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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第10章
218/273

第218話

供与された輸送車は案の定、コルトがセントラルの道中に乗っていたものと同じもの。

乗り心地についてはコルトの体が保証している。

乗車を断固拒否すると速攻で代わりの車をその場に生成した。

これが終わったらどうせ削除するので、技術などその他諸々人が作れる技術を完全に無視した神仕様。

揺れとは完全な無縁を実現し、まかり間違っても”酔う”ことはない。

さらにやろうと思えば完全な自動運転も出来たが、残念ながらコルトは目的地を知らない。

探そうと思えばできるが、面倒くさいので目的までの運転だけは機械人形に任せている。

唯一の欠点は、座り心地を人体の最大公約数から算出した結果で構築したため、リンシアの体には合わない事だろうか。


そんな車内でコルトは流れていく風景を窓ガラス越しに眺めていた。

そして時々ガラス越しに映る、ふかふかの座席で不安そうに俯いて隣にいるリンシアに移す。

先程から話かけてみているが、緊張をしているのかいまいちな反応だ。

たくさん話をしようと約束をしたのに、これではどうにもならない。

仕方なくコルトは別の事を考えることにした。


──どうしようかな。


例の集団をどうするのかまだ考えあぐねていた。

リンシアの一族の人殺しを止めて欲しいという願いは、しばらくは叶えられるだろう。

その後についてはコルトはもう保証できない。

魔族との戦争終結まではコルトの強権で強制させても、戦後は人の社会に干渉しないと決めている。

それはつまり、人同士の間で起こった武力衝突も止めないということだ。


──彼らにだけ特別措置をするわけにもいかないし、それに……。


以前にも、ハウリルがしていた懸念を思い出す。

彼らが自棄になったり、または無気力になったりも不安だが、モグラやセントラルの人間達が彼らに報復行動をしないかどうか。


──その辺りは全部会議に持ち越しだよね…。めんどくさいなぁ。


ため息をつきたくなるのを、リンシアの前だからとグッと堪える。

コルトは窓越しのリンシアから視線を外すと、反対を向いて本物を見た。

そして優しく何度か呼びかける。

何度目かの呼びかけ。

そこで漸くリンシアは呼びかけられている事に気が付いたのか、一瞬体をビクつかせて、ゆっくりと顔を上げるとコルトをみた。


「大丈夫?そんなに緊張しなくても、何も悪いことは起きないよ」

「えっ、えと…わは…わは……」


再び俯いてリンシアはモジモジしている。


──うーん、リンシアが何を考えているのか分からない。


思考も読もうと思えば読めるが、頭の中を覗かれることを許容する生物というものは極わずかだ。


──アンリならこういう時どうするかな。いやでも、僕はアンリじゃないからアンリと同じ事をしても意味があるかどうか。


アンリについてきてもらえば良かったと今更後悔するが、もう遅い。

そもそも危険なところにアンリを近づけたくないと置いてきたのはコルトだ。

コルトはため息を再度飲み込んだ。

そして結局自分で何とかするしかないと考えてみるが、何も解決策を思いつかない。


──子供は感情的に行動するから、さらに分からないんだよなぁ。


どんな知的生命体も非合理的な行動を取るものだが、子供はそれがより顕著。

結局、何も進展がないままリンシアの故郷が近づくのだった。


リンシアの生まれた里は盆地にあった。

山に囲まれた場所でどうやってリンシアが外に出られたのかと聞いてみると、川がいくつか流れており、そのうちの1つから外に出たようだ。

拾ったときのことを思い出して、コルトは少しだけ叱りたくなったが、もう既にリンシアは一度叱られている。

今更また繰り返すことはないだろうと思い、コルトは気を取り直して周辺の人工物について調べる事にした。

すると案の定というか、櫓っぽいものがいくつも見つかった。

コルトはそれを全て使えなくする。

これで道中攻撃に晒されることはなくなるだろう。

だが念には念を入れて、車の周りにも生物以外の飛来物が強制停止するように世界も改ざんする。

そうして何かに襲われる事もなく、機械人形の運転する車が山間を通って無事に里に入った。


里に入ってすぐの入り口で、コルトは車を降りた。

人影が見当たらないがそれなりに立派な街並みが広がっており、コルトはため息をついてしまった。

外で人を殺し回りながら、自分たちは発展に余念がなかったのだろう。

だがすぐに頭を切り替えて振り返ると、車の中でリンシアの呼吸が荒くなっていた。


「リンシア、大丈夫?ごめん、やっぱりアンリ達と一緒が良かった?」


小さな手をとり呼びかけると、これまた小さな声で大丈夫と返答があった。

そしてゆっくりとした動作で車をおりようとすると、機械人形から警告が入った。


【武装した集団が近づいています。車の中にお戻りを】


それをコルトは首を振って拒否をする。

所詮は共族が生み出したものだ。

共神であるコルトの前ではどんな武器であろうと、この車の周囲50メートル以内なら全て無効化される。


「リンシア、危ないからここで待ってるんだよ」


それだけ言って車の中にリンシアを残すと、コルトは正面に回った。

そして彼らの到着を待っていると、聞き慣れたような聞き慣れない音が近づいてくる。

現れたのは以前もロンドストで彼らが乗っていたバイクが複数台。

彼らは速度を落とすこと無く真っ直ぐコルトに突っ込んできた。


「死ねっ!!」


そんな言葉と共に銃口が向けられる。


──まだこんな事を!


