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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第10章
210/273

第210話

自ら人質になると言ったアンリをコルトは止めた。


「自分が何を言ってるのか分かってるの!?」

「分かってる。でもこれ以上はどうしようもないだろ。話し合って解決しないんじゃ、命掛けるしかないじゃん」

「アンリ!」


簡単に命を掛けるというアンリに、咎めるように声を荒げた。

でもアンリも譲らない。


「でもこのままじゃ強行突破になるじゃん。コルトは絶対嫌がるだろ。それでどうしてってコルトが嘆くのも、ルーカスに八つ当たりするのも見たくないし」

「アンリが1人危ない目にあうのとは比べられないよ!」

「別に危なくはないだろ、私ら別に嘘言ってないし」

「でも…でも!」


それでも不安で仕方がなかった。

するとハウリルが口を挟んできた。


「コルトさん。アンリさんの身を危険だと断言することは、彼らが危害を加える存在だと断言することでもありますよ。彼らに対して信頼されるような態度を取らなかったあなたが、未だにそのような態度をするのはあまり感心しませんね」

「そんな事は……、そんな…それは……」


それを言われると言い返せないコルトに対して、アンリが呆れた声をあげた。


「どうせ都合が良いなくらいにしか思ってないくせに、よく言うよ」

「失敬な。最善手とは思っていますが、都合がいいとは思っていませんよ。ねぇルーカス」

「俺に振るな」


巻き込まれたくないとばかりに腕を組みながら、シッシッと手を振っている。


「つーわけで、私がお前らの人質になってやるから、こいつらを装置まで連れてけ」


仁王立ちして随分と偉そうな人質だった。

教主達はそんなアンリを訝しげに見ている。

本当にアンリが人質として機能するのか考えているのだろう。

するとここでまさかのリンシアまで人質として名乗り出た。


「わも!わもおねえちゃんと一緒にひとじちやる!」

「リンシア!?何言ってるの!?」


アンリに抱きついて一緒に人質をやると言ってきかないリンシア。

さすがに魔人2人も良い顔をしなかった。


「おい、リンシア。お前が共神にお願いがあるって言うからここまで連れてきてやったんだ。その瞬間にお前がいなかったら意味ねぇだろうが」


いつになく真面目に言うルーカスにリンシアは怒られていると敏感に感じ取って体を震わせている。

そしてちょっとだけ迷っているようだ。

すると教主側がリンシアに乗ってきた。


「2人が人質になるなら、案内をしてやってもいい」

「あ゙ぁ゙!?」

「特殊能力のある色付きだけでは不安だが、ただの人の幼子も一緒になれば人質として価値が出てくる」


つまり魔力持ちのアンリは万が一にも逃げられてしまう可能性があるが、魔力を持たず幼いリンシアならその可能性は無いし、リンシアがいるならアンリも抵抗し難い。

しばらくお互いに睨み合いが続いた。

最初に口火を切ったのはハウリルだ。


「ルーカス、2人を人質に出しましょう。すでに一度地揺れを起こしています、追いつかれるよりはリスクが低い」

「おまっ……、ちっ、クソっ、分かった。良いだろう」

「ちょっと!僕は反対だよ!」

「コルトさん。あなたはここが戦場になった時に耐えられるのですか?」

「”かもしれない”のために、2人を危ない目に合わせるんですか!?」

「そんなつもりはありませんし、させるつもりもありません」

「大丈夫だって。私はコルトを信じてる、ちゃんと成功させるだろ?」


信頼していると笑顔を浮かべるアンリ。

言いたいことはたくさんある。

でもその言葉を言われたら何も言えない。

コルトは大きく息を吸うと、深く深く吐き出した。

信頼には答えなくては。


「絶対に成功させて助けるからね。リンシアもあとで絶対にお願いを聞くからね」

「おう、待ってるぞ」

「いっぱいおはなししようね」


そう言って手を繋いで彼らの元に歩いていく2人を見送りながら、コルトは胸が張り裂けそうだった。

そして御子2人と兵士に囲まれながらこの場を去っていく2人を見送ると、教主と残った御子と兵士がコルト達の元に寄ってきた。


「絶対に2人に危害を加えないでください」

「そちらの言う事が本当であればな」

「部下にも念を押して下さい。下が勝手に上の内心を思って暴走することって、人の社会だとよくある事なので」

「……分かっている」


一応こうして言質は取った。

だがコルトは不安で不安で仕方がない。

落ち着き無くしていると、隣でハウリルがそっとため息をついた。


「はぁ、なんとか戦闘は避けられて良かったですが、こちらは子供含めて2人人質を出したのですから、しっかりと最短で案内して欲しいものですね」


嫌味を滲ませてハウリルが言うと、教主も嫌味を滲ませて万全に守っているので多少道のりが長いのは仕方がない、途中で音を上げないようにと言ってきた。

すると、今までずっと黙っていた機械人形がここで発声してきた。


【その点については弊ネットワークも監視している。ルートが逸れればすぐに指摘をしよう】


今度は分かりやすくハウリルがため息をついた。

途中で機械人形も舌戦に参加してくると思っていたようだ。

人間と違い感情を廃した合理的な手段を機械人形から提示されれば、ハウリルもそれに乗りやすいと思っていたようだが、宛が外れてしまった。


【記録上、感情由来で揉めている問題の場合、弊ネットワークが合理的な案を提示すると火に油を注いでしまい余計に燃え上がる。こういう時は黙って終わるのを待ち、結論に対して合理的な手段を提示するほうが良い】

