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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第7章
148/273

第148話

暗い通路を案の定のスピードでトロッコは疾走していた。


「はやいはやーい!」


そして一番前でルーカスの足の間にすっぽりと収まっているリンシアが楽しそうな声をあげる中、コルトは予想していた速度に絶叫する。

先の見えない暗さと、突然来る急カーブ。

肉を持つ前からを入れても初めての経験に、底冷えする恐怖で頭がどうにかなっていた。


「ああああああああああああああしぬううううううううううううう!!」

「コルトうるさい!」

「さすがにちょっと抑えていただけませんか?」


遠慮なく苦情を言う2人と、苦笑いをしながら後ろで聞いている無魔の3人。

悪いとは思いつつもそれどころではなかった。

どう考えても”死”しか感じない状況だ。


「安全!安全管理!!そのための技術うううううううわああああああああああ!」


そうやってしばらくコルト1人絶叫していると、突然猛烈な向かい風が吹き込んだ。

同時にルーカスが左右に持った武器を壁に突き刺すと、金属が擦れ合う耳障りな音が鳴り響き、火花が散る。


「終わりが見えた。お前ら構えとけよ」

「ああああああ終わるううううううううう!」

「うるせぇ!」


最後の直線だ。

車体の横が氷結し壁に向かって伸びて接すると、さらに嫌な音を立て始めた。

不快感から恐怖を煽るその音に、コルトはさらにおかしくなりそうだったが、トロッコは確実に減速していった。

そしてコルト達の目にも出口が視認出来る距離になる頃、トロッコは完全に停止した。


「まだちょっと距離はあるが、こっからは歩きでいいだろ」

「そうですね。耳がおかしくなりそうでしたし」

「ねぇみんな生きてるぅ?大丈夫ぅ?ちゃんと生きてるぅ?」

「生きてるよ、みんなピンピンしてる」

「うぅ良かった、生きてて良かったよぉ」

「はいはい」


さめざめと泣きながらコルトは生きてる事に感謝すると、なんとか自力でトロッコを降り、出口に向かって歩き始める。

だが息も絶え絶えで、生まれたての子鹿のような状態だった。

そして無事に通路を抜け、その場にばったりと倒れそうになるが、アンリの歓声でなんとか踏みとどまった。


「おぉ!なんだこの扉」


中央に巨大なロンドスト社のロゴが入った巨大な両開きの扉。

それだけならもう少し落ち着いていられたが、周囲の壁と共にいくつもの光るラインが四方八方に走っていたのだ。

その発光色はあの機械人形の光と同じだった。


「本当に動力が生きてる」


放棄されてから1000年は経っているはずなのに、それを全く感じさせない佇まい。

コルトはフラフラと扉に近づくと、そっと触れた。

劣化も腐食も感じられない冷たい金属の感触だ。


──数百年保つものを作れるようになってくれた。


100年足らずで寿命が尽きる人という種族が、自分たちの手が無くても数百年残り続けるものを、彼らの知恵のみで作れた。

残るものを作れる。

それがただ純粋に嬉しかった。

そうやってコルトが1人歓喜に震えていると、リャンガが何かを発見したらしく声を上げた。

どうやら何かを差し込めそうなものを見つけたらしい。

コルトも近づいてみてみると、カードキーのようだった。


「なんか結構古い技術使ってるね」

「そうなのか?」

「うん。セキュリティを考えるなら生体認証のほうが確実だし、でもいちいち登録する事を考えたら物理キーを使ったほうが楽なのは確かだよね。紛失を考えなければだけど」

「ふーん」

「生体認証も確実とは言えないのでは?死体を保存して持ち歩けばいいだけですし、その技術もありますよね?」

「お前、さらっと倫理観投げ捨てた発想するよな」

「トップが食人をしている組織の生まれですからね」


ハウリル自身はニコニコとしているが、言いしれぬ重圧が場を支配した。

下手に突けば確実に良くないものが出てくるが、どうするのが正解なのか分からない。

なのでコルトは視線を彷徨わせる。

だが場を支配したのがハウリルなら、それを解いたのもハウリルだった。


「それはともかく、コルトさん。例の機械人形からいただいた認証キーが使えるのではないですか?」

「はっ、はい!そうですね、試してみます」


慌てて荷物の中から認証キーを取り出すと、差込口に近づける。

だが差し込む前から大きさがあってない事が見て取れて、不安に思うその時だった。

突然ピピッと音がなり端末が光りだした。

そして扉やその周辺を走る光の色が緑に変わり、ゆっくりと重苦しい音をたてながら扉が開いていく。

完全に開き切ると両サイドの足元をラインライトが照らし、長い通路が目の前に現れた。


「えっと、入って良いんだよな?」

「それが目的でここに来ていますからね」

「……お前達が先に行かないなら、俺達が先に入るぞ」


リャンガ達は気が急いているのか、不機嫌そうだ。


「行かねぇとは言ってねぇ」


そしてゾロゾロと全員で扉をくぐると、見計らったように扉が自動で閉まっていった。

完全に閉まった扉を念のためもう一度調べてみるが、今度は端末の1つすら見当たらない。

当然穏当な人力で開くようなものでも無かった。


「閉じ込められたか?」

「どうでしょうね。今は出口の心配より、中に進む事を考えたほうが良いと思いますが」


