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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第11章
224/273

第224話

【各地域滞りなく通達が終了し、現在人員と転移座標の選定が進行中です】


上空8000メートル。

アンリとルーカスに数十機の機械人形を連れて、とりあえず置いたプレートの上に3日で作り上げた議場。

その中心でコルトは機械人形からの報告を受けていた。

参加地域と組織は全部で7つ。

その全てにほぼほぼ強制参加の召集令状を機械人形に持って行かせた。


【目立って問題が発生しているのは、アウレポトラとルンデンダック。他は随行員の選定に入っています】

「アウレポトラは独立したばっかだから分かるけど、ルンデンダックは何で?フラウネールさん以外にいないでしょ」

【属人化しすぎていなくなると困る状態です。他にも選ばれるか否かで後が決まると、熾烈な権力争いが発生しています】

「人間らしいね。フラウネールさんがいないのは困る。期間中だけお前達が代行できるように調整して。他はギリギリまで揉めるようなら、フラウネールさんだけ来るように」

【了解しました。アウレポトラはどうしますか?】

「適度に話が進むように介入して、それでもギリギリまで揉めるなら適当に人員を選出して」

【了解しました。引き続き各地域の状況をモニターします】


そう言って各地の状況の連絡役を務める機械人形が立ち去っていくと、入れ替わるように別の機械人形が前に出る。

コルトが世界修正のために行う予定のものをリスト化して、各地域に配るために書類化したものを持ってきたようだ。


【こちら内容に不備がないかご確認をお願い致します】

「入力と出力の間に余計な処理を挟むわけでもないのに、不備なんか出ないだろ?」

【人体の構造上、紙の書類にすると情報が整理され、別の視点が生まれる可能性があります】

「………」


コルトは口を引き結んで差し出された書類を受け取った。

そして中身を眺めていく。

だが特に新しい視点は生まれなかったし、不備も無い。


「特に問題無いから、これをそのまま皆に渡して」

【了解しました。続いてこちらの書類ですが】

「他に何も言いつけてないと思うんだけど」

【魔族に渡す分です。こちらの気象環境が変化すれば南半球にも影響が出る可能性があります、また中央分離帯の穴埋めは魔族にも知らせるべきでしょう】

「……まぁそれはそうだけど」


頬杖をついて魔族のための書類なんて見たくないと匂わせてみるが、機械人形は華麗に無視して持っていた書類を無理やり押し付けてきた。

それをコルトは嫌々受け取って中身をチラ見する。

必要最低限だけが載った書類は過不足無く簡潔にまとめられている。

文句の無い出来に逆に不満を抱きながら、これで良いと書類を機械人形に返す。

だがその瞬間、スイッチが切れたようにそのまま机に突っ伏してしまった。

機械人形が慌てて駆け寄ってくる。


【お疲れですか】

「慣れないことやって疲れないほうがおかしいだろ」

【疲れない身体に作り変えなかったのですか?】

「地上に留まるなら人間に近い状態のほうがいい。感覚が離れすぎて、気付いたらまた独善に走ってたとか嫌だよ」


自嘲気味にそう笑った。

議場を作ってから連日、朝からずっとこの調子で機械人形の報告を受けている。

お互いに人間の規範から外れているので遠慮がなかった。

元々のコルトの体力を考えればすぐに疲れる事くらい分かっていたはずだが、議場を無から発生させた事ですっかり頭から抜け落ちていたのだ。

機械人形もコルトの体力について再計算をすると言っている。


【人間と同程度の疲労を感じるのですね、データを共有しておきます。本日はこれで終わりにしましょう】

「そうするよ……。ところで、アンリは元気?」

【体調に問題はありません。現在も厨房で議会期間中に出す食事の検討を続けています】

「そっか……」


ここまで一緒に来て欲しいと言って快諾を得たものの、ハウリルを魔族領に送ってから、アンリに一方的に気まずさを感じていた。

なので忙しさを理由に会うことを避けているのだが、いつまでもそんな甘えた事を言ってられないだろう。

コルトの力を知っても、それでも以前と変わらないアンリにコルトは甘えている事を自覚している。

アンリはそれをきっと許してくれるだろうが、後々それがアンリの身を危険に晒す事になるのは明白だ。

神が近くに置きたがる存在など、他の人間が放っておく訳がない。


誰かが必ずアンリを利用しようと画策する。


コルトは手のひらで顔を覆いながら思考を巡らせるフリをした。


──馬鹿だな。結論なんて1つしか無いのに。


アンリを手放したくない。

ずっと隣にいて欲しい。

怒って笑っていて欲しい。


なんて我儘で身勝手な願望だろうか。


管理者にあるまじき願いだ。


コルトは顔を覆ったそのままの格好でため息を1つついた。

だがゆっくりと身を起こすと近くにいた機械人形にルーカスはどこにいるのかと聞く。

すると何を勘違いしたのか、ボディライトを明滅させながら休憩をしろと返してきた。


「アンリを交えて雑談したいだけだよ」

【……呼び出し場所の指定をお願いします】

「食堂」

【了解しました】


機械人形が去っていったので、コルトも椅子から立ち上がる。

そして大きく伸びをして全身の力を抜いた。

