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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第7章
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第151話

ルーカスは強化した聴力で自分以外が寝静まった事を確認すると、暗い廊下を浮遊し音を立てないように静かに移動を開始した。

目的地は例のデータベースルーム。

あの後流されてしまったが、あの地上の建物を破壊するほどの火力が気になってどうにも眠れなかった。

己の役割は戦闘だ。

魔族領の時のように敵がなんであれ周囲を気にせず好きに大火力をぶっ放せるならそれでいいが、なるべく被害を抑えるなら敵については多くを知っておいたほうがいいし、事前に叩き潰せるならそれに越したことはない。

またそれが出来る自信もある。


【面白い移動方法だな】


データベースルームに入ると、管理者の機械人形が中央の装置と手のひらの端末で繋がり上部に映っている何かを見つめながら声を掛けてきた。

どうやらずっと見られていたらしい。

気配を感じないのに何かしらの方法で見られているというのは不気味でしか無いが、彼らなりに生存のための必要な手段なのだろう。


「共族の生身じゃねぇお前らもその気になりゃ出来んじゃねぇの?」

【不可能だ、追加機能を開発するリソースが無い。それより要件を聞こう、その為に来たのだろう】


そう言って管理者が装置との接続を解除すると、ルーカスに向き直った。


「敵の戦力が知りたい」

【単独行動は身を滅ぼす確率が上がる】

「余計な心配すんな」

【過信も身を滅ぼす確率が上がる】

「うっせぇなぁ、俺は共族じゃねぇ。そんな簡単にくたばんねぇよ」


そう答えるとその言葉に興味を持ったのか、機械人形の全身を巡るボディラインが青から黄色に変化した。


【その回答には興味がある。先程の浮遊移動共々、話を聞きたい】

「先に質問に答えろ」

【いいだろう。ただ残念な事に弊ネットワークはその情報を持っていない。セントラルも対抗組織についても詳細は観測範囲外だ】

「あぁ悪い、質問を変える。建物をどうやって倒壊させた、お前らの火力は強ければ強いほど巨大化するだろ。運搬もクソめんどくせぇし目立つしで、およそ合理的とは思えねぇ」

【それならある程度予測がつく、恐らく支柱を破壊したのだろう。ビル自体の劣化もかなり進んでいる、大した火力は必要ない、支えを失えばその場で崩れる。ここでビルを直接破壊するような大火力が使われた形跡は無い】


その言葉に少しだけルーカスは安堵した。

流石に広範囲の大火力を抑えきれる氷壁なんてものは作れないし、その場合の対処法は着弾地点から逃げるか、こちらからも魔力弾をぶつけて打ち消すかのどちらかだ。

問題はどちらの場合も周辺に確実に被害が出るという事である。

それが無いだけでもかなり気が楽になった。


「そいつは良かった。だが、お前ら神に反逆するとか言って、上が崩れたら下まで崩落するような街作ってんのは失敗だろ」

【神の消去は戦闘など発生しない、故に考慮に値しない。だが失敗については無ければ次に活かせない。そして失敗から新たな構想が出ることもある、その積み重ねが人の発展だろう。弊ネットワークは予め演算を行い最適な結果だけを選び取る、逆に言えば最適解のみしか選べない。わざわざ困難な方法を選ぶ理由がないからだ】

