ってしまったほうがいいだろう。

コルトは勢いのまま喋り始めた。


「僕に断罪しろって言うなら、一律全員消去からの作り直しだよ!僕の基準なら、人間だけであの社会を維持できなかった、作り直せなかった、その時点で全部失敗だ!それなら次は失敗しないためにどうする?そんなの簡単だ。今までよりももっと強固に思想を縛ればいい。脳を作り替え、感情を排し、痛みも感じない、そんな人間に作り変える」


何人かが息を飲んだ。

魔族が何世代か完全に削除され、作り変えられている事を知っている南部の者達だ。

北部出身者は意味が分からないようだが、南部出身の尋常ではない表情にただならぬ気配を感じたようである。

コルトはそれを感じ取ると、ため息を付きながら肩を落として落ちるように椅子に腰掛けた。


「でも誰もそんなもの望まないでしょ、僕だってやりたくない」


投げやり気味にそういうと、共族達は視線を交わしあった。

お互いの反応を確認し、次に誰が何を言うのかの、自分達がどういう行動をすればいいのか。

その探り合いだ。

その間にコルトは視界の端でモグラを見た。

リャンガを筆頭に男達は全員悔しそうに拳を固く握り、唇を噛んで震えている。

ランシャも固く目を閉じて小さく震えていた。

悔しいだろう、悲しいだろう。

彼らの今までを思えば救いがなく、これほど報われない事もない。


未だ収まらないざわめきの中そう思っていると、聞き慣れた声が1つ上がった。


「では、何もしない事が貴方の責任の取り方だと解釈してもよろしいですか?」


声のほうに注視すると、案の定リンデルトだ。

心の内の敵意を完璧に隠してはいるものの、いつもと違って真面目な顔をこちらに向けて、コルトの返答を待っている。

コルトはゆっくりと首を左右に振った。


「いやっ、罰したりはしないけど、補償はある程度するつもりだよ。特にモグラの人達は決まった土地が欲しいはず、場所と年数はこっちで決めるけど不可侵の土地と必要最低限の設備をあげる」

「…モグラだけですか?」

「僕は個人を見ない、世界を特定個人の所有物にさせないために僕にそんな機能はない。それは組織にも当てはまるけど、今はたった7つだ。各グループに1つだけ臨んだ物をあげるよ」

「拒否と譲渡は?」

「可能だよ。ただし後から変更は認めない」


そういうとリンデルトは横に座るイリーゼと、後ろを見た。

全員目礼を返している。

それを確認したリンデルトは再度目線をコルトに合わせると。


「では私達ラグゼルは権利をアウレポトラに譲渡します」


そうあっさりと宣言した。

その瞬間、北部の者達が沸き立った。

特にセントラルは異様な怒気を滲ませている。


「神からの賜り物になんたる無礼か!」


ずっとずっと神の言葉をありがたいものとして受け取ってきて、それにより権力を誇っていた者達だ。

自分達の権威の象徴を目の前であっさりと雑に他者に引き渡されて、怒り心頭という感じだった。

だがリンデルトはどこ吹く風だ、にこやかな笑みを教主に返している。

そんな態度なものだから、セントラルは余計に激昂して顔を真っ赤にして口をワナワナと震わせている。

そして発声しようと教主が息を吸い込み始めたのをみて、コルトはため息をつきながら余計な事を口に出される前に口を挟んだ。


「僕が良いって言ったら良いんだよ、僕の心を慮るな。他の者達はどうする?別に今すぐ決めろとは言わない。仲間の元に戻ってみんなで決めたい人達もいるだろう。待つよ、権利に期限は設けない」


そう言って全員を見渡すと、セントラルも居心地悪そうに居住まいを正した。

さすがに神に楯突く気はないらしい。

そして場が落ち着くと、今度はコルネウスが発言権を求めた。

もちろん許可する。


「我が領に魔族が滞在している事はご存知だと思いますが、その者達によれば共族の土地は全体的に環境が人の住みやすいように管理されていると聞いています」


それを肯定し、ついでに管理を辞めると言うと北部が再びどよめいたので、それを手で制し、コルネウスに続きを促した。


「管理停止によって発生する災害を食い止めるのも権利の行使に値しますか?」


コルトは少し考え、結論を出すとコルネウスを見た。


「値する。環境変化によるものは恒常的なもの、これから君達が乗り越えていくものだ。ただし、大瀑布の埋め立てによって発生したものは権利には入らない。あれは管理とは関係無い、対策と修復は僕がやる。協力は求めるけどね」

「分かりました」


コルネウスが一礼を返した。

すると続いて待っていたかのようにフラウネールが次の発言権を求めてくる。

それでコルトは察した。

どうやら南部の者達は知りたいことを、発言が1人に被らないように口裏を合わせている。

最初のリンデルトが口火だろう。


「求めるものについてですが、大規模な地形の変更も可能でしょうか?」


コルトはどういう真意かと少し考えて、おおよその見当をつけた。

彼らは魔力に汚染されていない、この北部に来たいのだろう。


魔力持ちは魔法の行使や定住などでゆっくりとだが土地を汚染し、そこで育つ植物を変異させたり育ちにくくしたりしてしまう。

南部は魔物の入植もあり、大分汚染が進んでいる。

フラウネールが食料不足に悩んでいるのはコルトもよく知っている。


だが、コルトは首を横に振った。


「技術が進歩すれば海も山も越えられる、今ある地形の変更は認めない。魔力の土壌汚染は君達の選択の結果だから、君達が解決すべき問題だよ」


真顔でそう返すコルトをフラウネールはジッと見てきた。

コルトもそのままの表情でフラウネールを見返す。

先に視線を逸らしたのフラウネールだ。

分かりました、と静かに答えた。


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