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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第10章
214/273

第214話

地上に出ると、そんなに時間は経っていないはずなのに陽の光が懐かしくて眩しい。

手で陽光を遮りながら周囲を見渡すと、ハウリルが空を見上げて”あれが”と声をあげた。

南の空に浮かぶ謎の板。

まさに”謎の板”としか形容しようのないそれ。

ハウリルは呆れたような声を出した。


「あれは確かに不安で抗議の声をあげたくなりますね」


原理不明で浮いている謎の物体。

神の力を疑うものは少ないだろうが、だからこそ神の意志であれが落とされたらと思うと不安になる。

特にあれが何故作られたのか、この場のほとんどの者は知らないのだ。

用途を知っているはずのルーカスすらハウリルに同調した。


「なんつぅか、落ちそうだよな」

「座標に固定してるから落ちないよ」

「やべぇ、何言ってるか分かんねぇ」


だろうねと内心思い、それ以上コルトは何も言わない。

地上で人間が逆立ちしても使えない、”技術”にもならないものを解説しても時間の無駄だ。

それよりもさっさとコルトはアンリ達に会いたかった。

どうせ魔力で位置が分かるだろうと、ルーカスにどこにいるのかと聞くと案の定何の疑問も思考も挟まずにこっちだと先導し始める。

すると機械人形がルーカスを呼び止め、再び例の地形データを呼び出した。

大体の位置から経路を割り出すつもりのようで、ルーカスと詳細を詰めている。

だが残念なことにマッピング範囲外にいるようだ。

装置の位置方向に重点を置いたスキャン範囲の適用外だったらしい。

機械人形は残念そうにボディライトを点滅させている。

ルーカスはそれを見て、途中までは使えるだろと慰めていた。


その慰め通りアンリの魔力を感じるところまで機械人形の誘導通りに進んでいくと、しばらくしてアンリの移動をルーカスが感知した。

向こうもこちらに近づいているようで、期待した通り少しすると数人の兵士に連れられてアンリとリンシアが現れた。


「おーい、大丈夫だったか!?」


人質になっていたのはアンリ達なのに、何故か第一声がコルト達を心配する言葉。

アンリらしいと言えばアンリらしい。

そして駆け寄ってきたアンリは、コルトを見て驚いた。


「あれ?コルト、なんでまた髪染めてるんだよ。雨で落ちちゃったけど、もう必要ないだろ?」

「えぇっと、これは…」

「アンリさん、染めてませんよ。魔力を捨てて元の色が出てきたのでしょう、目の色も変わってますからね」

「あっ、ホントだ。……というか、魔力捨てた!?あっても軟弱なのに!?」

「アンリ!?」


一応元の状態から落ちないように調整したと弁解してみるが、アンリは全く信じてくれない。

その元が元なので仕方がないのだが途中で疲れてぶっ倒れないかと、まるで老人に接するかのような態度だ。

日頃のコルトの体力への信頼が如実に出ていた。

悲しい気持ちでそれを受け止めつつ、コルトはアンリとリンシアに何もされていないかと尋ねる。


「私もリンシアも何もされてないぞ。一緒に何にも無い部屋に入れられてたし、何もされてないよな?」

「うん!わね、お部屋にはいってるときは何も見えなかったよ」


何も見えないというのは、何かを見せられたわけでも、白い部屋も見えていなかったという事だろう。

コルトはまた変なモノを見せられていないかと心配だったが、どうやらそういう事は無かったようなので心から安堵した。


「良かったぁ」


便利だと思って付与した能力を、こういう事に使われるのを想定していなかったコルトの落ち度だ。

コルトは一層能力を取り上げる事を心に固く刻んだ。


「それでさ、これからどうすんだ。なんか空に変なの浮いてんだけど」

「変なのは酷いよ」

「だって変なのとしか言いようがないじゃん、アレ。…えっ、あれコルトが作ったの?」

「そうだよ。というか、僕以外には無理だよ!?」

「じゃあしょうがないか。つーか、あれ何に使うの」


容赦のない評価にもう少し見た目を気にするべきだったかと今更後悔し始める。

作り直そうかと思って空を見上げると、口煩い兎が喚き始めた。


「共神!小猿を回収したならさっさと次の開戦準備に移れ!僕は早く帰りたいんだ」


コルトに力を取り戻させるという目的を達したので、早く次の工程に移れと言いたいらしい。

それ自体はいいのだが、どうも魔族にギャーギャー喚かれると腹が立つ。

個人としてもラヴァーニャが嫌いなのもあるが、根本的に魔族という存在がコルトの価値観に合わない。

