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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第10章
217/273

第217話

コルトとリンシアがいなくなり、残された者たちは地下基地にあるとある会議室に集まっていた。

まだ基地内には遠征部隊の人間も、モグラの人間も残っている。

彼らに聞かれない、見られないようにしようとすると、必然的にこの部屋に流れ着いた。


「コルトさんとリンシアさんが心配で仕方ありませんが、コルトさんに聞かれる心配が少ないという意味ではまたとない機会でもあります」

「コルトに隠し事ばっかするの、私嫌なんだけど」

「気持ちは分かりますが、コルトさんがいると話が進まないでしょう」

「それでもなんかやだ」


ぶーたれるアンリにハウリルが困った顔を返すと、部屋に入る前から眉間に皺を寄せていたルーカスが本題に入れと促した。

アンリが不満を顕にギロッと睨むが、睨まれたほうは片眉を上げて一瞥しただけで流している。

ふくれっ面でアンリは机に頬杖をついた。

とりあえずもう何かを言うつもりはないようだ。

それを見てハウリルは引き続き困った顔をしながらも、話を始めることにしたようだ。


「さて、先ずはラヴァーニャの視線も痛いことですし、魔族のお二人に残っていただいた理由からお話しますか。結論から言いますと、共族会議では必ず共族同士で揉めると思いますので、良い感じのタイミングで乱入して欲しいのです」

「何故僕達が猿の仲裁に入らなければならないんだ!」


当然の怒りというように、ラヴァーニャが机に拳を振り下ろした。

魔族の振り下ろしに机が軋むような音をたて、機械人形が慌てたようにラヴァーニャを取り押さえようとするが、掴まれたラヴァーニャはビクともしない。

ルーカスよりは細身でも、魔族は魔族だった。


「仲裁ではなく乱入です。条件としてコルトさんの反応を見て欲しいのです。私の予想ではかなりキツイ対応をしてくるのでは無いかと思っています」

「コルトが?ちょっとお前の妄想入りすぎじゃね?」

「根拠は一応あります。セントラルで教主達が未帰還者の帰還直前に異常に怯え始めた事、そんな彼らに対して気にかけるでもなく少々ぞんざいな対応をしていたこと。統治時代に人間社会に興味が無さそうな割に、魔神の言葉を踏まえるとかなりキッチリと世界を管理していたこと。これらを踏まえて、実際のコルトさんはかなり冷徹なのではないかと思ったのです」

「あんまピンと来ないけど」

「私の主観ですし、悲観的に見すぎているとは思っています」

「つまりコルトが共族に冷酷な態度を取り始めたら、俺らが乱入して矛先を変えっ…、……ラヴァ落ち着け……、そんでそれをやった俺らの見返りは?」


矛先を変えると言った瞬間に机を乗り越えようとしたラヴァーニャの尻尾をルーカスは鷲掴んで引き戻した。

さすがに痛かったようで、尻尾をさすりながらルーカスの角を砕かん勢いで掴み返している。


「共族に魔族の存在の必要性を見せ、現魔族と合同で神を地上で監視することの合意を共族内で取ります。魔族がいる場ならコルトさんは合理的な判断ができなくなりますからね、反対はさせません。それさえ決まってしまえば、コルトさんも魔族の存続のために動かねばならず、魔神に理不尽に消される心配もなくなるはずです」

「……理屈は分かる」

「ふんっ、出しにされるのは癪だが、シャルアリンゼ様を殺すことなく、且つ僕達も生き残れるなら協力してやらんでもない」

「そう、これはコルトさんを殺さずに済ませるためでもあるのです。流れの決まった茶番だと知られて感情的に否決されては困ります、だから隠したいのです。理解いただけましたか、アンリさん」

「……分かった」


釈然としない顔だが、アンリは頷いた。


「だが、コルトが思ったように動かなかったらどうすんだ?」

「必ずそうさせますよ、多少強引なやり方を使ってでもね。その準備も含めて一度南に戻りたいのです」

「何考えてんのか大体予想できるがよ……、だからお前コルトにも不信がられるんだぞ」

「そこまで大げさなことをするつもりはありませんよ」

「どうだかな。まぁいい、それは俺が口出しすることじゃねぇ。他にはなんかあるか」

「強いて言うなら、会議場をどういう見た目にするかでしょうか。場所を作ると言ってただのプレートを出したコルトさんが、それ以外について考えているとは思えません。床しかないのでは?」


