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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第1章
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第20話

「……めんどくせぇタイミングで起きんじゃねぇよ」


立ち上がったアンリを見ながらルーカスがボソッと呟いた。

だがアンリは聞こえなかったらしく、ハウリルにる詰め寄っている。

ハウリルのほうはいつもの笑みを顔に浮かべていた。


「ココが生きてるってどういうことですか?」

「あなたの聞き間違いでは?」

「…なんで、そんな……司教さま!?」


さらっと嘘で流そうとしているハウリルにコルトは腹が立った、アンリもさすがに騙されてはくれない。

納得できないと顔を歪めてさらに問い詰めようとしている。

だがその前にルーカスが割って入り、非情な2択を迫った。


「おい、クソガキ。色々捨てて生きるか、ここで死ぬか選べ」

「どういう選択だよそれ!」

「あぁ!?こいつが連れてきたのに責任取んねぇのが悪いだろ!?ふざけんじゃねぇ、2人も子守する気はねぇ」


ハウリルを指差し悪態をつき、つかれたほうは両手を上げた。

ルーカスは舌打ちすると思いっきりハウリルをどついた。

されるがままに尻もちをついたハウリルはそのまま立ち上がろうとしない。


「どうした、多少は罪悪感あんのか?」

「……ないわけ無いでしょう、ですがわたしは未来のために今を踏みにじると決めたんです」

「そうかよ、ならおとなしくみてろ。じゃあ改めて問うぞ、捨てて生きるか、ここで死ぬか、どっちだ」


再びアンリに問いかけた。コルトはアンリの盾になろうと踏み出すが、顔面を鷲掴みにして阻止されてしまう。

指の隙間から睨むが、アンリを見下ろすばかりでこちらと視線が合わない。


「……ココは…生きてるのか?」

「…生きてるぞ」

「色々捨てれば会えるのか!?」

「その色々が何か分かってんのか?」


少し考えるアンリをみんな黙ってみていた。


「……村にはもう一生帰らない、あと名前を捨てるとか………」

「どっちもちげぇ!」

「他に無いだろ!」

「クソガキめ!いいか、よく聞け!今までの常識や思想信念を捨てろ。教会が言ってる事は全部嘘だ」

「なんだと!?」

「それから俺が魔族で、こいつが壁の住人であることを受け入れろ。出来ないなら死ね」

「……まっ…ぞく?」


すんなりバラし呆気にとられてしまった。

アンリも突然のことで停止してしまっているが、すぐに我を取り戻し、そして


「お前がココを!!」


激昂して背中の斧を取ろうとするが、その前にルーカスが腕を取ってひねり上げた。

だがひるまず地を蹴ると、ルーカスの腹めがけて蹴りを入れるがあっさり残った手で足を掴まれて防がれた。

さらに抵抗するが、同時に宙に高く放り投げられた。

人間の腕力でとばせる高さではない。

そのまま自由落下するアンリに焦るが激突する前に、ルーカスが足首を掴むとそのまま逆さ吊りにする。

そして数回上下に振ると手を話した。

顔面から落ちたアンリは顔を押さえて呻く。


「言ったそばからこれかよ」

「クッ…ソが!」

「……俺を恨むのはお門違いだろ、お前を連れ回してんのはそこのクソ司教だろ?村に残ってれば今も何も知らずに能天気に過ごせてただろうよ」

「お前がココを誑かすのが悪いんだろ!!」

「勘違いでクソみてねぇなこと言ってんじゃねぇよ。お前はバカなのか?それとも理解したくないのかどっちだ?バカならここで死ね、そのほうがココも幸せだろ」


それを聞いて条件反射でコルトは思いっきりルーカスの顔面を殴りつけた。

不意を打たれたルーカスは上体が崩れるが、そのまま倒れるような無様は晒さない。

だがコルトは気にせず今度こそアンリの盾になるように立ちふさがる。


「幸せなわけないだろ!」


怒気を顕にするコルトに3人は呆気に取られる。


「2人は友達なんだぞ!アンリが死んでココさんが喜ぶわけないだろ!」

「自分を殺そうとしたやつだぞ」

「誤解ですれ違っただけじゃないか!アンリもココさんもどっちも悪くない!2人とも生きてるなら、これからいくらでもやり直せるだろ!」

「お前はココの状態を見てないから言えんだろ、普通に無理だろ」

