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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第9章
193/273

第193話

第1陣の到着はそれから5日後の事だった。

無魔2名を含む5人が編成され、そのうち2人はコルトも知っている顔だ。


「お久しぶりです、アーリンさん、リビーさん!また会えて嬉しいです」

「久しぶり、元気だった?」

「君については色々と聞いているが、任務終了までよろしく頼むよ」


他の3人もコルトについて聞いているらしいが、今は口だけの状態なので任務優先を上から厳命されているらしい。


「なんだ知り合いか」

「ルーカスがぶっ倒れた代わりにルンデンダックまで護衛してくれたんだよ」

「そりゃ面倒かけたな」

「いいわよ別に、アーク商会の護衛の延長だもの。それに、ラグゼル初の西大陸上陸が夫婦でできたし」

「その縁で今回抜擢されたわけだな」


そしてしばらく到着した部隊と交流し、お互いについて確認する。

小一時間も話した後、ルーカスと1部隊は戦力の確認と対岸渡航後についての話し合いに入り、コルトはその間に船の状況を確かめに出た。

再度ロバスを尋ねると、ロバスも部隊が到着したと聞いてコルト達を訪ねようとしていたらしい。

建物の入口でばったり出くわし要件を伝えると、そのまま中に通された。


「その量の積荷なら明日には出港できるだろう」

「分かりました」

「だが風の魔力持ちが1人しかいないのか。しかもかなり魔力が少ないときた」

「そう言われてもラグゼルだとあの人でも平均より高めですよ。それにルーカスがいるのでいいじゃないですか」

「魔族だから逆に心配なんだが…。それに、対岸の様子を見に先行したりするのだろ?」

「いっ、一応部隊の人達が魔石を作る道具を持ってきてくれたみたいなので、魔術刻めば本人にやらせるよりは良いと思います」

「ほお、それは良いことを聞いたな」


魔石作成の道具と聞いて、ロバスの目が一瞬光る。

コルトは慌てて盗んじゃダメですよと念を押した。


「余程のバカじゃなきゃ実行せんわ。連中の武勇はここまで届いているからな」

「武勇がなかったらやるんですか!?」

「揚げ足を取るな!だが一応貴様らも知られないようにしろよ。余程のバカっていうのは、意外に多い」

「分かりました」


それからさらに少し話をして、コルト達は実際に船着き場を確認することになった。

港に到着すると、コルト達の姿を確認した船員が集まってくる。

彼らに予めコルトが把握してる人数と積荷を船員に告げると、彼らも早くて明日という見解なようだ。

そして仕事のやる気に溢れた彼らを連れて、コルトは宿屋に戻った。






久しぶりの船旅は天候にも恵まれ順調に進んでいた。

甲板を気持ちの良い風と船員達の船歌が吹き抜けて、そんな中でアーリン達のラグゼル男陣は前回敗北した釣りに再挑戦している。

雰囲気的にはこれから戦場に向かう集団を乗せているとは思えないくらいだ。

そしてそんな甲板のすみっコで、コルト達残りの3人は風の魔石に魔術を刻んでいた。


「へぇ、本当に魔族だと魔術刻めないのね。こんなに純度の高い魔石は作れるのにもったいない」

「そっちはもう魔術使えるようになってんのかよ。アンリの奴なんていつまでたっても禄に読めねぇし書けねぇから、結局セリフ決めて魔術使ってるぞ」

「話に聞いてる詠唱法ね。それはそれで高等技術だと思うし、慣れたらそっちのほうが楽じゃないかな」

「攻撃前に喋っちまったら意味なくねぇか?」

「今は何とも言えないわね」


今はまだ使える人間が現状アンリしかいないため、誰にぶつけても初見殺しになる。

これから増えるとしても発声と発動がほぼ同時に起こり、聞いてから対応するのは難しいのではないか、というのがリビーの見解のようだ。

だが将来的な懸念点として、今は複雑な事をしないために1単語で済んでいる詠唱が、今後どんどん文章化して長くなれば、その懸念が現実になるかもと考えているようだ。


