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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第9章
198/273

第198話

コルトはため息をついた。

コレと会話をするのは疲れるからだ。

そんなコルトの内心など知ってか知らずか、目の前の不気味な少女は嬉しそうに口を開いた。


『久しぶりね、会いたかったわ、ワタシの半身』


本当に嬉しそうな声で笑って言っているが、コルトは逆にゲンナリした。


「半身?冗談だろ。お前と僕は別個体だ」

『連れないわね、2人で1つの星を作ったのに』

「1人でやれば良かったって後悔してるよ」

『そうしたら600万年で済まなかったでしょ、少なく見積もっても20億は掛かるわ』

「はぁ…」


それはそうだが、そういう問題ではない。

早速疲れてきた。

さっさと本題に入ろうとするが、魔神のおしゃべりは止まらない。


『それより聞いて頂戴!今代の子達が名前を付けてくれたのよ、シャルアリンゼって言うの!素敵でしょ、アナタにも名前を付けてあげるわ!』

「いらない。コルトって名前が僕にはもうある」

『嫌だわ、そんなの贋作が付けた名前じゃない。ワタシが作った子達の名前のほうが絶対に良いわ』

「はっ?」


贋作。

聞き捨てならない言葉をさらっと言われ、コルトはキレた。


「帰れよ。お前と話す事はない」


すると魔神は一瞬キョトンとして、何を言われたのか理解すると突然叫び始めた。


『なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!なんでよ、なんでなんでなんでそんなこと言うの!?』


それまでの笑顔からいっぺん、顔面を歪ませてなんでと叫ぶ魔神。

突然あまりにも醜く豹変したのでコルトも顔を引きつらせた。

だが魔神はそんなコルトなど既に見ておらず、己の顔に爪を突き立てて引き下ろした。

そんな魔神をルーカスは明らかにドン引きして顔を引きつらせているし、兎の魔人は目を閉じて俯いている。


『まだまだまだ、まだダメだって言うの!?大変だったのよ!たくさんたくさんたくさん消して消して消して殺して殺して殺して、やっと8世代目でまともな人として運用できたの!それなのに、アナタはまだダメっていうの!?ならどうしたらいいの、次は何を変えたらいいのよ!何を削ぎ落とせば良いのよ!』


頭を振り乱しながら発狂する魔神。

その口から”次”という言葉がでると、兎の魔人が慌てたように魔神の名前を口にした。


『うるさい!』


だが激高した魔神が吠えると、次の瞬間兎の全身がバラバラになり、頭部が宙を舞った。

舞った頭はルーカスがキャッチしたが、魔神の様子からどうすればいいのか困っており、とりあえず両耳を掴んでぶら下げている。

普通の兎にやれば明らかな虐待だが、兎は魔神の様子にそれどころではないらしく、ぶら下がった状態で必死に魔神に謝っていた。

当の魔神は全く聞いていなかったが。

コルトはそんな魔族陣営のやり取りを見ながら、さらに面倒くささが募っていく。


「あのさぁ、僕は帰れって言ったんだよ。勝手に話を飛躍させないでよ」


そう言うと、ピタッと魔神の動きが止まった。

そしてゆっくりとコルトに顔を向ける。


『じゃあ名前を』

「いらない。しつこい」

『そんな!』

「僕にはもう名前があるって言ってるだろ!」


何度も言わせるなと苦言を言うと、魔神が信じられないと叫んだ。


『どう見てもワタシが作った人のほうが優れてるじゃない!アナタもそう思ったから力を流して中立化したんでしょ!アナタは効率と合理性を優先するもの、ワタシの作った人が優れてて羨ましかっ』

「はぁ!?お前が一個体に干渉して暴走させたのが悪いんだろ。そもそもこんなのいらないんだけど!?」


コルトは魔神の言葉を遮って怒鳴った。


「後ろを見てみろ。生物としても外れすぎてて、このままいけば生死の境すらあやふやになるぞ。寿命があるだけマシな、こんな悍ましい者を僕は認めない!」


言われて振り返った魔神。

目に映ったのはバラバラになった体を中途半端にくっつけ直した魔人と、その首を持って立っている魔人の姿だ。


『キャアアアアアアアアアアアアアア!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!許して頂戴!傷つけるつもりは無かったのよ!』


