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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第10章
208/273

第208話

コルトは魔人に飛びかかる男を見て、咄嗟に男と魔人の間に自分の体を入れた。

魔人を庇うためではない。

どう足掻いても魔人に勝てない男を守るために、魔人の攻撃から男を守るために動いた。


でも、それは間違いだった。


仮にも男は戦う訓練を積んだ者、武人だ。

そして無魔でもある。

その手に鈍く輝くものが生成された。


右肩が熱い。

同時に右腕の力が抜け落ちる。


やらかした。

瞬間的にそれを理解するが、もう起きてしまった事だ。

下からの両手による刺突。

当たりどころが悪ければ、間違いなく助からなかった。


それでも何とか男を止めようとするが、その前に顔の横から腕が伸びてきた。

その青黒い手は、驚愕に歪む男の首を掴んだ。

男の顔が苦痛に歪み、コルトの肩に突き刺さったナイフから両手が離れる。


「やっ、めろ!」


コルトは動く左手で青黒い腕を掴んで剥がそうとするがビクトもしない。

そうこうしているうちに、男は放り投げられ宙に浮いた。

同時に背後からコルトを呼ぶ声が響く。


「コルト!」


焦ったような声に振り向こうとして、振り向く前に向こうからコルトの側にやってきた。

アンリ達だ。

アンリはコルトの側に片膝をつくと、すぐにコルトの服を剥いで止血を始めた。

その横で駆け寄ってきたリンシアがアンリに布を作って渡しているが、この雨で生成した側から濡れていく。


「全くなんでこんなことに…、ルーカス、あなたがついていながら」

「縄で縛ってた奴が襲いかかってくるとは思わねぇだろ」

「ここは無魔の地のど真ん中ですよ、縄を切る刃物くらい作れて当然でしょう。まったく、地揺れに唐突な大雨とだけに飽き足らず、みすみすこのような」

「地震と雨は知らねぇし、こいつが俺との間に入ってくるとは思わねぇだろ。刺されたくらいで今更どうこうしねぇよ」


ルーカスの弁解にハウリルは何故そんなことをしたのかと聞いてきた。

なので、傷口の痛みとアンリの力任せな圧迫止血に顔を歪ませながら、魔人二人の反撃を誘発しないように止めたかったと答える。

案の定、アンリにもハウリルにもため息をつかれたし、ルーカスには呆れの声を、ラヴァーニャには鼻で笑われた。


【現場の人員の状況を考えれば、およそ常人の取る判断ではありません。貴方の行動原理は視点が人のものではない】


機械人形にまでそんな事を言われる始末だ。

コルトは何も言い返せない。

そうして黙って糾弾を受け入れつつ止血が終わる頃、ラヴァーニャが鼻を鳴らして囲まれていると警告してきた。

速度は先程の地震と大雨で遅いが、じわじわと確実に囲まれているらしい。


「おやおや。こちらのかたも地揺れは初めての経験のはずですが、民を見捨てるつもりでしょうか」

「そんなもんより、この下にあるもんのほうが重要なんだろ。なんせ稼働してる装置は恐らくそれ1つ。多少の雑魚の命で神の知識の独占に釣り合うとは思えねぇな」

「どういうことです」


ルーカスは白い部屋についてハウリルに説明をした。

それでハウリルもそれなら見捨てる選択も十分有り得ると判断したようだ。


「そうなると人質も意味がないでしょうし、死物狂いで止めにきそうです。強行突破しかないですね」

「それをやろうとしてコルトに邪魔されたんだが」

「今度はわたしが見張っていますよ」


ね?とハウリルは笑顔をコルトに向けた。

完全に次のいたずらをしないか見張られている子供の扱いだ。

コルトは不承不承ながら手は出さないと言うと、突然機械人形が光りだした。

そして人間の左右の鎖骨の中間に当たる部分が特に強く光ると、空中にホログラムが浮かびだす。


【周辺地形のスキャンが完了しました。現在地から北に24メートルの建物入り口からの侵入が装置と思われる場所への最短経路です】


機械人形の説明と共に、地下もぶち抜いた立体ホログラム上で発光する青い球が、これまた発光したラインの上を流れている。

どうやら現在地とその経路を表しているらしい。

ハウリルが感心したようで喜色の声を上げた、これなら無駄な戦闘も起こらないだろう。


「無魔も怖ぇが、お前らも怖ぇな」

【ありがとうございます、ロンドストの技術の粋を集めて開発した機能です。ですが、さすがに装置があると思われる場所の周辺はスキャニングができませんでした。妨害策を講じているようです】

