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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第9章
189/273

第189話

ルーカスの暴走から5日が経った。

コルトが王宮と同じ敷地内に建てられた離れで監視され、毎日これからどうしようかと考えながらも特に何も浮かばず、無為に過ごした日数でもある。

てっきりルーカスと同じ地下牢に入れられるものと思っていたのだが、ここに連れてきた近衛兵曰く、”推定無罪どころか、何の法律も犯していないものを地下牢には入れられない”のだそうだ。

コルトも威勢よく啖呵を切ったとはいえ、地下牢にはやっぱり入れられたくなかったので、少しホッとしていた。

そんな訳で思ったよりも快適な5日を過ごしたころ、その日は朝から扉の外が少し慌ただしかった。

もしやルーカスが問題でも起こしたのだろうかと少し不安だったが、それにしては緊迫感が少し足りない。

なのでこの間の続きのほうかと考え直していると、扉が開かれて正解が現れた。


「コルトくん。これからこの間の続きだ」


現れた近衛兵に素直に応じると、そのまま手ぶらで再度法廷に連れて行かれる。

何の法も犯していないと言いながら、相変わらず法廷に連れて行かれる事に納得がいかない。

少々不貞腐れてしまうが、リンデルトが言っていた空いてて都合のいい部屋がまたここだったのだろうと思い、何とか気を取り直した。

中に入ると先ず目に入った傍聴席で文官が忙しくしており、しょっちゅう人が行き来している。

そしてその奥の貴族席は前回とは違って全員座っており、さらにコルトが知ってる顔は当主しかいない。

それなら知らない顔もその家の当主か、それに近しい人物だろう。

随行者席もソルシエはイリーゼが座っているので、他家も相応に身分の高い者と思われる。

そして当然裁判官の席には皇太子リンデルト、裁判長の席に国王。

それらの視線がコルトの入室と同時にこちらに向けられたのである。

コルトの胃が爆発しそうになった。


──あぁ、予想外に大事になってる!いやっ、こうなるのは分かるんだけど!


衆目に晒され胃がキリキリと痛むが、この場でそれを訴える勇気もなければ、態度に表す蛮勇も無い。

コルトはガクガクと震えながら前回と同じ証人台に立った。

そしてそこでやっと少し離れた位置に置かれた簡素な椅子と、そこに座る人物に気が付いた。

胸の剣は流石に抜かれているが、手足は変わらず拘束されているルーカスだ。

憔悴はしているが、今すぐ死にそうという感じではない。


──ぐぬぅ、とりあえずまだ生きてる。


だがそのすぐ後ろにはアシュバートが立っているので、この後の流れ次第では厳しい事になるだろう。

何故シュリアではなくアシュバートなのかは分からないが、コルトは気を引き締めた。


「ではこれより王宮会議を始める。場所が法廷であるが、これは裁判に非ず、合理性を顧みた結果である。リンデルト先ずは事の経緯と結論を述べよ」


国王ジルベールの声が法廷内に響き渡ると、それまでざわついていた空間が一気に静寂に包まれた。

そして名を呼ばれたリンデルトが立ち上がると、手元の紙を読み上げ今までの事をざっくりと説明する。

ルーカスからも事情聴取をしたこと、それらを踏まえて全貴族を呼んで話し合いをしたこと。

コルトはそれらを固唾を飲んで聞き、最後の結論を手に汗を握りながら静かに待った。


「以上により我々が出した結論は、コルト・ユーベンを共神とは認めない、ルイカルドの処刑も行わない、そして先の作戦も継続する」


拍子抜けする内容だった。

共神と認められないのはともかく、それはつい5日前だってその状態だった。

つまり何も変わらない。

変わらないほうがコルトには都合が良いのは確かだが、それでもあまりに変わらないのもそれはそれで微妙な気分になる。

それが顔に出ていたのだろう、国王ジルベールが口角を上げながらそれを指摘してきた。


「不満そうだな」

「この5日、結構どうしようかとあれこれ考えていたのが馬鹿みたいで」

「ほぉ、ならばこの結果は君にはまあまあ好ましい結果という事だな」

「そうですね。とりあえずルーカスが生きてて、僕がまた北に行けるならそれ以外は特に望むものは無いので」

「なら作戦は継続だが、人員は変更されると言ったらどうする?」

「!?」


それは困る。

非常に困る。

あらゆる意味で二度手間どころの話ではなくなる。


「なんとしてでも己が北にいかねばという顔だな」

「魔神が受肉してるなら、こっちも受肉していないと面倒なので」


当初は最悪肉体破棄を考えた。

でも色々と考えていくうちに、それでは一番求められている魔神の排除の達成がかなり困難な事になることに気が付いた。

魔族領にいる個体はコルトの管理者権限では補足できないからだ。

向こうが意識的にこちらに接触してくるか、共族領からでも分かるくらいの事象が起こらないとコルトにはどうにもできない。

仮に補足できても、共族領から魔族領への攻撃はかなり面倒だし、話し合うにも精神体では地上に干渉ができない。

できない事が多すぎるのだ。


「今この場で自殺なりなんなりで体を破棄しても、新しい体を用意するのに多分数百年掛かります。流石にこの状況で数百年なんて悠長な事は言ってられないでしょう?抵抗するにも魔族領は管轄外、その間に向こうの気が変わって瀑布の完全切断でも選ばれたら、もろとも関係なく全部壊れます」


