表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第10章
203/273

第203話

指定された第5ポイントに近づくと、迎えのほうからコルト達に合流してきた。

見た目はほぼほぼトラックのような車両が、登山する前にコルト達の前に現れたのだ。


その助手席からルーカスとリンシアが顔を出した。


「よぉ、迎えに来たぜ」

「むかえにきたよ!」


その瞬間。

コルトが怒りに沸き立ったのだが、同行しているのはそんなコルトに慣れた2人だ。

怒号を上げる前に口を塞がれていた。


「もがっ、ふがっ!?」

「はいはい、後でな」

「一応聞いておきますが、ラヴァーニャはどうしたんです?」


ハウリルが監視はどうしたと暗に聞くと、ルーカスがゲラゲラ笑い出した。


「いい感じに挑発に乗せられて、魔力無しの一騎打ちでボッコボコにされてよ、そんで今は文句言いながらこき使われてる」


全員があーという顔をした。

出発前も安い挑発に乗せられては苦虫を噛み潰していたので、今回も似たような感じで不利な条件を飲んで負けたのだろう。


「そうですか。後ろに乗ればいいですか?」

「おぅ。揺れるから落ちるなよ」

「わも、うしろいっていい?」

「さすがにコルトがキレるどころじゃなくなるからダメだ」

「はーい」


コルト達が乗り込むとトラックは軽快に動き出した。

揺れると宣言された通り、かなりガタガタとしていて乗り心地はあまり良くない。

原因は技術的な問題よりも、運転者の問題だろう。

どんなに長く見積もっても運転を初めて3週間の初心者のはずだ。

それを考えたらコルトは今すぐに降りたくなったが、その後の自分がどうなるのかを考えたら降りられない。

とはいえ、スピード自体は出ているのでコルト達の尻を犠牲に1日で拠点に戻ってこれた。


拠点は出発前とは様変わりをしていた。

付近の森林を伐採してできた木材や、拠点の地下から採掘されたと思われる石材で様々な建物ができており、遠征部隊員や機械人形達が忙しなく働いていた。

コルト達がトラックから降りると、帰還の報を受けた遠征部隊の隊長が飛んできた。

確か2番隊の隊長だった人だ。

そしてコルト達の前に来ると、第一声が謝罪だった。


「申し訳ない、独断でロンドストを攻略した」


口では謝っているが、あまり悪いとは思っていない態度だ。

コルトはこの件について追求する気はなかった。

神に頼らないと決めた彼らの行動として、コルトのいないところで事を済ませたかったというのは納得ができる。

納得しているのでハウリルとアンリを見た。

あとはこの2人の問題だ。

アンリも憮然とした表情だったが、コルトと同じようにハウリルを見た。

そして発言を委ねられたハウリルは仕方ないと肩をすくめると、この件はこれで終わりにしましょうと言った。


「尻拭いをさせてしまったとも言える話ですからね。コルトさんに知られたくないならわたしでもそうします」

「理解に感謝する」

「それよりもセントラル攻略について話し合いましょう。思ったよりもキツイかもしれません」

「話を聞こう」


即席の作戦室があるからと隊長が案内しようとすると、ルーカスが呼んでくる奴がいると場を離れようとした。

誰だと聞くと、ラヴァーニャも参加させるつもりのようだ。

文句しか言わないのに参加させる意味はあるのかと言うと、車の中でコルト達から聞いたセントラルの状況に何か対策案があるらしい。

それにラヴァーニャも必要なようだ。

するとリンシアが呼んでくると両手を上げた。

コルトが例によって止めようとしたが、なんと隊長が先に頼むと言ってお願いしてしまう。

頼まれたリンシアは嬉しそうにラグゼル式の敬礼をすると、飛び跳ねるようにしてどこかに行ってしまった。


「我々が話しかけるよりも素直に話を聞いてくれる」


なので最近はリンシアが伝言係みたいになっているらしい。

大人が言うと角が立つことも、子供が言えば問題がない。

そういう事なのだろう。

コルトは歯茎をむき出しにしながらも引き下がった。


作戦室で待っていると、程なくしてリンシアに手を引かれたラヴァーニャが不機嫌そうな顔で入ってきた。

一同を見渡して何の話か察したのか、舌打ちをしながらも大人しくルーカスの隣に並んで立った。

それを確認すると早速隊長が開始の口火を切った。


「機材設置班の3人と1機の報告により、セントラル攻略には4つの拠点と巨大な平原を越える必要があることが分かった。拠点攻略は我々遠征部隊が受け持つ。なので今回は平原攻略について話し合いたい。隠れるところが無いので、近づくまでに攻撃を受けると甚大な被害が予想されるが。ルイ、何か案があるんだな?」