念のためと機械人形にも、共神が過去、地上に何か建築した記録はあるかと聞いてみると、ロンドストのデータベースにそのような記録は無いと返ってくる。

地上に形として残るものは全て人に作らせていたらしい。

つまりコルトに建物やその中身を作ったという経験は無い。

全員の頭に何もない床に座って会議する場面が浮かんだ。


「野晒しはちょっとやだなあ」

「ふふふ、コルトさんの反応次第ではそこに雨が降るかもしれませんよ」

「最悪じゃん!」


各陣営の支配者達がびしょ濡れになりながら神の怒りに恐怖する絵面は少し面白いが、そこに自分たちも混ざるのは御免被りたい。

でもアンリがちょっとだけ吹き出した。


「やっぱ偉そうな奴らがコルトを見てびしょ濡れで怖がってんのはちょっと面白くない?だってコルトだぜ?」


そして耐えきれなくなったのか、アンリはお腹を抱えて笑い出した。

上の人間と良好でも親密でもないどころか、いいように使われたりしている立場なので余計に面白く感じるのだろう。

アンリにとってはコルトのほうがずっと身近な存在であるので尚更だ。

ハウリルとルーカスは呆れた目で笑っているアンリを見ていたが、神の側でずっとその力を目にしてきたラヴァーニャは身震いをして少し仰け反った。


「共神と言えどシャルアリンゼ様と同じ神だぞ、それを分かっていないのか?」

「でもコルトはコルトじゃん」

「肉体の影響があろうと、中身は変わらないという話をしている!」

「そう言われてもさ、よく分かんないんだけど。コルトが神になったって言われても、前と変わったように見えないし。確かにさ、ちょっと怖いなって思う時あるけど、勝手に動く馬車から降りたら半泣きでゲロゲロ吐いてたじゃん」

「見せかけだ、子猿!何故分からない、その変わらないのが問題だと言っているんだ!」

「どこに問題があるんだよ」


アンリとラヴァーニャはお互いに顔を突き合わせて睨み合い始めた。

話が噛み合っていませんねと、と他人事なのはハウリルで、呆れたように立ち上がったのはルーカスだ。

睨み合ってはいるが、殺し合いになりそうな雰囲気ではないと判断したのか、そのまま退出しようと歩を進める。


「どこに行くのですか」

「俺も建築だ家具だなんだは分かんねぇから、そっちで良いようにやれや」

「答えになっていませんよ」

「こっからは役に立たねぇから、もっと有意義な時間の使い方を探しに行くんだよ」

「一応言っておきますが、コルトさんを刺激しないように」

「分かってるっつぅの」


ルーカスが出ていくと、改めてハウリルは2人に向き直った。

アンリとラヴァーニャは睨み合いをやめている。


「お二人は手伝って下さいますか?」

「私は一応村で椅子とか作ってたし、やってみてもいいぞ」

「ラヴァーニャは……やる気は無さそうですね」

「何故僕が貴様らのたまり場の設計をしないといけないんだ」

「出来が良ければ後の神の居城に流用、または参考にされるかもしれません。先に共族の基準を知っていれば、魔神の居城をもっと立派なものにできるでしょう」


ラヴァーニャの耳がピクッと動いた。

それを見てハウリルは本当に扱いやすいとほくそ笑む。

この調子でさらに上手くおだてれば、どさくさに紛れて魔王城の内部構造まで知れるかもしれない。

共神と魔神がどこで激突するかは分からないが、敵の本拠の構造が分かっていれば様々なことがやりやすくなる。

予想通りラヴァーニャはシャルアリンゼ様に恥をかかせる訳にはいかないとやる気になった。

ハウリルはニコニコと”いつもの顔”で考えている事を隠すと、機械人形達にデザインの参考は無いかと聞いてみた。


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