「なるほど。とても理性的な判断で良いと思いますよ」

【時に感情に配慮しない決断は必要だが、必ずその後に禍根が残る。その場合のリスクも計算にいれながら弊ネットワークは結論を出している】

「はっはっは、ハウリルなんかよりも余っ程うまく人間関係作れんじゃねぇの」

「余計なお世話ですよ。それよりも早く行きましょう、2人を待たせるわけにはいきません」


そしてコルト達は教主達に連れられて、強行突破するはずだった建物に向かった。






建物内部は一見すると何も無かった。

観葉植物の類もなく、文字通りの殺風景である。

その一面の壁の一部に教主が近づくと、壁に指を滑らせた。

するとすぐ横の壁に亀裂が入り、滑らかに横にスライドしていった。

驚いたのはそれ一枚だけでもかなりの分厚さがあるというのに、それから何枚も何枚も上に下にと現れた壁がスライドして道を開けていく。

あまりの厳重さにさすがのコルトもドン引きだった。

それだけ装置が彼らにとって大事なものなのだろう。

そして現れた足元の非常灯しかない暗い階段を下に下にと降りていく。

そんな足元が視認しづらい状態なのだが、コルトは別れた2人が心配で何度か転けそうになっていた。

今も踏み外した瞬間に首根っこをルーカスに掴まれて、事なきを得たところである。


「コルトさん、お二人が心配なのは分かりますが、しっかり足元を確認しながら歩いて下さい」

「すいません、気を付けます」

「これ以上コケるなら俺が担ぐぞ」

「絶対やだ」

「すでに4度も踏み外しているのに、何だその態度は。共神、大人しく担がれていろ」

「何でお前が口出しするんだよ」

「貴様がしょっちゅう踏み外すせいで、その度に立ち止まった僕に後ろの猿どもがぶつかるんだ!」

「お前、言葉遣いに気を使えよ」

「何で僕が猿に丁寧な言葉を使わないといけないんだ」

「はぁ!?ここは共族領だぞ、余所者のお前が気を使って当然だっ、るぅおあ」


頭にきたコルトは振り向いてラヴァーニャに文句を言おうとして、5度目の足を踏み外した。

だがまたしてもため息をつきながらルーカスに襟首を掴まれて事なきを得る。


「おい、クソうさぎ。あんまこいつを挑発するな、尻拭いする俺の身にもなれ」

「これのどこが挑発なのです。それに共神を勝手にフォローしているのは貴方でしょう」

「コルトさんが2人を心配して上の空になるのは予想できたことでしょう。それにコルトさんの体格で転ばれると、前を行くわたしとこちらのかたたちを巻き込むことがお分かりにならないのでしょうか。あぁすいません、優れた肉体をお持ちのあなたなら受け止められるので関係ありませんでしたね」

「僕が弱者に配慮できないとでも言いたいのか」

「一言もそんな事は言っていませんが」

「面倒くせぇなぁ。あぁ、クソ。なんでアンリが2人いないんだ」


ルーカスのぼやきに、コルトとハウリルは無言で同意した。

2人組ならそれぞれ問題無いが、アンリ抜きの3人だと相性が最悪だった。


「貴様ら随分と余裕があるな」

「この中で確実に殺せるのはわたししかいませんからね。精神的な余裕が違うのです」

「……どういうことだ」

「魔族のお二人は優れた再生能力を持っているので、心臓を潰そうが頭を潰そうが簡単には死にません。コルトさんは体は普通の魔力持ちの共族ですが、中身は神ですからね」


そういうと、ハウリルはついでと言わんばかりに、共神の座にすぐ戻るために現在の肉体を破棄するのが一番早いが、それだと色々と問題があるので、なんとか装置を使ってこの肉体のまま共神の力を取り戻したいという事を一緒に説明した。

彼らがその話をどこまで信じたのかは分からないが、特に反応はなかった。


そんな事がありつつ、なんとか階段を降りきった一行は、そこからさらに複雑に入り組んだ通路や部屋を通り抜けていく。

そして少し大きな扉の前まで来ると、機械人形が近いと言い出した。


【ここからは弊機のスキャニングでは内部の様子が分かりません】

「いよいよか」

「ここからは我々の最重要機密だ。少しでもおかしな態度を取ってみろ。貴様らも地上の2人の命も無いと思え」

「はいはい何にもしねぇよ」


両手を上げて降参のポーズを取るルーカス。

コルトも生唾を飲み込んだ。

ついにここまで来た、来てしまった。

人モドキから共神に戻る瞬間が迫っていた。


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