そういうハウリルの視線の先は、扉が閉まったことなど意にも介さず前方を歩くリャンガ達が。

ちなみにバルデルはリャンガが背負っている。

コルト達もそれを見て大人しく閉まってしまった扉を後にした。

それからしばらく歩いていると、突然ノイズの混じった電子音が鳴り始めた。

何事かと全員が足を止めると、徐々にノイズが軽減され機械音声が流れ始めた。


【マイクテスト、マイクテスト。聞こえますか?反応から聞こえているようですね、実によろしい】

「なっ、なんだ!?誰もいないのに、どっから声が!?」


慌てるアンリに対して、冷静に返したのはリャンガだ。


「管理者か?」

【如何にも。Type-P0006の認証キーの使用を確認した、君たちの来訪を歓迎しよう。知りたい事はここにある】


その言葉にアンリとリンシア以外が眉間に皺を寄せた。

どういう訳か向こうはすでにこちらが情報目的である事を知っていたのだ。

そしてそれについても向こうは正確に把握してきた。


【認証キーは正式に譲渡されなければ使用できない。その際に誰にどのような理由で譲渡されたのかも同時に書き込まれる】

「そういう理屈か。つまり俺達はともかくこっちの4人は正式に招かれた客って訳だ」

【4人ではない、5人だ。通常個体2、変異個体2、異常個体1の計5名だ】

「ふむ、確かに改めて言われるとわたしたち魔力持ちは変異個体、というのが正しいかもしれないですが、数がおかしくないですか?」

「僕が一番魔力量が少ないからじゃない?」

「でもなんかやだな、変異個体とか」

「隣に異常ってド直球に正面から言われてる人がいるのですから良いではないですか」

「わ、わはやっぱり…異常?」

「あなたはどう考えても通常個体ですよ。異常個体はそちらで素知らぬ顔をしています」


ハウリルが指差す方には、確かにいつも通りの顔で立つ長身の女がいた。


「異常って言われて何とも無いんだ」

「お前らとの比較の話だろ?んな当たり前な事言われても何とも思わねぇよ」


本当にどうでも良さそうな顔でそういうと、虚空に向けて話しかけてきた要件はなんだと切り替えした。

だが想定外の返答が返ってくる。


【勘違いしているようなので訂正する。そちらが異常個体と認識した個体は通常個体である。そちらが異常と認識した何かがあるようだが、計測する限りでは通常個体の範囲だ、変異も見られない。異常個体なのはそこの紫髪の君だ】

「……えっ?」

「コルトが異常個体?」


予想外の事を言われコルトは固まった。

これにはアンリ達だけでなく、リャンガ達までコルトを注視している。


「おかしいだろ!僕の肉体は魔力が少ないからアンリやハウリルさんよりも、本来の共族の体に近いはずだぞ!」

【そちらについては同意する。肉体面では変異個体と大差ないが、計測している脳波が異常な状態だ】

「計測がおかしいんじゃないか、数百年やってない作業だろ?」

【肯定する、だがメンテナンスは欠かしていない。先程から何度もスキャンをしているが、結果は全て同じだ。なので異常であると診断する。より詳細な検査だけでも受けたほうがいい。ついでにそちらの目を負傷した者も、こちらに保管されているナノマシンを使えば回復するだろう】

「治るのか!?」

【肯定する。再生医療が必要な場合は少々事前準備に時間がかかるが、その程度なら問題なく治るだろう】


コルトはその言葉に胸を撫で下ろした。

ずっと気になっていたのだ。

いくら人からの視覚共有があるとはいえ、ずっと誰かが付き添っているのは双方への負担になる。

そして怪我の様子から治すにはそれなりの技術が必要である事が見て取れて、それがこの場に無いことも分かっていた。

ずっとこの状態になってしまう事を懸念していたのだ。

だが治せる方法があるという。

リャンガ達も同じ気持ちだったようで、3人とも喜色を浮かべている。

コルトも嬉しくて、思わず顔が綻んだ。

だからそんなコルトの様子をハウリルがジッと観察していたことにも気が付いていなかった。

すでに自分の状態については頭から瞬時に抜け落ちているらしいコルトの様子に、ハウリルは管理者に話しかける。

あまりコルトについて突っ込まれたくはない。

ハウリルは早々に話を切り上げる事にしたようだ。


「では目の治療のみをお願いしてもよろしいでしょうか」

【脳波の詳細な検査は必要ないという事か?】

「はい。彼とは長く行動を共にしていますが、特に”異常”と思うような行動はありません」


完全な欺瞞だが、嘘をつくことに慣れた男に機械は騙されたようだ。

無理強いも良くないと、さらに念を押すと納得してその場は引き下がった。


【ならばそのまま通路を進むと良い。出迎えを用意した、目の治療はその機体に任せよ。他の者は長らく使っていないが人間用の部屋に案内する。定期的な清掃は欠かしていない、休息するには十分であると保証する】

「おっ!久々にまともなところで寝られるか?」

「ずっと野宿ばっかだったもんな」

「何百年も使ってないのが気になるけど……」

「寝台が固くなきゃ何でもいいじゃん」


そういってグッと体を伸ばすアンリ。

平気そうな顔をしていたが、やっぱり硬い地面の上はそれなりに答えていたらしい。

そんな訳で少し足取りの軽くなった一行は、通路の先に現れた扉に少しだけ希望を見出すのだった。


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