コルトは姿を視認すると、武器とバイクをもろとも削除した。

突然乗っていたものが消えた乗り手達は、そのまま物理法則に則ってコルトの後ろに吹き飛んでいく。

そのまま地面や壁に激突するというところで彼らの体を停止させ、その後は重力にしたがって彼らを落とした。

それを管理者として知覚すると、人体に注意を戻して物理的に正面を見る。


「まだこんな無意味な事を続けてるんですか」


いつの間にかコルト達を囲むように展開している武器をもった者達。。

それを率いるのは、リンシアの父親。

地面に転がる仲間を見ても、涼しい顔をしているその顔が腹立たしい。

コルトがその男を真っ直ぐに見ると、男のほうも値踏みをする表情でコルトをみた。

男の眉間に皺が寄る。

そして勢いよくコルトを指差すと、激昂しながら大声を上げた。


「あの量の火薬でも浄化できぬ色付きとは何とも恐ろしい穢れ。さらに妖しい術まで身につけて、我らを滅ぼしに来ようとは。色を染めて誤魔化そうと、その程度で我らを騙せるか。赦しを請おうがここでしねっ」


だが男が言い終わる寸前で地面が裂けた。

裂けたとしか言いようが無いほど唐突に地面が裂け、集まった者達を一箇所に追い詰めるように崩れていく。

さらに崩れた場所から湯気が立ち上る熱湯が湧き出て、落ちた者を煮立てようとさらに追い立て始めた。

足の踏み場がどんどん減り、一箇所に追い詰められていく彼ら。

狭くなっていく安全地帯で、次第に彼らは揉め始めた。


「赦ス?何様ノツモリダ。セントラルガ黙ッテテ君達ガ知ルヨシモ無カッタノハ考慮スルケド、誰ガソレヲシロト言ッタ」


確実に里の全員に聞こえるように、コルトは声を共鳴させる。

落ちたくないと隣の誰かを蹴落とそうとする彼らを見て、頭が沸騰しそうだった。

なんでこんな事になり、こんな者達が出てきてしまったのか。

全身の血が滾り、全身で怒りを表す。


人体は便利だ。

物質世界で考えている事を分かりやすく表現するのに、これほど便利なものはないだろう。

だからこそ抑えがたい。


「全部オ前達ノ勝手ナ憶測ダロ!ソレヲ社会ガ断絶シタ後モ続ケテ、コノ中デ実際ニ命令サレタッテ断言出来ルナラ名乗リ出テミロ!」


声に、顔に、怒りを乗せて、コルトは吠えた。


それに答える者は誰もいない。

答えられる訳がない。

その間にもどんどん地面が崩落していき、そして…。

一人目が落ちた。


スローのように一人目が落ちていくのをコルトは黙ってみていた。

周りは誰も助けない。

それどころか、一人目を契機に誰もが自分だけは助かろうと周りを押し始める。


誰一人として例外無く。


一人一人と落ちていく。


──滑稽だな、見た目だけの水なのに…。


気が動転して落ちた者もそれに気付かないらしい。

必死に助けてくれと手を伸ばしている。

コルトはそれを冷めた目で見ていた。


だが、そんなコルトの脇を一機の機械人形が走り抜けた。

そのまま躊躇なく熱湯に飛び込むと、そのまま落ちた人を拾い上げ地面に放り投げていく。

一機が始めると、残りの機械人形もそれに続くように動いてコルトの横を掛ける。

そして最後に小さな体が横を通り抜けた。


「ととさま!」


いつの間に車から降りたのか、コルトが気付いて伸ばした手が間に合うはずもなく、真っ直ぐに熱湯の泉に走っていく。


「リンシア!危ない!」


そのまま飛び込みかねない勢いで掛けるリンシア。

いくらただの水とはいえ深さはそれなりにあり、リンシアの身長で落ちれば溺れかねない。

コルトが慌てて駆け出すと、気付いた機械人形の一機がリンシアを受け止めた。


「ととさま、ととさま!どうして!」


泣きじゃくりながら必死に手を伸ばすリンシアに、追いついたコルトは叱るように声を上げる。


「リンシア、危ないから近づいちゃダメだ」


だがリンシアはコルトに目もくれず自分の父親に手を伸ばし、機械人形が落ちた父親を引き上げると、ぐしゃぐしゃの顔で駆け寄った。


「ととさま、ととさま。なんで、なんで」


必死に父親に呼びかけるリンシアに、コルトは優しく、けれども有無を言わさぬ声をかける。

すると、リンシアは赤くなった目で振り返った。


「どうして、ととさまを、ととさまたちを助けてくれるって、おにいちゃん約束してくれたのに!」


しゃくり上げながらどうしてと繰り返すリンシアを、子供の駄々っ子と処理すると、コルトは片膝をついてリンシアに目線をあわせた。

そして、これはねと言おうとすると、リンシアは頭を振って拒絶を示す。


「やだ、やだ!おにいちゃん、ととさまに酷いことしないで!やさしいおにいちゃんに戻って」


そのままリンシアは声を上げて大泣きし始め、付近では機械人形達が機械的に救助を続けている。


──面倒くさい…。


コルトは白けた目でそれを見ていた。


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