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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第7章
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第146話

「この奥だな」


リャンガは特殊な目元の装置と手元のレーダーを見ながら通路を塞ぐ目の前の瓦礫を示した。

あの後一行はとりあえずの休戦協定を結び、共に地下街を脱出するという事になったのだが、その過程でお互いの目的が同じである事が発覚した。

どうやら向こうの3人もロンドスト社の地下のメインサーバーを目指していたらしい。

当初は10人ほどいた仲間も、狂信者との戦闘で次々に斃れ、残った3人のうち1人も目が見えない状態になってしまったため、これからどうするかを考えていたらしい。

そんなところに突然複数人の気配がしたため、狂信者が追いかけてきたと思い、この状態では逃げられないと先制攻撃をしたというのがあの状況のようだ。

とりあえず、リンシアについては思うところが無い訳では無いが、お互いにここでやり合うのは無意味ということで保留となった。

そしてコルト達は火球やライトによる視界の提供と、両目を怪我し歩行も厳しいバルデルの運搬を、リャンガ達はレーダーによる地下街の案内で協力し、もう少しでF08というところで崩れた瓦礫に道を阻まれているところである。


「これそのままぶっ壊して大丈夫か?」

「単純に天井が崩落しただけで、他に何かを支えているようには見えないので大丈夫では?」

「よーし、ならいっちょやっちゃおうぜ」

「待て待てっ、何するつもりだ」


軽いノリで武器を取ったり拳を握って不穏な会話を始めたので、慌ててリャンガが止めに入ってきた。

アンリはそれに壊すだけじゃんとなんでも無いように返すが、それでコルトはハッと気付いた。

すっかり障害は壊すものとして慣れてしまったが、本来人力で壊せるようなものではない。

なのでここは穏便な方法をと思ったが、思ったときには既にアンリが行動に移っていた。

槍斧を大きく振りかぶって思いっきり叩きつけ、轟音を立てて瓦礫の一部が崩れていった。

それを男達は口をあんぐりと開けて見入り、ルーカスに背負われているバルデルが轟音に何が起きているのかと、視界をくれとリャンガに懇願し始めた。


その間もアンリはひたすら叩きつけて瓦礫を壊しているが、段々テンションが上がってきたのか笑い声を上げていた。


「楽しそうですね…」

「まぁ上じゃしてやられたし、こっちに来てからも寝てただけだしな」

「鬱憤が溜まってた感じですね。……しかし埃が酷いですね、それだけ払いましょう」


ハウリルが杖を前に出すと、風が奥に吹き込み舞い散る細かい埃を奥に吹き払った。

それすら気にする事無くガンガン瓦礫を破壊していくアンリ。

そしてものの数分で目の前に人2人が並んで歩ける程度の通路が開通した。


「どうよ!」


そして清々しいドヤ顔で開通した通路の前で仁王立ちをしている。


「いいんじゃねぇの」

「大分手慣れてきましたね」

「お疲れさま」


各々労いつつじゃあ行くかと歩き出す。

男達もドン引きしつつもそれに続いた。


「嬢ちゃんのその怪力は、なんだ……色付きだからか?」


顔を引き攣らせリャンガがアンリを見ている。

外見は小柄で細身、腕の太さも自分たちの半分も無いようなアンリが、それを上回るパワーを見せたのだ。

魔力の知識が無いので、理解が追いつかないのだろう。

コルトはその気持ちが少しだけ分かった。

学校内でもまだ魔力量による肉体強化がどの程度なのかよく分かっていない子供が、しばしケンカを売る相手を間違えては返り討ちにされていた。

教えられても実際に試してみないと気が済まない者もいるので、定期的にそういういざこざが起きていたのだ。

彼らの表情はあの時の者達によく似ていた。


「色付きだからって言うならそうですね。アンリの魔力量なら無魔の鍛えた成人男性でもパワーでは勝てないと思いますよ」

「……そんなに差が出るのか。…なら俺達も……」


自分達も魔力があればと不穏な事を言い出したので、コルトは慌てて首を振った。


「無理ですよ!世代を重ねたから魔力が持てただけで、1世代でなんて不可能です!それにそんな安易に共鳴力捨てないでください!」

「戦うなら色付きのほうが有利だろ」

「そんな事ないですよ!?」


ねぇ?と周囲に同意を求めてみると、微妙な反応だった。


「わたしは共鳴力への理解が浅いので同意を求められても困ります」

「私も」

「そんな!?」


確かに魔力の肉体への影響は様々な利点があるが、共鳴力だって無から有を作ったり情報伝達という部分は繁栄していく上ではそれ以上に良いはずだ。

そう思ってそういう能力を付与したのに、魔力のほうが良いと言われたらあまりにも悲しい。

だがそれをルーカスはアホかと切り捨てた。


「大本の魔族自体が戦闘特化で魔力もそのために作られてんだから、魔力持ちのほうが戦闘で有利なのは当たり前だろ?そもそも共鳴力は戦闘を前提とした能力じゃねぇんだから、そこで比べるのは共鳴力での戦闘の肯定だろ。建前として共神は一切の戦闘行為を禁止してんのにそれでいいのか?」