「それで死んでんじゃ世話ねぇな」

【肯定する。だからこそ最適を選べない人と、最適しか選べない弊ネットワークは友でありたいとロンドストは常日頃から言っていった】

「そうかよ」

【他に聞きたい事はあるか】

「…今はないな」

【では次はこちらからの質問でいいだろうか】

「いいぜ」


それから知っている事を共有していった。

機械人形がかなりの知りたがりで、次から次へと矢継ぎ早に質問をしてくるので、魔族の事、お互いの神の事、世界の状況などなど、粗方喋り倒していた。

あとでハウリルが盛大に怒る可能性はあるが、コルトについては喋っていないので己の中では無問題だ。


【どれも興味深い事案だ、そして非情に残念でもある。そちらの先祖が当時の我々に接触してくれていれば、もっと早くに事態解決に向けて動けていただろう】

「そればっかりは同意しかねぇよ。もっとお前らについて詳しく知ろうとしていれば、絶対に別の道はあったはずだからな」

【だが時は戻せない。これから良き関係になる事を期待しよう】

「そうなりゃいいが、お前らの欲しいもんはこっちは出せねぇぞ」

【承知している、そもそもこちらも現代の人間が機械人形を受け入れるかも分からない。受け入れられなければ、弊ネットワークはこのまま朽ちるのみである】

「受け入れそうなところに仲介くらいはしてやるよ」


そうは言ってみたが、頭に思い浮かべた存在はすぐさま己を罵倒してきた。

向こうからの依頼と自分の都合で引き受けた仕事とはいえ、色々なものを押し付けすぎているような気がしてきている。

そろそろもっと社会的な個人に依存しない対価を要求されそうである。

それを考えると必然的に頭に過るのは、敢えて考えないように目を逸している問題だ。


──こっちが変わるなら、魔族も今の社会構造から変わらねぇといけねぇんだよなぁ。


個人に依存しない、魔族が持っていて共族が持たない価値あるもののやり取り。

仮にそれを出す段階になったとして、魔族がすんなり差し出すか。

今は非常事態故になんとなく上位層がまとまっているので、魔族全体もそれに合わせてなんとなく秩序ができているような状態だ。

だが神の問題が解決したらどうなるか。


──俺もそろそろ腹くくんねぇといけねぇか…。


彼らとやり取りをするなら、絶対にまとめ役は必要になる。

そしてそれは限りなく頂点に立つ存在のほうがいい。

神の問題が解決したからと言って、現在の表面的な魔王による支配や価値観まで一気に変わるとは思えない。

問題なのは、その価値観が変わらないという部分だ。

北の大溝の果てに住む弱小生物。

過去、魔族の侵攻によりほとんどが滅び、今は魔物の遺棄場となっている場所。

それが大多数の魔族の共族に対する印象だ。

それが事実とは異なるからこれから仲良く交流を持って下さいと言われて、果たして何人が納得するのか。


──しねぇだろうなぁ。


それに仮に現魔王が共族との交流に納得して上から下を押さえつけたとしても、共族とのやり取りの実務を完全に任せるのは如何なものか。


【長考をしている。問題解決に向けて当機も思考の一助を担えるか?】


しばらく無言で考え事をしていると、目の前の機械人形がそんな一言を添えてきた。


「いらねぇ、結論は出てんだよ。あとは俺が腹決めるだけだ」

【不要な気遣いだったか】

「そうでもねぇよ、きっかけにはなった」

【幸いである。他に何かあるだろうか、無ければもう1ついいだろうか】

「なんだ」

【Type-P0006の再起動の動力だ。コアを抜かれた機体をどうやって動かした】

「言ったろ、俺は魔族だって」


手のひらにパチパチと小さな雷球を生み出すと、機械人形はボディラインを点滅させた。

周りで素知らぬ顔をしていた機械人形までもが作業の手を止めて見ている。


【これは驚いた、本当に人体から視覚として継続的に観測可能なレベルの電気を生み出すとは。神経系で信号異常が出たりしないのだろうか、実に興味深い。出来ればもっと詳細な検査がしてみたいが…】

「断る、お前らの検査って碌な事しねぇじゃねぇか!」

【既に検体協力済みか、余程トラウマになっていると思われる。であれば仕方がないが、出来れば調査結果の共有をお願いしたい】

「お前らなんでそんなに他人の体に興味持つんだよ」

【これほどまでに未知に溢れたモノは人体以外他に存在しない】

「あぁそうかよ。俺には分からん」

【もったいないな。だがこれで1つ予測がついた、南部が魔族と手を組むのは合理的だ。エネルギー問題は常に課題として付きまとう。そこに管理保守点検や稼働年数を考えなくて良い自立式で小型だがハイパワーな発電システムが現れたなら、仲間に引き入れたいと考えるのは当然だ。神の排除後は情勢をみながら中立になるつもりだったが、弊ネットワークで議論の余地が出てきた】


そういって機械人形がボディライトを鮮やかに様々な色で明滅し始めると、周りの機械人形達も同様に周辺の機体と身振りや配線で繋がったりと動き出している。

形が人体を模しているだけでそれ以外が完全に人外の機械人形が、人のように感情的な挙動をしているのが少し面白かった。 


【今後の参考に1ついいだろうか】

「なんだ」

【君の魔族内での地位はどの辺りだ。どこに与するにしても魔族の窓口は君だろう】

「あーーーーー、それなぁ……」


先程の覚悟云々を早速試されるとは思わなかった。

現在の魔族ルイカルドの立場は完全に宙ぶらりんだ。

魔王の子供で純血の竜人種でありながら、議会に入れない程度の実力。

それでいて魔王城から追い出される事もなく、だからといって何か実務に関わる事もなく、好き勝手にあっちこっちフラフラしているだけに見える存在。

こちらには放蕩息子なる揶揄があるらしいが、実際に課されていた己の役割りがなんだったのかはともかく、表面だけみたらそれにかなり近い。

それで言うと自由に振る舞えないとはいえ、明確な立場と役割が明言、保証されているリンデルトの立場は羨ましい。

やってらんねぇと思いながら言い淀んでいると、機械人形は的確に図星をついてきた。


【腹というのは自身の地位向上についてだったか?】

「まぁそんなところだ」

【何かをするつもりなら弊ネットワークも手を貸そう、こちらに利がある】

「いらねぇよ、いざやるってなったら竜人同士の殺し合いだ。周りの事を見てる余裕なんてねぇ」

【物理的な攻撃手段の話だったか、それなら弊ネットワークが出来る事はない。しかし殺し合いとは物騒だな】

「こっちと違って血脈で決まる王の座じゃねぇんだ、それでも寄越せってんなら正当に正面から殺さねぇと下が納得しねぇよ。元々一番強い奴がつく座だからな」


奪う先の魔王が自分の父親でなければもう少し気楽だっただろうかと脳裏をよぎる。

それが無性にめんどくさかった。


【その言い方、現王は君の血縁者なのか】

「ん、あぁ…そうだな……」

【なるほど、それは難儀だ。こちらが軽々しく口を出せる事ではない】

「だがお前ぇらとこれからもやってくなら避けて通れねぇんだよ。数千年間暴力で序列を決めてきたんだ、それを暴力面じゃ圧倒的に弱いお前ぇらと対等に付き合えってんなら、価値観を根本から変えるだけの衝撃が必要だ。それで言うなら神の排除は丁度いいが、その配下の頭はってる奴も象徴として一緒に引きずり落とさねぇとダメだ」


魔王が変われば通例ならその時の議会も一緒に解散され、後任は次代の魔王の指名制だ。

今の議会から半分程度こっち寄りのを引き抜きつつ、残りは体制を整えながら揃えていけば良い。


「俺はお前ぇらと殺し合うつもりはねぇ、今よりもっと酷い泥沼になるのは見えてるからな。だから俺は…」


今の魔王を、自分の父親を殺すと力を込めて言い切った。


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