「近くまで探す手間が省けただけでも十分です。囲まれる前に動きましょう」

【ではついてきて下さい、弊機が先導します】


そう言ってホログラムを表示させながら機械人形が動き出したときだった。

突然ルーカスが剣を引き抜いて飛び出すと、ラヴァーニャも反対側に雷撃を放った。

同時に建物の向こう側から飛び出してきたのは、人型や四足動物、多脚の虫のような形態を持った機械だ。

ルーカスはそれを瞬時に生身の相手ではないと判断すると、目の前のものは力任せに薙ぎ払い、他は氷塊をぶつけてそのまま氷結させていく。

ラヴァーニャのほうもショートして動かなくなった機械達が重い音を立てて地面に墜落した。


「足音から人じゃねぇとは思ったが」

「ここは僕が足止めをしましょう。貴方よりも効率的に止められます」


左手を放電させながらラヴァーニャがそういうと、ルーカスはハウリルに目線を送る。


「アンリさん、コルトさんをお願いします。リンシアさんはわたしが」

「分かった。コルト、痛いのは我慢しろよ」


アンリはコルトを立ち上がらせて怪我をしていないほうの腕の手を握ると、リンシアを抱き上げて走り出したハウリルの後に続こうとした。

その時だ。

背後から呼び止められた。


「待て!何故だ、何故お前は白い部屋の正体を知っている!」


コルトを刺した男の、その言葉を聞いてコルトは足を止めてしまった。

その止まった背中にさらに声が掛けられる。


「滅びる前も、その後も神との交流がどう行われていたのかは、教主様と選ばれた御子達しか知らなかった。それなのに、何故外から来た色付きの貴様が知っている!」


コルトは振り返って男を見据えたが、その疑問にどう答えるか迷った。

だがそんな時間は無いとばかりに、少し語気を強めたハウリルに名前を呼ばれる。

コルトもそれは分かっている。

だから一言ごめんなさいと言って立ち去ろうとした。

だがさらに続いた男の言葉のせいで、コルトはもうその場から動けなくなってしまった。


「少し前から当時の教主様と御子達が聖域より帰還できなくなった。貴様らの目的が装置の使用なら、貴様らも戻ってこれまい」


少し前がいつかは分からないが、考えられるのはコルトが目覚めて受肉したときだ。

寝起きたときに様変わりした世界に焦って、適当にまだ魂が定着しておらずすぐに使える体に入った。

あの部屋に誰かがいるなんて思いもしなかった。


全身が震える。

様々な思いが駆け巡り言葉にならない。


するとハウリルが割り込んできた。


「その理由、原因をあなたたちはご存知ですか?」


コルトに喋らせまいと片手でコルトを後ろに下げつつ、男に問いただした。

すると男は険しい表情で口を開いた。


「装置の不調だ。なんせ数千年稼働している、それだけ経てば壊れもする」


嘘だ。

コルトは即時にそう判断した。

装置は肉体と魂を繋ぐ生命線、共鳴力の代わり。

それが壊れたら間違いなく魂は霧散する。

なのに10年を超えて情報を送れる状態で魂が存在しているということは、装置はどう考えても正常に稼働している。

それなら管理者がいなくなってしまったために、魂が囚われたと考えるほうが合理的だ。

コルトは何故男が嘘をつくのか訝しげに見る。

その様子にハウリルも男が嘘をついていると判断したらしい。

何を思ったのか、ニコニコ笑いながら挑発し始めた。


「そのような嘘を平気でつくから神に見捨てられたのでは?」


その瞬間、ハウリルの周囲で氷の花がいくつか咲いた。

コルトは悲鳴を上げて腰を抜かしてしまったが、ハウリルは変わらず笑っている。

目の前の男は激高して叫んだ。


「貴様如きが神を語るな!」

「それはあなたがたも同じでしょう。数千年間応答がなく、挙句の果てに不在となっているのですよ」

「なっ……」


男は衝撃で言葉に詰まった。

本来なら誰も知らない、自分たちだけが知っている秘密を、外から来た者が当然のように口にした。

今まで信じてきた絶対的な優位性が崩れた瞬間だ、男は口をパクパクとさせている。

それを見てハウリルはつまらなそうにため息を吐きつつ、しばし考えてアンリやルーカス達を呼んだ。

そして相手に話が聞こえないようにリンシアを囲むように円陣を組む。

ちなみにラヴァーニャはこちらの様子を伺ってはいるものの、混ざるつもりはないようだ。


「思ったのですが、共神の現状を知っている方が確実にこの場を見ているなら、コルトさんが共神だってバラしたほうが、スムーズに装置までいけるのではないかと思いまして」

「どうやってこいつが共神だって納得させるんだよ」

「白い部屋以外にも共神と彼らしか知らない情報なんていくらでもあるでしょう?」


ねぇ?とハウリルが笑いかけてきたが、コルトは言葉に詰まった。

特別な何かを白い部屋に入ってきた人に言ったつもりも、授けたつもりもない。


「僕と彼らしか知らない事って言われても、自信無いです…」

「彼らに質問させればいいではないですか」

「外に知られたくねぇと思ってるのに、そう軽々に口開くか?」

「ではわたしからお聞きしましょうか」

「……策あんのか」

「策という程のものではないですが、それなりにコルトさんとは付き合いがありますので」

「試してみてもいいんじゃないか?コルトも怪我してるし、戦いを避けられるならやってみてもいいと思うぞ」


戦いを避けられる。

とても魅力的な言葉だ。

アンリのその言葉にコルトが乗り気になると、やってみましょうとハウリルが言った。

一同は男に向き直った。


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