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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第6章
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第130話

「では地上に戻りましょうか、こう暗くて狭い部屋に長時間いると気が滅入ってしまいます。それに食事の前でしたからね。あぁでも、諸々はまだ謝りませんよ、結論が出たわけではありませんから」

「はい、分かってます」


それから再度地上に戻るために階段を昇るが、さすがに限界だったのか子供が疲れて動けなくなってしまい、ルーカスが無言で抱き上げると腕に乗せて運んでいた。

荷物のように運ばれた経験がある身としては、普通に他人を気遣ったやり方ができる事に驚く。

そして地上に戻るころには、すっかり疲れてしまったのか、再び眠ってしまっていた。

4人は川の近くの建物に拠点を移し、もう一泊するための準備を始める。

終わる頃にはすっかり日が暮れていた。


「さて、これからどうしましょうか。例の崩れた街に行くことに変更はありませんよね?」

「しなくていいだろ。距離的にそろそろ半分くらいだしな」

「僕それについて思ったんですけど、その街ってもしかしてこの子の父親や仲間達が戦ってる場所だったりしないでしょうか?」

「それはわたしも思いました。方向的にそこまで外れているわけでもないので、その可能性はありますね」

「じゃあ行く途中でこいつの仲間に会うかもって事か?」

「会いたくねぇなぁ、どう転んでも殺し合いにしかならねぇだろ」

「あなたは当てはまらないのでは?」

「お前ら側についてんだから、向こうがお前ら殺すなら俺も向こうを殺す以外に選択肢ねぇよ。いちいち言わせんな」


魚や木の実を適当に突っ込んだ鍋をかき混ぜながら、至極面倒くさそうにルーカスは零した。


「じゃあ会ったら逃げるとしてさ、コイツはどうするんだ?返すのはなんか違う気がするけど」

「嫌がるでしょうね。返したあとはあまり想像したくありません」

「まっ、起きた後でどうするか本人に聞きゃいいだろ。俺達についてくるにしても、予想じゃこの先は戦場だ。碌な予想がつかねぇ親元か、人を介さねぇ戦場か、どっちがいいか本人に選ばせりゃいい」

「子供に提示する選択肢じゃないよ……」


思わず言葉が口から漏れてしまった。

第3の道など存在しないことは分かっている。

それでもそう思わずにはいられない。


「そうなる一歩を踏み出したのはコイツ自身だろ。逃げ出すのが悪いのは分かってて、それでもコイツは実行したんだ。ガキでもコイツが取った行動の責任はコイツが負うしかねぇんだよ、俺らは親でも何でもねぇからな」

「そんな…」

「まぁまぁコルトさん、そんなに悲観せず。このおねえさんはなんだかんだで子供全般には甘いので、そんなに心配しなくても気付いたら世話を焼いてますよ」

「何言ってんだお前」


ガキの世話なんかしねぇよと相変わらずグルグルと鍋をかき回しているが、アンリとハウリルが生暖かい目をしてその姿を見ている。

だが思い返せばアンリの村でもクルト達相手にも結構甘かったような記憶がある。

良いように遊ばれても大人相手ほど厳しく言い返さないどころか、割りと好き放題やられたい放題だったり、姿が見えなくなると大体いつも首根っこを掴んで子猫のように連れ戻していたりした。


──子供には甘いのか?


