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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第8章
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第167話

「という事だから、そのうち連絡が来ると思う」


魔物討伐から戻り屋敷の客間でふんぞり返って椅子に座るルーカスにフラウネールに言われた事を伝えると、本人は目を細めるだけで何も言わない。

だが微妙に瞳が揺れているので、何かを考えているらしい。

そしてたっぷりと時間がかかってから、突然全く関係ない事を聞いてきた。


「大瀑布を埋めると底の部分も埋まるんだよな?」

「はぁ?今それ関係ないだろ」


あまりにも唐突すぎて呆れて物が言えなくなると、関係あるとほざいてきた。


「死体をどうするかで、大瀑布の底に落とそうって思ったんだよ。そこなら誰も取りに行けねぇだろ?」

「遺体の処理になんでそこまで大げさにするんだよ、お前なら何も残さずその場で燃やせるだろ。そもそも同胞を生まれた土地に戻すとか考えないの?」

「気に食わねぇんだよ。好き勝手弄んでやがった共族の地で葬るのも、時間稼がせといて大した進展もなく俺まで持ち越しやがった魔族の地に戻すのもな。底ならどっちにも手が出せねぇし、お前が埋めた後に底も埋まるなら確実だろ」

「どっちにも渡したくないってこと?」

「そうだ。俺らもお前らも散々いいように使ってきたんだ。本当に最後くらいは誰の手にも届かない、神にも手が出せないところで眠らせてやりてぇ」


さすがにそこまで真面目に言われると、いくらコルトでも情が出る。

人智を超えた事柄についてあまり語りたくはないが、どちらにも触れさせたくないというのであれば仕方がない。


「あそこは不可侵領域だから、地上の法則を無視した作りにしてるよ。というより、面倒くさいから生物が一定距離まで侵入したら強制的に死ぬ設定入れてる」


大瀑布は両岸を分けるために、色々な法則を無視した場所になっている。

なんで上空まで適用せずむざむざ魔族に自由にさせているのかというと、まさか生身で長距離飛行できる人間ができるとは思っていなかったからだ。

それまでの魔神の創造が失敗続きで、碌な成果がなかったので甘く見ていた。

なので上はキリがなくてめんどくさいし、こちらの技術制限だけすればいいやという楽観で何もしなかった。

まさか翼ではなく魔力で解決という力技で何とかされるのは予想外である。

というよりそもそも魔神と不可侵って決めたはずなのに、普通に約束を破られて腹立たしい。


「うわっ、怖ぇ。興味本位でどこまで降りられんのかとかやらねぇで良かったわ」

「僕は魔族のゴミ捨て場にされて怒りたいんだけど」

「ゴミ捨て場はねぇだろ」

「でも前に雑魚処理とかに使ってるって言ってなかったか?」

「あぁ…なんか言った気がするが。しょうがねぇだろ、確実に魔人殺すのに手っ取り早いんだよ、今まで帰ってきた奴いねぇし」

「それなら溶岩に投げ込むとかもっとこう、お前らの領地だけでできるだろ」

「変に魔力持ってる奴は溶岩に投げ込んでも死なねぇんだよ」

「なんでだよ!そこは死んどけよ!」

「滅茶苦茶言いやがる」


無茶苦茶言いたいのは自分のほう、という言葉をコルトは喉元まで出かかって飲み込んだ。

魔族に文句を言うより、魔神に直接文句を言ったほうが有意義な気がしてきたからだ。

そんな事より、今は目の前の問題を解決しなくてはならない。


「そういう訳で、フラウネールさんを待つまでの間、ルーカスには夜間の魔物退治やって欲しいんだけど」


そういうと何故か少し不満そうな顔をしているので圧をかけると、全く予想外の理由で断ってきた。


「あぁ悪ぃが5日程空けるからできねぇ。なんか亜人が湧きそうな感じあんだよ」

「はぁ!?えっ、ちょっと待って、亜人湧きそうなの!?」


まさかの事態に冗談で言ってるなら承知しないぞと言うと、冗談で亜人が湧くとは言わないと真顔で返された。

だが確かに考えてみると、前のアウレポトラの時と少し状況が似ている。

人同士の殺し合い、端的に戦争があって魔物討伐のための人員が減った結果、亜人が生まれる程に魔物が増えてしまった。

確かあのときは実際に湧いてしまった植物型の他に、事前にルーカスが虫の亜人を胎児の段階で処理していた。

今回も明らかに以前よりも魔物が急速に増えており、このまま放置すれば確実に湧くとルーカスは眉間に皺を寄せている。

そうなったらルーカスに対処させるのは当然としても、前回も一人で倒せなかったので他にも戦力が欲しい。

被害を考えるなら沸かせない事が最善であることは言うまでもないが。


「そんな懸念があるなら、なんで合流してすぐに言わなかったんだよ!」

「あんなところで亜人が湧くなんて言えねぇだろ」


絶妙に言い返しにくい事を言われ、コルトはぐぬぬと拳を握った。


「それにまだ状況的にそんな気がするってだけだ。亜人も肚の中である程度成長しねぇと気配分かんねぇし、妙に凶暴な個体の腹を捌くしかねぇ。逆に言えば湧くまで半年は猶予がある」

