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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第6章
123/273

第123話

それから再度4人は探索に戻った。

辺りの瓦礫が大分除かれた事で、何となく建物とそれ以外の区別が見え始め、地図との照らし合わせがある程度可能になる。

それでおおよその研究所があったはずの場所も分かり、上モノはほとんどなくなっているので今は地下が無いか探しているところだ。

コルトはハウリルの言う目線を合わせる事が何を指すのかを考えながら、1人で地面を叩いてみたり、隙間がないか探してみたりしながら地下への扉を探している。

そうやって黙々と作業をしていると、背後から声がかかった。

振り返ると、気まずそうな顔をしたアンリが立っている。


「…どうしたの?」

「いやっ…そのっ……」


お互いに気まずい空気が流れる。

あの2人は建物の反対側のほうを、ハウリルが地図を片手にルーカスに指示を出して腕力任せで地面を掘り返している。

恐らく今の状況に気付くことは無いだろう。

ついさっき揉め事を起こすなら全員巻き込めと最後に注意されたばかりなので、ここでまた何か起こすほどアンリも短絡的ではないと思うが、動かないアンリにそれはそれでコルトも困ってしまう。

なので何となく居心地を誤魔化すために手だけは動かし続けた。

すると、アンリが深呼吸をしてやっと口を開いた。


「お前は…、どんな奴でも本当に生きてて良いと思ってるのか?」

「思ってるよ」


その考えは変わらないし、これからも変えるつもりはない。


「殺人とか悪い事しまくって人からすっげぇ恨まれてる奴とかでもか?」

「思ってるよ。だからって無秩序を許容してるわけじゃないけどね」

「………」


どんなに人の中でルールを決めても、どうしたって人はいざこざを起こした。

だから神は戦ったり他者を傷付ける手段や、そもそもの概念から排除して禁止したのだろう。

そのせいで外部からの攻撃に致命的に弱くなってしまったのは計算外だが、少なくとも内で管理している間は上手くいっていた。

だがハウリルの言う目線を合わせろというのは、それを再度許容しろ、個人の事情を考えろ、つまり善悪を判断しろという事だと解釈している。

だがコルトはそれをしたくない。

それをすることで人を選別するような事をしたくないからだ。

よく分からないがそれだけはしてはならないと、心が強く警告している。

だから小さくごめんねと謝ると、アンリが拳を強く握りしめ、再度大きく深呼吸をした。


「私はあの2人に色々言われてもやっぱりお前に言われた事はムカつくし、お前の考えも理解できない」

「……うん」


寂しいことだがそれは仕方がないことだろう。

そうやって諦めようとしたときだ。

アンリが頭を振って、そうじゃなくて!と自分で自分にツッコミを入れ始めた。


「いやっ、うん、そのっ……それはそうなんだけど、そうじゃなくて!………あの時……、あの時ココと子供を殺そうとした私を止めてくれてありがとう!」


最後は勢いよく一気に言い切った。

その勢いに逆にコルトのほうが面食らってしまう。


「えっ?あっうん!?どう…いたしまして?」


なので、思わずこちらの返答も疑問形になってしまった。

それにしてもそんな前の事を突然どうしたのだろうか。


「お前の言ってる事は意味分かんないのはそうなんだけど…、でもそんなお前だからココの事、本気で助けてくれたんだろうなって思ったんだ。みんな生きてて良いって思ってるから、ココも子供も命懸けで助けてくれたんだろ?」