「要は相手から見えなきゃいんだろ?なら霧で隠せばいい」


さも当然のようにルーカスは言ってのけた。

スペックを考えたらできるのは分かるが、それを実行しようと思うことに呆れてしまう。

だがコルトは気付いた。

周囲の共族が何のことか分かっていない顔をしていることにだ。

コルトが気付いたなら当然魔人2人も気付いており、ラヴァーニャはそれに呆れと嘲りの入った笑いを浮かべた。


「霧すら知らないとは、共神は過保護だな。雷を落としたら驚きで死ぬんじゃないか?」

「雷は属性で持ってんのに知らねぇはねぇだろ」

「共族程度の魔法なんて所詮遊びでしょうが!」

「いやっ、まぁ…それはそうだな……」


珍しくルーカスが口で負け、コルトも売られた喧嘩に一瞬険悪な空気が漂ったが、隊長が咳払いをして空気を壊した。


「天候に関する何かというのは分かったが、どういう現象なんだ?」

「やって見せてもいいが」


ルーカスはチラッとリンシアを見た。


「魔力充満させるからリンシア、一回外に出ろ。下手すりゃ死ぬぞ」

「わは、わはへいきだよ!」


自分だけ仲間外れにされると勘違いしたリンシアが慌て始めるが、状況を察した無魔達がリンシアに一緒に外に出ようと手を差し出した。

それでもリンシアはいやっ!と拒否をしている。


「わはへいきだよ」

「リンシア、窓から中が見えたか感想を聞かせろ。見えるか見えないかが一番重要だぞ」

「…わかった」


分かったと言いながらも名残惜しそうだったが、無魔の隊員に抱き上げられて外に出た。

そして窓からリンシアの顔が覗いた時、ルーカスが手を前にかざした。

すると一気に水蒸気が吹き出して部屋中に充満し始める。


「これは…水蒸気か!」


あっという間に視界不良で隣の人間は見えるが、2メートル先はほぼほぼシルエットしか分からない。


「なんか雲の中にいるみたいだな」

「地上にあるのを霧、空にあるのを雲って呼び分けてるだけだからね」

「これなら見えねぇだろ」

「たしかに、夜間ならほぼほぼ見つからなさそうですね」

「とりあえずやりたい事は分かった。一度止めて欲しい、これではまともに話し合いもできない」

「反対側の窓を開けてください、わたしが風で飛ばしましょう」


そして何とか部屋を晴らし、部屋の中の魔力濃度が無魔に影響のない濃度になるまで20分。

リンシア達が戻ってきた。


「みえなかったよ!」

「そりゃ良かった」


他の無魔達も近くの物はシルエットが確認出来ても、奥側は見えず正確な人数を図るのは困難という評価だった。

これなら余計な戦闘もせずにセントラルに近づける可能性がある。

いいじゃんとアンリも太鼓判を押していたが、遠征部隊員やハウリルは難しい顔をした。


「たしかに潜入の作戦としては有効ですが……」

「無魔が中に入れないなら作戦人員が減る」

「あっ……」


つまりリンシアも連れていけない。

コルトはこれ幸いとリンシアを留守番させようと提案しようとしたが、睨まれたり首を横に振られたり約束を破るなと言われたり悲しい表情をされたりした。


「他にもこれでは進行方向が分からなくなりそうです。念のために夜間潜入をしたいですし」

「それは俺とラヴァがいるから問題ねぇよ。俺が地上から、こいつが空からでお互いの位置が分かんだから、こいつを指標にすりゃいい」

「この兎が僕達を惑わせようって思ったらどうするんだよ」

「失礼な!僕はシャルアリンゼ様直々に貴様の力を取り戻せと命を受けた。それを違えたりはしない!」


しばしコルトとラヴァーニャが睨み合うと、アンリがあっと声を上げた。


「ならついでにこいつにリンシアを運ばせたらいいじゃん。魔力が届かない上ならリンシアも問題無いんだろ?」

「彼女はそれで良いとしても、我々の部隊はどうする」

「それについてですがいっそのこと4拠点に注力して頂いて、潜入は必要最小限でも良いような気がしてきました。魔人2人もいますし、戦力過剰かと」

「うーむ」


隊長は周囲の部下達を見渡しながら、しばらく考え込み始めた。


「確かに戦闘を極力避けるならそうだが……」

「いくつかプランを立てておいてはどうですか。セントラル道中で戦闘が発生した場合としなかった場合で計画を変更したほうが良いかと」

「そうだな。最終的にコルトくんが交信装置に辿り着ければいい」