「どちらも覚えて使い分けじゃないかな、少し考えるだけでもどちらにもメリットとデメリットがあるもの」

「結局はそういうありきたりな結論になるのな」

「あら。物事なんて突き詰めれば大抵シンプルよ」


そんな会話を2人は続けながらも手元では魔石が順調に量産されている。

コルトはそれを聞きながら、魔石に魔術を刻んでいた。

2人の会話は技術的観点から好奇心が湧いたが、ここの船員達は全員文字が読めない。

だから違う風量の魔石を大量に用意しないといけないので、コルトは聞き役に徹している。

そして2人がフラウネールが自身の体に刻んだ魔術や、ルーカスにコルトが刻んだ魔術について議論を突き詰め始めた頃、コルトの魔石刻みが終わった。


「これだけあれば大抵のことには対応できるはず」

「ハウリルに代わりに刻ませてた頃と比べたら、大分マシになったじゃねぇか。うげっ、文字は読めんのに内容が分かんねぇ」


ルーカスがいくつか魔石を手に取って刻まれた文字を見ると、苦い顔をした。


「ごめんね、計算とか苦手なのよ、助かったわ」

「いえっ、元々僕の専門はこっちなので」

「それじゃあこれを彼らに渡してくるわ」


そういってリビーが立ち上がったあとに、何かを考えるかのように固まった。


「どうしました?」

「これを使う人達って文字が読めないのよね?どれが何かこのままじゃ分からないんじゃ」

「あっ…」


完全に失念していた。

魔力を込めない数字でも刻もうかとも思ったが、彼らは数字すら読めないのだ。


「専用に収納の箱を作って、管理を徹底させるしかないか」

「面倒くさがってすぐにグチャグチャになりそうだな」

「そこは彼らの船乗りとしてのプライドを信じるしかないわ。これは要するに船の操舵に必要なパーツだもの」


そう言うとリビーは男性陣に向かって声を張り上げた。


「レヴン、カイナス!ちょっと作って欲しいものがあるんだけど!」


無魔2人の名前を呼ぶと男性陣全員が振り向いた。

そして名前を呼ばれた2人は手に持った竿を残りの2人が預けると、コルト達の元にやってくる。


「どうした、何か壊れたか?」

「魔石の装置の修理は俺達だけじゃ厳しいぞ」

「違う違う、作って欲しいのは魔石を収める箱よ。威力ごとに作ったはいいけど、あの人達文字読めないでしょ」


それを聞いて2人は納得したようだ。

早速魔石を見ながらどういう箱がいいのか2人で話し合い、分担してパーツを作るとあっという間に組み立てて簡素な収納箱ができあがった。

それを受け取ったリビーは、1つずつ仕切りで区切られた箱の中に魔石を収めていく。


「ありがとう、助かったわ。じゃあ私はこれを彼らに渡してくるから」


リビーは足早に船内に入っていった。

残った男達は再度釣り場に戻るようなので、コルトとルーカスもそれについていく。

そして釣果を聞いてみると、やっぱりあまり芳しくないようだ。

4人で数時間やって2匹である。

前回よりはマシとはいえ、コルト達だけでも7人なのでこれではあんまりだろう。


「前回も釣れなかったんですよね」

「釣り餌が漁場にあってないのか?」

「前回そう思って今回は疑似餌の種類を増やしてきたんだけどな」

「でも漁って言ったら普通は網だろ。海での一本釣りならこんなものじゃないか」


特段海に詳しいわけでもない者達でうんうん唸って考えているも、何も結論は出ない。

すると、ルーカスが反則的な質問をぶつけてきた。


「コルト。共神はこの辺の海の設定どうしてんだよ。魔族領だと瀑布に近くなるほど生き物いなくなるが、こっちも南は人を住まわせるつもりなかったんだろ?」

「えぇ…、そういう質問ここでする?」


共神前提のあけすけな質問もムカつくが、海洋生物が全て人間の食べ物前提の質問にも腹が立つ。

ここにいるのがルーカスだけなら怒っているところだが、ここには関係のない4人がいる。

そして彼らも好奇の目でコルトを見ているとなれば、コルトも脊髄反射で怒るわけにもいかず、少し考えてから答えた。


「地上と海は運用が違うから、南部に海洋生物を置かないってことはしてないよ。してるならそもそもラグゼルでもこっちでも魚なんて取れないし。単純にタイミングが悪いとかじゃないかな」

