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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第6章
124/273

第124話

「すっげぇ、何かウケるわ!」


空いた大穴を覗き込んでキャッキャッとはしゃぐアンリ。


「最初から武器を使っていれば良かったのでは?」

「うるせぇ!」


ハウリルの指摘を一蹴したルーカスは武器を使っても相当腕に負担があったらしく、己の腕を氷で冷やしている。



「でもさハウリル、平らな床に叩きつけるより、ちょっと持ち上がってたほうがやりやすかったぞ」

「分かってるじゃねぇか」

「当然!」


それにハウリルはクスクス笑うと、穴を覗き込み始めた。


「さすがに暗いですね」

「暗いっつーか何も見えないじゃん。ルーカス、火!」

「俺は便利屋じゃねぇ!」


そんな会話を横で聞きつつコルトはカバンを漁ると懐中電灯を取り出した。

魔石ではなく魔力充電式なので、無くなればコルトの魔力で充電が可能だ。

2つ持ってきたので交代で使えばとりあえず手元の明かりは保持し続けられる。


「これ使ってください」

「おやっ、便利なモノをお持ちですね」


受け取ったハウリルは早速穴の中を照らして様子を探り、横でアンリも使いたくてウズウズしている。

ハウリルはにっこりとアンリに差し出した。


「充電式のライトです」

「ジュウデン?」

「雷魔力溜めとけるやつだろ、俺も出力実験で使ったわ」

「使える人間が2人いるなら安心ですね」

「いやっ、俺はやんねぇぞ。前にそれよりももうちょっとデカいヤツの充電したら、それでも出力がデカすぎてぶっ壊したんだわ」

「魔力が多すぎて逆に細かいコントロールが苦手とかそういうあれですね」

「…まぁそういう事だ」

「ではコルトさんに、と言いたいところですが、できればこういうのは先頭を歩く者が持っていて欲しいですね」


すると、アンリがライトを持った手とは反対の手を上げて立候補した。


「はいはい!じゃあ私やる!」

「異論ある方はいますか?いませんね。ではアンリさん、お願いします」


すんなり先頭が決まったので、4人は改めて穴を覗いた。

元々地下への入り口という役割があるためか、穴のすぐ下は階段になっており、それが地下深くに続いている。

照らしてみるが、1,2階というような深さではない。

ルーカスが高音を出してソナーのように中を探ると、どうやら途中に壁がありそこで終わっているようだ。


「扉があるか、あるいは崩れているかでしょうか」

「またかよ、やんなるぜ」

「ここがこれだけ頑丈だったので、次の扉は薄いといいですね」

「とりあえず行ってそれから考えればいいだろ」


そう言ってアンリは階段を降り始めている。

3人も頷いてその後についていくと、4階分ほど降りたところでハウリルの予想通り、扉が待ち受けていた。

横にパネルがあり、本来はそこで何らかの認証をすると開く仕組みなのだろうが、残念ながら今は動力がないためただの飾りだ。

だが、扉自体はずっと閉ざされていたためか、見た目はかなり綺麗な状態で残っている。

叩いて見ると、さすがに先程の床よりは格段に薄いようだ。

それよりもコルトは帰りは再び4階分上らなければいけない事が今から憂鬱だった。


「また壊しますか」

「どうせ怒るヤツもいねぇしな」

「なら私の魔術で壊せるか試してみてもいいか!?」

「ここなら誰も見ていないでしょうし、周囲も壁ですしいいのでは?」


一応ハウリルが確認のためにコルトを見たので、コルトも問題ないと頷くと、アンリはやった!と声を上げて、手を構えた。


「水斬り!」


横に一閃。

扉に切れ込みが入るが、綺麗に枠に嵌っているせいか動かない。

なのでさらに3回ほど切り刻むと、ようやく扉の上側が落ちて崩れた。

残った下側はルーカスが力任せに蹴り飛ばしてどかしている。

開いた扉の奥はさらに通路が続いていた。

アンリを先頭にその通路を進んでいくと、横に扉が並ぶ区画が現れる。

そこをアンリとルーカスが手分けして片っ端から扉を壊していき、2人一組で中を探索していく。


「居住区って感じだね」


中を覗くと2段ベットが2つ、机が4つ、ベットに備え付けられた棚が2つと宿舎のような状態だ。

コルトは悪いと思いつつ机の引き出しを開けると、中から写真が出てきた。

白い研究服を着た人達の集合写真や、家族写真だ。


「こいつらがここに住んでたのかな?」

「そうだろうね」


他にも棚などを漁って見るが、あまり目ぼしいものはない。

ハウリルとルーカスのほうにも確認してみるが、そちらのほうも何も見つからなかったようだ。


「研究資料の1つも出てこないのかよ…」

「普通そういうのはこういう個人的なところに持ち出せないと思うよ」

「でもここ研究所じゃん!」

「研究所内部とはいえ、個人の空間には持ち出せなかったのでしょう。それかそういう資料は全て処分した、とも考えられます」

「後者じゃねぇ事を祈るしかねぇな」


それから4人はさらに奥に進んでいくと、いよいよ研究室という感じの場所に出たが、祈りは通じなかった。

倒壊しているものが多く、そのせいで道が塞がれたりしており、さらに壁面パネルや、コントローラーがどうみても破壊されていたからだ。

念のため色々と引っ剥がして配線や基盤をみてみたが、ものの見事に修復不可能レベルで壊されている。

壊され方から外部の者ではなく、これを使っていた内部の者だろう。

そのくらい的確に核の部分が破壊されていた。

お互いに無言になる。

