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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第9章
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第191話

「遠征第1陣の人員と物資はこれで問題無いとしても、後続についてはやはりヘンリンや教会の協力次第かと思われます」

「3国会談は殿下、ソルシエ、ポルーテンは決まりとして、残りはもう少し詰めたほうがいい」

「やはりその3枠で決定で良いのでは?船を考えるなら、あまり大人数は乗れないはずだ。向こうはかなり原始的と聞いているぞ」

「会談の場所を東大陸に指定できればいいのだが」

「あちらの状況的に無理でしょう。どう考えてもこちらから出向いたほうが早い」

「ヘンリンに派遣した人材の状況も分かりませんしねえ。ルイカルドが暴走したなら、他の2人も暴走している可能性があります。上手く逃げてくれてればいいのですが」

「ルイカルドの偵察も2ヶ月は掛かるって言うなら、行かせる意味がほとんど無いしな」

「その前に、いくら戦後に考えるとは言え建造物の補強は今から取り掛からないとダメだ!都市計画は数十年先を見据えてやるべき分野なんだぞ、なるべく会談の人員は最小限にすべきだ。レイデントが残るとは言え、魔研のソルシエと運輸のポルーテンが抜ける穴は簡単には埋まらん!」

「なら僕とその2家でいいのではないかな。今回の会談は遠征ついでにあくまでこちらから出向いたという実績作りと西大陸の情勢確認と共有、これからの足掛かりを作るのが目的。東の情勢が落ち着いた今なら、ダーティンも比較的自由に配置を変えられるしね」


ホワイトボードに書かれた遠征の決定項目を大きくリンデルトが丸で囲む。

周囲の貴族達も反論は無いようで肯定を示した。

もはや皆それぞれの席から離れ、各々好きな位置で部下に指示を出したり、大量の書類を用意させたり、意見を言ったりしている。

気楽な雰囲気は無いが緩い空気に、コルトは口を終始への字に曲げていた。

国の未来を左右するはずの話し合いなのに、パッと見ではそれが全く分からない。。


──もっとこう…厳かな雰囲気というか、厳格な空気というか、そういうものだと思ったんだけど…。


先程までの裁判のようなきっつい空気もそれはそれで嫌だが、ここまでゆるーい感じなのもそれはそれでどうかと思うのである。

とはいえ絵面がいくら酷かろうと、それ以外は至って真面目に理性的に事が進んでいるのはさすがというべきか。


「んじゃ俺らは船の確保と対岸の監視、1陣が合流したら対岸の監視しながらお前ら待ちで良いんだな?」

「そうだね。もう1度確認すると、亜人が未確認の場合、余裕があればルンデンダックに訪問の通知、それから黒竜で北部へ。亜人が湧いた場合は迎撃のルイと連絡役に1人が残り、後は黒竜で北。ルイが亜人討伐で残った場合は北の戦線はルイ抜きでやってもらうよ」

「あいよ。あいつが亜人を見逃すとは思えねぇから、多分大丈夫だけどな」

「よしっ、じゃあルイとコルトくんはこのままアシュバートと基地に戻ってね。ズモウの馬車の準備が整い次第、出発するように」

「分かりました」

「それじゃあ最低限は決めたし、一回お開きにしようか。結構良い時間だし、問題点も洗い出せたからね」


その殿下の言葉を合図に、その日はそれで終わりとなった。

それでも幾人かの貴族は残って残業をするようだ。

それはさておき、コルトとルーカスはリンデルトの言いつけどおり、アシュバートについて王宮の外にあるダーティンの屋敷へ向かった。

その途中。


「両親はどうなりますか?」


前を歩くアシュバートにそう問いかけると、少し歩調を緩めて返答があった。


「特に何もない。法律違反をしなければ変わらない生活が続くだろう。ただし、今の君には会わせられない、すまないな」

「いえっ…、大丈夫です」


特に何も無いなら、会わないほうが気持ちが楽だった。

それを逃げだと言われたらその通りだが、もう会うつもりが無いのにこれ以上は無用だろう。

だがそんなコルトの気持ちとは裏腹に、表情はそうでも無かったらしく、アシュバートが爆弾を投げてきた。


「死ぬつもりだったから後ろめたいのか?」

「なんっ!?」


勢いよく顔を上げて何で知っていると言いかけて、コルトは振り返るとルーカスの胸ぐらを掴もうとする。

だが案の定軽くそれを躱されると、届かない位置に浮き上がられてしまった。

悔しくて地団駄を踏みたい気持ちを押さえながら、コルトは吠える。


「お前、なんで喋ったんだよ!?」

「話の流れ」

「誤魔化せよ!」

「あの状況で誤魔化すほうが余計に信用失うんじゃねぇか?」

「お前の口が下手なのが悪い!」


過程はどうあれ、結果が同じなら最終的な後処理も同じになる。

それなのにそれをバラされてしまい、余計な邪魔をされては非常に困る。

それすら分からないとはどういう了見だと思っていると、アシュバートが変に感心した声を上げた。


「凄いな。本当に徹底的にルイが悪いに帰結するのか」


顎に手をやりながら興味深そうにコルトを見ている。

その表情にコルトはどうも居心地が悪い気分になった。


「リンデルト…殿下から聞いてはいた。だがあまりに学園側からの君の人格の報告とかけ離れていたので、ルイが色眼鏡で言ったのではないかと少し疑っていたのだが…。さすがにそこまで極端だと、共神というのも少しは信憑性が出てくると言える」

