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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第9章
194/273

第194話

リンデルト達一行が到着したのは、それから1ヶ月経った頃だった。

その頃には海岸から少し離れたところに小型の家が三軒、小さな倉庫、黒竜の日除け小屋に物見台から野外炊飯所まで完成しており、ちょっとした集落みたいな感じだ。


「おっせぇよ、何モタモタしてんだ」


出迎え早々リンデルトに面と向かって横柄な態度でルーカスが文句を言う。

周りの面々は真正面からの不敬に、リンデルトの同行者は気が気じゃないのか青ざめた顔をして積荷を降ろす作業中ながら戦々恐々としていた。

だが、待たされたコルト達は多少溜飲が下がる思いだ。

対してリンデルトは気にした様子もなく平謝りをした。


「ごめん、ごめん。アウレポトラにも僕達がルンデンダックに行くことを通達して内容をすり合わせてたんだよ」

「なら連絡くらい寄越せ」

「それするとさらに数週間遅れるけどいいかい?」


ニコニコとしたリンデルトの反論に、ルーカスは歯茎を剥き出しにしつつ反論はしない。

道中の警備や船の確保など、色々考えるとちゃんとした人員を選出せねばならない事を分かってはいるようだ。

とはいえ、リンデルトも多少は遅れた事を気にしているのか、ため息をついて最近の情勢を説明してきた。

東はほぼほぼラグゼルが掌握しているに近い状態だが、だからといってアウレポトラの顔を立てておかないとどこに亀裂が入るか分からない。

表面はそこそこ良好な関係性だが、現場からの報告によるとずっと引きこもっている分際で、という雰囲気がやはりあるようだ。

だからどこかで一度は必ず顔を出さなければと、今回ついでに行ってきたらしい。

結構大変なようだ。


「それでこっちはどんな状況だい?様子をみるに、結構色々やっててくれたみたいだけど」


リンデルトが周囲を見渡しながら言う。

そして日が落ちるまで、各自の報告回となった。


「亜人発生の予兆もなく、ヘンリン異常の噂もない。良かった良かった。なら遠征1番隊は明日にでも出発できそうだね」

「はぁ、やっとか」


うんざりした様子のルーカスにリンデルトは苦笑を返しつつ、1番隊の面々に向き直った。


「分かってはいると思うけど、生存を第1に考えて欲しい。敵がいなくなるまで殺すっていういつもの防衛戦とは、状況も目的も違うからね。君達は生存して帰ってきて始めて任務成功になることを肝に銘じるように」