繰り返し謝りながらまたやってしまったと泣き叫ぶ魔神は、パズルを完成させるように兎魔人を自らの手で組み立てていく。

それを見ながらコルトは反吐が出る思いだった。

己の癇癪でバラバラにしておきながら、泣いて許しを請う姿は非常に醜い。

思わず悪態をついてしまった。


「まるで君の癇癪に耐えられるようにつけた能力じゃないか」


すると魔神はピタッと動きを止めて、組み立てていた兎魔人を放り出すとコルトに詰め寄った。


『違うわ!そんな訳ないでしょ!ワタシが不甲斐ないからそう見えるだけよ!』

「管理者たる僕たちが被造物を傷つけてる時点で、本末転倒もいいとこだろ」

『そんな、そんなの、アナタに言われたくないわ!周りを見てみなさいよ!数多の文明と同じく、ここも多くが死んで滅んだじゃない!アナタが作った生物の9割が死滅しているのよ!アナタが直接手を下していなくても、管理責任ならアナタだって問われるべきだわ!』

「はっ?」


9割。

なんとなく目を逸らしていた全体でどのくらいがいなくなってしまったのか。

その現実が9割の死滅。

生き残りに植物や海棲生物が含まれているなら、現実に残っているコルトが作った陸上動物はそのほとんどが死滅している計算になる。


『簡単に死ぬから争いが絶えずに自滅するのよ、だって簡単に死ぬなら相手を殺して排除したほうが早いじゃない!だから簡単に死なないこの子たちを作ったの!泥沼の争いが見えるなら、面倒くさくて誰もやらないでしょ!それに力に明確な差をつけて、相手に敵わないと思ったら闘おうなんて思わないわ』

「欺瞞だ。そのやり方だと、下層民は上層の食い物にされるだけって結論が出てるだろ」

『種族が滅びるよりはマシよ。それに少しでも差異があれば、知性体は必ずその中で優劣をつけて他者を虐げるわ。弱ければ弱いほどそれは顕著に出る。アナタもそれが分かっていたから、徹底的な暴力の排除と過剰な管理を行ったんでしょ』

「でもそのやり方で僕は20万年も安定化させた!これよりも長く星の頂点に立ち続けた知性体なんて、他に数えるほどしかないじゃないか!それらだって極端にサイクル周期を長くすることで達成してるんだ。このサイクルなら実質僕がトップだぞ!」

『その20万年でどれほどの発展をしたのか言ってみなさいよ!アナタの気に入らないモノは問答無用で排除される選べない社会で、人も独自の発展を諦めてそのほとんどが停滞してたじゃない!』

「そっちが全然進展しないから、こっちだって下手なことできなかったんだよ!ほっといたらどこにだって行ける技術を生み出すのが人だぞ、そっちが安定する前に勝手に侵入したら不可侵の約束に抵触するだろ」

『うるさいうるさいうるさいごめんなさいうるさい!消したのは慈悲よ!慈悲なの、慈悲だったら!アアアアアアアアア、ごめんなさいごめんなさい。彼らが自らの滅びの罪を背負うなら、ワタシが先に消すのよ。慈悲よ、これは慈悲なのよ!!ワタシがワタシがワタシがワタシが!』