「それで結局こいつはどうするんだ?」

「今は結論は出せませんね。もしかしたら親が案外まともな可能性もある……と良いですねぇ」

「願望じゃん、ダメじゃん」

「まぁその時になれば何とかなんだろ」

「僕は出来ればこの子が望む形になればいいなって思うけど……」


とりあえず今は子供の安全が保証されるならなんでも良い。

そうこうしているうちに良い感じに煮えてきたらしく、鍋がグツグツし始めた。

アンリが器を用意し始めたので、コルトは子供を起こす。

寝ぼけた目を擦りこちらを見た時に一瞬ビックリした表情をしたが、すぐに落ち着くと己の手を凍らせて冷ました器をルーカスが差し出した。


──なるほど、世話焼き。


凍った手にびっくりしつつ器を受け取った子供はスプーンを手にチビチビと食べ始める。

そうやってゆっくりではあるが確実に器の中が減っていく。


「そういや今更だけどさ、名前なんていうんだ?私はアンリ、こっちがコルトとルーカス、それでその胡散臭いのがハウリル」

「何かおかしな紹介が聞こえた気がします」

「日頃の行いを改めろ」


それに子供はキョトンとした顔をすると、小さな声でリンシアと答えた。


「リンシアか、よろしくな」

「はい、おねがいします。ルーカスおねえさんは男の人みたいな名前ですね」

「昼までは男でしたからね」

「???????」


リンシアは何を言っているのか分からないという顔をした。

それに苦笑いを返すと、アンリが話題を変える。


「そういやルーカスって偽名だよな?なんか慣れちゃってルーカス呼びしてるけど、もう偽名使う必要無いし、本名で呼んだほうがいいか?」

「慣れてんならこのままで問題ねぇよ、今更お前らに本名で呼ばれんのも変な感じするしな」

「そっか、じゃあ引き続きルーカスって呼ぶわ」

「あいよ」


それから他愛の無い雑談をして全員が食べ終わった頃、ハウリルが本題を切り出した。


「ところでリンシアさん。あなたのお父上や仲間達が誰と戦っているのか分かりますか?」


リンシアは小首を傾げ、しばらくしてから小さな声でダアトと呟いた。

3人が一斉にコルトを見る。

聞き覚えがないかと言いたいのだろうが生憎覚えがない、だから静かに首を横に振った。


「となると、考えられる理由は4000年の間に出来た集団か、自分達以外を一括りにそう蔑称している可能性ですね」

「もっと細かい事知らないのか?」


リンシアは無言で首を横に振りかけ、また小さくあっと声を上げた。


「ととさまたちが前にツイラクトシのダアトの攻撃が激しくなったって言ってました」

「…墜落都市……」


何かが記憶に引っかかった。

だから思い出そうと賢明に記憶の糸を手繰り寄せる。


──墜落都市って言うくらいだから、きっと何かが墜落した都市の事なんだろうけど…、何が落ちたんだろう。いつっていうのは多分魔族の襲撃後だ、それ以外でそんな風に呼ばれる原因が発生するなんてあり得ない。なら戦いによって都市の何かが墜落した……。


コルトはまず墜落の言葉の意味を考える、と言っても高いところから何かが落ちたという単純な意味しか無い。

この場合は物質だと考えるのがいいだろう。

概念的なものの可能性もあるが、共族地域全体が崩壊しているので、その一箇所だけ墜落と固有名詞のような呼ばれ方をするのには違和感がある。

だから象徴になるような都市に関係する物質が落ちたと考えるのが自然だろう。


──当時浮いているものって言えば、航空機と…あとは……。


他に何があるかと考えたその瞬間、コルトの中に重要な記憶が蘇った。

なんでこんなに大事な事を忘れていたのかのか不思議なくらいだ。


「あぁそうだ、思い出した」


その呟きに再度視線がコルトに集まった。


「どうした、何を思い出したんだ?」


先を早くとアンリが興奮している。


「一箇所だけ墜落都市って言われる可能性のある場所を思い出した。もしかしたらそこになら稼働する装置がまだ残ってるかもしれない」

「……詳細をお願いします」

「都市の名前までは思い出せないんですけど、知識伝達と人間全体をまとめるための機関の本部兼技術実験都市として街ごと浮かせた都市があったんです。墜落都市って言うなら、もしかしたらそこが落ちたのかも」

「おいおいおいおい、街ごと浮かしてただぁ!?荒唐無稽過ぎんだろ」

「数センチでも浮いていたら浮遊してるって言い張れますよ。冗談はさておき、仮に街程の大きさの物が落ちたのならどんな高さだろうと相当な衝撃だったと思いますが、稼働する装置が残っていますかね?」

「一応相当に頑丈に作ってはいたはずです。上モノが完全に破壊される可能性は低いと思います、その下は……」


都市の下敷きになったところはどう考えても助からない。

地上との連絡橋のような役割をしていた街が作られて、そこもかなりの人が住んでいたような記憶があるが、恐らく見る影もないだろう。


「なるほど。……さてどうしましょうか」

「どうするって、行ってみるしかないじゃん」

「最終的にはそうするべきですが、一度退却して応援を呼ぶ、という手段を取る手もあるのではないかと思いまして。リンシアの話を聞く限り戦争状態なのでしょう?わたしたちだけで潜入できるでしょうか、戦力が足りない気がするのですが」

「時間の無駄だろ。応援呼ぶったって誰の手が空いてんだよ。そもそもそんな人数をこっちに運ぶ手段がねぇよ、あいつに何往復もさせるか?さすがに限界があるぞ。それなら半年待って向こうがある程度まとまって、教会が発掘してる地下通路をぶんどったほうが早いだろ。こっちも半年で状況が変わる可能性だってあるしな、それならこっちで予定通りに半年調査監視してるほうがマシだろ」

「あとリンシアどうするんだよ、連れてくわけにもいかないだろ?食い物は壁の中にしかないんだし」

「分かりました、このまま続行しましょう。ですが、墜落都市についてはあとまわしでもいいでしょうか?先に倒壊した街のほうで彼らに関する情報を得たいのです」


それに3人は同意を返した。

危険な戦闘地帯と言えど、少なくとも2勢力が戦っているので、そこから得られる情報は多いだろう。

リンシアをそんな場所に連れていくのも、コルトの戦力外を考えればリスクはどっこいどっこいだろうと他3人の話し合いで結論がでた。

ハウリルとルーカスは口には出さないが、明らかにリンシアの”人質”としての価値というのも念頭に置いている。

リンシアが例の集団の中でも支配層出身ではないかというのは、コルトも薄々とは思っていたことだが、改めて他の人に匂わされると嫌になる。


──気が重い。


小さい子を人質に取るという事もだが、彼らが捕まったリンシアを助けるという選択を選ぶかが分からない。


──ちょっと前までなら選ぶって言えたんだろうけど……。


山のように積まれた人の死。

それを前に自信を持って選ぶとはとても言えなかった。


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