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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第6章
138/273

第138話

何故他人のために命を掛けるのか。

まして同じ種族でもない。


理由がない、利益もない。


簡単には死なないからと高を括っているのだろうか。


「俺が俺だから命掛けてんだ」

「意味が分からない」

「分かってもらうつもりもねぇよ。俺は強い、この世のほとんどの奴らよりな。だから責任もあるし、その分好き勝手にやる。それだけだ」

「お前の好き勝手にリンシアを付き合わせるのか」

「俺の好き勝手にこいつが乗ってるだけだ。いいじゃねぇか、強者は利用してなんぼだぜ」

「お前!」

「まぁまぁまぁ、落ち着いて」


反射的に掴みかかろうとしたとき、ハウリルが割って入ってきた。


「コルトさん、今のあなたではどうやったって勝てませんよ。諦めて先に力を取り戻すことを優先しましょう。そうすれば好きにルーカスを殴れます」

「お前ぇはどっちの味方なんだよ!」

「わたしは目的達成の味方ですよ」


要するに目的と関係ない時間の無駄な問答をいい加減やめろと言いたいらしい。


「身辺護衛担当のルーカスが連れてっていいと言ってますし、リンシアさんも行きたいならそれでいいではないですか」

「いくもん!」

「でも本当に危ないんだよ。君が見せられてたものを、実際に目の前で見ることになるかもしれないし、痛い思いもするかもしれないんだよ?」

「おねえちゃんそんなことしないもん!」


そういってリンシアはがっしりとルーカスに抱きついた。


「えっ……」


ショックだった。

なんの躊躇もなくリンシアがルーカスに抱きついたことに衝撃を受けた。


──嘘だ、嘘だ。そんな躊躇もなく全幅の信頼を魔族に!?そんな性別すらもよく分からない暴力種族に!?僕よりもそっちが良いの!?


「コルト、どうした?大丈夫か?」


ショックで固まるコルトの前でアンリが手をヒラヒラとさせる。


「ダメっぽい」

「そんなにリンシアさんがルーカスに抱きついたことが衝撃だったのでしょうか」

「わ…悪いことした?」

「してませんよ。彼がちょっとアレなだけです。しかしこれは度を越して頑固ですね」

「結構ハウリルが直球で色々言っても、全然コルトってへこたれないし気にしてないし変わらないもんな」

「反対言われねぇ頂点なんてこんなもんだろ。しかも云百万年も独善で世界回してんだ、そのくらい軸があっても驚かねぇよ。くっそウゼェが」

「全く面倒くさいですね、思考の柔軟性を持っていただきたいです、岩か鋼相手に喋ってる気分ですよ。はぁ……これでもっと横暴であればこちらも諦めがつくのですが、中途半端にこちらの話を聞いてる感じをだしてくるのが厄介ですね」

「でもどうすんだよ、このままほっとくわけにはいかないだろ?」

「尻でも引っ叩いて正気に戻しておいてください。わたしたちは撤収作業に入りますので」

「しょうがないなぁ、ほらっ、しっかりしろ!」


アンリはため息をつきながら思いっきりコルトの尻を引っ叩き、とてもいい音と悲鳴が空に響き渡った。

そのまま倒れそうな衝撃にさすがにコルトも我に帰る。


「アンリ!?」

「本人含めて反対する奴はお前しかいないんだから諦めろ」

「そんなぁ」


情けない声を上げるコルトを見てリンシアは抱きついていたルーカスから離れると、コルトの前に立った。


「おにいちゃん、なんでおねえちゃんのこと嫌いなの?おねえちゃん……、優しいよ?」

「魔族はね、戦うために作られたんだ。共族よりももっとずっと力が強くて危険なんだよ」

「おねえちゃん、わにやなことしないよ」

「でもいつ人を殺すか分からないんだよ」


そういう目的で作られたのだから、そういう事をする可能性はいつだって考えなくてはならない。

ただでさえ些細な理由で無自覚に凶暴化する人にそういう皮を着せられているのだ、さらにコルトが作ったわけではないのでいつ突然それが表に出るのか分からない。

正直、コルト的には結局信用に足る何かが無い。


「お前、俺をなんだと思ってんだよ!狂人じゃねぇか」

「なるほど、個人を見ていないというのはそういう事ですか。コルトさん、さすがにそれは失礼というよりもはやあなたが愚かですよ」

「でも共族殺したことあるだろ」

「お前が誘拐された時だけだろうが!何都合良く肝心な事忘れてんだ!」

「ぐっ、それは…そうだけど……」


痛いところを突かれた。

さすがにあの状況は誘拐されたコルトが悪いので、あまり強くは言えないのも確かだ。

そのせいで結局アンリも一人とは言えやむを得ず殺してしまっている。


「ととさまもみんなもいっぱい人殺してるよ。なんでおねえちゃんだけダメなの」

「それは……個人が持ってる力が強すぎるからだよ」

「そうなの?」


ここまでどんなに強くても野生の猛獣程度で、それもほぼ全てアンリが倒してきたため、リンシアはルーカスが戦っているところを見ていない。

だから個人の強さと言われても分からないのだろう。

ルーカスを見て首を傾げている。


「個人の強さといいますが、共族だって道具を使えばいくらでも魔族と同じことなんてできるでしょう?実際に今まで破壊され尽くした街をたくさん見てきたではないですか、あそこまでやったのは理性を失い判断力がなくなった共族自身でしょう。強者として自覚があって、無闇にそれを振るわない自制心のあるルーカスのほうがよっぽど安心できます」