「無理なんかじゃない!」


今までになく反抗的な態度のコルトに舌打ちをする。


「めんどくせぇ。こんな茶番に付き合ってられっかよ」

「なんだよそれ!話しは終わってないだろ!?」

「終わってんだよ。結局そいつは無理矢理にでも納得する以外に選択肢はねぇ。クソ司教がさっさとどっかに放逐しねぇからこうなってんだ」


やってらんねぇと吐き捨てると、アンリの斧を奪い取り柄の部分を真っ二つに折ってしまった。

再びアンリが激昂するが、続いて斧刃を握力で粉々にされるとさすがに衝撃だったのか呆然としてしまう。

無残な姿になった斧を無感情にその場に捨てると、アンリを無理やり立たせた。


「ココに会いたきゃ大人しくしてろ。お前の現状は可愛そうだと思うがそれだけだ」

「そんな一方的に決めっ」

「いい加減にしろ!」


怒鳴りつけられると同時に首を掴まれ、足が地面から離れた。

間近に牙を剥き出しにしてかなり激怒している顔が近づいてくる。


「力もねぇくせにふわふわと芯のないことばっか言いやがって、何がしたいんだお前は!俺が気に食わねぇのはどうでもいいが、現実みねぇで理想ばっか言ってんじゃねぇ!!」


泣きたい、泣いたら負けた気がするがとても泣きたい。

我慢をしたが自然と涙ぐんでくると舌打ちされ、そのまま地面に落とされた。


「一度壁内に戻る。コルトの任務はハウリルを連れていけば済む話だ。アンリ、余計な真似すんなよ、殺すからな」


無言でうなずくのを確認すると、飯でも探してくると言い残しそのままどこかに行ってしまう。

コルトは地面に座り込んだまま嗚咽をもらした。

心配したアンリがとなりにしゃがみ込む。


「…泣くなよ、お前が悪いわけじゃないだろ」

「おやっ、思ったより冷静ですね……」

「冷静になったというか、なんか全部どうでも良くなった……。どうせ司教さまも最初から知ってたんだろ?」


途中からですよと言っているが、アンリは信じていないしどっちみち色々知ってて隠していたなら同じことだろう。


「なんで私なんですか?」

「たまたまコルトくんと仲良くなったのがあなただっただけです。コルトくんの足枷になると思って連れ出しました、結局その前にルーカスが強行したのであなたが寝ている間に全て話が終わりましたが」


ひでぇ話だと呟き静寂が訪れた。

僅かに鳥の鳴き声が響き渡るも、それ以外には木の葉が風になびく音しか聞こえない。

なんとなく気まずい空気が流れ始め、アンリはそれに耐えられなくなって口を開いた。


「なぁ、壁の中ってどんなところなんだ?」


コルトが微妙に顔を上げて、それから思案を始める。


「別に普通のところだよ」


普通と言われてもコルトの普通とアンリの普通ではかなり乖離があるため、何が普通なのかさっぱり分からない。

さらに突っ込んで質問してみるが、いまいち要領を得ない返答に少し苛ついた表情になってくるが、俯いているコルトには分からないので伝わらない。

見かねたハウリルが口を挟んできた。


「ご飯は美味しいはずですよ」

「本当か!?」

「コルトくんが微妙に野菜をさけているので、そう思っただけですが」


なんでそれがイコール飯が美味いになるのか分からなかったが、顔を上げたコルトがやっとまともな説明をした。

曰く、魔力による土壌汚染がないので味の変異が起きていない。

今アンリたちが食べているものは本来の食物の味からはかけ離れており、食べるのがかなり苦しい。

そういった内容だ。

アンリはショックだった。

生きてるだけで土地に害を与えているとは思わなかったし、楽だからという理由で魔力の水を畑に撒いていた。

それが結果的に村の害になっていたなんて夢にも思わない。

解決方法は無いのかと聞けば、何十年と放置すれば土地が吸った魔力は消えるらしいがそんなに待ってられない。


「詰んでるんですよ、わたしたちは。だから一度教会が広めた常識を破壊しつつ、秩序が維持される方法を模索しなくてはいけないんです。そのためには壁の協力は必須条件です。もはやわれわれだけで解決出来る問題ではありません」


何かとんでもないことに巻き込まれている。

知らないほうが良かったとは思わないが、アンリは急に足元が不安になった。


次回からしばらく3の倍数日に更新いたします。

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