つまり魔神とも合わないということなのだが、今更ながらなんで組んだのか自分で自分に疑問が湧いてきた。


「うるさい、分かってるよ。寿命が長い癖に少し待てないわけ?」

「100年も待てないと言ったのは貴様らだろう!」

「それとこれとは別問題だろ!」


売り言葉に買い言葉。

いつも通りの言い争いが始まると、いつも通りにハウリルが止めに入った。


「はいはい、そこまでにしてください。喧嘩をするならわたしが仕切りますよ」

「うっ、すいません……」

「ラヴァーニャの言うことはともかく、まずは一度遠征部隊と合流して、その後はロンドストに行きたいですね。作戦終了を知らせないといけませんし、機械人形たちの協力も取り付けなければいけません」

【弊ネットワークは終戦までは共族側として働く認識です】

「そうでないと困りますが、その前準備として共族を集める係をあなたがたにやって欲しいのです。変に人間がやるより平等でしょう?」

【合理的であると判断します】

「その間にわたしたちは会議の場を整えましょう。リンシアさんのお話も正式に聞かなければいけませんしね」


いつ自分の話ができるかと少しだけソワソワし始めていたリンシアが、その言葉にパッと顔を明るくさせるとうんうんと頷いてコルトの手を握った。

コルトもリンシアの手を握り返して、同じように頷き返す。

すると、ルーカスが自分たちはどうするのかとハウリルに聞き返す。


「色々とすり合わせをしたいことがあります。間違いなく会議の場は荒れるでしょうからね」

「猿の喧嘩を僕達に止めろとでも言うのか?そんな義理はない!」


良いように使うつもりかとラヴァーニャは怒り出すが、ハウリルに慣れたルーカスはそんなラヴァーニャを落ち着けと諭した。


「さすがに喧嘩を止めろはハウリルも言わねぇよ。またなんか別に考えてんだろ」

「もちろん。詳細はまた後ほどお伝えします、魔族にも利はあると思いますよ」


ニコニコと言うハウリルに、コルトとアンリはまた何か変な事を考えているなと胡散臭い者を見る目を向けてしまう。

だが、利があると聞いて一先ずラヴァーニャも矛を収める気になったようなので、とりあえずここは良しとしておく事にした。

他人を見捨てる選択をするが、大を取るからそうなるのがハウリルだ。

今回も全体の利益を考えた何かがあるのだろう。

そうだと信じている。

そんな訳でざっくりとこれからの行動指針に特に反対する者がいない事を確認すると、ハウリルはアンリ達を連れてきた兵士に顔を向けた。


「そういう訳でわたしたちはこれでお暇しますね。そのうちこちらの共神から招集があると思いますので、その時はよしなに」


こちらの様子を神妙な面持ちで見守っていた兵士達は、それを聞いて固まってしまう。

しばらくして漸く動き出すと、街の外まで案内すると言って道を開けた。

そして来たのとは別に、セントラルの街中をじっくりと見る余裕がある。

うっかり起こした地震で崩れていないかと少し心配だったが、問題はなかったようでコルトは安堵した。

だが、別のことが気になった。

思ったより人の姿が無い。

どういう事かと先導する兵士に問いかけるが、首を横に振るだけで喋る気が無いらしい。

ハウリルが別の質問をしてみても同じような反応で、こちらとの会話を一切拒否しているような態度だ。

二人共途中から質問する事を諦めた。

そうこうしているうちに来たのとは逆に何事もなく円環の外まで来ることができた。

そこで漸く口を開いた兵士が、送るのはここまでと言うのでお礼を言って分かれる。

霧もすっかり晴れ渡る平原を一望すると、やっと終わったのだという実感が湧いてきた。

その横でアンリも思いっきり体を伸ばしている。


「くあぁ、開放感!」

「セントラルの中はずっと囲まれていましたからね」

「数時間前が嘘みたいだよな」


死ぬんじゃないかと真面目に思った銃撃を考えると、再びこの光景を見れて感慨もひとしおだ。

コルトは深呼吸をして今こうして生きている事に感謝する。

すると空気を壊すようにハウリルが現実を言ってきた。


「ふふふ、みなさん。これから越える平原を前にして余裕ですね」

「ヒッ!?」


1日かけて越えた平原を、また戻るのかということから目を反らしていたのに、あんまりである。

そしてそれに関しては他は全員体力お化けなのでコルトの味方をするものはいない。

それぞれ行きよりは楽という者ばかりだ。


【輸送車までの辛抱です。そこからは弊機が休みなく拠点までお送りしましょう】


機械人形がそんな事を言ってきたが、コルトには慰めにならなかった。


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