「期待したよりも普通の答えだな」

「社会に影響があるわけでもないのに、作ったらそのまま成り行きだよ。そんなことより、お前が海中に潜って魚影探したほうがマシなんじゃないか」

「水棲じゃねぇから無理」


あっさりした一言にコルトは呆れてしまった。


「つぅかリビーに魔石装置やらせておいて、お前らは呑気に釣りか?」

「それは誤解だ。俺とレヴンがこっちで食うもんが限られてるから、魚を取っておこうってだけだ」

「海洋調査の一環でもあるぞ。ルイはこっちに海棲の魔物は持ち込んでないっていうが、魔物の体に卵とかが付着してこっちで繁殖してるかもしれないだろ」

「陸上の魔物の体に、海の連中の卵なんて付着するか?」

「しないとは思う…が、一応…な?」

「あとはさすがに希釈されてるとは思うけどよ、東も川魚だと無魔には当たり外れがあるんだよ。ならこっちの海も可能性はあるだろ」

「うぐっ…。そんな酷い状態なんですね」


土壌が魔力で汚染されているので、雨などが土から川に流れ込む時に一緒に魔力も流れ込んでしまうのだろう。

コルトもこの汚染問題に関しては、どうすればいいのか答えが出なかった。

染み込んでいるものを取り除こうとするなら総取っ替えするのが一番はやいが、それを実行すると地上のものも巻き込んでしまう。

さらに、もう自分は関わらないと宣言してしまった上に、彼らが魔力を捨てない限りはほぼ一生ついてくる問題だ。

彼ら自身に解決させる手段を生み出させなければ先が無い。

だがそんな真面目な理由で魚を釣っているなら、コルトも手伝わないわけにはいかないだろう。

コルトは余っていた釣り竿を手に取った。






それから数日。

予定通り西大陸に上陸したコルト達は、海岸付近で野営をしながらの拠点構築生活が始まった。

ルーカスの偵察で街に入港するのは危ないと判断され、結局人影の無い磯に上陸することになってしまった。

これから来る予定の殿下達も同じ場所に上陸予定となれば、先行部隊は安全に上陸出来るように付近の整備に大忙しだ。

唯一の救いはルンデンダックが少しだけ機能を取り戻したらしく、魔物の討伐が進み亜人の心配が無くなっていた事だろう。

黒竜が合流したことで、周囲の警戒に人を割く必要がなくなったのはありがたいし、これでルーカス無しの北部遠征という頭の痛い話もなくなった。

そんなわけで非力の代名詞コルトは周囲の森の中をズモウに乗って回っては様々な植物を収集し、1つずつ魔力判定を行って食べられるものとそうではないものの仕分け作業に明け暮れていた。

ちなみに毒性については、ルーカスを毒見役にすることで解決した。


──思ったより食べられるものが多いけど、やっぱり食用にするには量がたりない。


今流通している食用植物は、ほとんどが人間の手が入って食用に品種改良されたものだ。

ここにあるものは野生種ばかりなので、身が小さかったりスカスカだったりと常食するには不向きなものも多い。

コルトはそれら魔力の有り無しで仕分けたものを、それぞれ箱に収めつつ、さらに即席の地図に分布を細かく書いていく。

すると面白いもので、地域によって魔力の有り無しが浮き彫りになってくる。

もっと細かく調査していけば、何か分かることがあるかもしれない。


──明日からは地図の精度を上げるのも頑張ってみようかな。


周囲5キロ圏内という狭い範囲とはいえ、無いよりはいいだろう。

明日やることを決めたコルトは、炊き出し準備を始めているレヴンの元に仕分け終わった箱を持っていった。


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