寝台があればそのまま倒れ込みたい気分だ。

だが疲れた体に鞭打って足を踏み出すと、食堂に向かった。


食堂に着くとすでに連絡がきていたらしく、アンリと機械人形が食卓の上に焼き菓子やらケーキやらを並べていた。

声を掛けると普段と変わらぬ様子でコルトにお疲れと返してくれる。

そして椅子を指さしているので、遠慮なくそれに腰掛けると、隣にアンリが座った。


機械人形が2人の目の前にお菓子を切り分けて置き、最後に紅茶を置いた。


ちなみに食材は全て管理者権限で生み出したもののため、欲しい物は何でもある。

例えそれが肉であっても、だ……。


「たくさん作ったね」

「味見するのが大変だけどな、最初は約得だって思ったんだけど、さすがにキツくなってきた」

「朝昼晩の3種だけで良いと思うけど…」

「機械達が、選べるのが豊かさであり、コルトの力の証明だっていうんだよ。なんか、お前が侮られないようにって」

「僕は別に気にしないんだけどなぁ」

【共神を蔑ろにする共族を見て、魔神に敬意を示す魔族に嘲笑されないようにするためです】

「……うっ…」


相変わらず魔族を引き合いに出されると弱いコルトだった。

だがあまり考えていなかった視点でもある。

外から見てそのコミュニティがどう思われるのか。

あまりにも無頓着だった。

確かに魔神は魔族から不要とされ、なんとか社会から切り離したいと思われているが、敬意自体は持たれているように見える。

その筆頭はラヴァーニャだろう。

思うところはあっても、魔神に対する敬愛だけは絶対に崩れない。

疲れた頭でそう考えると、プレートの上でなら何でもいくらでも出すと機械人形に通達した。

それに礼を言う機械人形に視線だけ返し、コルトはフォークでケーキをつっつく。

だが疲れのせいかちょっと視界が怪しく、目測を誤ってケーキを倒してしまった。

虚ろな目で明らかにヤバい雰囲気のコルトの顔をアンリが慌てて覗き込んだ。


「ちょっ、コルト。大丈夫か?お前、すっごく疲れてるだろ……」

「うん、だから今日はもうおしまいにした…よ」

「当たり前だ。そのまま明日も休めよ」

「うーん」


口に入れた甘いクリームが疲れた体にじんわりと染み渡る。

溶けるように消えたそれに続いて、二口三口と入れていくと、聞いてるのかと肩を揺さぶられた。


「…いてるよ」

「聞いてない!あぁもう……、あっ!」


引き続き気だるそうにケーキを口に運ぶコルトとは対照的に、アンリは何かに気付いて顔を食堂の入り口に向けた。

呼び出されて食堂に入ってくるところのルーカスだ。

アンリはコルトがヤバいとルーカスを手招きすると、面倒くさそうにしながらもルーカスがコルトを覗き込む。

そして、あぁっと気の抜けた声を上げた。


「こりゃ駄目だな」

「もう、なんでこんなになるまで仕事させたんだよ!」

【申し訳ありません。人間の規範から外れていると計測ミスをしました】

「はぁ!?」


アンリが機械人形に猛抗議をすると、次から改善すると繰り返した。

表情が見えないだけに、それだけではアンリの気が収まらなかったが、さすがにルーカスがコルトから食器を取り上げて背負うと、そちらに意識が向く。


「私も行く」

「部屋に放り込むだけだろ」

「それはそうだけど心配じゃん」


それにルーカスは片眉を上げた。

そして完全に寝てしまったコルトを背負って2人は食堂を出た。

寝室へ向かう途中、ルーカスがアンリになんでコルトが自分を呼び出したのか聞いてくる。


「雑談したいしか聞いてない」

「こいつが俺をたかが雑談でわざわざ呼ぶとは思えねぇな」

「……だよな」

「だろ?多分なんか重要な事を言いたかったんだろうが…、こいつがこの様子じゃな」

「私がもっとしっかり見とけば……」


アンリが後悔したように呟くが、もう事は起こっている。


「コルトがハウリルの事、気にしない訳無いのにな...。それなのに、ちょっと避けてた」

「こいつもお前を避けてたからお互い様だろ」

「でもハウリルと約束してたんだよ…、留守は頼んだって……」

「まだこいつがぶっ倒れただけだ、些細な問題だろ」

「ぶっ倒れるのが些細な問題な訳ないだろ!」

「悪い、そうだな」

「そうだよ」


そしてコルトの部屋に到着すると、真っ暗闇の部屋の中を迷わず寝台に向かうルーカスの代わりにアンリは部屋の明かりを付けた。

装飾どころか窓すら存在せず、物も寝台以外無い、殺風景な部屋。

本当にただ寝るためだけに存在しているような場所だ。

アンリはこの部屋があまり好きでは無い。

あまりにも無機質過ぎて落ち着かないからだ。

部屋というより牢獄とすら思ってしまう。

コルトは逆にこのほうが落ち着くと言っていたが、理解できない。


「相変わらず何もねぇ部屋だな」

「こっちのほうが落ち着くらしい」

「神の領域が元々こういうところらしいからな、そのせいか?」

「かもな。ルーカスはこの部屋どう思う?」

「趣味じゃねぇ、せめて窓が欲しい」

「だよな」


仲間がいた事に少し安心しつつ、アンリは寝台で眠るコルトを見た。

寝ている姿はよく見慣れたものなのに、少し遠い存在に感じてしまう。


「まっ、このまま気の済むまで寝かせておこうや。話は明日聞きゃいいだろ」

「だな」


2人は部屋の扉を閉めて、コルトの部屋を後にした。


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