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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第7章
158/273

第158話

黒髪の女の子を先頭に周囲を男達に囲まれたコルト達は、地下に掘られた通路を進んでいた。

狂信者の目を欺くために作られたこの地下道は、彼ら自身ですら把握出来ないほど長く複雑に入り組んでおり、一度遠くに離れてしまうと戻るには一度地上に出たほうが早いような状態らしい。

そんなところを迷うこと無く進む彼らの後ろをついていき、少し開けた場所に通された。

そこの中心に立つように指示をされ、ランシャはそのまま部屋の奥の少し高い場所にある、”玉座”に座った。

そしてコルト達を囲んでいた男達は壁沿いにグルッと等間隔で並んだ。

かなり威圧感のある光景だ。

それに対して隣でルーカスがボソッと、魔族みてぇな男女比だなと呟いた。

それでコルトも少しこの光景が異様なように思えてきた。

まだ完全に大人になりきっていない女の子1人に対して、様々な年齢の男達がはべっているような状況だ。

合理的な理由が思い浮かばないし、他の女達はどこにいるのだろうか。


──こういう場合、あまりいい理由がないんだよね……。


合理性を考えなければ、今まで閲覧してきた人の文化から予想される理由はいくつかあるが、正直口に出すのは憚られる。

なのでコルトは今は何も言わない事にした。

横でハウリルが余計なことを言うなと威圧していたのもある。


「わざわざお越し頂きありがとうございます。暗い洞穴の中ですが、わたくし達の生命線です。どうぞ気分を害されませぬよう」


冷たい声音でランシャが喋った。


「いえいえ、生きるためとはいえこれほどのものを人力で掘り進めるとは素晴らしい。それにこちらが”お願い”をする立場ですから、出向くのも当然でしょう」

「…お願い?嘆願する立場の分際で、わたくしの民を捕らえて脅すとは、貴方方はとても独特ですのね」

「おやおや、あなたの願いというのは周りが必ず叶える願いのはずです。わたしたちの願いもそれと同質のものですが、もしやお気づきではない?」


明らかに挑発しているハウリルに、ランシャの頬が一瞬だけ動いた。

そんな様子にハラハラしていると、ルーカスがボソッと顔は良いが性格がめんどくせぇなぁと呟いた。

この状況で相手の神経を逆撫でするような事を言って欲しくない、というか空気が読めていない。


「無礼な。この状況でもまだ斯様な事を宣うか!」


ランシャが怒鳴ると同時に周囲の男達が一斉に銃を構える。

だが案の定ルーカスが反応し、舌打ちをしながら両手を左右に一気に広げると、空圧で男達を壁に叩きつけると、そのまま壁に縫い付けた。

押し付ける力が強いのか何人か呼吸も苦しそうにしている。


「おいっ!やり過ぎだ!」


すかさずルーカスの腕を掴んで文句を言うと、不満そうな顔をされながらも拘束する力が若干弱まった。

それに少し安堵してランシャに視線を向けると、目を見開いて固まっているのが目に入ってきた。

自分達が優位と思っていた状況を一瞬で覆され、壁に拘束され藻掻く多数の男達に、思考が追いつかないのだろう。

そんなランシャの反応に、共鳴力を持っていながら未だにルーカスがどういう存在なのか理解していなかった事にコルトは少し呆れてしまった。

そうしてランシャを観察していると、そっと背中を押される。

振り返るとハウリルが今のうちにランシャを言いくるめろと目が訴えていた。

どう見ても脅して言うことを聞かせているような状況だが、今この状況でも無ければまともに話なんて聞いてもらえないだろう。

ハウリルが変に挑発しなければ良かったのでは?と思わなくもないが、コルトはゆっくりと玉座に近付いた。

近付きながら何を言うのか覚悟を決める。

きっとハウリルは怒るだろう。

それでも決めた事だとランシャの前で立ち止まると、コルトは口を開いた。



「近い将来、共族全体のグループ毎の代表を集めた大会議を行う。君達にも1つのグループとしてそこに参加してもらいたい」


そういうと案の定ハウリルが何を言ってるのかと怒り出した。


「それは公平性の面から言わないという約束だったでしょう!」

「議題について言わないという話だったと思いますが」


コルトはランシャから視線を逸らさずに言い返す。


「詭弁です!どんなに小さなことでも人はそれで優劣をつけるんですよ」

「この程度、どうせ中身が始まったら気にしていられないと思うのでどうでも良くないですか?僕がそうさせるので」

「!!……いいでしょう。あなたがあなたの責任の範囲でやるのであれば何も言いません」

「ありがとうございます」


突然目の前で良くわからない言い合いが発生し、困惑しているランシャにそういうわけだからと話を戻した。


「機械人形に仕事を頼んでるんだけど、人手が足りないんだ。さっきロンドストって名乗ってたけど、君ってロンドストの血縁者なんだよね?なら元々やってた仕事でもあるし、凄く助かるんだ。業腹だけど、君たちに機械人形が加われば他の共族とも張り合える勢力になれると思ってる。そうすれば君たちもグループの代表として、大会議に参加しても他に劣らないと思うんだよ。でも絶対に外せない条件は、防衛以外での殺しの禁止。例え相手が狂信者やセントラルの人間でも、君たちから攻撃を仕掛けるのは絶対ダメ。もちろんリンシアもだよ」


