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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第10章
216/273

第216話

ロンドストの地下基地は相変わらず何の装飾も無い無機質な空間だった。

大勢の人間が一時的にいたとはいえ、友好的とは言えなかったのであまり環境整備が進まなかったのだろう。

だが新しい来訪者によって変わったらしく、何機もの機械人形があちこちを行ったり来たりしている。

コルト達は忙しそうな機械人形達を横目に先ずは中枢を目指そうとすると、そこに他と見分けは付かないが、知っているテンションの機械人形が駆け寄ってきた。


【皆さーん!お久しぶりでーす!おぉ!新しい方もいますねー、ミヨちゃんでーす!】


ここに最初に来た時に出迎えてきたやたらおかしなテンションの機械人形。

以前はツインテールのような頭部パーツと、やたら胸部を主張した女性パーツだったが、今は他の機械人形と見分けがつかない。

見た目が同じなのに、テンションだけが違うせいで逆にそれが恐怖だ。

中身が違うなら見た目も違うほうが肉体は安心感を覚えるというのをコルトが学習した瞬間だった。

ミヨのほうもそんなコルト達に気が付いたらしい。

両手を頭の横に添え、手のひらをピコピコとさせて以前のツインテールの動作を模倣した。

それを初見のラヴァーニャが得体のしれないものを見てしまったと、狼狽しながらふざけているのかと呟いた。

それに対して多少慣れているルーカスが、いちいち突っ込むなと言うと、未だに手をピコピコさせているミヨを見る。


「あぁ、なんだ…。見た目を怒られたか?」


若干顔を引き攣らせて聞くと、ミヨはそうなんですよー!とこれまたテンション高く返してきた。


【モグラの皆さんの文化と衝突するとかでー、怒らせちゃったんですよねー。それで仕方なくパーツを換装しました。それだけなら良かったんですけど、ハウリルさん、アンリさん、リンシアちゃんが追い出されてからミヨの言語プログラムが癪に触るって言われて、ついさっきまで電源切られちゃってたんです】

「おやまぁ、それはなんとも…」

「喋り方もプログラムなら、一時的に汎用的なものに切り替えておけばいいだろ」

【そんなのミヨじゃないですー!言語プログラムもプログラマーと一緒にミヨ用に開発発展させて来たものなんですよ!】

「一時的に切り替えるだけだろ。バックアップとってほとぼりが冷めたら戻せばいい」

【簡単に言いますねー!ミヨはロンドストが神様を嫌ってたのを理解しました、ミヨも嫌いです!コピーしたからオリジナルは削除するなんて、大抵碌な事にならないんですよー!】


いかにも怒っていますとミヨはプンプンと音声を出し、腰に手を当てて怒っているポーズを取る。

コルトは滅茶苦茶白けた。

ラヴァーニャ以外の他の4人もそれぞれに困惑を返し、ハウリルがため息を付くと話を先に進める。


「それでミヨさんはどうしてここに?まさか出迎えだけというわけではないですよね?」

【もちろんです!地下基地はマザーを取られないように組み替えていたので、皆さんがいた時とは内部構造が大分変わっているんです。なので私がナビゲーターを務めさせていただく事になりました!電源切られていたので、空いている機体が私しかなかったんですね!】