「では理想は道中での戦闘が発生せず、わたしたち少数がセントラル内部に侵入し、速やかに交信装置に辿り着く、ですね」

「中に入ったら最悪俺とラヴァが適当に連中の気を引くから、お前らはその間にそいつ連れてけよ。どうせ俺らは交信装置使えねぇんだろ」


コルトが魔族を自分の領域に入れるとは思えない、と言ってコルトを見てきたので当然だろと返答を返した。

誰が好き好んで魔族を自分の領域に引き入れるのか。

当然門前払いである。

と、何となく計画が固まって来たところで、輪の中に混ざりながらも今までずっと喋らず無反応だった機械人形が、突然注目を集めるようにボディラインをカラフルに明滅し始めた。

いきなりの1680万色で部屋が彩られ、部屋の人間がビックリする。


【内部の潜入には弊ネットワークも機体を同行します。無魔の通信ではキツイ距離も、弊ネットワークの通信技術であれば、かなりの距離をほぼタイムラグ無しで通信できます。そのための準備もしていただきました。これで相互に情報を共有でき、作戦に支障が出た場合でも即時に連携がとれます。また内部での戦闘が発生した場合も、機体がある程度盾になれます】

「あっ、あぁ。それは是非お願いしたいのだが…、そのちょっと光るのを止めてもらえないか。眩しい」

【これは失礼しました。では後ほど弊ネットワークから必要な機材の設計図を提供します】

「分かった。こちらからも技術者を出すから連携して欲しい」


ざっくりとした方針がこれで固まった。

他に何かあるかと隊長が問うと、ハウリルが1つだけと言う。


「潜入時の格好ですが、今のままでは少々目立ちすぎるかと」


自分やアンリの髪や目、服装を指差しながらハウリルが言うと、隊長もそうだなと頷いた。

セントラルの人間に魔力持ちがいないのであれば、魔力属性で髪や目の色が変化しているコルト達は目立ちすぎる。

彼らが髪染めの文化をまだ残していたとしても、キッチリ根本までキレイに染め上げて、さらにカラコンもつけているような見た目の人間が集団でいるのは、それはそれで目立つだろう。

服装に関しても南部文化の見た目なので、セントラルでは見ない服装の可能性はかなり高い。

すると機械人形がしばしお待ちをと言って、しばらくボディライトを水色に明滅させながら静止した。

待つこと5分。

再起動した機械人形が目は何とかなると言った。


【特殊なレンズをはめたメガネによって光の加減を調整し、彩度を落とした見た目にする事が可能です。服装については2000年前にセントラルで一般的だった服装の記録があります】

「2000年も同じ物を着るか?流行や流行り廃りはあるだろ」

【ロンドストに残された記録では、布地は技術発展に伴って変化したようですが、人体構造から算出される機能的な服装は限られ、一般市民の中で流行り廃りはあったものの全体的な形は一定です。神民に至っては神の統治を象徴付けるために8000年間服飾を変えていないと記録があります】

「人の都合で服飾を変えると、逆に神の権威が落ちると考えたのでしょうね」

【参考までにこちらが当時の記録です】


機械人形が例によってホログラムを表示させた。

男女共に現在ラグゼルで一般的に着られている服とあまり差がない。

深掘りしていけば奇抜なものも見つかるだろうが、一般市民の間ではシンプルな構造の服が好まれていたようだ。

やたらゴテゴテしたりしていなくて良かったと少し安心する。


「このくらいなら上に何か追加で着れば誤魔化せそうだよね」


すると、ここで余計な事を言い出す奴が出た。

ラヴァーニャだ。


「8000年前なら共神はまだ地上を統治していたはずだ。その時の猿共の服装を覚えていないのか」


その言葉にコルトはドキリとする。

一言で言えば、覚えていない。

自分が着るわけでもない人間の服装なんて興味が無いので見る気も無かった。

珍しくコルトが反論をせずに視線を反らしたので、周囲は察したらしい。


「実はコルトさんってあまり人間に興味が無いのではないですか?」

「そっ…そんな事は……」


一応否定してみるが、どうにも自信が持てない。

思ったよりも地上の状況を把握していなかったので、自信が無くなり始めていた。

すると誰かがボソッと魔神と足して割ったら丁度良さそうと呟き、少し耳が痛いコルトだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