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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第2章
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第21話

人の手が入っていない道なき森を4人は歩いて進んでいた。

壁に帰還するための接触地点に向けて寄り道はせずに進んでいるが、この1週間ほどは敢えて人里から離れた道なき道を進んでいたため、ずっと野ざらし状態でコルトは疲労困憊状態だった。

壁のある山脈がかなり大きく見えるようになってきたので、もうすぐ帰れるというその気力だけでなんとか歩いている状態だ。

そんなコルトの様子をみて休憩をとろうという話になり慌てて大丈夫だと主張するが、壁と接触する前に色々確認したいからとやんわりと止められてしまった。

だがルーカスのほうが目的地まですぐそこだから我慢しろと言うので、結局さらに20分ほど歩き少し開けた場所まで来るとコルトはやっと休めると座り込んだ。

遠目でも壁の全容が見える距離のためほとんど帰った気分である。


「本当に巨大な壁だ」


山脈と山脈の間の谷になった部分に建造された巨大な白い壁を見上げアンリがボソリと呟いた。

つられてコルトも改めて壁を見る。

壁のすぐ向こうは軍の基地になっているため壁内に住んでいてもそう滅多にみるものではないし、壁の外側をみるのは確かに初めてだ。

感慨にふけりながらぼーっと眺めているとルーカスがコルトのかばんを勝手に漁り、中から信号弾を取り出しそれを空に打ち上げた。

高圧縮された魔力が空中で爆ぜる。

それから5分ほどで壁から大分北にずれた山脈からも同じような爆発が上がった。


「よしっ、あとは迎えが来るのを待つだけだな」

「きっ緊張してきた……」


アンリが腕を抱えて震え始めた。

いい人たちだから大丈夫だよと言うが、生まれてからずっと敵と教えられてきた存在に会うんだぞ!と言われてしまう。


「いきなり殺しにくるほどぶっ飛んでねぇから安心しろ、だが敵意だけは見せんなよ」

「それは分かりますが、もう少し何かありませんか?」

「……強いやつ」

「抽象的すぎます」


ルーカスが唸りながら考え始めた。

一応迎えには軍のトップの総長がなるべく来てくれるとは言っていたが、忙しい身なのでそれ以外の隊長格である可能性も高い。

そうするとつい最近まで庶民をやっていたコルトはほとんど関わりがないため、人柄について何か言えるほどの交流がないのだ。

ただ出立前に少し話した限りではみんないい人だった。


「どいつがくるか分かんねぇからなぁ。まぁそのとき考えようぜ」


それからさらに30分が経ったころ。

ルーカスが来たなと呟いて一点を見ていると、森の中から全身を金属の鎧に身を包んみ背中に大剣を背負った者が1人とその後ろに左右の腰に片手剣をはいた鎧2人と、軽装の女が1人現れた。