さらに別の区画も見つけたのでそちらにも行ってみるが、こちらも中央の巨大なポットは割れ、周囲の装置なども徹底的に破壊されていた。

まだ行っていない区画もあるが、この様子では他も期待できないだろう。


「コルト、直せないの?」

「さすがに無理だよ」

「困りましたね、これでは何も分かりません。まさか壁面に部屋の名前さえ書いていないとは」

「分かってる奴しかここに入れねぇならわざわざ書く必要なんてねぇしな」


ため息が4つ重なった。


「どうしますか?」

「……疲れた。今日はもうここで寝る、ちょうどベッドもあるじゃねぇか」


瓦礫をぶん投げたり、あちこち掘り返したり、扉を開けたりと色々肉体労働をしたのに成果がなかったのだ。

さすがに疲れたらしい。

珍しくルーカスがゲッソリとした顔をしている。


「人の部屋に勝手に泊まるのはなぁ」

「数百年使ってねぇのに人の部屋も勝手もあるかよ」

「外に出ても野宿になりますしね、今日はここに泊まりましょう。わたしはもう少し何かないか探してみます。ここに魔族を収容していたのなら、他にも魔力を広めるための何かを外に運び出すための経路があるはずです。あの狭い入り口がそれだとはとても思えません」

「そうか、じゃあ俺は寝る」

「私も荷物置いてくる。コルトのも運んどいてやろうか?」

「僕はいいよ、工具使うかもしれないから」

「ならアンリさん、ライトは置いていってください。光源担当が2人も同時にいなくなっては困ります」

「ならもう1つ出しますよ。交代で予備にって思ってたんですけど、アンリも戻る時にライトがないと困るだろうし」

「それはありがとうございます」

「じゃあちょっと行ってくる」


2人と別れ、コルトはハウリルと共にさらに細かい探索に乗り出した。

先ずは施設全体の構造を把握するべく、ざっくりと全ての部屋を見て回り、それを図面に書き起こしていく。

扉が開かなかったり塞がれていたりしているのを、なんとかどかしつつ進んでいくと、どうやらこの施設は魔族の培養槽を中心として放射状にいくつかの区画が広がっているようだった。

中はそれぞれ何かの研究施設のようだが、パッと見ただけでは何か分からない。

予想としてほぼ間違いなく共族の魔族化研究関連だと思うので、少し興味が湧いて脚を踏み入れようとすると、その前にハウリルに呼び止められた。


「コルトさん、こちらを照らしていただいても?」


ハウリルが何やら壁を指しているので、ライトを当てると何かの紋章が刻印されていた。


「掠れて読みにくいですが、これは枢機卿家の紋章ですね。見覚えがありますが、はて…、どの家のものだったか」

「覚えてないんです!?」

「どうせ紋章付きはみんな敵という印象だったので、覚える必要性を感じなかったんですよね」


らしいと言えばらしい回答だったが、立場を考えれば酷い話である。

しかも本人はそれをまるで気にしていない、悪びれる素振りすら見せない。

ここまで来ると逆にそれで良いような気がしてくる。

それはともかく、他の区画にもあるのかと確認してみると、教会の紋章家紋全てに1つ足して一応全部見つかった。

その1つというのは当然裏切り者のソルシエの紋である。

予想して然るべきだったが、見知った紋だけ酷く傷付けれており、コルトはそれが酷くショックだった。


「唯一離脱した家という事で興味がありますが、コルトさんは別のところにしますか?」

「いえっ、僕も探します」


入り口をこじ開けて中に入ると、中も酷い有様だった。

他と違い、ここだけ明らかに何かを探してひっくり返したような荒れ方をしている。


「他人が探したあとでは期待は出来ませんが…」


そうやって色々と探していると武器以外置いて身軽になったアンリが戻ってきた。


「何か見つかったか?」

「この部屋が元ソルシエ管轄ってことくらいですね」

「…なんだっけ、それ…」

「ラグゼルで研究機関を一括管理……、イリーゼさまの実家だね」

「あぁ、分かった分かった。にしてもここだけすっごい荒れてんじゃん」

「裏切り者ですからね。片っ端からひっくり返されたのでしょう」

「じゃあここ探してもしょうがなくね?」

「突発的とは思えない裏切りなので、入念な準備をしていたと考えると家探しも予想していたと思うのですよ。なので彼らには見つけられないような方法で何かを隠していた可能性もありますし、そもそも他の家も逃亡せざるを得ない状況だったので、完璧に探せる時間があったかも不明……。とまぁ色々言い訳は思いつきますが、単純に面白そうではないですか。唯一裏切る事を決めた者が管轄していた場所ですよ?」

「つまりお前の好奇心なんだな」


アンリは呆れたため息をつくと、ライトをハウリルに渡し、何故か武器を構えた。

何をするのかと思っていると、そのまま壁を壊し始めている。


「何してるの!?」

「すっかり破壊が選択肢の最初にくるようになりましたね」


ハウリルは感心しているが、そんな場合だろうか。


「ここの入り口も床だったし、何か隠すなら床か壁かなって思ってさ。それで床か壁なら先ずは壁だろ」

「えええええ」


よく分からない理論だったが、アンリの中では筋が通っているらしい。

次々と壁に武器を叩き込んでは感触を確かめている。

コルトにはそれをどうすることも出来ないので、しばらくそれを眺めていると、アンリが手応えを感じたようだ。

そして武器をそのまま手前に引くようにして引っ張る。

すると、それまでどうみても1枚の壁にしか見えなかった一部が鈍い金属音と共に外れて床に落ちた。


「これはこれは、やってみるものですね」


現れたのは小さな金庫のような空間だった。


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