ミヨは楽しそうに再び両手を頭の横でピコピコさせた。

もう何も言うまい。


それはともかく、ミヨの案内でコルト達は地下基地の中枢部に向かった。

ミヨの言った通り、内部構造がコルトが把握していたものからかなり変わっており、確かにこれなら案内も無く辿り着くのは難しい。

そして道中何人かのモグラの人や遠征部隊の人ともすれ違った。

モグラの人はコルト達を見ると怯えたように陰に隠れ、遠征部隊の人は笑顔で挨拶を返してくれた。

彼らとここがこれからどうなってどうするのか。

決めるのは彼らだ。


そして中枢に辿り着くと、ミヨは両手をブンブンと振りながら去っていった。

できればもう二度と目の前に現れないで欲しいと思うコルトだった。


中枢に足を踏み入れると1体の機械人形が中央の装置と向き合って何かを操作していた。

近づくと両手を動かしながら先ず首だけをこちらに向け、コルト達の姿を内蔵カメラに収めるとようやく両手を止めてボディ全てをこちらに向けた。

人体にはできない動きなので気持ち悪かった。


【目的達成おめでとう。これでようやく社会再生のためのスタートラインに立った】

「再生よりも新生と言って欲しいですね」

【訂正しよう。社会新生のためのスタートラインに立った】


わざわざ言い直す必要はあったのかと言おうとしたが、コルトが余計なことを言う前にハウリルが先手を打って話を進めた。


「あなたたちに手伝って頂きたいことがあります。各陣営への召集令を共神の名代として出して欲しいのです」

【問題ない、協力しよう。それが一番わだかまりが起きないと判断する】

「ありがとうございます。では追って必要な要項をまとめたものを渡しますね」

【了解した。だがその前に南東の例の集団について先に対応をして欲しい、魔族による一時的な足止めの効果はとっくに切れている】


南東の集団と言えば1つしかない、リンシアの家族とその仲間達だ。

共族の全体の会議なので、当然現在蚊帳の外状態の彼らも招く。

神の意志と信じて共族を殺し回った彼らについて、ランシャ達やセントラルが何を思うのか想像するのは容易い。

だが、コルトからすると彼らも等しく共族だ。

何もしないという訳にはいかないが、彼らの望む結果になることもない。


──面倒くさいなぁ。


これからしなければいけない事を考えて、コルトは内心でそれだけを考えた。

そのせいでリンシアが不安そうにコルトの手を握っていた事にも気付かず、それを周りが思い思いの目で見ていた事にも気付かない。

無意識にため息すら漏れていた。


「今から行ってくるよ。ある程度話をつけておかないと、会議でそれだけに時間を取られそうだし。応じるつもりの無い処刑の嘆願なんて、話を聞くだけでもうんざりだ」

【では護衛に弊ネットワークからも機体を貸し出そう】

「あー」


機械人形の護衛と聞いて一瞬断ろうとしたが、コルトは少し考えて了承する。

そしてアンリ達にリンシアと自分2人で行くと伝えると、当然と言えば当然だが猛反対された。

特に魔族2人がうるさい。

リンシアに何かあったらどうするのか、守りきれるとは到底思えないなどと、コルトを何だと思っているのかと思うような発言を繰り返す。

アンリについてはそもそも今までのコルトを考えれば目的地につけるかが怪しい、と言われたのはかなりの心外案件でかなり深く心を抉られたが、それはそれとしてコルトは譲るつもりは無い。

するとハウリルが少しだけ眉間に皺を寄せて、リンシアの意志を聞かずに決めるのは良くないと言う。

いつもならコルトも同意しただろうが、今回だけはダメだとキッパリと断った。


「たしかに、わたしたちが話に混ざるのは事をややこしくするだろうということは分かりますが、それだって途中まで一緒に行ったっていいでしょう」

「途中まで一緒に来たら、絶対最後までついてくるじゃないですか」

「遠くから見ているだけですよ」

「絶対乱入すると思います」


笑顔のハウリルをコルトは信用できないとはねのける。

さらにコルトはハウリルに続けた。


「前にリンシアとその家族が地上で会った時に、ハウリルさん凄く怒ってルーカスに怒られたじゃないですか。僕は同じ事が起きると思ってます」

「……幼子が実の親に傷つけられたら怒るのは当然でしょう?」

「それで戦闘になるのを望まない。僕なら強制的に彼らを黙らせられる」

「無理やり言うことを聞かせると?」

「そうです」

「思考をコントロールするつもりですか?あなたらしくないやり方では?」

「そんな事をしなくても大人しくさせるだけならいくらでも方法はあります。それに僕の優先事項は共族の存続と魔神の討伐です」


共族の存続は今までのやり方だと失敗する。

なら多少意にそぐわない方法も受け入れるしかない。

固い意志を示すコルトに、今度はアンリがそんなのダメだと言った。


「そんな強引なやり方は色んな奴から嫌われるぞ、それでも良いのか?良くないだろ。いつもみたいに皆で一緒に何とかしよう、な?」

「今更だよアンリ。もう僕はすでに嫌われてるんだから、どうってことないよ」

「そんな訳無いだろ!お前、ハウリルに色々言われてすっごいショック受けてたじゃん。その前からもずっとずっと他人の心配ばっかしてるお前が、人に嫌われて何も思わないわけない!」

「前はそうだったかもしれないけど、今は本当に平気なんだ」


にっこり笑って返すと、アンリは怯えたように、どうしちゃったんだよと呟いた。

コルトはそれに何も変わっていないよと返す。

ただ少しだけ管理者としての自覚が出始めただけ。

そしてそこでやっとコルトは自分の手をリンシアが握っている事に気が付いた。

幼い子どもの温かい手が肌に触れていたのに、まるで気付きもしない。

突如湧き上がった焦燥感。

理由が分からない。

ただ喉の奥が締め付けられて、胸が苦しい。


それを周りにバレないようにゆっくりと深呼吸をすると、無理やり無かった事にして機械人形を見た。


「移動方法は?」

【遠征部隊から1台輸送車を供与されている】

「……あれかぁ…。今回だけだし僕が出す」

【共神の創造を記録できるとは面白い】

「お前に解析はできないよ。リンシア、今からでも大丈夫?」

「うっ、うん!わね、わね、だいじょうぶだよ!」


いつも通り元気そうに答えているが、リンシアが嘘を付いていることはコルトにも分かった。

間違いなく無理をさせている。

リンシアの周囲の大人たちがリンシアに無理をさせたように、今コルトもリンシアに無理をさせている。

内心で謝りながら、コルトはいい子だねというとそっと未だ握られている手を握り返した。


「じゃあ行ってきますね」


笑顔でそういうと複雑そうな顔が3つ並んでいた。


「…わたしたちはここで待っています。必ず戻ってきて下さい」

「リンシアもちゃんと連れて帰ってくるんだぞ」

「おい、機械人形。コルトが暴走しねぇようにしっかり見張っておけよ。こいつに絶対共族を殺させるな」

「ルーカス!お前僕をなんだと思ってるんだよ!」


最後は思わず突っ込みを入れてしまった。

相変わらず減らず口を叩くやつだ。


何事もなく終わらせて帰ってきてやると固く誓うと、機械人形を共につけ、コルトはリンシアと共にリンシアの故郷に向かうのだった。


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