「えっ、あっ、その…」


思ったよりも冷静に分析されて、コルトは言葉に詰まってしまった。

同時に少し頭が冷えてくる。

確かに客観的に見れば少し言い過ぎたかもしれない。

だがここで素直に謝罪をするのは、なんだかとても負けた気分だ。

くだらないプライドが魔族に簡単に謝るなと叫んでいる。

だがそんなコルトの葛藤とは裏腹にアシュバートが無作法だったと謝ってきた。

アシュバートに謝られてしまってはコルトも立つ瀬がないので謝ると、アシュバートは今度は別の感情を含ませてコルトを見てきた。


──なんだその顔は、悲しみ?いやっ…。


国民に告知はしていなくても、神を捨てる方針で国を運営してきた、ラグゼル。

当然運営側にいたアシュバートならそれを知っているはずで、共神を名乗るコルトは不要、または邪魔な存在のはずだ。


「哀れみですか?」


すでに不要と決定付けられていても、それでも思い続ける事を哀れに思っているのか。

コルトにはそうとしか思えない。

アシュバートはその言葉に、小さく眉根を動かした。


「…そう……かもしれないな。すまない、こちらも色々と思うところがある」

「結果は変わりませんよ」


コルトも魔神も表裏から去る。

ただ見ているだけになる、それはもう今更変えるつもりはない。

それでもアシュバートはまだ言いたいことがあるらしい。

面倒くさいのでここで言うように促すと、素直にアシュバートは口を開いた。


「これはオレ個人の考えなんだが、魔神も含めて本当に死ぬ必要はあるのか?」

「……はい?」

「おいっ、さすがにそれは俺も黙ってられねぇよ」


まさかの言葉にコルトも空いた口が塞がらない。

捨てたと口にして、今更そんな事を言われても困る。

というより、意見は一貫して欲しい。


「それは分かっているのだが、魔神を説得できたなら君共々死ぬ必要までは無いのではないかと思っている。どちらも配下の人間を大切に思っている、つまり親だ。その親が間違えたからと言って殺してしまうのは、オレにはどうも受け入れ難い」

「その気持ちは嬉しいです、でもダメです。存在しているなら、人は頼ってしまう。それにどこで生きろっていうんですか?」

「…完全な中立の新たな土地を作ることはできないだろうか。例の機械人形もそこであれば、彼らの望む中立というものを得られると思うが」

「できなくはないですけど、貴方個人の感情の意見でしょう?」

「否定しない。これだけでは多数を説得する事はできないだろう。だがそれでもオレは神を安易に殺すのはやめたほうが良いと思っている」


その言葉にルーカスが降りてきた。

ズボンのポケットに両手を突っ込み、不満そうな顔をしている。


「おいおい、こっちはお前らが国造り始める前から魔神はもうダメだって結論出したんだぞ。今更その話か?」

「話を最後まで聞いて欲しい。君達は重要な視点が欠けている、意図的なのか無意識なのかは問わないが、それをはっきりさせない限りは危険だと王宮議会で結論が出た。屋敷についてから話すつもりだったが、オレはそれについてどう思っているのかを問いただせと命令を受けている」

「待て、後出しは止めろ。そう思ってるなら、何でさっき言わなかった」

「結論のでない議論になるからだ。それが分かっていて話を出すのは時間の無駄にほかならない」

「ちっ、なら何が欠けてるってんだ」

「先ず神殺しの現時点での定義だが、受肉している体を壊す事だろう?それは地上から追い出すだけであって、存在自体がいなくなる訳ではないだろう。神からしたら元の居住に戻るだけという認識だが間違っているか?それが正しいなら、以前のように地上に干渉する事ができるはずだ。オレはそちらのほうが逆に不安を感じる」


目に見えない、届かない存在だからこそ逆に不安を感じるとアシュバートは言った。

なるほど、と思った。

この世界でコルトの手が届かないのは魔族領のみ。

だからコルトはその類の不安を感じない。

ルーカスも種族全体が排除のほうに舵を振り切ってしまったので、その視点が欠けがちなのだろう。


「無理にとは言わない。だが、魔神を説得して正気に戻らせたのなら、殺さずどちらも監視下にいて欲しい。そのほうがこちらとしても安心できる」

「そう言われたら、まぁそうかもしれねぇが…」

「それに、親なら何も言わずに子供が育つのを見守るだけというのも、選択の1つではないか?」

「ずるいこと言いますね」


アシュバートはそれを笑って誤魔化した。


「とりあえず、2人がそれについて何も考えていなかったという事が分かって良かった」

「どこがだよ」

「変更の余地がある」

「魔族に話通すなんて、俺はやんねぇぞ」

「そこは任せろ。共族もラグゼルの一存だけでは動けない。あとは、実際に共神も受肉してからだ」

「まだ疑ってるんですか?呆れますよ」

「なら早く神の力を見せつけると良い。敬意をもって抗おう」


一瞬何を言われたのか分からなかった。

呆然と立ち尽くして、耳からの情報に思考が追いついた時、コルトは口元がひくついた。


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