そう一気に言いたい事を言い終えると、コルトは呼吸を整えた。

ランシャのほうは怒涛のように言葉を浴びせられて、混乱しているのか視線を右往左往させ、何か言いかけて口を閉じる事を繰り返す。

だが、やがて何かを決めた捻り出すように言葉を紡いだ。


「あなたは一体何者ですか?」


コルトの言った事を何を根拠に信じればいいのか。

今の共族全体の代表達を集める事が可能なのか。

そもそもそれが確定事項のように述べるコルトは一体何者なのか。

当然と言えば当然の疑問だろう。

だから誠実に答えた。


「ただの管理者だよ」

「管…理者……」


震える声で反芻したランシャに、そうだよとにっこりと笑って肯定する。


「でも今はそんな事より返答が欲しいな。出来れば”はい”を返して欲しい。じゃないと君達を守れないんだ」


どうか自分の要求を飲んで欲しい。

そんな思いを込めてコルトは言葉を述べた。






「はぁ…、せっかく色々と事前に決めていたのに、まさかこのまま引っ越しになるとは思いませんでした。何だったのでしょう…」


説得に応じてくれた彼らが現在の拠点の撤収作業を進めている間、出入り口付近で見張りをしていると、ため息をつきながらハウリルが愚痴を零した。

コルトの”説得”に応じたランシャは、あのあと周囲の男達に現在の拠点の撤収作業を命じ、地下拠点への引っ越しを宣言した。

その場で単独で決められるものなのかと思っていると、周囲からは特に反発も起こらず、そのまま作業が開始されたのだ。

それが少し不気味に感じてしまった。

とはいえ、あまりにも急に決められてしまったので、事前に話し合っていた安全対策が全く出来ていない。

ハウリルが落ち着いて欲しいと言ったが、命じた瞬間から周囲が動き出してしまったので止められなかった。

仕方がないので、話が進んだのでとりあえず良しとコルトも何か手伝えないかと申し出ると、作業する間見張りの人員と交替して欲しいと言われる。

まぁ、体よく作業中は追い出された感じだろう。


「良いじゃないですか、1ヶ月かかる作業がもっと早く終わるかもしれないんですよ」

「それについては文句はありませんよ。ただ、あまりにも短絡的なので文句の1つでも言わせてください」


そう言って再度ハウリルは盛大にため息をついた。


「あと絶対にあとでアンリさんとルーカスから文句と愚痴を言われるので、それも考えただけでめんどくさいです」

「えぇ!?」

「だってそうでしょう。今わたしたちはここで見張りという名の放置状態ですが、ルーカスはアンリさんを迎えに行って、ついでに狂信者とセントラルの遠征拠点の偵察までするのですよ。あっさり了承して引き受けた分、あとが怖いですね」

「あっあははは」


とりあえず笑って誤魔化した。

さすがのコルトも魔族云々を抜きにして、あとで労いの言葉くらいは掛けようと思う。

そうやって雑談をしながら時間を潰し、そろそろ話題もつきかけてきた頃。


「おーい!」


突然どこからか声が聞こえてきた。

かなり小さい声なので、方向がよく分からず、キョロキョロと辺りを見渡すが見つからない。

するとハウリルが上ですと言って、コルトを引っ張った。

引っ張られながら見上げると、すでに視認できる距離まで迫っており、そのまま目の前にアンリが着地した。

岩場のため足場がいいとはいえないが、水の魔法でワンクッションを挟み、体勢を崩さず見事な着地である。

とはいえ、コルトは大分ヒヤヒヤした。

あの落下速度なら相当の高さがあったはずだ。


「良い着地です。ルーカスはそのまま?」

「おうっ!もう何度も高いところから飛び降りてるから、大分慣れたぜ!ルーカスはこのまま偵察に行くってさ、今日中の帰還は期待するなだって」

「アアアアアンリ、それより普通はパラシュート使う距離だよ!?体は大丈夫!?」

「なにそれ?体は問題無いし、とりあえず合流できたからいいだろ。それより、今どんな感じ?」

「そろそろ準備も終わって欲しい頃合いですが、どうでしょうね。勝手に中に入ると揉めそうなので」

「ふーん、面倒くさそう、ハウリルに任せたわ。あっ、それより食べ物持ってきたぞ。丁度リンシアと飯の準備してるときにルーカスが帰ってきてさ、肉だけ持ってきた!」


そう言って笑顔で差し出された焼いた干し肉はすっかり冷めきっていた。


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