魔族領に直接干渉するなら、この体で力を取り戻すのが一番手っ取り早いのだ。

それを主張すると、周囲は一部顔を見合わせたりしているが、皆一様に国王を伺っていた。

国王もそれを分かっているかのように振る舞うと、さらにコルトに質問を投げてきた。


「でも、それなら先に我々が装置を取り戻して実際に使ってみてからでも遅くはないのでは?君が本当に共神なら、使った先で神は不在のはずだな?」

「二度手間じゃないですか。それに正常に使えるか分かりませんよ、僕が不在の状態で使ったことなんて無いですし」

「だが君からの応答がないときでも使うことは出来たはずだ、知識自体は得られていたと記録がある」

「それは…まぁ、僕がいなくなってたわけでは無いので……」


いうならば、出入り自由の客間を放置して別室で寝ていただけの話である。

管理者自体はいるので部屋の機能自体は失っていなかったが、その管理者が不在の現在はどうなっているのかコルトにも予想がつかない。


──魔神が受肉してるなら同じ状態のはずだけど、受肉してからのアレを知らないんだよな。


そもそも魔神が魔族達とそれ以前にどういう交流をしていたのかを知らない。

少なくともこちらと同じ方法ではないことだけは確かだ。

むむっ、と魔神と魔族の関係について考えていると、何を勘違いしたのかリンデルトが寝ていたことが多少は後ろめたいのかい?と聞いてきた。

コルトはそれにバッと顔を上げてリンデルトを見る。

寝てたなんて戻ってから一言も言ってないはずだ。

それなら出所なんて1つしかない。

コルトはルーカスを睨んだ。

するとスッと顔を逸らされる。


──この野郎!!


誰が聞いても怒るような事を断りもなく言い触らすとはどういう了見か。

歯軋りして噛みつきたい気分だ。


「ふむ。まぁ実際のところはともかく、君がどうしても交信装置を使いたいという事は分かった。その上でさらに聞くが、装置は現在セントラルにあるという。そして現状でそれを使うにはセントラルとの戦いは避けられない、というのが君達からの報告だ。本当に君が共神なら、我々の争いを許容するはずがないと思うが?」


コルトは自分の顔が真っ赤になるのを感じた。

怒りだ。

純粋な怒りだった。

認めなくては人は自立できず、自分の目的も、世界の未来も得られない。

それを分かってはいても、人同士での殺し合いなどバカバカしく、それをどうしても選択肢から外せない人間を嘆かわしく思う気持ち。

相反する考えが、コルトの中でせめぎ合い怒りとして内側で渦巻いている。


「今だって許容しませんよ。アウレポトラとかホントバカバカしくてやんなりましたし、せっかく助かったのに同じ街の人間同士で殺し合おうとして、何考えてんですかね!?でも人間にはそれが必要だって言われたんですよ!ぜんっぜん納得してませんけど!あとはもう魔神が悪い!最強生物作るとか言って、こんな戦闘特化のゴテゴテしまくったのを作って!それを人間とか言い張られても、先ず生物の規範から外れてんですよ!体を簡単に再生させるな、バカ!そんな危険な存在なのに貴方達はこれからも仲良く交流したい!?ふざけないで下さいよ!自ら危険に飛び込むなんて何考えてんですかね!でもそれも全部人の自立に必要だって言われたら、黙るしかないでしょ!もうそれが避けられないって言うなら、共族同士に向けられる事も許容して魔族に対抗できる暴力を認めるしかないじゃないですか!」


一息に思いの丈をぶつけ、ぶつけられながらもコルトはどんどんイライラを募らせていた。

本当にムカつく。

何もかも上手くいかないのが本当に腹がたった。


「殺し合うのを認めろなんて、認めるわけない!でも、外敵から自分たちを自分たちの力で守りたいって言われたら、それは拒否したくない」


力も所詮は道具である。

そして道具は使い方次第である。

良くない使い方を強権で縛ることはできる。

でも思考を奪って無理やり使わせないようにすることは、果たして人のためになるのか。


「魔神排除後は僕はもう何も言わない、共族とは関わらない、環境管理もやめる。魔族と関わりたいなら好きにすると良い。そこから先で起きる全ての問題は、貴方達自信が解決すべき問題だ」


自分にも言い聞かせるように、はっきりと断言した。


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