「そうだよ」

「ありがとう、今はこれだけ言わせて欲しい。他はまだ色々割り切れない」

「それでいいよ」


避けられたりしないだけ御の字である。


「それで、お前はどうやって探してるんだ?」


アンリもなんとなく探しているらしいが、こういった経験は始めてなので勝手が分からないらしく、どうしたらいいのか分からないらしい。

ついでにまだ字を読むこともたどたどしいため、薄っすら残った壁や床の文字やマークを読めるほどの技量も無い。

だからといって力任せに調べられる程の腕力も無いので、いざ行動にしようとしたところで何も出来ないことに気が付き途方に暮れていたようだ。

それで色々と考えてしまった結果が先程の事である。

と言っても、コルトも地道に床の跡を見ているだけなのでこれといって特別な事はしていない。


「そうだなぁ。空洞があると叩いた時に音が違うから、手当たり次第に床を叩いてみるとか?アンリの武器ならいい音がすると思う」

「分かった、やってみる」


そういうと早速連結して槍斧状にした石突きで床を叩き始めた。

だがそこはすでにコルトが調べ終わったところなので別の場所をお願いすると、頷いて別の区画に消えていく。

そしてすぐに凄い勢いで叩いている音が響いてきた。

少しびっくりしつつコルトも再び床に這いつくばって何かないか探していく。

そんな事をしながら十数分くらい経った頃、突然アンリの出す音が変わった。

それに気が付いて立ち上がると、アンリのほうもこちらに顔を出してきたのですぐにその音の場所へ向かう。


「ここだよ、なんか音が違った」

「確かに何か反響しているね」


それからどのくらいの範囲で音が違うのかをさらに詳細に調べて大体の位置を掴み、さてどうするかと考える。

パッと見の床は周りとの区別が付かない、切れ込みもないか調べて見ると他の床の模様とそっくりに分けられて簡単には分からないようになっている。

そこまでするという事は隠す理由があるというので、当たりを引いた可能性は高いが、問題はこの床をどうやって開けるかだ。

ぴったりとくっついて簡単に開きそうにはない。


「やっぱここはぶっ壊すしかないよな」

「それはそうだと思うけど、古いから一気に床が抜けたり…って何してるの!?」


コルトが不安点を述べている横で、アンリが槍斧を振りかぶった。

そして思いっきり地面に叩きつける。

いい武器に魔力持ちの腕力が上乗せされ、材質は不明だが今だ原型を残している床に武器が突き刺さり、さらにそこを中心としてヒビが広がった。

そして衝撃とヒビにより床の切れ込みが浮かび上がってくる。

アンリは立ち位置を変えると、さらにもう一撃同じ場所に叩きつけた。


「すっごい頑丈だな」

「あああああ、アンリ気を付けて。一応かなり古いから一気に床が抜けたりとかするかも」

「ルーカスがさっきあんだけ瓦礫ポンポン放り投げてたんだから大丈夫じゃね?」

「…そうか…も?」


一瞬流されかけたが、道路と建物内部では色々違うのではないかと慌てて思い直す。

その間にもアンリはガンガン床に槍斧を叩きつけている。

だが、ある程度まで壊す事は出来たが、床に穴が開くほどでは無かった。

端っこが微妙に持ち上がっているので、今度はそこに槍斧を突っ込んで、梃子の原理で持ち上がらないかと試してみるがびくともしない。


「嘘だろ!?ちょっと頑丈過ぎじゃない!?」

「それだけ大事なモノを隠してたって事だろうね」

「……ちょっと腕力呼んでくる」


そういって不満そうな顔のアンリは武器をそのままに跳躍すると、崩れた壁の向こうに消えていった。

勢いのまま去っていったアンリにポツンと取り残されたコルトはハッ我に返って、とりあえず残された武器を頑張って引っこ抜くと床の状態を確認する。

とりあえず崩れそうな気配はない。

それからまもなく話し声とともに3人が戻ってくる。


「まさかアンリさん達が先に見つけるとは……。力だけではダメですね」

「お前ぇは上から指示出ししてただけで何もやってねぇだろうが!」

「ほらっ、ここだよ。こんだけやっても開かないんだよ」


散々痛めつけられたにも関わらず、未だ固く閉ざされた床を指差すと、2人も興味深そうに床を見下ろした。


「確かに地下の入り口っぽいですね…」

「はっ、まぁ俺に掛かればこんなもん簡単よ」


そういってルーカスは僅かに持ち上がった隙間に指を引っ掛けると、力任せに持ち上げ始めた。


「ぬおおおおおおお!!!!」


唸り声を上げるルーカス。

ビシビシと床が音をあげ微妙に床が持ち上がり始めるが、ルーカスも腕の血管が浮き上がり、額から汗を滲ませている。

だがそこはさすがの魔族。

ものの数十秒で僅かな隙間が大きく広がり、そこから一気に持ち上げると、小動物なら通れるくらいの隙間が空いた。

それで分かったが、蓋をしていたのは厚さ20センチにもなる分厚い金属製の板だった。


「ハァハァ…。どんだけ頑丈に作ってんだよ、共族相手ならこんなに頑丈にする必要ねぇだろ!?」

「そうは言いますけど、上モノや周囲がこうなる衝撃を考えるとこれで正解だったような気もしますけどね。それにこれだけ頑丈ならここが正解ってことでは?」

「でもまだこれじゃ通れないぞ。私はギリギリいけるかもしれないけど、お前らは無理だろ」

「待て…。まだ腕がビリビリしてるから休ませろ」


そういうルーカスの腕は、確かに少し震えている。


「仕方ないですね。でもとりあえずそれなりの穴が開きましたので、ここからはアンリさんでも穴を広げられませんか?」

「やってみる」


そういってアンリは武器を構えると、早速角の部分に向けて振り下ろした。

正確に突き刺さり、そこからさらに別角度からも振り下ろして少しずつ板を削っていく。

と言っても、深く突き刺さるわけではないのでかなりの根気がいる地道な作業になりそうだった。

案の定。


「終わる気がしないんだけど!?」

「明日までかかるかも」

「わたしもそんな気がしていたところです」


そんな訳で再び3人の視線が1人に集まる。

舌打ちが返ってきた。


「今度はあなたも武器を使っては?確かアンリさんのものより頑丈に作られてましたよね?」


ハウリルの指摘に無言で剣を抜いたルーカス。

左手で下がるように手を振ったので、3人は大人しく離れた位置に移動すると、ルーカスは右手で剣を振りかぶり、アンリの振り下ろしが子供のお遊びとでも言うような目にも止まらなぬ速さでそれを床に振り下ろした。

振り下ろしただけでも軽い衝撃波が来たというのに、さらに床への叩きつけでそれよりも強い衝撃が体を駆け抜ける。

さらに周囲を砂塵が舞い、視界が奪われむせていると、隣でハウリルが魔術を行使してそれを吹き飛ばした。

ついで重い何かが落ちる音が複数回。

顔を上げると、ルーカスの目の前に大きな穴が空いていた。



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