「でもそれが本当なら大変だし、対応できるなら早いほうがいいだろ。一応フラウネールさんに頼んでみんなで捜索したほうがいいんじゃ…」

「出来るとは思わねぇけどな。昼間の連中、良くて実力はアンリに毛が生えた程度の奴らが片手程いるくらいで、あんま使い物になんねぇよ」

「今のアンリってかなり強いから、同じくらいなら使い物にならないは言い過ぎだろ」

「アンリはどんな状況でも強敵に引かねぇ負けん気の強さがあるからいいんだよ。ここの奴らはそれがねぇ、雑魚狩りは良くても亜人孕んでるようなのは凶暴になるからなぁ」

「でも今までずっと魔物討伐でここを守ってきた人達だろ。目の前の魔物の脅威相手に逃げるとは思えないけど」

「平時なら俺もそう思ったかもだが、今はダメだ。俺でも分かる程度にここの奴らは疲れてる。今まであんま実感無かったが、飯が食えねぇのがお前らには致命的なのが良く分かった」

「でも……」

「そういうもんの他に、余計な魔力反応が増えるから面倒なんだよ。無魔なら頼んでる」


そういう話を出されたら、コルトは引き下がるしかない。

魔物の索敵に関しては魔族には逆立ちしても勝てないし、亜人に関してだけは排除に本気であることは分かるので、下手に介入すればコルトのほうが亜人に加担してる状態になりかねない。


「なら亜人が湧くかもって事だけ言っておくよ」

「やめとけ。これ以上仕事増やしてやるな、頭のアイツがぶっ倒れたらどうすんだよ」

「うっ、分かった。でも5日で本当に終わるのか?」

「終わんねぇな。だが途中報告はいるだろ」

「戻ってきた時に例の魔族の件でしばらく戻れないときはどうするんだ?」

「今回は        がいる。本当に亜人を見つけたら、問答無用で竜の咆哮をあげさせる、それなら気付かないって事はねぇよ。ただしその辺の共族も咆哮には気付いちまうけどな」

「住民が逃げる時間ができたって思って目を瞑るよ」

「おっ、珍しく物分りがいいじゃねぇか」

「珍しくは余計だ」


軽口を叩きつつお互いに何をやるかの確認を済ませると、ルーカスは早々に部屋から出ていった。

すぐにでも出るつもりなのだろう。

部屋に残ったコルトもシュルツを探すために、部屋から出ようと扉の前に立つと、扉のほうから先に開いた。

開いた先に立っていたのは、探そうとしていたシュルツだ。

途中でルーカスとすれ違ったのか、二人分の軽食が乗ったワゴンが横にあるが、一人分の皿が空だった。

ルーカスが部屋を出てから僅かな時間しか経っていないが、その間に全部食べたのだろうか。

早すぎて逆に失礼なような気がしている。

だがシュルツのほうは気にしていないようで、コルトにも食事を勧めてきた。

もう少ししっかり量を出したかったようだが、昨今の食料事情的に厳しいと申し訳無さそうに謝られてしまう。

シュルツは全く悪く無いし、事情が事情なので気にしないで欲しいと伝えると少し安堵したようだ。

という事でコルトは出されたものをありがたくいただく事にした。

だが軽食を並べるシュルツを見ながら、コルトは疑問が湧いた。


「シュルツさんって執事長さんですよね?なんか僕たちのためにやらなくていい事までやってませんか?」


食事の運搬はシュルツの立場の人がやる仕事ではないだろう。

それなのに何故シュルツがわざわざやるのかと聞くと、どうやらハウリルとフラウネールからそういう指示があったようだ。


「貴方方はこの屋敷の人間ですら聞かれると拙い事をお話する事があるので、なるべく私が対応するように仰せつかっておりいます」

「うっ、お手数おかけします」

「いえいえ、ご兄弟が心に掛ける方は今までおりませんでしたので、寧ろ嬉しいくらいです」


ついさっき聞かれると拙い事を話していたので、冷や汗をかいてしまった。

それはそれとしてありがたく食事をいただくが、量だけでなく味も相当落ちていた。

無魔の農場で作られていたものが無くなってしまったのだろう。

そもそも根本的な問題として魔力持ちによる土壌汚染がある。

何とかしたいという気持ちはあるものの、魔力を持たせた状態での安全な解決策が思いつかない。


──この汚染問題。北の人達と交流させるなら、絶対問題になるはずなんだよね。リャンガさん達も汚染について知ってたし。


だが、いくら考えてみたところで何も思い浮かばない。


──……僕が決めるな、選択するなって言われても、やっぱり心配なものは心配なんだよね。


解決策の見えない事に思わず深くため息をつくと、まだ部屋に残っていたシュルツが食事に問題があったのかと心配そうにしてきたので、慌てて否定した。

食事中に考え事をするのは失礼だろう。

コルトは一旦考えることを止めると、食べることに集中した。


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