「はぁ…。そういう馬鹿が魔族にはいねぇなんて口が裂けても言えねぇが、俺はしねぇよ。この場に他に魔族はいねぇんだから、俺を見ろ」

「………ぬぅ…」

「それと、肝心な事をまだ理解していないようなので指摘しておきますが、コルトさん。わたしから見ればあなたもルーカスも同じですよ」

「…ほへっ?」


さすがに間抜けな声が出た。

いくらなんでも魔族と同じ扱いというのは納得がいかない。

そんなコルトをハウリルは呆れた顔で見た。


「その気になれば一面を一瞬で破壊できるルーカスも、地上から全てを消してしまえる神も同じです、抵抗手段が無いという意味では。そしてあなたたちはそれをする気がない、しない理由も同じでしょう。だからわたしにとってはあなたもルーカスも同じです」

「………」


そう言われて、コルトはルーカスを見た。

眉間に皺を寄せるだけで無表情にコルトを見下ろしている。

コルトと同じと言われて向こうが何を考えているのか、快か不快かコルトには分からなかった。


「さて、もういいですか?いい加減行きましょう」

「話長いから片付けといたぞ」

「ありがとうございます。視界には写っていましたが、こちらも放置できるものではなく」

「別にいいよ、いつもの事だし」


そういってアンリはまとめた自分の荷物を背負うと、ビルの中から階下に飛び降りた。

残った床に着地して、少しずつ降りていくようだ。

ルーカスもリンシアを抱き上げてこちらを見る。

だがハウリルがコルトは自分が運ぶと言うと頷いて、こちらはビルの際に立つとそのまま地面に向けて飛び降りた。

それを見送るとハウリルがコルトに向き直る、いい笑顔だ。

とても嫌な笑顔だった。


「さて、では行きましょうか」

「えっ…あのっ、どうやって……」


なんとなく嫌な予感がしてアンリと同じルートになるように少しずつ移動するが、ガシッと肩を掴まれる。


「そちらでは時間がかかりますから」

「ごっ、誤差だと思います…よ?」


反論してみるが問答無用といった感じで際まで引きずられる。

そしてそのまま心の準備をする時間もなく、コルトは突き落とされた。






「死ぬかと思いました、死ぬかと思いましたよ!!」

「大袈裟ですね」

「いやいやいやいや!普通死にますからね!あの高さから落とされたら死にますからね!?」

「でもこうして魔術を使う事で無事に着地できたではないですか」

「そういう問題じゃないですよ!」

「でもあの状態でルーカスに運ばれるのもお互いに嫌でしょう?アンリさんではあなたを運べませんし」

「ぐぬぅ……」


確かにあれだけ言い合った直後に一人で降りられないので降ろしてくださいはかっこ悪すぎるのはそれはそうだが、コルトは納得がいかなかった。

そしてそんなコルトをよそにリンシアを肩車したルーカスとハウリルはスタスタと目的地に向かって歩き始めている。

仕方ないので胸の中にモヤモヤを抱えつつ歩きだすと、アンリが隣に並んできた。


「あれ、ハウリルなりに怒ってたからだと思うぞ」

「……そうなの?」

「…多分」

「多分って…それじゃ分かんないよ……」

「うーん、ハウリルなりに仲間意識あるんだろ、お前結構無神経なとこあるし」

「無神経……」


元はそんなものなんて無い管理者だし、と思ったがそういったものも原因なんだろうなと思い直す。


「なんていうか、コルトってかあちゃんっぽいよな」

「……えっ!?」

「さっきルーカスと言い争いしてたときとか、かあちゃんじゃん。前にネーテルであー言う主張で夫婦喧嘩してるの見たことある」

「うっ…実は学校でも友達に言われた事ある」

「だろ?というかよく考えたらさ、人作ったって事は親って事じゃん?」

「うーん、確かに親子関係に似てるって言われたらそうかも?」


親子関係というならますます子供である共族は守らないといけない。

なら具体的にどうすればいいのか、そんな事を考えているとアンリがジッとこちらをみている事に気が付いた。

視線を向けるとバシッと背中を叩かれる。


「子離れしろよ!」

「……えぇ!?」


子供からの拒絶だった。






「なんて会話を後ろでしてるぞ」

「なるほど、親子ですが。それは考えつきませんでした」

「あれを親って見るほうがキチィだろ」

「それもありますが、わたしはほぼ両親の眼中にはなかったので親というものがよくわからないんですよね」

「…そうかよ」

「そうなんですよ、どうでも良いですね。そんな事より、リンシアさん」


口調はそのままにハウリルはリンシアに話しかけた。

生まれて初めての肩車にウキウキしていたリンシアだが、話しかけられても即座に反応して返事を返す。


「街に入る前に降ろされると思いますが、そのあとはなるべくルーカスから離れないでください」

「わかりました、おねえちゃんにがんばってくっつきます」

「いやっ、くっつくな、俺が攻撃態勢取れないと困る、近くにいるだけでいい」

「…はい、くっつきません」

「あとは誰かにわたしたちのことを聞かれても何も答えてはいけませんよ。特にコルトさんとルーカスについては絶対に喋ってはいけません」

「はい、しゃべりません。おくちとじます」


両手で口を塞いだリンシアにルーカスが良い返事だと褒めた。


「あとはわたしたちがどれだけできるかですね」

「こんだけ警戒すんのは亜人以来だ」


めんどくさそうにルーカスのため息が溢れた。


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