定期的に発狂する魔神にコルトはなんでコレと組んで世界を作ろうなんて思ったのか、当時の自分を殴りたくなっていた。

ただ殴ろうにも今目の前にいる魔神はただの立体映像のようなものだ。

殴りかかっても空をきるだけだろう。


「はぁ。うるさいのは君のほうだよ。いい加減引退したら?満足できる魔族ができたんだろ?」

『いやよ。まだアナタに評価してもらってないわ』

「なんで僕が魔族の評価しなきゃいけないんだよ。南でやる分にはお前の裁量範囲で好きにしたらいいだろ」

『なんでそんなこと言うのよ!アナタが作った贋作は、ワタシが作った魔族の力を求めて大勢が死に急いだじゃない!管理者のアナタが評価をしないのは現実逃避だわ!』

「贋作って言うな!彼らを馬鹿にするのは許さないぞ!」

『アナタこそワタシの魔族に酷いこと言うのやめてよ!』


お互いに自覚が無いまま、お互いの被造物を貶しあう。

何の生産性もないどころか、その場の人間の精神が削られるような罵りあい。

そんな不毛な貶し合いに最初に声を上げたのはハウリルだ。

最初は興味深く二柱を観察していたが、双方共にダメと判断してからは目が完全に据わっていた。


「少しよろしいですか?」


言い争いをする神達に臆する事無く声をかけ、少しずつ距離を詰めていく。

その後ろではアンリと遠征部隊がいつでも飛び出せるように体勢を整えていた。


「ハウリルさん、危ないですよ!」


当然のようにコルトは両手を突き出してハウリルに止まるように言うと、ハウリルも2人から3メートルほどの距離をあけて止まった。


「このままではお二方とも埒があかないでしょう。なのでご提案をしたいと思いまして」

「いやいやいや、魔神のことなんて気にする必要ないですよ」

「そういうわけにはいかないでしょう、最終的な目的を考えればね」


含みを持たせたハウリルの言い方に、コルトは嫌な予感がした。

その予感は正しく、ハウリルは両者戦って決着をつければいいと言い出した。


「なんで!?」


それを聞いた第一声。

だが瞬時にその直前の”最終目標”という言葉から、コルトはハウリルが何を言いたいのかと理解した。

コルト達の最終目標は魔神の討伐。

ルーカスを使って種族間戦争を引き起こせなくなったが、魔神が向こうからやってきたのだ。

ここで喧嘩を売ってしまえばいい。

それは分かる。

だが相手がそれに乗ってくるかは別問題だ。

案の定、魔神はハウリルの提案に鼻で笑っていた。


『魔力を持ってるから話くらいは聞いてやろうって思ったけど、時間の無駄だったようね』


一言下がれとハウリルに命令をするが、ハウリルは引かなかった。


「あなたの目的は共神に魔族を評価してもらうことでしょう。ならこのやり方が一番良いと思いますよ。共神は結構頑固なところがあるようなので、拒否を示したらなかなか首を縦には振りません。ですが、わたしたち共族を巻き込むのであれば話は変わる」


的確にコルトの痛いところをつくハウリル。

魔神はその言葉に少し考え込んだが、結論をすぐに出してきた。


『そうね、アナタを説得するのは毎回時間が掛かったもの。いいわ、そうしましょう。ならいつどこでやる、今すぐでも良いわよ』

「そうですね、では」

「ちょっちょっと待って、待って待って!」


話を進めようとするハウリルをコルトは慌てて押し留めた。


「何考えているんです!?」

「元々の予定を進めただけですが」

「ぐっ…、それは…」


それはそうとしか言えないが、心情的には少し待って欲しかった。

だがハウリルはコルトを待つ気など全くないらしく、コルトの肩を押して再度魔神のほうに向かせる。


「この通り、現在共神は何も力を持たない状態です。そのため先ずは力を取り戻さなければなりません」

『そんなの、体を破棄すればいいわ。200年くらい待ってあげる』

「それでは長すぎます。共族側が待てません」

『そういえば寿命そのままだったわね。でも、そんな事言うなら、その脆弱な体を使えるようにする方法くらいすでに用意してあるのよね』

「共神はそのつもりのようですよ」


ハウリルはそういうと、生贄に捧げるようにコルトを前に突き出した。

期待を目に込めた魔神に、コルトは一応…と自信なく答えた。

それでも魔神は嬉しそうな顔になった。


『いいわ、いいわ!ならそれはいつ終わるの?』

「ぐっ、ちょっと分からないけど、1年は掛からないと思うと」

『あら、すぐじゃない!なら人数が増えればもっと早く終わるわよね』


悪質なクライアントのようなことを笑顔で宣った魔神は、後ろを振り返ると首を取り返そうとルーカスに殴りかかろうとしていた兎魔人を見た。


『ラヴァーニャ』

「はっ、はい!」


殴る前に頭部を投げつけられるも見事にキャッチした兎は、首を元の位置に戻しながら返事を返す。


『残ってコレを手伝いなさい!』

「承知いたしました。……はい?」


条件反射で同意を示したあとに、何を言われたのか理解をしたらしい。

間抜けな声を上げた。


「シッ、シャルアリンゼ様、お待ち下さい!僕はこの後戻って報告を!」

『そんなのワタシがミンナを呼びつけてやるわ!終わったら品評会の日程を報告しに来てね、頼んだわよ』

「えっ、ちょっ、お待ちください!」

『もう決めたの。コレの気が変わらないうちにワタシも準備を進めなくちゃ!』


うきうきとした様子で楽しげな魔神。

それに対して兎魔人の顔には絶望が浮かんでいる。

そしてそのまま魔神は踵を返しながら蜃気楼の様にコルト達の前から消え失せた。

あまりにも唐突な終わり方だった。


「えぇ……、そういう話なら、まだ言う事あるんだけど…」

「まぁまぁ、いいではないですか。そこの魔人を向こうに返さなければ、開戦日時をこちらでコントロールできる状態になったのですから」

「ハウリルさん!?」

「クソ猿が、舌を抜くぞ!」


先程とは態度が豹変したラヴァーニャが殺意をあらわにするが、背後から笑いを堪えるルーカスが現れ、そして無造作に肩を組んだ。


「そう言うなよ、クソうさぎ。一緒に頑張ろうな」


次の瞬間、ルーカスの首が消えた。


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