軽装の女以外は身長以外の体格外見が完全に同じで性別が分からない。

ルーカスがボソッと一番えらいやつが来たなと呟いた。

なんとなくコルトがアンリの前に隠すように立つと、中央に立つ鎧が片手を上げ後ろの3人が静止した。

中央の鎧がそのまま一歩前に出る。


「コルトくん、まずはおかえり。無事の帰還を喜ばしく思う」


軍総長アシュバートの声だ。


「それとルイもまたこんなに早く再会するとは思わなかったな」

「俺も思ってねぇよ」

「だろうな。それで、後ろの二人はなんだ」

「教会の偉いやつの自称使者、とおまけだ」


あんまりな紹介だが教会の使者と聞いて向かって右側に立つ鎧が左右に指した腰の剣に手をかけた。

それに対して中央の鎧がまた手を上げて制止をかけるが、剣から手を離さない。


「落ち着けよ姐さん、俺の苦労が無駄になるだろ?」

「知るかよ。すき見てそいつらが襲ってこねぇ保障がどこにある」

「お前らはこの状況のこいつらにやられるようなボンクラじゃないだろ」


それを聞いて左の鎧も右の鎧を止めに入ると、渋々といった感じで剣から手を離した。


「教会の使者と言ったな。何が目的だ」

「友好ですね」

「教会の総意か?」

「トップは次の最有力教皇候補ですが、弱小派閥です」

「我々の利になるとは思えないな」

「教会内部の情報、それと魔力維持のための物資の融通くらいは出来ますよ」

「………。そちらは?」

「本当のことが知りたい」


アンリは毅然とした態度でしっかり鎧の3人を見つめ、コルトの前に立った。

この一週間で様々なことを聞いたアンリは、恨みよりも先ずは何がどうなっているのかを知りたいと零すようになっていた。

そうしないとココに合わす顔がないと。

しばらく無言の間が出来たが、中央の鎧の男が踵を返した。


「いいだろう。私の監視下にある限りは安全を保証しよう。シュリア、殿をやれ」


シュリアと呼ばれた右側の鎧の女性が舌打ちをしながら背後に回ると、鎧の男がさらに指示を飛ばし軽装の女性が頷きもう一人の鎧に抱えられて森の中に消えていった。

それを見送って先導されながらついていくと、2台の小型の馬車が現れた。

馬車と言っても牽引しているのは大型の犬だ。

軍用に特別に品種改良と調教がされており成人男性よりもかなり大きい。

それが人と同じく金属製の鎧を着込んで一匹ずつ馬車に繋がれている。


「そちらの二人には目隠しをした状態でこれに乗ってもらう」


目隠しをされる二人に不安を抱いていると何の断りもなくルーカスの肩に担がれた。

突然のことで思考が停止しているうちにあっという間に地面が遠くなり、代わりに緑の絨毯が眼下に広がった。

以前のオーガ戦時に乱暴に運ばれたときのことを思い出して絶叫するが風で障壁を張られてしまう、そして間もなく壁の内側に入ると今度は急降下して地面が一気に近づいてきた。

再び絶叫してぶつかると目をつぶるが、急激に速度が落ち停止したと同時にゴミを捨てるように地面に落とされた。


「もう少し丁寧に運べよ!」

「はいはい、悪かった悪かった」


全く反省のない平謝りをされ余計に疲れてしばらく地面の上でぐったりしていると、軍医の人が駆け寄ってきて情けなくも担架で救護室に運ばれる。

そのまま問答無用でベッドに押し込まれ、気付いたらそのまま眠っていた。






次に起きた時、真っ先に目に入ったのは日差しの入る白い天井だった。

清潔なシーツと柔らかい掛け布団に挟まれ、僅かに開いた窓から吹き込む風で静かにカーテンが揺れている。

最近では考えられないほど穏やか空気だった。

体を起こすと腕に点滴を打たれている。


「お目覚めのようですね」


声に反応して振り向くと看護師がこちらの様子を伺っている。

それから無線でどこかに連絡すると医者たちが集まり、それからはあれやこれやと問診に検査にと色々連れ回され、終わった時にはすでに昼になっていた。

ふらふらと空腹を抱えて案内された食堂で適当に定食を頼むと、付け合せの野菜の味に涙が出てきた。

味が薄いわけでもやたら苦いわけでもない本来の味がとても安心する。


「おっ、飯食って泣けるとは元気そうだな」


突然背後から声をかけられ、驚いて振り向くと帯剣した軍人の男が軽く手を上げながら立っていた。

これから報告会があるという事で迎えにきたらしい。


「俺は3番隊隊長のオーティスだ。一応昨日も会ってるんだが、鎧気てたから分かんないよな」


待たせては悪いと急いでかきこんで咽ると、笑いながら慌てなくと良いと言われてしまった。


「悪いな帰って早々、まだ疲れてるだろ?」

「大丈夫です。それより、連れてきた二人はどうしてますか?」

「……昨日は基地の一室で大人しく過ごしてたよ。こっちの飯食ってちょっと感動してたらしい」


とりあえず乱暴されたりはしていないらしいのでほっとする。

ご飯が美味しくて感動するのはしょうがない。


「お前さん、本当に外の奴らに敵意が無いのな、それともある程度一緒に過ごしたから情でもうつったか?」

「えっ……その…やっぱり同じ人間ですし……」

「そういうもんか?」


それからいくつか雑談をしながら食事を終わらせ、少し食後休憩をする。

その間にオーティスがどこかに報告を入れ、それが終わると再び基地に連れられた。

目的地は敷地の端の方にひっそりと立てられている小屋のような建物だ。

だが中に入ると目の前に下り階段があり、それを降りると頑丈な扉が現れ、そこを過ぎると薄暗くて長い廊下が現れた。

上モノはほぼ飾りなのだろう。

足元の非常灯を頼りに進んでいくと突き当りにひときわ大きな金属の扉の前が現れる。

オーティスは扉の前に立つと軍式敬礼をとった。


「3番隊隊長オーティス。コルトくんをお連れしました」


すると返答の代わりにガシャンと大きな音のあとに重苦しい音を立てながら目の前の扉が左右に動く。

オーティスが部屋に入ってすぐに端によけると部屋の全貌が見えた。

中途半端な明るさの部屋の中央に大きな長テーブルがあり、一番向こう側ににこやかなリンデルト殿下が座り、その両脇を昨日迎えにも来ていた鎧の軍人、アシュバート・ダーティンとシュリア・ダーティンが固めている。

シュリアのほうは髪が真っ赤に発光しており、ほのかに周りを照らしている。

中央右側には魔族形態に戻ったのか青い肌に側頭部から角が生えたルーカスが机に足を乗せて行儀悪く座っている。

赤の印象が強かったため、今の全体的に青色で統一されているのは顔の造形がほとんど変わらないこともあって違和感が強い。

そして一番手前左側には兵士に見張られたアンリとハウリルが座っていた。

その光景に戸惑っていると、


「やぁコルトくん。さっそくで悪いけど座ってもらえるかな?」


リンデルトに着席を促され、アンリたちと向かい合う位置に座る。

それに満足したのか殿下がうんうんと頷くと会議の開始を宣言した。


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