「了解」


そして翌日の早朝。

殿下達に見送られながら、コルト達は再度北に向けて飛び立った。

管理者として大地を見下ろし続けて数百万年、人として竜の背に乗って何度目かの大空。

コルトにとっては感慨もなく見慣れてきたその光景。

だが遠征部隊の大人達にとっては初めての大空に興奮しているのか、年甲斐もなくはしゃいでいた。

黒竜と並走するように飛んでいるルーカスが頭を抱えるほどだ。


「アンリだってこんなにはしゃいでねぇぞ。これ、2番隊も俺が迎えにいかねぇとやべぇんじゃねぇの」

「あっはっはっは、さすがに大丈夫だよ。そのくらいは弁えてる」

「いやあ、でも凄いな!命を掛けるだけの価値はある景色だ」

「うえぇ!?やっ、やめて下さい、そういうこと言うの!縁起でもない」


技術さえあれば誰でも見られるようになるものに、そんな事を言うのはやめてほしい。


──でも、みんな空から世界を見下ろすのって楽しいんだな。


俯瞰してみることが当たり前すぎて、そんな人の当たり前が分からなかった。

知らなければ不幸を感じることはない。

そう思う気持ちがある。

でも知ったからこそ感じる幸福もある。

どちらが人にとって利となるか。


──きっとこれは、僕が決めることじゃないんだろうなぁ。


そんな事を考えていると、北の山脈が眼下に見えてきた。

あれを越えると魔力の無い地域だ。

さすがの遠征部隊もはしゃいでいたのが静まった。


「いよいよだな」


一同無言で頷く。

もはや改めて目的を確認するまでもなく、みな眼光鋭く山脈、いや、その向こうを見据えている。

黒竜はさらに速度を上げた。

そしてそのまま何事もなく山脈を越えると、広がるのは巨大建造物を飲み込んだ一面の緑。

遠征部隊はそれに息を飲んでいた。

国を守るものとして、自分たちの敗北とそれを重ねてしまうのだろう。

そんな彼らの反応には気付きもせず、コルトは目を凝らしてアンリやハウリルがいるロンドストの街のほうを見た。

前回見た光景と何か変わったところは無いかと必死に探し、遠目からでは分からない事に一先ず安心しつつ、それでも気持ちは急いでいた。


「こっからじゃさすがに見える変化は分かんねぇな」

「だがなるべく急ごう。結構時間を使わせてしまったからな」


そしてそのままコルト達は黒竜に乗って、以前ロンドストを観察した廃墟都市の近くに向かい、そこで遠征部隊を降ろした。

そこで改めて街に入るための確認をする。


「俺とコルトはこのまま先行する。場所も分かってるし、さっさとアンリ達の状況を知りてぇからな。コルトを置いたら迎えにいく」

「了解した。我々は地上から街に潜入、そのまま隠密行動で地下を目指す」

「なら俺らは先に行くぜ」


最後の確認を済ませ、時間も無いのでコルトはさっさと再度黒竜に乗ろうと足をかけた。

だがその前に襟首を掴まれ担がれる。


「おいっ!」

「目立つ黒竜で行くわけねぇだろ」

「ここまで来てるのに今更だろ!?」


降ろせと抗議をするが、がっちりホールドされて全く意味が無かった。

すると、遠征部隊からも黒竜はやめておけと指摘が入る。


「コルトくん、黒竜はやめたほうがいい。今更なのはそうだが、いくらなんでも的が大きすぎる」

「街に入る前に集中砲火されるよ」


遠征部隊からも口々にそう言われ、コルトもさすがに反論が出来なくなってしまった。

攻撃されて万が一黒竜が落ちたら、みんなが困ってしまう。

コルトは泣く泣く抵抗を止めた。

それからは案の定、森の中を縫うような地獄の弾丸飛行となり、コルトは無事に気絶した。






次にコルトが目覚めたのは、火球の火だけが周囲を仄かに照らす薄暗い地下だった。

ジメジメとして肌寒い地下で、火球の熱が体温を奪うのを防いでいる。

硬い床に寝かされていたコルトは、ゆっくりと体を起こして周囲を見渡すと、少し離れたところでルーカスと機械人形が何かを話している。

1人と1体はコルトの身を起こす音で、起きたことに気が付いたようだ。

こちらに顔を向けて近寄ってきた。


「ちょっと面倒なことになってやがる」

「まずアンリ達が無事なのかを教えてよ」


眉根を顰めて少しキツめに言うと、機械人形が短く生きていると答えた。

ただその後に続いた言葉は歓迎できるものではなかった。


【居場所は把握しているが、この街にはいない。彼らは街の周囲に隠れている】

「なんでそんな状態になってるんだよ。というか、ルーカス!街の外にいるなら気付けたはずだろ!」


そんな疑問を口にすると、前者には機械人形が数に勝てなかったと良い、後者はかなりイライラしながらも先に機械人形と状況を確認したかったと答えた。


「街に近づいたら2人の魔力が何故か街の外にありやがる。こりゃ絶対何かあったに決まってんだろ。んで、魔力的に消耗してる訳じゃねぇみてぇだから、先に機械人形に状況を確認したんだよ。裏切ってんなら、さっさと白黒つけてぇだろ」

「……。それで、結果は?」

「機械人形は裏切ってねぇ」


”機械人形は”。

つまりここに連れてきた無魔の彼らは裏切ったという事だ。

ある意味懸念していた通りだ。

自分たち身内が全員いる状態で気が大きくなったのだろう。

機械人形もいるとはいえ、アンリとハウリルの2人だけではいくらなんでも人数差がありすぎた。

さらにリンシアも守りながらだ。


【セントラルを攻めることを考えて、強硬な手段を取れなかった。争いを避けるには彼らが出ていくしかない】

「ちっ。セントラル攻めんのにあいつらもう要らねぇだろ。助けてもらっといて2人を追い出すような連中に、背中を預けられるかよ。コルトが腹ぁ括って俺が上空から爆撃しまくれば済む話だろ」

「絶対にやだ。共族の中の問題に、魔族が出しゃばるな」

【弊ネットワークもそのやり方は推奨しない。過去、無差別の攻撃をしても戦意低下にはあまり役立たなかった。寧ろやられたからやり返すの泥沼が発生し、行き着く先が今だ】

「っがぁ!んっとに面倒くせぇなぁ!!」


ルーカスがイライラを爆発させてめちゃくちゃに頭を掻き毟った。

そんなルーカスを横目で見ながらコルトは機械人形に視線をやると、こっちはこっちで糾弾を始める。


「それで、人形はそんな状況で何やってんだよ」

【マザーの守護と彼らの援助だ。ソフトを守ってもハードを壊されては元も子もない。今、地下基地は高度なセキュリティにより、内部構造を断続的に入れ替えている。これにより、マザーの警備に割く機体の数を減らし、彼らへの援助にもリソースを割く余裕が出来た。だが出来れば早期に事態の解決を願っている】

「最低限はやってる訳か」


文句を言えない最低限の事はやっているらしい。

コルトはため息をついた。


「とりあえずアンリ達と合流しよう。ハウリルさんも交えて色々話し合わないと」

「だな。おいっ、えぇっと……」

【汎用型一般機Type-G0512。G29での識別を推奨する】

「……?あぁじゃあG29。こいつ連れて先にハウリル達のとこに行ってくれ。俺は遠征部隊を拾ってから合流する」

【承知した】


そしてコルトは機械人形の案内で、アンリ達に再会すべく歩き出した。


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