「……あっ…」


すっかり忘れていた。

当たり前に戦闘行為が続いたため、その部分をすっかり失念していた。

コルトのその様子にお前が忘れてどうすんだと呆れられる。


──いつの間にか、僕も共族の戦闘行為自体を当たり前に受け入れてたのかな。


「まぁでも、俺も完全に魔力に移行すんのはお勧めしねぇよ。そもそも魔力と共鳴力じゃ根本の思想が全く違うだろ」


ルーカスのそれに男達はどういう事だと問い返した。


「魔力は単独で完結させてる能力で、共鳴力は集団運用が前提の能力だろ?情報の共有とかその最たるもんだろ。お前らには分かんねぇかもしれねぇけどな、アイツ呼んでこいからの、特に何もせずに突っ立ってるだけで、数分後に事情を全部知ってる奴が来るんだぞ。あれ初見で目の前でやられるとマジ怖ぇからな」


やたらと実感の籠もった表情で怖いと言っているので、ラグゼルで恐らくやられたのだろう。


「どうせ今だってお前ら外の奴らとやり取りしてんだろ?今ここでお前らを殺しても外の奴らに俺らの情報は筒抜けだ、怖ぇだろ。こっちはお前らの仲間なんて分かんねぇのに、お前らは俺らを知ってるんだぜ?」


それに男達は無言を返し、コルト達にとってはそれだけで十分答えになった。


「相手に怖ぇって思わせてるだけで価値があんだよ。特に俺ら魔族からは魔力持ってねぇお前らを感知できねぇしな」

「……けど、それはあんた達が相手の場合だろう。俺達が戦ってるのは同じ共鳴力持ってる奴らだぞ」

「なら俺らとこの先も手ぇ組めばいいだろ。この際だから言っとくが、俺らも俺らの後ろにいる奴らも、将来的にはこっち側の協力者は絶対に必要なんだよ」


南部の人間はこの先どうなろうと、いずれは必ず山脈を越えてこちらに来るだろう。

ラグゼルは今はあの場に留まるとしても、教会側は近々必ずこちらに来る。

そしてどうなるのか。

教会は対外的には無魔の生存は認めていないし、こちらには狂信者がいる。

さらにまだ見ぬ墜落都市の存在もあるのだ。

恐らく大規模な戦争になり、勝った勢力は何をするか。

残ったラグゼルとヘンリンにさらなる戦いを仕掛けかねない。

そして、そのとき魔族はどうするのか。


「魔族をこっちに介入させたくねぇが、魔神が共神と接触したがってるらしい。ならこっちのごたごたは絶好の機会だ。俺らは魔神にやれって言われたら逆らえねぇし、俺らが介入すれば共神も必ず表に出てくる。そうなったら終わりだろ、俺はそれだけは避けてぇんだよ」

「……お前さんの話から、どうやら神がそれぞれいるようじゃが、自分のところの神は把握していない癖に、随分とこちらの神については確信があるようだの。それなのに神と接触したいだなどと抜かすのか」


老いた男、ジザンの疑いを向ける物言いに、ルーカスは唇を尖らせ物凄く不本意そうな顔をしている。

コルトの事を正直に言うわけにもいかず、というより下手をすれば頭がオカシイとして信用を失い兼ねない。

さらに一応大人しく従ってはいるものの、自分が魔族の存亡を掛けて共神と接触させるために、意図的に魔神について知らされずに生み育てられた存在であることに納得がいっていないのだろう。

冷静に考えれば個人に背負わせるものではないよなと、コルトは他人事で考えた。

とはいえ、このまま黙っているわけにもいかないので、代わりにハウリルが返答した。


「その人、魔神がいよいよおかしくなったので、わたしたち共族と共闘させるために意図的に情報規制されてたんですよ。なので魔神について知ったのはわたしたちと同時ですし、共神についてはこちらにもある程度情報が残っていたので、そちらのほうが詳しいという捻れた状態になってしまっているんです。当初は神の存在すら知りませんでしたからね。そのせいでわたしたちも諸々の理由から最初は共神と魔神を同一存在だと思っていました」


同一と思っていたからこそ、何故片方は戦闘行為を禁止し、もう片方は逆に特化させてこちらを襲わせたのかという疑問が生まれ、そして結果的に神探しにつながった。

偶然といえば偶然なのだろうが、それでも求めた状態になっているのだから、なかなか魔族も侮れないとハウリルは溢す。


「そういう事なので、あなたがたが外のお仲間と今も情報共有をしているのなら、この後も手を組む事について検討しておいてください。どちらにせよ南部はすでに一部が魔族と組んでいますし、組んでいないほうも北進を決めています」


ハウリルがそう言うと男達は顔を見合わせて、少し待てとその場に立ち止まった。

そしてジザンがしばらく目を閉じる事数分。


「伝言だ、儂らのまとめ役からのな。話の全てを信じるにもお主らを信用するにはまだ材料が足りぬ、特に魔族の姉ちゃんは深掘りすると色々と出てきそうだしの。だから先ずはデータベースで必要な情報を入手後に無事に儂ら3人をここから脱出させろ」


手を組むかはそれからだ、と改めて宣言するジザン。


「もちろんです。こちらは最初からそのつもりですよ」


ハウリルはにこやかな笑顔でそう言い切った。


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